蓋
私はいつも蓋をする。
嫌なことには、問答無用で蓋。まぁ、要するに「臭いものに蓋」だ。
悪かったテストの点数に蓋、負の感情を持ったままの付き合いに蓋、面倒くさいことから逃げるために蓋をする。
いつから蓋をするようになったのかは覚えていない。それほど前からやっていたということだろう。だって面倒くさいし。嫌なことはしたくないのが普通だし。多分他の人だってやってるだろうし。
「ねぇー、遊びに行こうよー」
「いいねぇ、行こー」
人間関係を上手くいかせるために、蓋は必要だ。何かに目をそらさなきゃいけないことなんて、たくさんある。だから、蓋するのは「普通」なんだ。
「本当にあいつ嫌い!マジでムカつくんだけどー!ねぇそう思わない?」
この子はこう言うけど、あいつに私はいい印象しか持っていないけど、ここは面倒だから意見を会わせよう。ほらね、こうやって私は自分の感情に蓋をする。
「だよねー、私もあいつ嫌い!何様のつもりって感じー!」
私みたいな、こういう人の名前を私は知ってる。八方美人っていう不名誉な名前を。でも、私はその事実に蓋をする。自分の欠点を見たくないし、自己嫌悪だってしたくない。
「あー、あんたは話が分かって、ほんと最高ー。やっぱ愚痴れる人っていいよねー!ってかさ、話変わるけど、うちのクラスの男子で誰の顔が好き?私はー、何人かいるんだけどー今のお気に入りはねー」
ほらね、こうして蓋をすれば人間関係は上手くいく。クラス内の権力が強いキラキラ女子に取り入れたら、疎外されることなんか無いから。疎外されて、一人で居るよりも、内心嫌いでも誰かと一緒の方がいい。それが権力の強い人なら、なおさら。
だから私は蓋をする。見なかったふりをし続ける。心に出来た、ちょっとした傷を、何にでもないような物への違和感を、人との明らかな価値観の違いを―――。
いつか、目を反らし続けた罰をくらうのだろうか。いつか、八方美人だと大勢に罵られる時が来るのだろうか。いつか、私を一人にして、皆去ってしまうのだろうか。
いや、「皆」ってダレだ?
今まで取り入ってきた人達だろうか、それとも、全く関係無かった人達だろうか、それとも、本当に全員、私の前から居なくなってしまうのだろうか?
私はいつも不安定だ。その事実を認めたくない。いや、認めるべきじゃない。だから、今日も、この感情に「蓋」をしてやろう。