ある公園での一幕
暇潰し投稿です
「ねえ」
「何かな?」
少女の掛け声に私は振り向く。
「手、見せて」
「手? まぁ、良いけれど」
はい、と私は少女に手を差し出した。正直、なにがしたいのかはわからなかったが、少女が私の手をその小さな両の手でフニフニと触っては密かに笑っている姿を見れば、私の疑問などどうでもいいものだ。
夕焼けの空が当たりを照らす公園のベンチ。そこが私と少女が話す唯一の場所だ。
少女の名前を私は知らない。
私も知る気はないし、少女も教えるつもりはないようなので便宜上『少女』と呼称している。
私はしがない会社員でしかない男なので『お兄さん』と呼んで貰っている。まだ23歳なので問題もないはずだ。
「ねえ」
「なにかな?」
手をフニフニしながら少女は話しかけてきた。
「お兄さんは高校で、どんな風に過ごしたの?」
「私がかい?·········そうだね。気ままに過ごしていたかなぁ」
「気ままに過ごす?」
少女は首を傾げる。どうやら想像がしにくい答えだったらしい。
「私は高校時代、色んなバイトをしていたよ。飲食店から始まって、運送業、家庭教師、ホテルの受付なんかもしたね」
「·······働いてばっかりだ」
「そうだね。·······でも、全部が望んでしたことだ。後悔はないよ」
確かに高校生らしいことはあまりしていなかったが、それでも楽しい日々ではあった。
「········なら、なら私もそうすれば······楽しい日々を過ごせるのかな」
苦渋に満ちた問い掛けだった。
「···········どうだろうね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
ただ、私はその問いの答えを持っていなかった。
「でもね」
かけれる言葉は、あるのだ。
「どんな風に生きたいのか。君が考えないといけないのは、それなんじゃないかな」
ああ、酷く抽象的だ。
役に立たない、つまらない台詞だ。
「···········どんな風にも」
「········」
「私は!·········どんな風にも··········生きたく、ない」
「真っ暗な先が、怖い! 人の笑い声が怖い! 暴力が! 恐喝が! 悪意が! 善意が!················怖い」
少女は、どれだけ耐えたのだろうか。
高校の制服から微かに見える打撲傷や火傷の痕。髪は乱れて、目は虚ろで光を照らしてはいなかった。
きっと、私では考えきれない事もいっぱいされたのだろう。出会って一週間の私ですらわかるのだ。それほどに、いや、それ以上に苦しかったはずだ。
故に私は、少女を抱き締めた。
「っ······」
強く、強く、少女が辛いと、寂しいと思わない位に。
少女には笑顔が似合う。
それを私は、よく知っているのだ。
··········だから、よく泣いたら、また笑ってほしい。
幸せだと、笑ってほしい。
「うぁ、あ、ああ!――――――――――」
初めまして、少女。
ようやく、君の心に近付けたよ。
閉じ籠った君に、私は出会えてよかった。
『幸福の道標』もよろしく!