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エルタニア大陸物語  作者: 岸本ひろあき
エジオム王国編~ピンクブロンド嬢、死ぬ程がんばるっ!
17/22

第六話


 ラビュラント侯爵家、領主館にて。



 俺の名はジャクソル・ラビュラント。年は17になる。

 ある日、父上に呼ばれ執務室に入ると、そこには険しい顔付きの父上がいた。

 俺は眉を顰めつつ、尋ねた。

「いったい、どうしましたか?」

「まずいことになった。これを見ろ」


 そう言って父上は、手にしていた新聞を寄越してきた。

 その新聞を見て、目を見開いた。


「はぁ!? ミリアが戦姫!? しかもギャラッグ辺境伯の次期領主の長子と婚約成立だと!!?」


 俺は思わず大声を上げてしまった。


 あと1~2年我慢すれば手に入ると思っていた俺のミリア・・・・・が、婚約だと!?


「父上、これはいったいどういうことですか!」

「ええい、喚くな。くそ、それにしても厄介だぞ。この婚約が恙なく進み婚姻を結ばれては、男爵が悪評と領地含め鉱山の件を辺境伯家に訴えかねん。証文がある以上、領地や鉱山の件を訴えられたところで負けはせんが、悪評は誤りだったと確実に広められるだろう。噂の出所は確実に処理したゆえ証拠は残ってはおらんが、悪評の流布は我が家が疑われることは逃れられん。辺境伯家が音頭を取って騒ぎ立てれば、ことによっては我が家にとって拭いきれない醜聞となってしまう」


 父上は家名の醜聞を気にしていたが、俺はそれどころではなかった。


 父上は鉱山と男爵領が手に入ったのだ。大きな益は得ている。

 だが俺はどうだ。ミリアあいつを他所の男に奪われて、指を咥えて見ていろというのか。


「父上、こんなものは了承できません! 学習院の卒業まであと半年、そこからミリアを手に入れる仕込み・・・を行うには更に時間が掛かる。そんな悠長なことをしていてはミリアが辺境伯家に嫁いでしまう! ミリアを愛妾に出来る算段があったから、俺はあのいけ好かない女との婚約を受け入れたんだ。納得できない!」


 父上は不機嫌な顔で口を開いた。


「これもすべては、思った以上にディオードが粘りおったからだ。しかも借金返済の為に領地まで売り払い、絶縁してまで辺境の地に落ち延びるとは誰が予想できるか」

「今も借金は順調に返しているので?」

「そうだ。利子分と元金が徐々に減る程度の金額を滞納なく返済しておる。少なくとも、今の段階では・・・・・・、ケチのつけようがない」


 俺はぐぅと唸った。

 そんな俺を見た父上は呆れ口調で言った。


「そんなに欲しければ、さっさと手籠めにしておけば良かったのだ。悪評でも借金でもネタには困らん娘だった。しかも情に篤そうなお人好しで、親を安心させる為だと言えば、逆らえなかったであろうに。それがなくとも、たかが男爵の小娘一人、従わせる方法などいくらでもあっただろう」


 俺は眉を顰めた。


「穏便に話し合いでは、ミリアは愛妾どころか愛人になることも頑として頷かなかったのです。少々手荒な方法も考えはしましたが、それは母上にきつく止められたので実行には移せませんでした」


 そう、ミリアは頑として愛妾も愛人も、どれも受け入れなかった。

 それに強引に手籠めに動こうにも、環境も悪かった。


 俺はミリアと出会いから別れまでの一連の流れを思い出して、俺は苦虫を嚙み潰したような顔になった。



 ◇ ◆ ◇



 ミリアと初めて出会ったのは、俺が15才、ミリアが13才だった。

 全寮制の貴族学習院の入学は12才から。6年制コースを選択していたその当時の俺は学習院の3回生で、まったく好みではない相性最悪の女と婚約を結ぶ為にラビュラント侯爵の領都に里帰りした日で、機嫌は最悪だった。

 クソのようにつまらない契約後の茶会を済ませ、気晴らしと口直しに贔屓にしているレストランに向かっていた時だった。


 何気なく馬車から外を眺めていると、みすぼらしい恰好だが、とても目立つ髪をした少女が目に入った。


 薄汚れていても目を引く、ピンクブロンドだった。


 そう言えば我が家の寄子の男爵家に、傾国悪女のピンクブロンドなる悪評が立つ、ミリアとかいう娘が居たな、と思い出した。

 そして気の迷いとしか言いようがないが……俺は興味を持った。

 それだけ悪評が立つ女とは、どんな顔付きをしているものか、と。


 馬車がミリアを追い抜こうとする瞬間、その顔を見ようとしたが、ミリアはうつむきながら歩いていたので髪が顔に掛り、よく顔が見えなかった。


 俺は一つ舌打ちし、御者に止まるよう命令した。

 御者は訝しんだが、すぐ戻る、と言えば素直に止めた。

 そして馬車を出ると、胸ポケットからハンカチを出しながらミリアの前に近付いて、声を掛けた。


「お嬢さん、ハンカチを落としましたよ」

「えっ」


 そこで顔を上げ、俺が差し出したハンカチを眺めるミリアを見て、俺は衝撃を受けた。

 俺の理想とする顔立ちの少女が、そこにいたのだ。

 ピンクブロンドもそれを引き立てるのに一躍買っていて、俺は一目で恋に落ちた。


「えっと、そのような上等なハンカチをわたしは持っていません。別の方が落としたものかと」

「……」

「――? もし? 貴族様?」


 そこではっと我に返った。

 余りの衝撃に言葉をなくしていていた――そして同時に気が付いた。


 俺の顔を知らない?


 例え社交デビュー前の子供でも、寄子が寄親の一族の顔を知らないのは普通では考えられない。寄親主催の茶菓に参加して遠目であっても見かけるし、親も写真を見せて覚えさせる。だがそこで気が付いた。そういえばこの少女は傾国悪女の悪評が祟ってどこの茶会も参加拒否され、今ではどこの貴族ともまったく縁のない庶民と変わらない生活を送っているという話だったな、と。


 道理で知らない筈だ、と思いながら、俺は気を取り直して口を開いた。


「ああ。どうやら俺の勘違いだったようだ。ところで足止めして迷惑を掛けたね」

「いえ、そんな」

「迷惑の詫びがしたい」

「えっ、それに及びませ――」

 俺は最後まで言わせなった。

「俺の名はジャクソル・ラビュラント。君の名を教えてもらっても?」


 ミリアの顔が強張ったのが分かった。

 如何に庶民と変わらない没落貴族でも、寄親の名前くらいは知っていたようだ。

 ミリアは硬い表情のままで、口を開いた。


「……――ミリア・ロクラントでございます。栄えあるラビュラント家のご子息様と知らず、先に名乗らせる無礼をお許しください」


 ほう、と感心した。

 没落したが故の荒はあるが、教育自体はしっかり行っているようだ。


 ああ、これ・・が欲しい。男爵ゆえ正妻など不可能だが、欲しい。傍に置きたい。そうだ、この格好といい随分と落ちぶれている様子。生活も困窮しているのだろう。俺専属の侍女見習いとして雇えばいいのだ。そうすれば庶民に回る仕事なんぞより遥かにいい給金が入り、親も俺に恩義を感じるだろう。そうしてじっくり囲い込んで愛妾に据えればいい。どうせ悪評がひど過ぎて碌な婚約も結べないだろうし、一生貧しく暮らすくらいなら愛妾の方が親も喜ぶだろう。


 俺はそう考えながら、ミリアを強引にカフェテラスに誘い、その後に家まで送っていった。そこは領都内で暮らす中流階層よりも下、比較的に貧しい者が暮らす一画だった。俺から見ると、馬小屋よりも小さいみすぼらしいアパートメントに入っていった。


 俺の女になる人間が、こんなぼろ屋で暮らすなど不愉快だった。


 俺は屋敷に帰ると父上に直談判した。

 愛妾として囲いたい少女に出会った。あのいけ好かない女と将来結婚するのだから、せめて好きな女を作るくらいは認めてくれ、と。

 父上は『色気づきおって』と鼻を鳴らしたが、非常に利の大きい相手の伯爵家との婚約をごねられても面倒と思ったのだろう、了承してもらった。そしてどこの女だ、と聞かれ、ピンクブロンドだと答えると一転して猛反対された。

 そこで人生初めての親子喧嘩となり、最終的には、ならば今回の婚約は絶対にぶち壊して破談させるとごねにごねた。


 これに父上は深くため息を付き、反対する本当の理由を語った。

 お前の欲しているミリア・ロクラントが何故、傾国悪女や忌み子と悪評が立つのか。その結果、鉱山から屋敷まで売り払うまで落ちぶれたのか。

 それはすべて、父上がロクラント男爵の鉱山を欲したからだ。

 その鉱山では鉱物以外にも、医療用の魔道具で使われる希少価値の高い魔石も豊富に出土するのだが、ものが医療用に使われる代物なのだ、やろうと思えばいくらでも値を吊り上げることが出来るのに男爵は先祖代々の教えとして、弱き者こそ医療を享受できる世にしなければならないとして、安価に幅広く商人に卸していた。


 父上からすると、それは本当に偽善で庶民をつけあがらせるだけの愚策だそうだ。

 ともあれ父上は宝の山の鉱山を欲し、そこに生まれた娘が特異な髪質だったことを奇貨として、考えうる限りの手段で裏から追い詰め男爵領を経済破綻させ、寄親からの援助と称し莫大な金を貸し付け借金漬けにして完全に没落させたのだそうだ。


 その破滅させた家の娘だ。

 男爵も、どうにもならない程に余りにも手並みよく鉱山を奪われたことで、娘の噂も含め、証拠こそ掴めなかっただろうが、我が家に嵌められたと確信していることだろう。

 そんな侯爵家に恨み骨髄、獅子身中の虫になりかねない娘を、息子が愛妾にするというのだ。まさに言語道断。だから絶対に許さないのだ、と言われてしまった。


 なるほど強欲な父上らしいはかりごとだ。

 だがそれが何だというのだろうか。すべては父上の強欲が招いた結果ではないか。それで何で俺が惚れ込んだ女を諦めなくてはいけないのか。

 言語道断はこっちの台詞せりふだ。

 だがこのままでは父上は認めないだろう。


 だから俺は虎の子の情報を切った。

「そうですか、ならば婚約も破談させるし、父上によく似た・・・・・・・あの娘・・・の存在を母上に知らせるとしましょう」

 父上が目に見えて動揺したのが分かった。

「お前、何を……』

「しらばっくれないで下さい。顔付きは父上似ではありませんでしたが、深緑の髪に赤眼。赤眼だけならまだしも、深緑の髪となると、流石に言い逃れが出来ませんよ?」


 父上はこの国では殆ど見ない深緑の髪に赤眼が特徴だ。

 元は遠い東の国の伯爵家の次男で、このエジオム王国には留学で来ていた。

 父上は今も昔もその甘いマスクと物珍しい深緑の髪と赤眼で貴婦人を虜にする色男で、そして留学先の貴族学習院で母上と出会い、一目惚れした母上からの熱烈なアプローチを受けてラビュラント侯爵家に婿入りしていた。

 そして母上は、貴族らしく愛人を作ることは許しても、貴族の子供として認知する必要のある愛妾を持つことに関しては、絶対に許さなかった。


 俺が貴族学習院で出会った同級生の女子・・・・・・は、深緑の髪と赤眼を魔術で隠した、どう考えても父上の落胤らくいんであった。


 この女子との出会いは、本当に偶然だった。

 学習院の広い中庭のベンチで午睡を楽しんでいたところを、何やらうめき声が聞こえ、そちらを見ると蹲る女生徒がいて、これに声を掛けたところが、件の同級生だったのだ。

 この学習院に俺と同じ深緑の髪で赤眼の生徒はいない。

 同級生は持病のしゃくで蹲っていたとのことだったが、たぶんその影響で魔術を行使して変えていた髪と目の色が解けたのだろう。魔術が解けた姿を俺に見られ、腹痛も合わさって真っ青になっていたが、とりあえず医務室まで連れて行き、名前だけ聞き出して問い質すこともなく後にした。

 その後に屋敷で家令に問いただしたところ、最初は口を噤んでいたが、言わぬなら今すぐ母上に知らせると言うと観念して吐いた。


 あの同級生の女子は母上と結婚してすぐに作った庶民の愛人だったそうだが、気付くと心底惚れこみ、愛する子まで作らせたのだそうだ。ここまでは別にいい。愛人の子なので母親が貴族だろうが庶民だろうがその子は庶子とする、これを守ればいいだけだ……だが父上はこの愛人を、口が堅く後継ぎのいない年老いた寄子の子爵家の娘だったと戸籍を書き換え、生まれた愛娘も貴族として認知してしまった。そして屋敷を買い与え母娘ともに手厚く援助をしているのだそうだ。

 こんなものは当然、認知する筈がない母上にばれた日にはどうなるか……それはもう苛烈な性格な母上だ。例え惚れ抜いて迎え入れた旦那であっても、この手酷い裏切りは相応の報いで、下手をすると強制蟄居させられるくらいの怒りに発展する可能性がある。


 だからといって父上は、この心底惚れ抜いた愛人――今や愛妾とその愛娘を手放すことも、ばれることも本気で望んではいなかった。


 父上は呻き、深くため息を吐いた。


「……――いいだろう。好きにせよ」

「――! まことですか! ありがとうございます!」

「ふん、親を脅しておいてよく言う……お前も私の血を引く緑髪赤眼の男ということか――ただし、私は愛妾に関しては何も手助けはしない。お前の婚約者に愛妾を持つことを納得させるのも、恨み骨髄であろう娘の懐柔も、お前が一人でやるがいい。精々、自分の力量で励むことだ」

「ええ、分かりました』


 俺の婚約者には、幼き頃から愛する幼馴染の男がいる。

 こうして俺にも愛妾を望む少女が現れたのだから、結局、俺とあいつは同じ穴の狢……相性が悪かった理由も同族嫌悪があったのだろう。

 ともあれだ。

 あいつが俺との間に一人は子を作るなら、別居して幼馴染の男と家庭を築いてもいいし、その幼馴染を男妾として囲っても一向に構わない……こう提案を持ち掛ければ、俺に愛妾が居ようがどうでもいいと納得し提案を飲むだろう。


 あとはミリアを親元から徐々に離し、俺に依存させればいい。

 父上の長子である俺には金も権力もある。

 そう息巻いていたが、その後に母上から話があると茶に誘われ、そこで盛大に出鼻をくじかれた。


「ジャクソル、貴方、愛妾を望んでいるそうね」

「……ええ、それに関しては父上も了承し、婚約者にも納得してもらっています」


 婚約者に関しては嘘だ。

 だが幼馴染と結ばれるならあいつは確実に納得するので、そうなる前提で話す。


「そうですか。ならわたくしから言うことはありません。ただし、屋敷の人事に関してはわたくしの役目です。我が子とはいえ配慮する気はありません。その娘は悪名高きピンクブロンド、しかも庶民と変わらない暮らしの娘だとか。侍女見習いとして雇い入れたいとのことでしたが、却下します」

「――! 何故ですか!」


 俺は目を見開いた。

 全寮制の貴族学習院では高位貴族用の広い個室が用意されているのだが、そこの世話をする侍従もしくは侍従見習い、侍女もしくは侍女見習いの使用人を5人まで連れていくことが認められていた。そこにミリアをねじ込む算段だったのに、これでは計画がご破算ではないか!


「何故も何も、当たり前でしょう。我が侯爵家で侍女見習いとして働くには格も教育も足りません。それにどうせ学習院に連れ込む腹積もりだったのでしょう? 貴方、よもや歴史ある学び舎たる学習院で、愛妾候補の娘と逢瀬を重ねるつもりだったのではないでしょうね?」


 母上の鋭い眼光に、俺はうっと言葉が詰まった。


「……まったく。そのような下品な行い、ラビュラント家の名の元にわたくしが絶対に許しませんよ。いいですね?」


 その眼力たるや背中に冷や汗をかくほどの迫力で、俺は頷くしかなかった。


「その娘は、当家の洗濯メイドとして雇い入れます。そこから這い上がれて貴方の愛妾に収まれるかは、その娘の才覚次第です。精々、目を掛けてフォローして差し上げなさい。それが不服なら、我が家で雇い入れる話はなしです。宜しいですね」


 これもまた、俺は頷くしかなかった。


 そこからは、どうにもこうにも成果が出せない状況となった。


 全寮制の俺と、両親と暮らすアパートメントから通いで屋敷に来るミリア。

 どう考えても会う時間がかなり限られていたのだ。

 それでもなんとか学習院が休みの度に実家に帰って話し掛け、デートにも誘っていたが、ミリアは身持ちが固く、決してデートの誘いには乗らなかった。半年が過ぎた頃には俺も痺れを切らし、強引にデートに誘い出し、愛妾になるよう口説いていた。しかしミリアは成人前の自分には答えられないと決して頷かなかった。


 まあ、いい。どうせ借金まみれの男爵家だ。どこにも逃げ場はない。このままじっくりと口説き、成人しても頷かないようなら父上に頼み込んで、借金をカタに身請けすればいいだろう。


 そう思ってミリアが屋敷に来て1年程経った頃――突如ミリアは職を辞し、ロクラント男爵家は領地まで我が家に売り払い、家族諸共に領内から姿を消した。

 その際には、俺からの贈り物を全部、母上当てに返却していたという未練のなさだった。


 俺は愕然とし、取れる手段をすべて取ってミリアの行方を捜した。

 その際には父上も捜索を開始していた。もし借金返済を滞るようなら取り立てに行かなければならないからだ。

 そうして半年後、父上の捜索によって判明したのが、遠く離れた南の辺境の地で暮らしているという情報だった。


 俺は父上にミリアを迎えに行きたいと訴えたが、許されなかった。


 理由は、ロクラント男爵家は領地を売り払うと同時にラビュラント侯爵家の寄子である資格なしと絶縁状を父上に提出し、これを貴族裁判所に提出してもう受理されてしまったから、とのことだった。

 何故絶縁を認めたのか聞けば――鉱山どころか領地まで手に入ったのだ。突っぱねて自暴自棄になられても面倒、それにそこまで落ちぶれれば夜逃げする金もないだろうから、息子もミリアを金で買うことも容易くなるだろう、と判断したそうだ。これは見事に裏目に出る訳だが……


 ともあれ、もう我が家とロクラント男爵家は赤の他人だった。


 そうでなくとも他家の領地、それも武で鳴らす辺境伯領の開拓団に属する者を、勝手に乗り込んで連れ出そうとするのは余りにも危険、どの貴族であっても逆鱗に触れる行為だ。


 俺は逃がした魚の大きさに、ほぞを噛むしかなかった。

 そんな俺を見て父上はため息交じりに言った。


「こうなってはどうにもならん。だが男爵には相変わらず相当額な借金がある。あとはお前の努力次第だ。学習院を卒業したら財務局にねじ込んでやる。証文の偽造書類ならいくらでも用意してやるから、借金不払いを捏造して徹底的に追い込み確実に爵位を取り上げろ。庶民に落とせば、もうあとは煮るなり焼くなり好き放題だ」


 出会ってから日に日に美しくなっていったミリア。

あれを手折るのを楽しみにしていたというのに、年単位で我慢しなければならない現実を前に、不快もあらわに息を吐き、不承不承に頷いた。






 それから更に1年後に知らされたのが、辺境伯家の次期領主の長子との婚約だった。

 新聞を握りつぶしながら、絶対にこのままでは終わらせないと俺は誓った。


 ミリアは俺のものだ。


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