8話 走馬灯
きっと人はそれを『走馬灯』と呼ぶのだろう。
思い出すのはステラが生まれた頃。まだ、先王が健在でファーガルニ王国が平穏であった時代だ。
元気に泣き笑う娘をラーニャと夫は優しく見つめていた。その笑顔は何て愛らしいのだろう。まるで小さな太陽がここにあるようだ。
生活は決して裕福ではなかったが愛の溢れる時間が流れていたのは間違いない。しかし、至福の時間と言うのは瞬く間に終焉を迎えてしまう。
数年前、先王が亡くなり国は大きく乱れた。
王座を引き継いだのは愚息と呼ばれていた一人息子だった。
即位したバカ息子は自らの生活水準を引き上げるとともに他国に対して見栄を張りたかったことと重なって国民に対して圧政を敷くようになる。
他の貴族や官僚も保身にために国王に意見を述べる人はいなかった。
徐々に苦しくなっていく生活。それでも、ラーニャたちは他に比べればまだ質のある生活が送れていた。しかし、そんな彼女らもさらに地獄へ突き落された。
国内で満足いく供給が受けられないと判断した国王は騎士や民衆から男手を募り他国へ戦争を起こしたり、危険な地域へ行き貴重な薬草を採取したりして来いと勅令が出た。
この勅令にはラーニャの夫も含まれていて、彼は行った戦争で戦死した。
勿論ラーニャにもすぐに情報は入った。悲しかったし悔しかった。俯いた顔を上げることが出来なかった。
ラーニャの手に残ったのはたった一つの宝物。
父の死を知ればステラは途方もなく落ち込んでしまうとして、苦渋の策だったが、幼い娘の心に傷をつけるわけにはいかないとしてステラには喧嘩して離婚した、とだけ伝えてあった。
いつか必ず真実を言うことを胸に秘めて。
そして、
――これからは私がステラを守って行こう。
そう誓ったラーニャは前向きに強く生きることを決意して俯いた顔を上げた。
だからこそこの状況が悔しくてたまらない。
理不尽で殺される自分が……。
その理不尽を許している国が……。
でも、一つ安堵したことは最後まで自分は娘のために生きることが出来たことだった。
これからステラはどうなるのだろうか。
せめて、笑って暮らしていければ……。
きっともうすぐラーニャは銀色に光を反射する騎士剣によって体を引き裂かれる。
きっと次に発する言葉が末期の言葉になる。
何がいいのか。何を言うべきなのか。悩み悩み悩み、導き出した答えは一つ。
「ずっと愛しているかね、ステラ」
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まったくくだらない。
この国の騎士もそうだけど、あんたもだよ、ラーニャさん。
その解決方法で本当にいいのか?
なぜ、あんた等はその解決方法に等しく辿り着くんだ。
こっちの気持ちも知りもしないで……。
あ~あ、こんなことをすれば後でデュークに怒鳴られるけど、仕方がないよな。
もう、あの時のような光景が目の前で繰り広げられるなんて御免だから。
でも何より、家族が引き離されることはあったら行けないんだ。
俺は……。