17話 影
酒場から出た二人はファーガルニから出国するべく国境に向かっている。その姿を一匹の手のひらサイズの黒い魔獣が捉えている。
その四足歩行で大きな尻尾を持つ魔獣は二人に一瞥するとファーガルニ王城へと向かった。
王都のど真ん中に大きく存在するファーガルニ王城は外見こそシンプルな十字状の構造に見えるが内装は複雑なことこの上ない。
中身に精通した人物でなければ迷子になるのは確実だろう。そんな、複雑怪奇な王城内を魔獣は一片の迷いもなく進み続ける。
それぞれ――東西南北に広がる王城と、その真ん中に聳える白亜の建築物に彼はいる。
中央王城――たどり着いたのは特別分厚い扉がある部屋の前だった。魔獣は扉を開けることなく、実体が存在していなくてすり抜ける様に部屋内部に入っていく。
――簡素な作りの部屋の中にいたのは紫色の髪を肩まで伸ばしている二十代前半程度の中性的な男性だ。
「おや、帰ってきたのか……」
声もまた男性にしては少し高い。
魔獣は青年の足元に来ると頬に当たる部分を摺り寄せてくる。
「まったく、甘えん坊だな、それよりも情報をもらうぞ」
足元の魔獣を手で救い上げると額にくっつける。それによって魔獣の見た光景を自分の脳内に流し込んでいるのだ。
「――ふふ、……はは、……はははははは」
それはしばらく出していなかった感嘆の声だ。
「ようやくだ、ようやく釣れた! ネズミじゃなくてイノシシなのが残念だが、些細なことだ。ついに僕の前に現れたのか、この日をどれだけ待っていたのか、やっとだ、やっと。……僕の人生を壊した貴様達に復讐ができる! ギルバード・ボア!」
青年が叫んだ声は部屋内部では収まりきらずに延々と木霊し続けていく。