【備忘録】私に、あなたの命を勝手に背負わせないでください
ノンフィクションです。
およそ三ヶ月前。その人――――Aちゃんと知り合ったのは、とあるオンラインゲームの共通の友達からの紹介でした。
オンライン上で複数人で楽しむゲームで遊ぶ私には、小説家になろうの相互さんのように、SNS上で知り合った、どこの誰かも顔も知らないゲーム友達が沢山居ます。
顔も知らないからこそ、時には対人トラブルもあります。ですが、様々な価値観や考え方に触れる機会は、小説を書く上でもよい経験になる為、私は好んで色んな人とゲームをしております。
――――そんな対人トラブルの中でも、彼女との間に起こった事は、私の人生においても衝撃的な出来事でした。
今回、このような形で記録を残すことにしたのは、私のための私視点の記録であり、忘れるためのゴミ袋に包む作業であります。
間違いなく不快に感じるでしょうから、どうぞ今のうちに引き返してください。それでも何があったのか、強いて言うならばあらすじを読んだ上で詳細を紐解きたいという方は、どうぞ最後までお付き合いください。
******
さて、まずはAちゃんについて話しましょう。
彼女はゲームとは別の趣味を持ち、SNSで意欲的に趣味を発信している子でした。
彼女を応援している方は五千人を超えており、その趣味で注目を集められるようにと、努力出来る子でした。……少なくとも、努力出来る子だと、知り合った頃の当時の私は思っておりました。
Aちゃんと、彼女を紹介してくれたBさんと三人で、よくゲームのイベントをやっていました。
週の一回か二回ほど。一日の内の二、三時間ではありますが、その間、音声を繋げて日常の他愛のない会話や、ゲームのイベントについてわいわいと騒いでおりました。
そんな風にしておおよそ一ヶ月が過ぎた頃の事です。と言っても、遊んだ回数で言えばせいぜい八回か、多くて十回ほど。時間で言えば二十四時間程の接点でしょうか。
普通の感覚で、初めましての状態から、何となく相手を知り始めた頃のタイミングではないかと思います。そんな頃に、Aちゃんが他県で遠距離中の恋人に会いに行ってくるという話が出ました。
久しぶりに会えるんだ、良かったね。そんな風に、私とBさんは送り出したと思います。
楽しんできて、と。そんな会話から、一日か二日が経ちました。AちゃんのSNSに突然、自殺しようと大量の薬を酒で飲み、入院していた旨が投稿されました。
幸いというべきか、彼女が薬を飲んだときは男友達がおり、病院に運ばれて一命を取り留めたそうです。
ん? え? 急に何? って感じた方、いると思います。実際、私もそれを聞いたとき、何が起きているのか全くわかりませんでした。
少なくとも、彼女は恋人に会いに行っていた筈なのですが、何かが起こり、自殺を決意し、慰めてもらっていたのか男友達を前に、薬を大量にお酒で摂取したのだということだけは確かでした。
翌日の夜。Bさんと私は――――本来であればゲームで遊ぶ一日のうちの自由な時間を使って、Aちゃんに話を聞く事にしました。何があったのか詳細を聞くと、やはり会いに行った恋人と事が起きたそうでした。
Aちゃんの彼(この場合、元彼というべきでしょうか)は、Aちゃんからお金を借りていたそうです。金額にしておよそ五十万、決して安い金額ではありません。
元彼曰く、ここにニ十万円すぐに返せる準備がある。残りの三十万も、もう払える目処が立った。だからもう別れてくれ。そんな話から事は始まったそうです。
Aちゃんの説明をそのまま信じるならば、彼は更に、お金を借りてる立場だったから言えなかったけれど、返す目処が立った今は対等な立場だから好きに言わせてもらうと続けたそうです。
曰く、お金がなくて困ってたからAちゃんを利用したこと。
曰く、趣味の拡散やお金を得る手段に自撮りを交えるのが不快であると。
曰く、Aちゃんが以前何の気なしに首に手をかけられながら言った「殺しちゃうかも」 という言葉が頭を離れず、また、包丁を手に馬乗りにされた時にいつが殺されそうで怖いと感じていたと。
曰く、将来を考えている相手が別にいるから、Aちゃんとの関係はこれっきりにしたいと。
離れたい元彼さんと追いすがるAちゃんの話し合いは平行線で、公共の場で人殺しだと叫ばれたり、ただ話をしたいだけなのに、途中で警察に駆け込んだりもされたそうです。
結局、手酷い形でフラれたAちゃんは、その日泊まる予定だった場所も無くして、男友達のところに泊めてもらったようでした。
そしてその晩、勢いかどうかは解りませんが、男友達が見ている前でお酒を手に、大量の薬を摂取して意識を失い、病院に運ばれたそうでした。
(いや、飲む前に止めろよ、アホなのか男友達って思いましたが。彼については後述にて)
ひとしきり話を聞き、起きてしまった事は仕方がなく、命あって良かった事を私もBさんも喜びました。あまり悲しい気持ちを掘り下げても、Aちゃんの気持ちが良い方向に向かなさそうだったので、意図的にこれからAちゃんはどうしたいかという話をすることにしました。
Aちゃんは涙声ながら、まだ返してもらっていない三十万を、取り戻したいと言いました。
返しきっていないのに言いたい放題言われて、どうしてこんな悔しい思いをしないといけないのか、と。お金を取り戻し、彼に吐かれた暴言や公共の場での辱めに対して、訴えるところに訴えてやりたいと、最初に比べて随分と声に元気が戻ってきたところでした。
何かあったら連絡していいから。遠慮しなくていいから。そんな言葉を一体何度伝えたでしょうか。
その日は日付が変わって随分と経ってましたが、明日も朝早くから仕事があるためお開きになりました。睡眠時間は削られ、明日の日中の睡魔への不安はありましたが、一先ずやれることはやった安心感と目覚ましドリンクを買わなければと脳の片隅に思いながら眠りにつきました。
翌日、目覚ましドリンクの気持ち悪さと、Aちゃんからいつ連絡来るかと携帯を気にしつつ仕事を終えました。
何故、自分でも負担に思うような事をしながら、彼女の事を気にしていたのか今となってはわかりません。ただ、一緒に遊ぶ仲間が少しでも元気になってくれればいい、そんな思いでした。
何事もなかったのは嵐の前触れだなんて、この時は思いませんでした。
翌々日。
その日は個人的に取った休日であり、金曜日の事でした。(10/16)
それまで彼女からもBさんからも、ちらほらやりとりはしても、特別急ぎの集合はありませんでした。何事もない日々を、私はAちゃんがすっかり次に向けて気持ちを切り替えているのだと、勘違いしてました。
――――その夜、Bさんから話す時間を取ってほしいと連絡がありました。まさかという思いもあり、その日別の方との遊ぶ約束を断って話す時間を確保しました。
通話に参加したときにはもう、Aちゃんは泣いておりました。何をしても意味なんてなく、行動しても変わることなんてなく、自分に価値もないのだと。開口一番にそんな事を言います。
前日の不安定な状態になったのでしょうか。もう無理だ、嫌だとAちゃんは泣きますが、私もBさんも、一昨日まであれほど見返してやると言っていた気概はどうしてしまったのか解りませんでした。
時間をかけて聞いたところ、Aちゃんは早速お金を取り戻す為に弁護士の元に行ったようでした。ですがそこで、すぐに解決ということにはならなかったようでした。何でも、Aちゃんの相談事は伺った先の事務所では解決できないと、話もろくに聞いてもらえず追い返されたのだと言うことでした。
弁護士さんだって万能ではないでしょう。病院に沢山の科があるように、弁護士さんにも得意分野があるのだと思います。
ただたまたま、行った先の事務所がAちゃんの問題を解決するのに不得意だけだったのでしょう。ですが、精神的に不安定だったAちゃんが落ち込むには十分過ぎる出来事だったのでしょう。
あるいは心配して付き添ったというAちゃんのお母さんの言葉もショックだったそうです。
もともと連日、まともに食事や睡眠を取れておらず、Aちゃんはふらふらだったようです。そこに、付き添っているお母さんから「ふらふらしてみっともない」 と言われて、導火線の短くなっているAちゃんの感情が爆発したようでした。
ああ、なんてことをしてくれたんだ。
なんでそんなに結果ばかりを急ぐんだ。
そんな事を思いつつも、口に出せばAちゃんの気持ちが更に荒れるのは明らかでした。慎重に言葉を選んで、否定的にならないように、専門家でも何もない私やBさんは、兎に角励ましました。気持ちは必死でしたが、必死さが出ないように声色と言葉だけで励ましました。
弁護士の事務所の前に、こういう相談所に聞いてもらった方がいいだろうなど、アドバイスも挟みました。
Aちゃんの主張も愚痴も全て聞き出す勢いで聞きました。解釈のおかしい所は、言葉を丁寧に丁寧に選んで伝えました。
今となっては、どうして彼女に私達はこれほど一生懸命になっていたのでしょう? お金を貰える訳でもなく、ただ一日のちょっとした時間に一緒に遊ぶ、顔も住んでる場所も本名すらも知らない関係ですのに。
その日の話は、日付が変わっても何時間でも続く勢いでした。(10/17)
気がつけば、Aちゃん声はまだ涙声ではありましたが、随分と元気そうに聞こえました。その頃には、朝の六時になろうとしてました。
実に九時間、彼女を立ち直らせるためだけに、私もBさんも心を砕きました。
普段、日付が変わる頃に眠りにつく私は、睡魔の限界でした。
Aちゃんが録音したという、元カレさんとの会話を聞いてみるという話になってはいたのですが、Bさんにそれは任せて眠ることに致しました。
明日――――正確には今日ですが、明日にはまた、少しは彼女の状況が好転するだろう。そんな儚い希望を胸に、私だけ音声通話から退出して眠りにつきました。
そして。
不意に目が覚めました。何時だと思って携帯を見たら三時間ほど寝れたのかと思うのと同時に、ぎょっとしました。
見れば、恐ろしい件数の不在着信とメッセージの通知が、Bさんから来ていました。慌てて内容を確認すれば、助けて、起きてとBさんだけでは対処出来ない事態になっているのだと解りました。(9:50)
眠気なんて、過去これほど吹き飛んだことはあったでしょうか?
聞くのが怖いと思いつつも、慌ててBさんに連絡を返しました。
返答は、すぐにありました。
すぐに通話の知らせがありました。
Bさんからおおよそを聞いたところ、あの後Aちゃんと元カレさんの会話をBさんは最初から最後まで聞いてみたそうでした。聞いた上でBさんの感想は、「元カレさんの言い分に自分勝手でおかしいところはあるものの、Aちゃんの訴えたい内容としては証拠が弱い」 というものでした。
Bさんがそれを伝えた途端に、落ち着きを少し取り戻したように見えたAちゃんは、どうしてそんな酷い事を言うのかと嘆いたそうでした。そして間もなく、通話の向こうで大きな物音がし始めたそうでした。
どうやら家の中の高いところから何度と飛び降り、痛みに呻く声が通話から聞こえて恐ろしかったとのことでした。一人で対処するにはあまりにも恐ろしく、どれほどやめてくれと呼びかけても聞く耳を持ってもらえなかったため、Bさんはそのまま一度通話を切り、私に連絡を取ったのでした。
正直言って、その状況を聞いた上で彼女に連絡するのは怖かったです。
私もBさんも、精神的に不安定になっている方の対処なんて心得ておりません。医者でもメンタリストでもないのです。カウンセラーでも法律の専門家でもないのです。ただゲームを趣味の一つにしているに過ぎない、ごく普通の一般人です。
それでも今、彼女と連絡を断てばきっと、死のうとするかもしれない。何処の誰かも知らない相手とはいえ、見捨てた形で本当に死なれた時、自分は一生後悔するかもしれない。大袈裟な話をすると、彼女を止めきれなかった事で、私やBさんが罪に問われるのかもしれない。
色々な不安が一息の間に湧きました。
薄情に思うでしょうか? 彼女の安否を心配するよりも、私やBさんの事を心配するのは。
ですが改めて言いたいのは、私と彼女が知り合ってからの時間経過は一か月です。毎日話しているわけでもなく、そしてどこの誰なのか直接会った事もないのです。
すごく親しいかと言われても、私にその意識はありません。知り合った初日に彼女からは「大好き」 だなんてお言葉を頂きましたが、直接会っている訳でもない相手の大好きほど、薄っぺらいものはないと感じております。
そんな相手に、これ以上に心を配れる余裕はありません。私としては、すでに彼女に十分すぎるくらいに睡眠や仕事・趣味の時間を割いているのです。
彼女の為に夜中の時間を使うために、わざわざ飲みたくない目覚ましドリンクを何本も買って飲みました。嫌な言い方をすれば、彼女に時間もお金もかけているのです。
なのに、一歩間違えればこちらが罪に問われる可能性のある事態に陥る。そんなはた迷惑な話はあるでしょうか?
嫌な予感をひしひしと感じつつ、私とBさんは彼女に連絡いたしました。
応答は幸いな事にすぐにありました。
つながった時の彼女の声は、憔悴しきった様子でした。そして口にする疑問の言葉に、私もBさんも衝撃で言葉を失う事になります。
どうして、と。私やBさんに問いかけます。
どうして私を見捨てるのかと。
どうして元カレだけが悪い訳じゃないだなんて、酷い事言うのかと。
もう生きていく希望も意味もないから、これから死ぬと。
トモダチなのだから、最期まで看取ってくれるでしょうと。
彼女の言葉は一方的で、普通の心理状態ではないと理解するには十分すぎました。
私達は言葉を尽くしました。
Aちゃんの死を望んでいない事。Bさんの伝え方が悪かったかもしれないけれども、Aちゃんに酷い事を言っている訳ではない事。死んでもなにも解決しない事。
必死に、何度も何度も。
何度も何度も死なないでと、とても空しいお願いを繰り返しました。
Aちゃんには、聞く耳を持ってもらえませんでした。
最期に大好きな二人に看取ってもらえて、最後に幸せだと。妙に嬉しそうに告げるのでした。
そんな事は微塵も望んでいないのだと、どれほど訴えても届きませんでした。
生きていて欲しいのだと伝えても、まるで届きませんでした。
通話の向こうから、薬を大量に開ける音とお酒を開ける音がします。口に薬を入れる音、酒を飲む音、飲み下す音。そんな聞きたくない生々しい音を聞かされながら、それでも今ならまだ間に合うから救急車を呼んで欲しいと訴え続けました。
私達は、彼女がどこに住んでいる方なのか知りません。本当の名前も知りません。ただ呼びかける事しか出来ないのです。
Bさんは通話の裏で、警察に相談の電話をしに行きました。時折意識が飛び始めた彼女を寝かせないように、お願いだから救急車を呼んでくれと必要以上に声をかけ続けました。
どれほど助けを呼ぶように求めても、彼女は元カレさんの事しか言いません。自分がこんな状態になったら、元カレさんが駆けつけてくれると思っているのでしょうか? 彼から連絡はあったかと、知りもしない相手からの連絡を求められるばかりです。
薬とお酒で呂律が怪しくなった彼女は、思い出したようにSNSでお世話になった皆さんにお別れを言わねばと悠長に笑います。そんな事よりも意識がある内に救急車を呼んでと伝えても、全く聞いて貰えません。
Bさんの方の警察への動きは、あまり希望が持てませんでした。
そもそもどこの誰なのか解らないのです。少なくとも他県の人なのです。警察だって万能ではありませんので、名前も住所も解らない相手を今この瞬間に探すなんて、荒唐無稽なこと相談されても困るのは当然です。
彼女のSNSへの投稿は、最後のチャンスでもありました。
彼女にはゲームとは別の趣味の発信で、五千人を超えるフォロワーがいます。それだけの人が居れば、きっと一人くらい、現実の彼女に繋がっている人がいるのではないだろうか。そんな藁にもすがる思いでした。
助けてください。どうか彼女の住所を知っている方がいましたら、すぐに彼女の元に救急車を呼んでください。
そんな呼びかけを、一度、二度、三度と立て続けにしまいた。
他の方の戸惑いの返信に埋もれてしまわないように、冗談だと思われないように。SNSのマナーとしては迷惑行為に思われてしまうかもしれませんが、最後の頼みの綱を逃してしまう訳にもいかず、何度も何度も訴えました。
その間も、彼女は薬を飲み続けておりました。
幸いと言うべきでしょう。三名の方が声をかけてくれました。
一人は先週Aちゃんを助けたと言う男友達。(10:14)
一人はAちゃんのもう一つの趣味の仲間の方。(Cさん)(10:33)
一人は現実に友達との事でした。(11:08)
最初に連絡をくれた男友達は、正直言うと役に立ちませんでした。
Aちゃんは自分をいつも一番に頼ってくれるのだと、よく解らない自慢をされました。また、彼女の様子を聞いて、自分の時は薬を飲んで三十秒で意識を失っていたから大丈夫だと根拠のない言葉を頂きました。
そんな事はどうでもいいから救急車を呼んで欲しいという旨をお伝えしたものの、話を紐解いてみると、男友達もAちゃんの住所を知らないとの事でした。先日お世話になった警察の人に聞けば解ると思うけれど、その人が非番で連絡つかないから明日連絡してみる、との事でした。
は?
何をこいつは言っているのだろう。
明日救急車を呼んで、意識を失った人間が助かると思っているのか?
なぜこれほど切羽詰まっている時に、自分が一番頼ってもらえるだなんて宣っているのだろう?
なぜ、一番頼ってくれると言っているやつの所じゃなくて、私がこれほど方々に駆けまわっているのだろう。
このような状況で相手にしても、意味がないのは明白でした。
次に連絡をくれたの方は、とても受け答えのはっきりした方(Cさん)でした。Aちゃんとは県外であるものの、連絡手段や住所をしっかりと持っているとの事でした。
私は大いに焦っており、説明の覚束ない私に落ち着くように声をかけてくれ、状況を説明したところ警察や救急車の手配を請け負って下さりました。
ただ到着するまでAちゃんに声をかけ続けて欲しい。これ以上情報が誤って広がってしまわないように、私の投稿を削除して欲しい。そんな的確な指示を頂き、とても救われた思いでした。
(三人目の現実でのご友人という方が連絡をくれた時は、既に二人目の方が動いてくれた後の事なので割愛いたします。)
丁度その頃、Aちゃんへ呼びかけても返答がとても鈍くなってきておりました。意識がない時間が長くなっておりました。
何度も何度も声をかけて、どうにか彼女が完全に眠ってしまわない様にするのに必死でした。
電話口の向こう側から救急車の音が聞こえた時、どれほど安堵した事でしょう。
それほど時間経たずして、彼女の家の呼び鈴が鳴った時、どれほど嬉しかった事でしょう。
電話口で、彼女に玄関を出るように促しました。
会話の様子から、彼女の元に助けが来たのは明白でした。
通話は、そこで途切れました。
気が付けば、もうお昼の時間を回っていました。
私もBさんも互いにふらふらで、もう疲れ切っていました。
何の手がかりもない中で彼女の元に救急車を呼べたのは、私達にとって奇跡だとしか言いようがありませんでした。どこに住んでいるのかも知らない相手の元へ救助を届けるなんて、正直成し遂げられるとは思っていませんでした。
(12:35)
Aちゃんから、私とBさん宛にメッセージが届きました。
生きていますという報告に迷惑をかけた事に対する謝罪。まだ関わりたいけれども、遠慮なく関係を切って構わないという言葉。ただ関係が終わる前に最後でいいから話したいという申し出。どうして救助が自分の所に来たのかが解り、お礼を言いたいのだという事でした。
しかしそんな謝罪や言葉をもらっても、正直言うとこの時はもう、すぐに話し合いたいとは思えませんでした。
昨晩から始まって三時間の睡眠しかとれずに疲れ切っているという事もありますが、何よりまた通話越しに自殺されてはこちらの気持ちが持ちません。
私とBさんは話し合いました。今回のことがあって、彼女が話せる状態になったとして、果たして私達が彼女と話し合えるのだろうかと。
何かあった時にはすぐに助けを呼べる環境でなければ、彼女と安心して話す事は難しいと言うのは共通認識でした。
なんと声をかけるか考え、迷い、言葉が見つからず、考える事も億劫に思えるほどでした。
今は彼女となにも話したいと思えない。毎日欠かさずに遊んでいるゲームですらも遊びたいとは思えない。そんな事を正直に打ち明けたところ、Bさんもまたとても話せる気分でないから時間を置こうと提案し、彼女に連絡をしてくれました。
以下、会話の実録です。
***
《Bさん(10/17 14:32)》
ひつじさんと2人でお話して双方的にも疲労などを溜めたまま話をするのは建設的ではないので時間を空けて話をした方がいい。可能なら来週の日曜日までお時間頂きその時にお話したいです。
またお話に際して、非常時に私達から救急車等の手配ができるよう緊急連絡先を先に頂くことと個人個人ではなく3人でのお話を条件とさせて頂きます。
また本当に急な状況にも関わらず車両手配等して頂いたCさんの尽力やお気持ちも忘れず感謝をしっかり伝えていって下さいね。
《Aちゃん》
Cさんにはすぐに連絡しました。感謝も十分にできる限り伝えましたし、次もしCさんに何かあったら私も恩返しをしたいと思っています。
今回迷惑かけてしまったので、私からは何も言う権利はないと思っております。お2人に後はお任せします。無理に連絡取らなくても大丈夫です。
甘えてしまった私が良くなかったです。本当に申し訳ありませんでした。
ただ、これだけ伝えさせてください。今じゃないと意味無いので。
Bさん、私が心が弱いせいでせっかく私の事を考えて言ってくれたのにあんなことしてしまって本当にごめんなさい。
ひつじさん、沢山泣かせて苦しい思いさせてごめんなさい。あんな残酷なことするなんて私は最低な人間だと思ってます。それなのに助けてくれてありがとう。
勝手に伝えてごめんなさい。以上です。
《Bさん》
お言葉は素直な今の気持ちとして受け取らせて頂きます。
やはり死という選択肢を選んだこと、それに他の人間を巻き込んだこと(これをするなら他の人を巻き込まずにやるべきと、以前にお話の中で伝えさせて頂いていた、私の意見は変わりません)から、簡単に許すことはできません。
ですが、これからどうするかの話をすることの必要性と、許すことが出来ないという気持ちは別だと思ってます。
これは多分ひつじさんも同じでは無いかと思います。
それを踏まえて今後どうしていくか等話す為に来週日曜日での時間とさせて頂きたいです。
ただまずは、全員が精神的にも肉体的にも疲れている状況ですので、休む為の時間をおいて、それから向き合って話をしていきましょう。
《Aちゃん(23:57)》
十分に理解しております。
お話の機会を設けて下さるということで、とても感謝しております。
とにかく、無事退院して、生きているという御報告はしなければならないと自分なりに考えたのでご連絡させて頂いた次第です。そこだけは御理解して頂けたら嬉しいなと思っております。
その時間空けられるように努力致しますので、どうぞ宜しくお願い致します。
《Aちゃん(10/18 0:01)》
すみません、人を巻き込まずにやれば良かった……という言葉がちょっとチクッと痛みました。悪いことをした事は重々承知の上ですし、全て自分の責任だと思っていますが、今は情緒不安定なので、甘えかもしれませんが、苦しいです。
あの時誰にも言わずに勝手にやれば良かったかもと考えてしまいます。傷付いたのは私だけでは無いのは十分理解してます。今だけは、許してくれませんかお願いします。今回だけはどうか許してください。本当にごめんなさい。
明日からまた一人暮らしの家に戻るので不安なんです。ごめんなさい。本当にごめんなさい。どうすれば許してくれますか。お友達やめてもいいからとにかく謝ります。直接出向いて土下座もします。許してください。
《Bさん(0:13)》
私達は責めたい訳ではないです。
先程の言葉も戒めにして頂けるのであればご自身への責めにされなくても構いません。
言葉で許すと言うだけなら簡単ですがそうではないと思います。
だからどうしたら私達がAさんを許せるか。許すのか。Aさん自身が自分を許せるか。汚名返上などの言葉はありますが、これもすぐにできる事ばかりではなく繰り返しで認めさせていくものでもあります。
Aさんがこれからどうしていくのがいいのか、なども話していくのが今度の日曜日だと思ってます。
まずはその為に休む時間が必要なのではないでしょうか。
あと私達はAさんが生きていてくれて良かったと思っていますよ。
死んで欲しいや死んでいて欲しかったとも思っていません。
Aさんの好きな趣味やゲームをして楽しく生きて欲しいが本当に思っている気持ちです。
《Aちゃん(0:18)》
最後の言葉で少し安心しました。ごめんなさい、甘えたいんです、正直言うと。あの時も1人だと寂しくて不安で、多分来週の日曜日もまずは優しく接してくれませんか。それだけ最後に残しておきます。本当に申し訳ありませんでした。失礼します。
《Bさん(0:27)》
それではまた来週によろしくお願いします
***
一週間後の日曜日。それが約束の日となりました。
憂鬱な日の始まりでした。
彼女ともう一度話し合わないといけない。そう思うだけで、とても気持ちが重かったです。
彼女から送られて来るBさんへの返答に、この時すでにうんざりしておりました。気持ちが弱っているから。そうだとしても、なんて身勝手な言い分を並べるのだろう。そんな感想しかありませんでした。
楽しいと思っていたゲームを遊ぼうと思えず、生死が絡む作品が多い自分の小説を書く事も出来なくなりました。何も出来ず、今の心境をBさんや周りに相談するのがやっとでした。
その日は仕事をどうにかやりすごし、家にいてもただ茫然としながら音楽を聞いて過ごすだけの時間が過ぎました。
何故? ゲームで遊ぶだけなのに、これだけ嫌な気持ちにならないといけないのでしょう。
一日が過ぎ、少しずつ少しずつ憂鬱が加速します。同時に時間が嫌なくらいのろのろと過ぎました。
そんな嫌な思いに拍車をかけたのが、彼女のSNS投稿でした。
『悲しい事があったけれど、自分は負けない』
『大切な友達や自分を応援してくれる人たちを絶対裏切ったりはしない』
文言一字一句同じではないですが、上記の内容が投稿されておりました。
一日見ないようにしたものの、それらの言葉は私の神経を酷く逆撫でいたしました。
つまり、必死に自殺を止めた私達の事を裏切って自殺を強行したという事は、彼女にとっての『大切な人』の中に、私もBさんも入っていないと言う事なのでしょう。大好きだなんだって言っていた言葉は、なんとも薄っぺらく、何の価値もない飾りつけなのでしょう。
沢山の何も知らない方々から心配されて、さぞ良い気分だった事でしょう。
自殺に付き合わされた私達にしてみれば、炎上商法に利用されたようにしか思えませんでした。
我慢しました。それでも彼女の気持ちは不安定なのだから、あまり責めるような言葉を選んでは言えないだろうと。
どうにか最後の話し合いの日までに気持ちを落ち着け、しっかり話し合ってすっきり終わりにしようと思いました。(10/19)
さらにそれを裏付けるかのように、同じくSNSに、彼女のもう一つの趣味の投稿がされました。以前に用意していたものなのかは解りません。しかし、こんな事があった直後に投稿するのは、いささか不適切なコンテンツに感じました。
悲しさや空しさを通り越して、笑えて来ました。
彼女にとって自殺は注目を集める手段の一つであり、そこに他人が巻き込まれてどんな思いをしても知った事ではないのだと感じました。
約束の日まで時間はまだありましたが、私はもう彼女に関わりたくないと、微塵も話したくないと感じました。なのではっきりとした拒絶の言葉を贈る事にしました。(10/22 12:39)
以下、原文です。
***
こんにちは。約一週間考えた、私からの答えです。
死して屍拾う者なし。
本気で復讐するならSNSを使えば公開処刑大好きな方々がどうにかしてくれます。お金取り返す為の相談は弁護士へどうぞ。
あの日のときに、貴女のことを伝えたのはこちらの3名です。
東京で貴女を病院に連れてったと名乗る人
https://t‥‥‥‥‥
リアフレだと名乗った人
https://t‥‥‥‥‥
警察や消防に連絡取りましたと言ってくれた人
https://t‥‥‥‥‥‥
上記の方々には、貴女があの時電話の向こうで何を行っているかの詳細と、どうにか警察や救急車を向かわせてほしい旨を伝えてあります。
逆に、この方々から貴女の個人情報は聞いておりません。
あの日、貴女から聞いた貴女の携帯の暗証番号、元彼さんの電話番号やSNSアカウントなどの情報は、一切メモや記録を残しておりません。どうぞご安心ください。
私は貴女と遊びたかったから関わりましたが、決して貴女を看取ったり、貴女の命を背負って生きたい訳ではありません。そういうことは、人生のパートナーにしてください。
貴女は沢山苦しいと言いましたが、電話の向こうで死なれそうになって、助けることも出来ずに、ただ聞いてることしかできず、勝手に貴女の命を背負わされそうになって心が潰れそうになった私やBさんの気持ちは、貴女に決して解らないでしょう。貴女は優しくしてくださいと言いましたが、貴女が私たちにしたことは最低だと自覚してください。
相談なら乗りましたが、どこの誰かも解らない、ゲームだけの繋がりの人間に命を背負わせる行為は、ただの迷惑です。
これ以上の謝罪は不要です。返信も不要です。話し合うつもりはありません。
もう関わることはないでしょう。
どうぞお元気にお過ごしください。さよなら。
***
Aちゃんに送るより先に、Bさんに送りました。
これで私達の気持ちはすこしでも伝わるでしょうかと。それとも最低と言われたところだけ拾って嘆くでしょうか。私にとってはどちらに取ってもらってもよく、ただもう関わりたくないばかりでした。
送って数時間、彼女から返信が届きました。彼女の返信原文に、名前を伏せたものになります。(14:34)
***
この度は大変ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。
実はあの時、他の方にも沢山電話していたみたいで、その時の記憶が私もないのです……
とにかく死にたくて、でも苦しくて、誰かに助けて欲しくて、片っ端から連絡していた事を思い出しました。
正気になった時に後悔して、真っ先にお二人のことが頭に浮かびました。すぐにグループチャットに謝罪は入れましたが、迷惑をおかけしたことを簡単に許して貰えないことも理解しております。
他の友達にも、ひつじさんとBさんが一生懸命連絡取ってくれたから、ちゃんとお礼言わなきゃダメだよと言われました。
何が言いたかったかと言うと、私は情緒不安定で鬱状態(病院にも通っていた)ため、自分のことも相手のことも考える余裕がありませんでした。その位苦しい思いをしたんです、、
言い訳ではありません、これは事実です。
その時の気持ちはお二人にはお話しましたが、計り知れないのはお互い様ですよね。
ひつじさんとBさんは、朝まで話を一生懸命聞いてくれて、だから私も支えてもらってたのはあります。
最後は私の心の弱さと情緒不安定だったのと、鬱の症状が出ていたためです。
普通の状態の時は、絶対に迷惑を掛けるべきでないことくらい分かっています。私にとってお二人のこと大好きでしたし、一緒にゲームをしながら話すのがとても楽しかったです。
許せないとしても、どこの誰かも知らない人の事なんか、という発言はあまりにも…
だとしたら、何故最初から話を聞いてくれたのですか。ひつじさんは私の事を好きだから、心配だからと言ってくださったんです。あれは嘘だったのですか?
どう謝罪をすればいいか、何をすべきなのが正しいのか、自分でもまだ正解は出ていませんが、あまり関わりのない方々でも、とにかく助かって良かった。償うとしたら、もう二度と同じことは繰り返さないこと、とにかく生きていて欲しいと言ってくださいました。
私は、このメッセージを見ても、そう言われても仕方ないなと思いつつ、まだ諦めたくないです。本当に元気になった時の私の声を聞かせて、直接謝罪をしたいです。私は少なくとも、ひつじさんのことは信頼していたし、今でも大好きですし、『ありがとう』の言葉はやっぱり最後になってもいいから伝えたいです。
ひつじさんとこのまま何も話さずに終わるのは、私は嫌です。
あんなに話を沢山聞いてもらって、あんなに傷付けるようなことをしてしまって…私が直接謝罪しないと意味ないと思ってます。
言い訳はしません。とにかく、助けてくれたことのお礼と謝罪を伝えたいだけです。
どうか、この文章読んでくださって一度だけでもお話の機会をくれませんか。
信じて待ってます。
だんだん時間が経ってきて元気になったら、また3人でゲームしたいです。
一方的な気持ちを打ってるのは理解しておりますので、ひつじさんが決めてください。
もしそれでも許せなかったら、ブロックして頂いて構いません。それがひつじさんの回答だということで、私はとても寂しくて辛いですが受け止めます。
どうか、よろしくお願いします。
***
これを読んだとき、案の定だという失笑と、一体何をよろしくお願いしてるのだろうと思いました。私の答えは書いていると言うのに、まだ私に何を決めろと言うのだろう? と。
すぐに返信する気にもなれず、そして私には仕事がありました。
ひとまず放っておこうと、忘れたくてその日は微塵も好きでもない仕事に没頭しました。
そして仕事終わりの帰りがけ。彼女からブロックされており、返信する事が不可能になってました。
はい?
一瞬、意味が解りませんでした。
直後、意味が解らな過ぎで思わず笑ってしまいました。
受け止めるとは一体どういうことなのだろう?
この送られて来た言葉全てが、紙よりも薄くてなんも意味もないじゃないか。
呆れた気持ちでいたら、Bさんも含んだ会話グループにメッセージがある事に気が付き、そちらにも目を通しました。
***
【Aさん(14:48)】
この文章を今改めて見ると、言い訳にしか見えないかもしれないし、ただの甘えかもしれません。優しく接してくださいというのは、今は気持ちが違います。鬱状態の時に打った文章ですね、、
まだ情緒不安定ではありますが、あの時自分がした事は自分でも許すことは出来ません。
でも、このまま謝罪も直接言葉で伝えないまま、終わるのも違うと思いました。一方的でも、迷惑でも、謝罪とお礼は私がしなければ意味がないと思っています。そして、もう二度と同じことを繰り返して迷惑をかけないこと、それをお約束したいです。
また時間が経った時に、お2人が許して下さるのであればまたゲームしたいです。
間違いをおかしたらそれで終わりですか?私はどんなに憎い相手でも、絶対に直接謝罪の言葉は貰わないと許すことは出来ません。今回のことで言うと、元彼のことを指しますが、、
私のことを一生憎んで許すことが出来ませんか? それなら直接それを私に伝えて下さい。全て受け止めます。その位酷い事をしたと、後悔しております。
最後にお話だけ、私からの言葉だけ最後にせめて聞いてくれませんか。どうかよろしくお願いします。日曜日はあけてありますので、ご連絡信じてお待ちしております。
【Bさん(16:18)】
何かがあった時にこれからをどうするか(許す許さないや支えるのか離れるのか、相手にまず時間を割くかどうか等)は相手次第になると思います。
回数に関係なく戻らないことはあります。してしまった側はそれに対しての相手の選択を尊重し受けとめていくしかないのではないでしょうか。
※もちろん相手の選択が尊厳を傷付けたりがあるならそれには然るべきで対応するべきですが。
それを無視してしまうと自分勝手な独りよがりや自己満足と代わりません。
許せるか許せないかなら私も許すことはできません。今でも不意に思い出すくらい深く私達の心に刺さり重たく残る出来事でした。
人の命はそれくらいに重たく大事なものなのです。
あれから考えられていたことはご連絡で伝えられたとお伺いしております。どうか考えを尊重してあげて欲しいです。
【Aさん(17:02)】
やっぱりBさんの言う通り、自分で命を絶つ時は、2人にめいわくをかけずに一人でするべきでした。
ひつじさんの言う通り、私は最低な人間です。
少なくとも私はふたりのこと大好きでした。今までゲームも沢山して楽しかったです。
本当に命も助けて頂いて、感謝の気持ちでいっぱいです。
どうか、お元気で。さようなら
【Bさん(17:06)】
すみません。私はまだ許せないかどうか以外は伝えてないのですがさよならをされてしまうのでしょうか?
【Aさん(17:22)】
これ以上嫌われるのがこわいです。
そして、また傷付けてしまうしまうかもしれないというのがこわいんです。
Bさんも、もちろんお友達と勝手に思ってました。そして、ひつじさんは特に、数少ない女の子のゲーム友達だったから、最低と言われて絶望してます。
ごめんなさい、本当に楽しかったのは嘘じゃないです。
Bさんに後は選択肢あると思いますが、私自身もある程度気持ちは決まってきました。感謝しております。
17:52
→Aさんが会話グループから脱退しました
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私が仕事をしている間に、何やら勝手に終わってました。
これらを読んで私が思ったのは、「彼女は悲劇のヒロインか何かかな?」 と、ただそれだけで、心には何も響いてきませんでした。それどころかブロックされた流れまでがあまりにも面白すぎて、Bさんにも事のあらましを伝えました。
そしたら、どうでしょう。彼女が私をブロックしたのは、離れたがっていたからブロックしてあげたんだそうです。また、例の男友達に相談したら、最低だなんて言ってくる相手はつなぎとめなくていいだろう、と言われたからだそうでした。
あ。馬鹿なんだな。
最早その感想しか出てきませんでした。
耳に優しい言葉に囲まれて、もう好きにしたらいいんじゃないかしら。
ただ代わりに、私やBさんに絡まないでくれ。
離れてあげただなんて、なんて上からなんだろう。
そんな感想しかありませんでした。
私と彼女のやり取りはそれっきりで終わりました。
しかしBさんは、約束したからと最後の日曜日の対話に臨んだそうでした。ただ、彼女は反省というよりも、自分の保身と優しくしてほしいという事ばかりを主張するので、話にならなかったそうです。
それっきり、Bさんも彼女が厳しい言葉を受け止められるようになるまでは関わらないと、彼女との連絡を絶っております。
*********
あの日から数か月経ち、沢山の友人たちに話を聞いてもらったり遊んだりしている内に、随分とあの日の衝撃を忘れつつあります。
しかし残念な事に、あの日からずっと、私は自分の小説を書く事が出来なくなっておりました。投降しようとちまちま裏で書いてたものが、一切進まなくなりました。
私の作品の多くには、小説のストーリー上必要な生死観念が多く出てきます。暴力描写だってします。それらは必要だから、ストーリーが面白くなるから表現していたものでありました。
彼女との事があって、端的に言えばそれらを文章として言葉にすることが出来なくなりました。
怖くなったと言っても過言ではありません。臆病者と言われればそうでしょう。
ですが、電話の向こうで痛みに呻かれ、死というものを突き付けられた恐怖感は、カンタンには拭えませんでした。
時間薬に任せて気持ちの回復を待ち、何もしない日を過ごしてしまい、ついには新年を迎えました。
忘れつつあるという事は、とても喜ばしい事ではあります。ですが同時に、恐ろしい事でもあります。
正直言うと、彼女が何を考えているのか、未だに解りません。
彼女は今でも元気であり、趣味の投稿を楽しんでいるようです。
ただ何かふとした時に、インターネットというツールを使って、こちらに社会的な迷惑をかけてくるのではないか。
そんな不安が時々過ります。
もちろんそれはただの憶測に過ぎませんが、自分に優しい言葉を優先する彼女なら、ふとした拍子に彼女に甘言を吐く誰かに乗せられるままに、こちらに刃を突きつけるのではないかという思いがぬぐえません。元カレさんの気持ちが、解らなくないのです。
だから、彼女とのやりとりは消してありますと伝えはしましたが、未だに消す事が出来ません。
消せば気持ちはすっきりするのですが、万が一に、何かの拍子にと思うと、確固たる証拠を手放す事が出来ません。
だからこうして、筆を取りました。
起きた事を忘れてしまっても良いように。書けなくなった言葉を、どうにか取り戻せるように。
きっと、これらの言葉は小説のように整える努力をしていないので、読みにくいと思います。
ですがそのままの気持ちを残しておくことが、私の安心材料であり、同時に宣誓布告であります。
宣言します。
生憎ですが、ここに記載しきれなかったやり取りが、まだ沢山あります。Bさんにも話はいくらでも聞けます。証拠として足りないなら、あの日に私に声をかけてくださったAちゃんの知り合いの方々に、いくらでも声をかけましょう。
貴女が仮に私やBさんに社会的な不名誉や迷惑をかけてくるならば、私は私やBさん及び、その家族や周囲の人たちの身体と精神の安全のため、すべての情報を開示し、警察、裁判所、弁護士、探偵、インターネット、使えるありとあらゆる手段を使って、貴女を金銭的・社会的に潰します。
貴女が私達に関わって来ない限り、私はあれらの日の事を思い出す事無く、行動に移すことなく、やがて忘れ去り風化させていくでしょう。
なのでどうぞ、関わらないでください。
それが貴女の為であり、私達の為にもなります。
最後になりますが、何かの拍子でこの記載を見かけた方へ。
私はアドバイスなんて特に求めていません。
どんな感想を持つかはあなたの自由で、それを私におっしゃって頂いても構いません。ですがどうぞ、余計な事はしようとしないでください。
インターネットというのは、こんな事が起こり得るのか。そんな教訓にでもして頂ければと思います。
今一度ネチケットとは何か。マナーとはなにか。顔の見えない相手と関わることとは何か。己の行動を振り返る機会にでもしていただけると幸いです。
インターネットの向こう側には、きちんと心を持った人間がいます。どうぞそれを忘れないでください。
最後までお読み頂きありがとうございます。
そして私はこの記録を最後に、教訓だけを胸に、彼女の事は忘れ去っていこうと思います。
*追記 2025.1.13
最近(と言ってもすでに数ヶ月前ですが)、小説を無性に書きたくなりました。なろうを開いた時、ふと目に止まってこちらの独白を読み、なんだか感慨深かったのでこちらに感想を残します。
ああ、もうこんなに時間が経ってしまっていたのですね。時間とは早いものです。
人間の忘れる力というのは、なんとも素晴らしいものでしょうか。
先日、ずっと書くことが出来なくなってしまった小説の続きを書き始めました。いままでは戦闘、暴力、流血シーンを書くことが出来なくなってしまっていましたが、どうにか書き上げる事が出来ました。
出来栄えは……まあ、まあ。まあまあまあってところですが、シーンを書き上げられた時は、少なくとも私にとって、本当の本当に嬉しい瞬間となりました。ああ。やっと、乗り越えられた。
言葉は悪いのですが、「あんなの」 に振り回された自分が、今はとても悔しいです。でも同時に、狂気キャラの出る小説を絶対書いてやろって、うきうきしています。きっと主人公のいい引き立て役になってくれます。
狂気キャラ出して、賞への応募を目指そう! 今はそんな目標に邁進する時間が、たまらなく楽しいです。万年初心者の私ですが、応援してくださるととても嬉しいです。
ゲームもインターネットも、相変わらず楽しんでいます。
Bさんとも最近このことを話したのですが、Bさんもまた、この出来事はネタとして消化できているようでした。けらけら笑いあえております。
本当にたくさんの人に支えられました。ありがとうございます。
この備忘録を見て共感くださった皆様、ありがとうございます。
逃げ場や共感があったから、乗り越えることが出来ました。
私は前に進みます。