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プレイヤーの殺し方

「気づきましたか」

 目が覚めると、透き通るように白い肌に、長い黒髪の妖艶な女と目が合う。


「チュリップ?」

 ベッドから身体を起こし、辺りを見渡す。

「白の教会の病室……生き延びた」

 安堵し、何となくチュリップの綺麗な唇を見る。


「どうしました?」

 チュリップが可憐に微笑する。

 最高に可愛い姿だ! 思わず舞い上がる!


 チュリップはナイトメア・アブ・ブラッド30の最強NPCだ! あのクソッタレの側にいたローズと同じぐらい、二週目のクソ隠しダンジョン、神隠しダンジョンを攻略する上で重要な僧侶だ! 回復魔法、身体強化魔法など、あらゆるサポート魔法が使える! 神のレベルドレインや即死も防げる唯一の仲間だ! RTAだとローズ共々仲間にしないけど!

 だってローズ共々、ステータスは強いけど本当の力を引き出すのが難しいし、君たちを育てるくらいならバグで最下層まで降りた方が早いし!


「あの、どうしました? お腹が空きましたか?」

 チュリップが少し顔を傾ける。

 めっちゃ美人だがら見惚れる! 骨の髄までしゃぶしゃぶしたい!

「君に見とれてただけよ」

 頭がおかしくなる前に笑う。

「まぁ」

 クスクス笑うチュリップを横目に、何があったのか思い出す。


 あのカスから逃げた後、傷を癒すために足を引きずった。すると二週目から解放される白の教会があるエリアが見えた。

 白の教会はザークが贔屓するクソ教会だ。ザークが贔屓するだけあって、胸糞悪いことをやっているが、今の俺が逃げ込むには最適な場所だ。

 だから逃げ込んだ。そしてチュリップに助けてもらった。安心して気絶したのは情け無いが。そして目を覚ました今、この世界は夢じゃないって分かった!


「助けてくれてありがとう」

 ホッと一息つく。ベッドの上で力を抜くと欠伸が出る。相当疲れているようだ。シーツの感触が気持ちいい! ここがヤリ部屋じゃ無ければもっと良かった! くそったれ! 何で教会が売春をやらせてんだ! だからナイトメア・オブ・ブラッドシリーズは最低って言われんだ! そこが良いけど胸糞悪い!


「……ええと……どういたしまして」

 チュリップが目をパチパチさせる。

「どうした? まるでモーセが湖を割ったかのような、奇跡を見たかのような顔をして!」

「え! あの……お礼を言われたのは初めてでしたので」

 チュリップは頬を染めて、顔を背ける。可愛い!


「設定上、ザークはお前を犯しに、たびたびここに来ていたんだったな。設定資料集を見た時は絶望で眩暈がしたが、また味わうとは!」

 ムカついて顔に爪を立てる! いてぇ!


 チュリップの経歴は、一言で言うと悲惨だ。

 幼いころ父親に犯され、家を出る。

 逃げ込んだ町で盗賊団に囚われ、性奴隷として使われる。

 盗賊団が国軍に始末された後、白の教会に保護された。

 ところが白の教会は神の名を騙るインチキ団体だ。実態は教祖が私腹を肥やすだけの悪徳カルト団体だ。結果、お布施のちょろまかし、女性信者への性的暴行などが日常的に行われている。


 チュリップは現在、ザークや悪徳貴族の慰み者として、表向きはシスターとして、白の教会に居る。そして日々辛い目に合っている。


 チュリップほど不幸なキャラクターはこの世界でも居ない。

 同じく二週目で仲間にできるローズくらいだろうか。

 人によってはローズのほうが可哀そうと思うかもしれない。

 あの子は学校で虐められている。しかも並の虐めではない。ある意味チュリップよりも悲惨だ。家族にすらも虐められているのだから。


「どうしましたか?」

 チュリップは俺に顔を近づけると、真っ白く、細く、長い指で、体を愛撫する。


「溜まっておりますか?」

 唇が近づく。

「待ってくれ。とてつもなく嬉しいが、今の俺はザークじゃない」

「え?」

「だからもしもここでやり始めたら? クソ野郎ザークと可憐なる美女チュリップのNTR同人を見るようなもんだ! それはそれで興奮するが、それは二次元だけだね! 想像するだけでザークを殺したくなる! 俺の体なら良いが、クソ野郎にお前は渡さねえ!」

「あの、仰る意味が?」

「ちと混乱しているだけだ。それよりも飯を用意してくれ。熱々のシチューだ! お前の得意料理だろ!」

「はぁい……そうですが、どうして私の得意料理を? 私の料理は一度もお召しになられたことはないはずです?」

「気にするな! さあ行ってこい! 俺は考え事するから!」

「は、はい……随分疲れているようですね」

 チュリップは首を傾げながら、寝室を後にした。


「しかし、二週目のチュリップも居たか」

 チンチンチンとつま先で貧乏ゆすりして心を落ち着かせる。


「まさかこの世界、主役はあいつか! あいつが二週目の世界をやっているからチュリップたちと出会えるのか!」

 そう考えると、ザークに体を乗っ取られたことも合点がいく。

 ムカつく事に! 俺はあいつがプレイする二週目のゲーム世界に迷い込んだ! 俺はただの不純物! ゲームのバグのような物! 本来は存在しない意識!

「落ち着け! どこまでゲームかって感じだが。ステータスオープン!」

 混乱しまくる脳みそをフル活用する! 想像通りステータス画面が目の前に浮かぶ。

「ウワーオ! まるでVRだ!」

 コンソールを眺めてみる。

「アイテムボックス等にアンロックがかかっていやがる!」

 浮かぶ画面にタッチしてもほとんど反応が無い。本当にステータスしか確認できない!


「脇役のクソ馬鹿に憑依か」

 流石に落ち込む。

 このままだと俺はシナリオ通りザークとしてあの屑に殺される。

「ヤバいヤバい!」

 バシバシっと顔面に100発ビンタして喝を入れる!

「どんな状況でも俺は必ず勝つ! 何故なら俺は世界一だから!」

 気合いは入ったけど顔面と両手が真っ赤で痛いね!

「あとザーク君! 君の体を粗末に扱ってごめんよ! 必ず殺してやるから覚悟してね!」

 備え付けの鏡に殺害宣言すると、ようやく気が収まった。


「悲観的になるな。チュートリアル終了後、ザークの意識は引っ込んだ。勝てそうだった! だから冷静になれ!」

 深呼吸して、考えを整理する。




「最優先で考えることは、あのクソプレイヤーの殺し方だ」

 なぜここに来たのか、どこまでゲームなのか、色々と考えたいが、それは問題が解決した後で考えればいい。


 今はあのプレイヤーの殺し方を考えなくてはならない。そうしないと死ぬし、何より血圧で血管が切れる。

「ザークに体を乗っ取られる条件は何だ?」

 チュートリアルでザークの意識に体が乗っ取られた。そのせいで傷を負った。また同じことを繰り返したくない。


「考えられるのは、特定の条件下であいつが表に出て来る。つまり、イベント戦だ」

 プレイヤーは計5回、ザークとイベント戦を行う。

 この戦闘の時だけは、ザークに体を乗っ取られる。

 我ながら、いい考えだ。そう考えれば、チュートリアル終了後にザークの意識が引っ込んだのも説明が付く。


「つまりイベント戦以外なら、俺の力であいつと戦える!」

 光が見えてきた!

「次に考えることは、レベル差だ」

 先ほど戦って分かったが、ザークのレベルとプレイヤーのレベルには大きな差がある。

 RPGでこれは致命的なことだ。


「素早さは剣を振る速さや逃げ足に関係するのだろう。攻撃力は腕力、防御力は体の強さ」

 この世界でのレベル差はつまり、身体能力に大きな差があることを示す。先ほどあのクソプレイヤーと戦った情報を元に導き出した答えだ。


「まあ、レベル1でもレベル99999を殺せるのが、ナイトメア・オブ・ブラッドシリーズだが」

 ナイトメア・オブ・ブラッドシリーズには即死攻撃が必ず存在する。

 そして即死攻撃はどんなモンスターでも、NPCでも使える。もちろんザークだって使える。


「設定資料集だと、即死攻撃のイメージは、心臓や頭を貫かれた感じだ。どんなに強くても、心臓や脳みそがぶっ壊れれば死ぬ。剣で心臓を貫かれたら、最強のプレイヤーも死ぬ」

 剣で奴の心臓を貫く。勝ち筋が見えてきた。

「問題はプレイヤーの強固な体をどうやって貫くか。筋肉で刃先が止められたら心臓まで届かない」

 ここでステータス差、レベル差が立ちはだかる。

 もちろん俺には何の問題も無いが。


「防御力無視の剣が必要だな」

 防御力を無視してダメージを与えられる剣がある。それは盾や鎧の防御力を無視して敵にダメージを与える。あれなら心臓を貫ける。

「どうやって入手するか」

 考えていると、部屋の外から声が聞こえた。


「止めてください!」

「んだよ! ゲームのキャラが逆らうな!」

 あのクソプレイヤーの声だ! 許せないことにチュリップの悲鳴が聞こえる!


「何で出会っちまうのかね?」

 拳をゴキゴキ鳴らす。

「準備は何一つできていないが、俺のチュリップを泣かせるとはいい度胸だ!」

 扉を蹴飛ばし、礼拝堂へ走る!




「おいこらクソゴミ野郎! 殺してやるからチュリップを離せ!」

 礼拝堂の中央でチュリップの胸倉を掴むクソ野郎を睨む!

「ああ! ……ザーク? 何でここに居る?」

 クソはニタニタ笑いながら、チュリップを離す。

「チュリップ! 下がっていろ!」

「は、はい!」

 チュリップは声をかけると、部屋まで引っ込んでくれた。


「そういや、ザークはお前に憑依されてたな」

 余裕ぶって剣をひゅんひゅんと振り回す。やはり拙い手先だ。

「忘れてたのか? 頭の悪い奴だ」

 笑いながら近づく。煽りを忘れてはいけない。冷静になられたらこちらも危ない。

「頭の悪い煽りだな! 俺に勝てると思ってんのか! このクソ初心者が!」

 期待通りの反応! 顔が真っ赤だ!

「初心者はお前だよバーカ! ザークのスキルも覚えてねえなんてあり得ねえ!」

「俺はお前と違って社会人なんだ! ゲームにマジになってる暇ねえんだクソニート!」

「お前が社会人! ゲームも真面にできないのに! お前の会社はお前なんか雇って可哀そうだな! 物覚えが悪いから仕事もできないだろ!」

「クソが殺すぞてめえ!」

 クソ野郎は両手を広げて手招きする。

「来いよ! 先に攻撃して見ろ!」

 頬がピクピク引きつっている。殺したくて堪らないって感じだ。

 それなのに攻撃して来ない。何か狙いがあるようだ。


 それは鎧を見てすぐに分かった。

 状態異常無効の鎧。麻痺魔法(パラライズ)が効かないことを自慢したいのだろう。

 効かねえよバーカって言いたいのが目で分かる。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

 足を止めて、距離を確認する。

 5メートルほど離れている。これなら問題ない。


麻痺魔法(パラライズ)!」

 プレイヤーに魔法が直撃する。

「馬鹿が! 効かねえんだよカス!」

 プレイヤーは高笑いしながら剣を振り上げて、俺に突っ込む。

「馬鹿はお前だ。隙を突くならもっと距離を詰めておけ」

 剣をパリィではじく。力任せの攻撃なら素手でも楽勝だ。

「え!」

 奴の顔面が真っ青になる。

「パリィは物理攻撃を受け流す。ナイトメア・オブ・ブラッドシリーズの基本動作だ!」

 目に指を突っ込む!

「ぎぇええええええ!」

 この世の終わりのような悲鳴が響く。

「説明書をちゃんと読め!」

 指を曲げて、奥までねじ込む!

「いでぇえええ!」

 眼球を引きずり出す!

 二つの目玉が床に落ちた。


「ひぎゃぁああああああ!」

 血の涙を流しながら転げまわる。

「いい声で泣くじゃねえか」

 ステータス画面を出して、状況を確認して見る。

「プレイヤー情報! ナイトメア・オブ・ブラッド30のシステムじゃねえ。オンライン版のナイトメア・オブ・ブラッドオンラインのシステム画面だ」

 バグっているのか、プレイヤー情報画面はところどころ文字化けを起こしている。

 それでも名前は確認できた。

「カズヨシ君! 良い名前だ!」

 顔面を踏みつけて動きを止める。

「ここでゲームオーバー! もっと練習しろよ!」

 カズヨシが持っていた剣を拾い、首に突き刺す!

「い、いでええええ!」

 刃先が首で止まる。レベル差だ。だが体力ガージは少しずつ減っていく。それに合わせて刃先が首に食い込む。

「ややややめろ! 殺すな! 俺が悪かった!」

「雑魚が! 俺に喧嘩売って生きられると思うなよ!」

 あと少し! そこで突然、体が動かなくなる!


『ザークの意識が! なぜだ』

 再びザークに体を乗っ取られる! こんな時になぜ! これはイベント外だぞ!

「んん? 何で僕はこんなことをしているんだ?」

 ザークはカズヨシから離れて頭を傾げる。

「まあいい! この下賤な豚が! 僕に勝てると思ったか!」

 ザークは再度、剣を構えてふざけたことを言う。

 ザークの言葉にハッとする。


『ザークに敗北した時のイベントセリフ!』

 ザークに敗北する! その時特別なイベントが発生する!

「ひぃいいいい!」

 その隙にプレイヤー! カズヨシが逃げた!

 同時にザークの意識が引っ込む!


「ザークの体から出ないと殺せないのか!」

 俺は逃げ去るカズヨシの背中に舌打ちする。

 目が見えず、転びながら、柵に足をぶつけながら無様に逃げる。その姿を見届けるしかない。

「殺したい奴を殺せない! こんなにムカつくことがあるか!」

 対策を考えないと。

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