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海彦の独り言

作者: 砂野ちや

ある磯で海彦が釣り糸を垂れながら、海を見つめて誰に聞かせるともなく、独り言をつぶやき始めた。

私の名前はホデリと言います。

自分で言うのもなんですが、曾祖母がアマテラスですので、まぁ、純血腫の神です。

私は3人兄弟の長男で末の弟はホオリと言います。

ホオリは、狩りが大好きですが、私は自他共に認める釣りバカです。

私は海彦、弟は山彦と言った方が、通りはいいかも知れません。


この話は、まぁ、ここだけの独り言として聞き流していただけると、ありがたいです。


あの頃、豊漁に湧きたち、私は毎日が大漁という釣り三昧を送っていました。領地は活気にあふれて、市場には、私が釣ってきた魚があふれていました。


末っ子のホオリは、これをいつも羨ましがり、釣り道具を貸してくれと何度もねだっておりました。

可愛い末の弟の頼みですから、大抵の事は聞いてやるのですが、釣りバカにとって釣り道具だけは、そうはいきません。


こだわりにこだわり抜いて、大切に使っているロッドやリール、ラインやフックと言う釣り具の数々は、人に触られるのも嫌なものです。

あの日は、しつこい弟にとうとう根負けして、釣り道具と狩りの道具を一日だけの約束で交換してしまったのです。


弟は喜び勇んで海に出かけて行きました。

結局、何も釣れなかったようですが、最後に大物がかかったようです。

グググ〜!ギュインギュイン!

と弟は、言っていましたが、途中であまりに引き出されるので、私が設定してやったリールのドラグを、やり取りの途中で締めてしまったようです。敢え無くラインブレイク。

多分、大物の真鯛でしょうね。

きっと、リーダーの確認も怠っていたのでしょう。


弟は、フックを無くしてしまったと、顔色を変えて謝っておりました。無くしたものは仕方ありません。

ただ、あのフックは、インドのウーツ鋼で特別に作らせた、強靭で貫通力に優れしかも錆びにくいという、特別な釣り針でした。


それを分かっておいて欲しいと、私は説明しようとしたのですが、言い方が悪かったのか弟は、逆ギレしてしまって、「返せばいいんだろう!」と言い切ってしまう始末。

後日、自分が大切にしていた十拳の剣を潰して千本もの釣り針を作ってきました。


でも、所詮は素人が作るもの、焼きも入っていない軟弱な鉄で、しかもカエリのないバーブレス。

スポーツフィッシングなら、好んでバーブレスもあるかも知れませんが、あいにく私の釣りは領地のための漁なのですから、残念ながら受け取るわけにもいきません。

こんな針では、直ぐにバラしてしまうか、針を伸されてしまうでしょう。


アレとコレは違うのだと説明しようとする私に、また、逆ギレして飛び出して行った弟は、海の神、大ワダツミ様の宮殿に行ったようです。

そこで、ワダツミ様の娘トヨタマ姫を見初めて結婚したそうです。

それから3年、弟は帰って来ませんでした。


ワダツミ様にお願いしたのか、無くした釣り針を見つけて帰ってきた弟は、なにやら変な呪文を唱えながら、私に釣り針を返して来ました。

まぁ、釣り針が返ってきたので、どうでも良かったんですけどね。


でも、それからです、私が泥沼に落ちたのは。

いくらせっせと田畑を耕しても、水が来なくなって干上がってしまうのです。

それに引き換え、弟の田畑は、どんな場所に作ろうとも、いつも潤っているではありませんか。


これは、なんかおかしい?

まさか、実の弟に呪いをかけられるとは思ってもみなかったのです。

三年経ったある日、それがわかってしまった。

飢えている領民のためにも、ここは武力を使ってでも呪いを解かせねばなりません。

決起した私に、弟は、なにやら怪しい玉を投げつけました。

なんと、私の周りだけが海中に変わってしまったのです。溺れてしまう!


もう、謝るしかありません。

私が謝ると、弟は許してくれ、潮が引くように水がなくなり、私は弟に遣える事になりました。


あれから、数千年になりますが、時々、こうしてこの時の事を考えます。何が悪かったのでしょうか?

釣り針一本で、こうも一生が変わるとは思いもしませんでした。

まぁ、いいんですよ。

私はこうして釣り糸を垂れていられれば、幸せです。

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