邂逅
遠い昔のことですが、この世界には魔導の力が溢れていました。人々はその力のおかげで生活や安全を手に入れてきました。
やがて強い力を持つ人間が人々を束ね、国になると。
争いが起こりました。
人の束と人の束がぶつかりあい、負けた国が滅ぶと勝った国が潤うのです。そして長い争いの中で魔導は更なる進化を遂げました。
強い魔法が使える人間たちを人々は魔導士と呼ぶようになりました。
魔導士たちが大国を治めると魔法による戦争は静かに終わりを告げました。
十二人の魔導士たちがこれ以上の争いをやめさせたのです。
それから何百年と経っても戦争は起きず、穏やかな歴史を築いたのです。
そう。
科学などという、力など現れるまでは。
***
魔導の力は個体差が存在したのだ。
それによって生まれつき力の弱いものは冷遇をされてきた時代がある、魔導は人間に平等ではない。だからこそ新しい人類は科学を求めたのだ。
科学は万人に平等だ。
どんな人間が扱っても素材や工程が同じなら同じ結果が出やすいのだから。
そうして新しい人類は魔導に対抗する科学を発展させた。
魔導を信ずる者と科学を求める者の戦いが始まった。
崩壊は瞬きのように早く。
魔導は廃れた。
魔導士一人の力は絶大だが。
一に対して何千という人々が束になれば魔導士など一人の人間に変わりなかったのだ。何千何万の無力な人間たちに武器を持たせて囲んでしまえば、魔力が消耗されやがて朽ちていく。
魔導士が危機に瀕した際に国民たちは何をしていたかというと。
これが滑稽で。
魔導士たち「いつも偉そうにしやがって!」と蔑み、そして「なぜ私たちを護ってくれない!」と罵倒した。
十二人の魔導士たちは科学に最期まで抵抗したが。
やがてそれも弱くなり。
完全に魔導が死んだのは黒の魔導士、最後の魔導士が死んだ頃だった。
我ら科学を扱う新人類が新たに国を束ねた。科学は平等だとも、そう平等だ。
魔導より万人に平等で!そしてなにより魔導よりも万能だ!
素晴らしい力だと思わないかね?
なに、あまりの素晴らしさ故に。
戦争が絶えないんだがねぇ。
***
大型モニターに表示されたデータを他人事のように眺めている。ため息を吐いて結果データを入力しているわけだが、これが苦痛でしかない。
そもそも失敗作を廃棄処分と決めるのはこちらの仕事だとして。なんで廃棄処理の書類までこちらが書かないといけないのか。
イライラする、こっちはほぼ寝ずに経過観察をしているのに。
「…はぁ。もういいかなこれで」
風呂にも入らなかったベタベタな頭を掻きながら書類を投げ捨てるようにトレーに入れた。これで処分は完了するだろう。
白衣を脱ぎ自室に戻ろう。
肩や腰が固まっていて、歩くたびに不快感がやってきた。眠気も酷く、緊張感から解放された意識を簡単に呑み込もうとする。
シャワーにでも入って一眠りして…
そんなことを考えながら沈む視界の中を歩いていく頃、時計の針は午前五時を指していた。