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オープニング

最初は説明が多いです

 俺の名前はレイ。モテやしないし、勉強もできない無職のアホだが、一つだけ取り柄がある。ナイトメア・オブ・ブラッドシリーズのRTAで世界一の走者ということだ。


 ナイトメア・オブ・ブラッドはナンバリングタイトルだけで30ある超長者ビッグシリーズだ。ジャンルはアクションRPGだが、外伝ではガンシューティングや恋愛シミュレーションに18禁ゲームなど迷走アンドクソゲーを乱発するシリーズだ。


 俺はどの作品のRTAでも最速の走者である。オンライン版では最強ギルド<ナイトメアブラッド>のマスターにして、最強のプレイヤーだ。


 RTAの記録は、クリアするタイムのみを競うA %、全イベントおよびアイテム取得および仲間全員を生存させてクリアするタイムを競う100%RTA、全キャラを殺害してクリアするタイムを競う虐殺RTA、全キャラレベル99999にしてクリアする苦行RTA、全キャラレベル1でクリアする貧弱RTA、モブキャラ含めて敵以外のキャラ全員を幸福にする神の試練RTA、他にも色々と、各シリーズで最低20個、シリーズでは計10000個の世界記録を持つ。


 ナイトメア・オブ・ブラッドシリーズの走者は世界に10万人前後居るらしい。つまり10万人の中で一番上手い男だ。大きい町で一番ナイトメア・オブ・ブラッドが上手いおっさんって訳だ。誇っていいだろ? 履歴書の特技と経歴に、20年やり込んでますと書いたら見事に不採用になったが。


「どうして俺はクソキャラのザークになってるんだ?」

 大通りに並ぶ店のガラスを鏡に愕然とする。

 ニキビだらけに二重あご、目は卑屈さを塗りたくったように濁っている。腹は出ていて、豪勢に金箔をまぶした洋服を汚している。俺の方がまだイケメンだ。目糞鼻糞を笑うと言われそうだが。


 とにかく、今の俺は最新作にして悪評万歳のナイトメア・オブ・ブラッド30のウザキャラにしてクソキャラ、プレイヤーのヘイトを集め、RTA走者の怨念を一身に受けるザークの姿だった。


 こいつがクソな理由を書き出すと聖書よりもページ数が必要だから端折るが、最低な気分だ。

 お前のおかげで何度記録がパーになったか。そんな見た目なのに優秀なAIやスキルを持つな。ランダム行動に何度運ゲーを強いられたか。優秀なスキル等は持ってもいいけど敵になるな。5回も立ちはだかるな。

 何より味方になれ。お前が味方なら理論上ラスボスの魔王と取り巻きも1ターンキル余裕だ。最も今はバグでそいつらと戦わずにエンディングだが。


「何でお前のイベントバトルは飛ばさないんだ! 魔王たちは飛ばせるのに! お前が居なけりゃ1時間切りが狙えるのに!」

 怒りで頭がおかしくなる。俺の手を持ってしても、こいつのせいでA %の1時間が切れない! 他シリーズは1時間を切っているのに! 100%クリアで未だに40時間が切れない! お前は俺にとって最強の敵だ! 普通に戦うとステータス差やレベル差でゴリ押せるから負ける事は無いけど、記録狙いには最強だ! YouTubeで配信してる時に毒づくと、一般プレイヤーから、「クソ雑魚」「才能ない」「口だけ」と煽りコメントやボイスチャットが飛んでくるのは全部お前のせいだ!


「落ち着け。これは夢か? 夢だな。前は主人公だった」

 夢と分かって安心する。両手両足を使ってナイトメア・オブブラッド30、ナイトメア・オブ・ブラッド29、ナイトメア・オブ・ブラッド1、ナイトメア・オブ・ブラッド2の4作品同時に100%クリアを目指すRTAをやっていたからだろう。4つの画面で臨場感マシマシだ。


「ザーク様? どういたしました?」

 背後から護衛兵士の一人が恐る恐ると口を開く。

「寝落ちで記録がパーだ。3秒更新して世界記録と自己記録を更新できたのに。40時間29秒を狙えたのに! 最低でも30時間! そこまでやったのは覚えている! 栄養失調か! そうだ! 点滴を忘れていた! オムツは忘れなかったのに!」

「は?」

「だいたい俺には寝てる時間なんてねえんだ! 他のプレイヤーが一秒差まで詰めてきてるんだ! だから4作品同時にRTAしたのに!」

「あの、おっしゃる意味が?」

「独り言だ。気にするな」

 兵士は首を傾げる。俺は無視して歩き出す。

「抜かれたら抜き返せば良い。30時間無駄になったらもう一度30時間やればいい。それだけだ」

 気持ちを切り替えて街並みを眺める。

 三人の兵士を連れて歩く。それだけでも楽しかった。




「しっっっっっかし! ナイトメア・オブ・ブラッド30は神クソゲーだな! クソゲーだと思うがグラフィックは最高だ! シナリオはいつも通り可愛い女の子も犯して殺せるクソシナリオだが! 毎度ながらよく据え置きで出せたな! 海外では発禁処分も受けてるのに!」

 リアルな街並みに小さくガッツポーズする。大好きゲームの夢を見る! 天国だ! おまけにクソッタレな世界観も再現している!

 

 綺麗な中世風の町だ。レンガの大通りに銀行や宿屋、武器屋道具屋、冒険者ギルドに商人ギルドが大きく並んでいる。目を凝らすと天に届くように高い真っ白な王城が彼方にある。耳を立てれば、路地裏から女の悲鳴と男の笑い声が聞こえる。


 表向きは綺麗な街並みだ。だが薄暗いところでは、盗賊団やマフィア、麻薬、売春、強姦、強盗、あらゆる犯罪行為が蔓延っている。


 エログロバイオレンス万歳のゲーム、それがナイトメア・オブ・ブラッドシリーズだ。


 仲間になるキャラクターのほとんどが暗い過去を抱えている。

 そいつらを生かすも殺すもプレイヤー次第。文字通りの意味だ。このゲームは仲間も殺害できる。CGこそ無いが、男女犯すことすらできる。子供すらも。モブキャラや王族も。

 すべてはプレイヤーの心次第。その自由度が気に入られ、30シリーズも出せているが、同時に犯罪者育成ゲームと国会や世論で非難されている。海外では実際に発禁指定されているところもある。


「まあ、俺は勝手に楽しむだけだが……ザークの姿でどう楽しむか?」

 街並みを眺めながら、どんなことをするか考える。


「せっかくだし、ザークで魔王を倒しに行くか? そうするか。でも仲間ができるのか? ……まあ俺なら何とかなるだろ! ナイトメア・オブ・ブラッドだけなら誰にも負けねえ!」 

 楽しくなってきた! 早速仲間に声をかけよう!


『ん? 体が? なんでそっちに行く?』

 冒険者ギルドで仲間を集めようと思ったのに、足は冒険者ギルドを通り過ぎる。そのまま真っすぐ大通りを進む。

「ひっひっひ! 下賤な豚どもが蠢いているな!」

 口が勝手に動く! この口調! ザークだ!


『どういうこった! ザークの人格が表に出てる!』

 さっきまでと勝手が違う! 俺は何もできない! ただザークの目線で、ザークの下種な言葉を聞くしかない! 背後霊か何か! こんな奴見守りたくない!

「そこのお前! 高貴な僕に汚らしい目を向けたな!」

 ザークが突然、浮浪者の老人に切りかかる!


『止めろ馬鹿クソ野郎! 俺の夢なら俺の言うことを聞け!』

 俺は様々なRTAをする都合上、世界中のNPCを殺しまわったこともある。だがそれはRTAという競技だからだ。普通ならやりたくない。俺はこの世界が好きだから。

 何より、初回プレイはヘイトを集めずに勇者英雄国王エンドを目指す! それが俺のプレイスタイル! なのに血祭とはふざけるな!


「止めろ豚野郎!」

 突然、ザークに大声を上げる正義感が現れる。

『あんなNPC居たか?』

 正義感の顔は、どのNPCキャラにも該当しない男だった。

「なんだお前は~」

 ザークは俺の疑問も構わずに睨みつける。


『これはチュートリアルのイベント戦か!』

 ナイトメア・オブ・ブラッド30のシナリオを思い出す。


 プレイヤーは気ままに旅する冒険者という設定だ。そして偶然、レッド国に立ち寄り、ザークの愚行を見つけたところから、物語が始まる。

『ザークの愚行を止めることで、町の人々に受け入れられ、そこから様々な冒険が始まる』

 落ち着くために独り言を呟く。

 もしもこれが本当にチュートリアルなら、ザークは舐めてかかる。


「この僕を誰だか知ってるのか~? ザーク様だ! 貴族だぞ! 偉いぞ! お前よりも偉いんだぞ!」

 チュートリアルの言葉そのままだ。そして舐めている。まあ、いきなり本気を出されたら、遊ぶ上で困るからな。

「その形で貴族か。豚小屋から逃げ出してきたのかと思ったぜ」


『プレイヤーキャラはこんな饒舌に返さないはずなのに?』

 本来は、「目障りだ」、のみだったはず。違和感が強い。


「この野郎! 僕の力を見せてやる!」

 とにかく、ザークが襲い掛かる。

「ざ~こ!」

 プレイヤーキャラが一瞬で返り討ちにする。予定調和だ。


『くっそいてえ! 夢なのにいてえ!』

 そして滅茶苦茶痛い! 腹から血が出てる! 出血描写は海外版限定だ! それにここまでリアルな傷口は描写されてないぞ! 切り付けられたところがめくれている!!

「いでぇええ! いでぇええよ! ママ~」

 ザークは腹を押さえて転げまわる。うるせえ俺のほうがいてえんだよ!


「ザーク様! すぐに治療を!」

 チュートリアル通り、兵士たちがザークを抱えて逃げ出す。

「この野郎~! 覚えておけ~」

 ザークは予定通りの捨て台詞を吐いた。


 そしてある程度離れたところで、突然体の自由が戻る。

「体が動く! ザークの意識が引っ込みやがった!」

 けだるさで足が重い。しかし、これこそ、体の自由が戻った証だ。

「ザーク様! 回復薬です!」

 広場のベンチで腰を下ろし、兵士たちが傷を治す間、考える。


「さっきのはイベント戦だからザークが出てきたのか? つまりここはゲームの中? 誰がプレイしている?」

 頭がこんがらがる。

 その時、兵士が悲鳴を上げる。


「逃がすかよ、ば~か!」

 プレイヤーキャラが追ってきた! 馬鹿な! まだチュートリアルは続いていて、ザークを追いかけることはできないはず! できたらRTAで1時間が切れるはず!


「ま、待て!」

「待つかば~か。死ねクソ雑魚。これから4回もお前の相手をしてられるか」

 こいつ! 未来を! シナリオを知っている!

「お前、未来を知っているなら、プレイヤーキャラか! 誰か中に入っているのか!」

「……は?」

 プレイヤーキャラが動きを止める。

「……お前、ザークに憑依しているのか?」

「そうだ! 話を聞いてくれ!」

 混乱する頭で助けを請う。

「ぷははははは! お前、クソ雑魚ザークに憑依しちまったのか!」

 プレイヤーは腹を抱えて笑い出す。


「そんな笑うな」

 気分が悪い。こいつの笑い方は耳障りだ。

「笑うって! ザークだぜザーク! そんなブサイクに憑依するとは! 普通ならアレックスだろ! 何で敵に憑依する!」

「そんなの知らねえよ!」

「くっそ笑えるぜwwwwwwwwwwwwwwwwww!」

 草生やすかクソ野郎。


「あ~笑った! じゃあ死ね」

 剣を振るう! 転がって避ける!

「あ? 避けるなよ」

「普通避けるだろ!」

 傷が痛む。兵士たちは全員プレイヤーキャラに切り殺された。市民はざまあみろと見て見ぬふり。助けてくれる奴は居ない。


「話し合おうぜ! 俺は何が起こってるのか分からねえ! だがいい機会だ! 俺とお前、ザークとプレイヤーキャラが手を組めばRTAで新記録が目指せる! 1時間が切れる!」

「何言ってんだお前は? だいたいてめえは敵だし、ザークになり切ってあのクソ爺を殺そうとしただろ? そんな奴信用できるか」

「最もな意見だ! 俺からもキツく注意しておくぜ!」

「意味わかんね死ね!」

 バックステップして距離を取る! 剣が空ぶると奴は舌打ちする。


「すばしっこいな。くそうぜえ!」

 剣をひゅんひゅんと振り回す。素人臭い手つきだ。かっこつけているが、剣に遊ばれている。


「話し合おう! 色々と訳の分からないことばかりだがとにかく! 俺とお前は奇妙な縁で出会った! 同じプレイヤー同士仲よくしよう!」

「同じじゃねえよ」

 切っ先を向けて下種に笑う。


「お前はクソ雑魚のカス野郎。俺は人間。どこが同じだ?」

 ブチリと頭の血管が切れる。

「お前の名前は? ぜひ聞かせてくれ」

「あ~聞きたい?」

「ぜひ聞きたい」

 奴は剣を大きく振りかぶり、にたにた笑う。

「教えるかば~か! メインメニューも開けない初心者が! 才能ねえよ! ゲオに売っちまえ!」

 そして勢い良く振り下ろす。


「ゲオるのはてめえだよ!」

 カウンターの拳を顔面に叩き込む!

「ぐ! い、いてえ!」

 屑は鼻っ柱を押さえて後ずさる。


「威力が足りねえ! この傷とザークのステータスじゃ無理なのか!」

 腹の傷を押さえる。これ以上は危険だ。

麻痺魔法(パラライズ)!」

 手をかざして呪文を唱える。ゲームと同じ動作だ。すると手のひらが熱くなり、その後光弾が発射され、クズ野郎に直撃する。咄嗟にやったが上手くいって良かった。

「な! 麻痺! きたねえぞこの卑怯者!」

 あいつは痺れて動けない。顔真っ赤にして怒鳴るだけ。

「うるせえ初心者が! ザークのスキルぐらい把握しておけ!」

 とにかく、重い足を動かして逃げる。


 逃げる途中、気になる女の子を目にする。

 真っ赤な長髪に幼い顔立ちに低い身長。魔術師の恰好が可愛らしい。

 歳は14歳で弱気な甘えん坊。

 世界最強にして神すらも殺せる魔術師ローズが、あの屑の傍に居た。


「二週目の隠しダンジョン専用キャラがなぜここに? それにチュートリアルをクリアしないと仲間にできないはずなのに?」

 疑問は深まるばかり。だが今は逃げるしかない。

「必ず殺す! やられたら十倍返しだ!」

 世界最強のRTAプレイヤーを舐めるなよ!

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