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プロローグ
「……君、そのドレスは似合わないな」
めったに相手を見つめないと評判の公爵閣下は、わたくしの姿をじっと眺めながら仰った。
二人きりのテラスに、控えめな夜風が吹き抜ける。わたくしはただ俯くしかなかった。
煌びやかな舞踏会。室内から聞こえる歓談の声。あそこに自分の居場所はない。
「……似合わないのは、自分でもよくわかっております」
お母さまの勧めで流行のドレスを着てみたけれど、これが似合うのは愛らしい雰囲気の女性だ。
わたくしのように、背が高くて痩せぎすで地味な風貌の人間が身にまとうのは滑稽だろう。
周囲の目を避けたくて、誰もいないテラスの隅に逃げてきた。それなのに、よりにもよって、皆の憧れのシュトラール公に正面から指摘されるなんて……。
つくづく、自分のことが嫌いになった。
でも、まさか彼があのようなことを言い出すとは、わたくしはこの瞬間までまったく予想していなかったのだった。