ときめき自由研究
水色の海図柄マップスカーフは今年の湯の町温泉郷のお土産のお品だ。
これを湯の町温泉ホテルの売店で見つけ、私は一目惚れで即買いした。
このスカーフを広げ、上に前橋くんのお家……一甫堂の夏の上生菓子、『花火の練り切り』と『金魚とヨーヨーの錦玉』をレイアウトしてスマホに撮った。
後は撮った画像を“待ち受け”設定にすれば今日のミッションの“小道具”の準備は完了!!
中二のクラス替えで一緒になった前橋くんはとんでもないイケメンで……それはもう!!クラスの女子全員がライバルと言ってもよい!!
特に“あーちゃん、しーちゃん、みーちゃん”の三位一体波状攻撃は、他の者に付け入る隙を与えない激しい物で、その攻略はとどのつまりの“前橋くんを巡ってのカノジョ達の仲違い”を待つしかないのでは?と思えるのだ。
こんな厳しい条件の中、私に天恵があった!
なんと、席替えで前橋くんの隣になったのだ!!
さて、前橋くんの隣の席の女子は“置き勉”していても教科書を忘れる!!
そして、教科書を見せてくれた何らかのお礼をカレにする……
過去には“ブラ無しリボン抜き学シャツボタン三つ外し”というとんでもない肉弾戦を仕掛ける輩も居たと言うのを『サロン・ド・トイレ』で耳にしていたので……
私は慎重に事を運ぶよう日夜頭を捻った。
せっかくみんなが教科書を忘れてくれるのだから、私は“だらしない事”は絶対にせず、ちょっとしたフォロー(例えばカレの椅子の背に掛けたままのジャジーの袖が踏まれない様にポケットに入れて置いてあげるとか、手先の器用なカレの作業の先を読んで絶妙な位置にハサミを置いてあげるとか)をする事に徹した。
そう!私は……私に訪れる好機を待っていたのだ!!
席替えは6月だったから……
次の席替えは2学期早々かもしれない!!
この状況でまず行う事は7月20日までに自分を『一緒に何かするのに信頼できて気が利くヤツ』として前橋くんに売り込む事!!
ウチのクラス担任の近藤は“根性曲がり”で……生徒の事をしばしば『連帯責任』と言う手を使って蹂躙したがる。
その一つとして自分の担当(理科)の夏休みの自由研究は隣同士がペアとなって2作品以上提出する事が定番なのだ!!
案の定! 昨日のHRでその説明があり、私は心の中でガッツポーズをした。
『今回だけは、近藤!グッジョブ!!』って……
私の目論見は……夏休みの自由研究を通して前橋くんと親密になって、例え2学期早々に席替えになっても友達で居続ける事!!
いよいよ日頃の“想い”を現実にできると……私は布団の中で「グフフフ」とほくそ笑んで“あんな事”や“こんな事”の妄想を繰り返してろくすっぽ眠れなかった。
--------------------------------------------------------------------
「1年の時より頑張ってるじゃねえか!」とのコメント付きで手渡された通知表を私はそのままカバンにしまい込んだ。
「津島さん!通知表見ないの?」
私の所作に気付いたのか、ちょっとだけ口をへの字にしていた前橋くんが聞いてくる。
「うん! 家に帰ってからお母様と見る」
「どうだったか、気にならないの??」
「うん!近藤に褒められたから悪くはないだろうと思うし……それに、例え悪かったとしてもお母様と一緒に見たい」
「へえ~津島さんの所って“仲良し”なんだね! それとも“上流階級”だから?? 『お母様』って言ってるし……」
「そんなんじゃないよ! 津島のお家は…… 確かに古くからある“お家”でお父様は選挙で選ばれてお仕事をさせてもらっているけど、『地域の皆様の為に』って、お父様もお母様もお兄様も一所懸命だもん!」
「へえ~政治家の家って大変なんだね」
「うん、私も来てみて驚いた。まだ小学生の灯子ですらしっかりしてるもん」
「来てみて?」
「ああ! 私ね、事情があって津島のお家に引き取られたの! だから何となく『お母様』って言ってしまうのだけど、お母様は私の事をとっても愛して下さるの。叱られている時も甘々が駄々洩れてしまうくらいに」
「そっか! ならいいよね!」
「前橋くんのお母様は怖い?」
「ウチは両親ともずっと昔に亡くなったから」
「えええ!!! ゴメン!! 無神経な事言って!!」
「アハハハ、そんなの全然大丈夫……」
と言い掛けた前橋くんの目がちょっとだけいたずらっぽくなった。
「……じゃないから!」と切り返された。
「うぇ~ん!どうしよう??」
きっと冗談だと分かっていても……私の目尻はにわか雨の気配だ。
そんな私の顔を見て前橋くんはバツが悪そうに切り出した。
「両親は居ないけど……怖い姉ちゃんが居るんだ! だからちょっとだけ力を貸してくれる?」
「どうすればいいの?」
「今日はもう終わりだろ? 荷物多いところ悪いんだけど自由研究の打ち合わせを俺ん家でやんない?? “姉ちゃん除け”になるし……」
私は心の中で飛び上がって喜んだ。
しかし私は“策士”だ。
カレの目の前でワザとスマホを立ち上げた。
「あ!! このお菓子!! 一甫堂のじゃん!!」
案の定、前橋くんはこれに食いついた!!
「えーっ!! 前橋くんのお家って!一甫堂なの?? 凄い!! このお菓子、とっても素敵だから写真撮って待ち受けにしたんだ!!」
「これ、師匠が作ったんだ! 撮るだけじゃなく食べてくれた?」
「うん!妹とふたりで! とっても美味しかった!」
「嬉しいなあ!! じゃあ!お昼はオレが“マカオ焼きそば”作るからおやつは師匠に頼んで一甫堂の上生菓子を出してもらうよ」
私はもう天にも昇る心持ちで……お母様に「お友達の家で自由研究の打ち合わせをする」と電話した。
--------------------------------------------------------------------
目の前に前橋くんが居るだけで“眼福”なのに……前橋くん手作りの“マカオ焼きそば”をいただき、今、私の前にはとても素敵な『葉月の上生菓子シリーズ』が置かれている。
「これは来月販売予定の物なんだ。オレもほんの少し手伝った」
前橋くんの声が得意げでかわいい!!
自由研究のテーマは……『動物と植物の違い』
動物担当の前橋くんは釣って来たマイカの解剖
植物担当の私は水草の光合成実験
写真は前橋くんの担当でイラストは私。
二人で色々調べていくと『動物園でホニュウ類の目のつき方を調べる』という自由研究があって、私は食らいついた!!
「ねっ! これやろうよ!! 動物部門の研究に厚みが増してページ数も稼げるよ!! ほらっ!! 電車の遠出になるけれど、あの動物園なら大きいし、色んな動物いるよ。あとすぐ近くの科学博物館には『進化のつながり(系統樹)』の展示もあるみたい!!」
グフフフ!! デートだ!デート!!
ヤバっ!
ニヘラ笑いが我慢できない!!
と思ったらガバッ!と後ろから『胸のある』誰かに抱き付かれた。
「ひょえ!!」と振り返ると“ウルフカット”のお姉さんが頬をくっ付けてウリウリしてくれた。
「スグルのガールフレンド?! カワイイ子じゃない!!」
加奈姉??
ここで目が覚めた!!
愛しの『前橋』英さんは私のまあるいお腹の脇にそっと手を置きながらスヤスヤと寝入っている。
うふふふふ
不思議な夢!!
でも
とっても素敵な夢!!
図々しくも私は
英さんと同い年の……
ウブな“中坊”で……(笑)
今はお腹の中にいるあかりを“妹”として会話していた。
優しいお母様の前で……
それに何と言っても!!
“中坊”の英さん!!
カッコ可愛いなあ!!!♡♡
やっぱ!絶対!!
デートしたいよね!!
ああああ!!!
欲張りな私は、続きのデートのシーンや自由研究のシーンを夢に見たくなるけど……
ほんの少し我慢すれば
あかりと英さんと私の“親子三人”で
実現できるよね!!♪
。。。。。
イラストです。
夢の中の……中学生の冴ちゃん
実はこのお話は拙作『こんな故郷の片隅で 終点とその後』のスピンオフです(#^.^#)
https://ncode.syosetu.com/n4895hg/
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!