辺境伯別邸にて 2
フーッ。上品な香り、まろやかな味わい、上品なティーカップにお揃いの図柄いや切り子細工のある上品な受け皿。貧乏男爵の状況しか知識のないわし、いや自分、でよかったよな、には、このティータイムにかかっているコストが想像できない。上品なシャンデリア、華やかな花々の活けてある豪華な壺、フカフカな光沢のあるビロードの絨毯、等々。
自分は、これから招待してないが歓迎すべきお客たちを迎えるという20~30人くらいは対応できる広いメイン応接室に通され、お茶を振る舞われていた。ただ、お相手は誰もいないままに半刻ほど放置されたまま。もし、前世のビジネスの世界であったら、主担当が来るまでに繋ぎの担当が接待トークをしているのだが。もっとも、自分は何も持たない平民となった身、そんな気を使う必要性もなかったか。
と、そこに半刻前にこの応接室に案内した見目好いメイドさん、ジェーンさんでない、がやって来た。
「お待たせして申し訳ありません。いま、主人、コリンヌ様は湯浴み後に着替えられたところで、お客様の来訪が伝えられ、入口に迎えに行かれたところです。程なくお客様とこちらにいらっしゃいますので、誠に申し訳ございませんんが、ナオキ様にはお立ちになって入口の右横のスペースに私たちメイドと立たれてお出迎えを願いしてもよろしゅうございましょうか?…お客様がお座りになり、主人のお声掛け後に改めて席におかけになられてください。」
メイドさんに指示されるまま、入口に向かう。
「こういう波乱時に来訪されるというコリンヌ様のお客様とは、いったい……問うまでもなく、貴族学園の友人様ですね。」
「私からは情報を渡す立場にないので。申し訳ありません。」
そうこうするうちに、お客様の先導のメイドさんたちが応接室にワラワラと入ってきて、自分の傍で並んでいく。
そして、絢爛な衣装と髪飾りをした若い女人、少女、いや女の子?が入ってきた。
と、一斉にメイドさんたちは頭を下げる。自分も一緒に頭を下げた。行列の人々が去り、頭を上げて応接室の奥、上座に顔を向けると、先ほどの絢爛豪華な女の子とそれに向かい合うような下座に、後ろ姿では正装した少し低めの騎士が立って向かい合っていた。
女の子の表情は、向かい合った騎士を見つめ、恍惚の表情をしていた。……すっごい美男子なんだろうな、自分とは違って。
と、美男子と思われる騎士がこちらを振り向いた。
…えッ?コリンヌ様?
「ナオキ様もこちらへどうぞ。」
「…は、はいッ!」
前に出て、入口に近い位置の下座に立つコリンヌ嬢に並ぶ。
絢爛女の子は、目を丸くして自分たちを見つめている。
「お姉様、その方は?」
「ふふふ、シャロ様、この方は私の騎士様です。」
「なッ、そ、そんなッ。私のお姉様に!!」
絶句してらっしゃる。ここは、絢爛百合姫様のためにも誤解を解いておこう。
「誤解があると思われるので、解いておきます。今日の貴族学園の卒業パーティーで、たまたまコリンヌ様とぶつかるという御縁がありまして、お足を痛められたようなので、付き添いしてきたまでなんです。それ以上でも以下でもありません。」
フフフ。またまた不敵な微笑を浮かべるコリンヌ様。
「この者の言ったこと、本当に本当ですの?」
祈るようなポーズでウルウルした目で必死で言い募る姫様。
「少しの訂正はありますが、概ね合っていますね。」
「そう、よ、よかった!」
「誰もが動けないであろうあの雰囲気の中、この方は押されて倒れ掛けた私を受け止めようとした。面白いと思って、直前で倒れる方向を微妙に変えてみたのだが、額のコブという申し訳ないことになってしまった。しかし、その後も貴族の身分を掛けて私をかばってくださった。私の騎士というに相応しい方だ。」
キッ!!騎士服のコリンヌ様がそう語られた直後、百合姫様、いやシャロ様だったな、は、自分を睨みつけてきた。軽い足取りだった謎は解けた。はじめから捻挫などしてなかったのだ。で、なぜに自分は、この百合たちのダシになっているのであろう?と、考えるまでもないか。
「コリンヌ様。悪ふざけはお止めください。」
”私の騎士”というキーワードに対して反撃してみる。
「何故に真面目に答えたものが悪ふざけとなるのかはわからんな。それはともかく、お主はなかなか見込がある。私に仕えないか?できることを示せば、私の夫となってもよいぞ。幸いにして、無能な夫の下に付くという苦行からは逃れられたのだし、いまの私は自由に夫を選べる身となった。」
キキキッ!!
百合姫様の眼飛ばしがとっても怖いです。……本当にコリンヌ様は悪ふざけで遊んでいるんでしょうね。何だか本気モードの百合姫様、もとい、シャロ様が可哀相になってきた。
「ええと、コリンヌ様。それはそうと、このシャロ様は、どこの貴族家の御令嬢なんでしょう?」
エッ!!という沈黙の中の雰囲気が会場に漂った。
「フフフ。そうか、ナオキ殿は会ったことはなかったのだな。シャロ様、シャーロッテ様は、我がフルラン王国の第一王女様だ。」
「エッ!?」
今度絶句するのは自分の番であった。