辺境伯別邸にて 1
辺境伯廷の門は、夜であるので、装飾まではわからないが、たいへんに大きいようだ。大きな門番の背丈の数倍くらいの高さがある。さすが、2大候爵に並び立つ辺境伯。
このフルラン王国はパレ候爵、ボジョル候爵の2つの候爵とハスブル辺境伯の3つの大きな領地持ちの貴族が核となり王を支えている。王族の末裔である公爵家もあるが、領地の広さとしては男爵レベルの広さである。後継者の代には伯爵位へ、血の薄まる孫の代には領地相応の男爵位まで降ることが決定付けられている。もっとも、その後継者が、例えば宰相職や国境防衛戦で王国にとり有益な働きをすれば、公爵位は維持されるが、宰相職は2大候爵での輪番制的に入れ代わり、国境防衛はハスブル辺境伯が担っているので、過去に公爵位が維持された例はない。ただ、過去200年程前、本家筋の後継が途絶えたとき、一つの公爵家の跡取りから王を選出した。それが、いまの王家である。
正門を過ぎ、月明かりに照らされた庭園を通っていく。王都内にあるのにたいへんな敷地面積だ。もし、日本の東京だったら、何百億、いや何千億円という値段が土地だけでも付くかもしれないな、とぽやぽや考えるうちに本邸前に着いたようだ。
「お嬢様、行きますわ。」
ジェーンさんは復活しているようだ。でも、笑い発作?にお薬があるなら、早く飲んだほうがよいな。
コリンヌ嬢がジェーンさんに手を引かれ降りていく。自分(わしや僕よりも自分がよいな)もその後に続いて外に降り立った。
何十人、いや百を超えそうな使用人たちがずらりと馬車を取り囲んでいた。…圧巻な。半分以上は、屈強な騎士のように見える。さすが辺境伯、武の要。
一人の大柄な騎士がお嬢様に駆け寄り跪き、低頭する。
「ご報告します。道中に追跡者の形跡はありませんでした。」
「そう。それは何よりでした。」
それからまわりを見渡す。
「皆の者、出迎えありがとう。」
お嬢様からは上に立つ者の威厳を感じます。卒業パーティーで見せていた弱々さは微塵も感じられない。
「相棒を」
凛とした声のまま、聞き慣れない単語を発すお嬢様。
相棒?って?と思う間もなく別の大きな従者が宝剣を掲げてお嬢様の前に来た。
「ありがとう。」
そう言って、左手で無造作に鞘の部分を持って受けとられた。
「相棒が一緒だと安心するわね。さ、皆、招待はしてないも歓迎すべき方々が来る可能性が高いので、今宵の第2パーティーの準備を。」
「お嬢様、コリンヌ様から予め御達示がありましたので、メイン応接室の方に、いつ方々が来られてもよいように準備してございます。」
「それは重畳。」
それから、すぐにコリンヌ様は軽やかに館の中に入って行かれた。
…ん?軽やかに?…確か足を捻挫されていたのではなかったのか?