旦那様、アフタヌーンティーでございます。
この作品は、牧田紗矢乃さん主催、第四回・文章×絵企画の投稿作品となります。
また本作は、halさんのイラストを元に執筆しました。この場を借りて、御礼申し上げます。
halさん:https://5892.mitemin.net/
わたくし、執事の仕事は幅広い。主に、旦那様の代わりに使用人らを統括することになっている。それ以外にも旦那様への給仕や、家全体の酒類、食器類の管理、日々すべてを万全に、完璧に行うための監督を行う。すべては旦那様のために。
朝、日が出るよりも早く、日々の営みは始まる。一応、わたくしが登場するのは、それよりかは後となる。しかしながら旦那様が起きられる前に、万事順調に整えておかなければならない。新聞にはしっかりとアイロンを当て、一部の部屋以外のカーテンを外し、掃除を行い、何も問題がないようにしなければならない。
「おはよう」
「おはようございます、旦那様」
旦那様が起きる時間、午前7時半にわたくしはきっかりにカーテンを開ける。それを合図にして、旦那様はお起きになられる。
「今日は何かあったかな」
ベッドの中から起きられる旦那様を、わたくしは介添えし、ゆっくりと立たせる。このところめっきりと足腰が弱られたものの、いまだに壮健であられる。
「本日は午前11時に、遠く日本より伯爵が来られる予定です。午後1時には庭師が60歳を迎えるのでそのお祝いを。午後3時からはアメリカから財閥のご家族の方が来られます」
「そうか、ならそれまでに体裁を整えねばな」
服を着替えさせてくれ、と旦那様が言われると、わたくしは昼用の服を用意した。
午前11時の日本からの客人は、付き人1人とともにやってきた。彼は1000年を超える家系を持つ当主で、その歴史の重みは旦那様もよくご存じであるだろう。わたくしは、そのお話を傍らで伺いつつ、さまざまなことを同時にしていく立場にある。これらが一段落すると、軽食をとり、すぐに庭師の退職記念パーティーが始まる。一応は使用人の内輪のパーティーであるが、そこに旦那様が来られるという形で、お祝いを二言三言おっしゃっていただくこととなった。
そのうえで、午後2時に差し掛かるころには、わたくしはアフタヌーンティーの準備をしていた。本来は旦那様の奥様がご準備なされるのが作法ではあるものの、倒れられて幾久しく、旦那様が代わりに主催をなさるということになっていた。財閥のご家族は、両親とお子様が来られると伺っていた。さらに言えば、お子様のご年齢は、7歳の娘もいるという。ということもあり、必要な飾りつけをしてみることとした。
アフタヌーンティーは、2階にある大きな出窓がある部屋だ。空からは少しばかりある雲からの光がさんさんと降り注ぎ、一面がまるで光の畑のように、ぬくもりが感じられる。そこに出窓には赤色と白色のバラ、そして、スイカズラの実を2、3あしらう。赤色のバラは美しさや美貌、白色のバラは深い尊敬や清純、スイカズラには献身的な愛という意味がある。全て歓迎の意を表したものだ。あとは出迎えるだけだ。さあ皆様、アフタヌーンティーでございます、とわたくしがサーブする紅茶を、皆様の歓談の種としていただく。これ以上の幸せはないだろう。わたくしがしているのを少しばかり想像しているが、主催者たる旦那様が行われることだろう。もっとも、いつの日か、することもあるだろうが。それを思いつつ、わたくしは準備を進めた。旦那様のために。そして来られるお客様の方々の為に。