東京ITブラック 無人島サバイバル
東京のブラックIT企業に務める主人公が仲間達との海外旅行で事故に遭う。
流れ着いた先は無人島。過酷な環境の中、仲間達と日本へ帰る方法を模索する。
サバイバル系ボーイズラブコメです。前半は淡々としていますが、仲間が増えると賑やかになってきます。仲間が増えるたびに文明レベルが向上して色々なことができるようになります。
眩しい、喉が乾いた。
目を開くと、雲一つない青い空に太陽が輝いていた。波の音が聞こえる。俺は砂浜に倒れているようだ。
ホシノ「どうしてこんな所にいるんだ?」
思考に靄がかかっている。とりあえず、首に付いている黄色い浮き輪を外す。
立ち上がり周囲を確認する。辺りに人はいない。あるのは海と砂と森、それと5階建てのビルほどの高さの崖だ。
それにしても喉が渇いた。喉の奥が張り付いている。
浜辺に沿いに立ち並ぶヤシの木を見る。南国チックな光景だ。少し離れたところにヤシの実が落ちていた。
ヤシの実を手にとって数十分。その辺の石を使って、やっとヤシの実に穴を開けることができた。
中身を飲んでみる。メロンの皮の部分を絞ったような味がした。枯れた喉が潤おい思考か生き返るようだ。
人心地がついたところで現状を考えてみる。俺は確か、海外へ旅行することになって、飛行機に乗り……飛行が海上へ着陸しようとして――失敗。
飛行機は水面に衝突してバラバラになる。俺は嵐の海に投げ出された。そこから記憶が曖昧だ。俺が生きているのは首に付けていた救命胴衣のおかげかもしれない。
そういえば、一緒だった友人3人はどうなったのだろう?
周囲に人の気配はない。西側はビルのようなっ崖がそびえ立っていて、その下は岩礁地帯になっている。北は森。東は浜辺が続いている。
とりあえず浜辺を歩いてみる。俺のように誰かが打ち上げられているかもしれない。
三十分ほど歩いた気がする。途中で背の低いやしの木を見つけた。あれなら棒か何かで実を取ることができるだろう。
歩きながら飲んでいたヤシの実は空になってしまった。そういえば内側は食べられるんだったか?ヤシの実を割って白い部分を食べてみる。スイカの種を誤って噛んでしまったような味がした。食べられないことは無い。油分が多くてカロリーは高そうだ。
食料問題は解決。しかし、ここまで歩いてきて人の気配は全くなかった。文明的なものも一切ない。漂流物は海藻と流木だけだ。
どうしたものかと思案しながら歩いていると川を見つけた。川幅3メートルほどで、大きな岩の合間を綺麗な水が流れている。山で遭難した時は川沿いを下っていけば人里にたどり着くのだったか?川沿いだけは森がひらけている。ここからなら森に入れそうだ。
森をしばらく歩いくが、相変わらず人の気配はない。それどころか、森は深さを増していく。聞きなれない。鳥や虫の鳴き声。見たことのない植物。
BGMはすっかりジャングルだ。なんだか落ち着かない気持ちになる。
突然、ガサリと森から物音が聞こえた。体を強張らせて、音がした場所を見つめ続ける。もしかしたら、熊や狼のような大きな獣がいるかもしれない。背中に冷たい汗が流れた。茂みを横目に来た道を引き返すことにする。
人里が近くにあると思っていて楽観していた。どうするべきか考えなければ。
西にある崖に登れば、この辺り一帯を見渡せるかもしれない。
遠目で見た感じでは、崖沿いの海は岩礁になっていて登れる場所はなさそうだ。崖沿いの森に入るしかないか。川沿いに比べると日当たりが悪くて薄暗い。正直怖い。
適当な大きさの木の棒を手に持つと少しだけ勇気が湧いた。茂みをかき分けならが森を歩く。俺が音を立てて進んでいるためか、動物の気配が消えて森は静かだ。
しばらく進むが、崖を登れそうな場所はない。ただ、森の入り口よりも崖が低くなってきている。
気がつくと日が大きく傾いていた。森の中で夜を迎えたくはないので慌てて引き返す。
浜辺に戻る頃には夕暮れになっていた。沈んでいく夕日。空も海も赤く染まって綺麗だ。おもむろに腹が鳴った。ヤシの実でも食べるか。
ヤシの実を食べ終わる頃には、すっかり夜になった。砂浜は月明かりに照らされて白く見えるが、森は真っ暗だ。
そういえば寝る場所を考えていない。今日、目覚めたのが砂浜だから、寝るのも砂浜でいいか。寝るにはまだ早い気がするが、砂の上に大の字になる。
星空が綺麗だ。ずっと空を見ていたいが、首を回して森を見つめる。木々の闇から何かが出て来そうで......
それにしても、今日は疲れた。みんなは今頃どうしているのだろう。両親や兄弟は飛行機事故を知っているのだろうか。救助はいつ来るのだろう。
波の音を聞いているうちに瞼が重くなっていく。
体が重い。
目がさめると、体が砂に埋もれていた。夜は思ったよりも冷え込む。体に砂をかけて寒さをしのいだから、腹の上には砂山ができている。
あらかじめ穴を掘って砂をかけやすくすればよかった。
砂を払いのけて立ち上がる。潮風のせいか喉がカラカラだ。
昨日と同じようにヤシの実を食べて腹を満たす。今のところは三食ヤシの実だけで問題ないが、他の食べ物が欲しい。
熱々のチーズがとろけるピザとキンキンに冷えたしゅわしゅわコーラ。いやいや、現実的に考えて魚介類と木の実くらいしか手に入らないだろう。
今日は崖下の岩礁から崖上に登れそうなところを探そう。ついでにホタテや牡蠣などの食べ物が見つかるかもしれない。
岩礁沿いを西へ歩いて1時間くらい。
見つけた魚介類はカラフルな小魚とウミウシ。それとイボ付きナマコ。食指が伸びない面子しかいない。だが、崖を登れそうな所を一箇所発見した。
階段状になった岩の層が岩礁から崖上まで続いている。
遠目では階段のように見えた崖は、近づいて見ると思いの外大きかった。一段が1メートル前後だろうか。手をつけばよじ登れるから問題はないか。
そう思ったが、三段登ったあたりから足がすくみはじめた。まだ二階建てのベランダくらいの高さなのに。柵が無いだけで恐怖を感じる。
崖を一段登るたびに手足に力が入らなくり、息が苦しくなる。まだ引き返せる。いや、登り切らねば。
崖を一段登るたびに後悔する。風は無いのに体が揺れる。船の上に立っているようだ。
死ぬ思いで何とか崖を登りきった。崖の上は足場が広い。
数時間ぶりに立ち上がり景色をみる。海と陸を隔てるように崖あり、陸の中心はくぼんでいて森に覆われている。見る限りここは半島、もしくは孤島だ。
俺の2.0の視力で島の隅々を確認する。人口物は無い。目新しいものも無い。海側は水平線しか見えない。何度も島全体を見返す。海を見返す。何も無い。
頭が空っぽになった。考えても何もまとまらずに消えてゆく。
そんな状態でいつの間にか浜辺に戻っていた。ただ一つ理解できたのは、ここの辺りには人が住んでいる痕跡は無い。
この日も夜は砂に埋まって眠った。
三日目。
今日は浜辺にSOSを書くことにした。大きめの石を集めて、白色と黒色の石を交互に並べる。
昨晩色々と考えたけど、救出を待つしか無いと思う。
一日かけてSOSの文字を作った。
食事はヤシの実でなんとかなるが、食べる量が増えてきた気がする。
四日目。
浜辺で水平線を一日中眺めていた。他にできることは無い。
五日目。
浜辺で水平線を一日中眺めていた。何も変化は無い。
六日目。
何も変化は無い。ただ焦燥感がまして行く。このまま誰も助けに来ないのでは?
生きている実感が薄れていくのに反して、死が近いものに感じ始めた。
七日目。
耳に指を突っ込んだら砂の塊が入っていた。通りで現実感が薄かったわけだ。目から鱗ならぬ耳から砂といったところか。
気分転換に川で水浴びをすることにした。素っ裸になって衣服も洗う。ベタベタパリパリの体がさらさらになってゆく。気持ちいい。どうせまた砂の上に寝るわけだが。
服が乾くまで裸ですごす。砂浜を素足で歩くと火傷しそうなほど熱かった。
波打ち際へ走る。しかしなんだろう。裸で広い空間をぶらぶらする開放感は。
ホシノ「ぶ〜ら〜ぶら〜ソーセージー♪」歌って踊ってみる。全身で陽射しと風を浴びて、俺は自然の一部なった!
ミサト「ホシノさんは元気そうね」いつの間にかすぐ後ろにミサトさんが立っていた。
ミサト ケーキ(箕郷 佳樹) 会社の同期で、俺の数少ない東京の友人一人。見た目は華奢な女の子だが、いろいろと頼りになるグループのリーダ的な存在だ。
ホシノ「ミサトさん!無事だったんですね!」俺は両手を広げてミサトさんに抱きつく。つもりだったが、股間へ蹴りを食らって膝をつく。
ホシノ「ぐっは!何をするんですか!?」
ミサト「ごめん。痴漢だと思ってつい」
同じ男なのに、平然と金的を使ってくるとは、箕郷 佳樹恐ろしい子。
ホシノ「それより何時から後ろに居たんですか?全然気づきませんでした」
ミサト「ホシノさんが海に向かって歌い出したあたりからね。原住民かと思って慎重に近づいたのよ」
ミサト「それにしも元気そうね。ホシノさんも一人なの?」
ホシノ「はい、一人です。ミサトさんの方こそ島暮らしに適応していそうですね」ミサトさんは植物の蔓で作られた帽子やカゴを装備している。
ミサト「そうかしら?歌って踊れる遭難者ほどではないと思うわよ」
ミサト「ノギさんとヤマモトさんは今頃どうしているのかしら」
ホシノ「二人とも無事だといいのですが」
ミサト「きっと二人一緒なのでしょうね。過酷な環境で男同士の行き過ぎた友情が発展して、うふふ」
ミサトさんはいつも通り、ノギさんとヤマさんをカップリングしているようだ。
ホシノ「はあ、とりあえずミサトさんに会えて安心しました。一人きりだと気が狂いそうです」
ミサト「そうね。ホシノさんはこの一週間、どこで暮らしていたの?」
ホシノ「このあたりですよ。あそこ、砂を掘った形跡のあるとこです」
ミサト「ずいぶん陸側のようだけど、潮干狩りでもしていたの?」
ホシノ「いえいえ、そこで寝ているんです」
ミサト「......は?」
ホシノ「ミサトさんは何処で暮らしているんですか?」
ミサト「私は、ここから東にある崖下の洞窟に住んでいるのだけれど。食べ物は何を食べていたの?」
ホシノ「ヤシの実オンリーです。中の白い部分がなかなか腹持ちします」
ミサト「......帰ろ」ミサトさんは東へ向かって歩き出した。
ホシノ「え?ちょっと待ってください。どこへ行くんですか?」
ミサト「ホシノさんは浜で、私は洞窟でくらそう。別に生きよう。会いに来ないでヤシの実でも食べてて」
ホシノ「いやいや。一緒に暮らしましょうよ!ひとりぼっちはさびしいもんな」
ミサト「はぁ、ホシノさんのような野生児と一緒に暮らしていける自信がない」
なぜかミサトさんに嫌われている!?裸で抱きつこうとしたのがまずかったのか?
ホシノ「俺が裸なのは川で水浴びをしたからです。服も洗って清潔ですから」
ミサト「清潔なのは良いことね。私も水浴びをしようかな」
ホシノ「服は俺が洗っておきますよ」ミサトさんは服を脱ぎ、川で水浴びを始めた。
ミサトさんの裸体は陽の光を浴びて白く輝いている。そういえば以前一緒に露天の温泉に行った時。小学生高学年くらいの男の子がミサトさんの体をガン見していたっけ。
ミサトさんは華奢で色白で、女性にしかみえない外見だからな。見惚れてしまう。俺と同じ男なのにどうしてこんなに違うのだろう。いかんいかん。俺も川に入ってミサトさんの服を洗う。
ミサト「気持ちよかった。服ありがとう」俺とミサトさんの服は近場の木に干しておいた。
ホシノ「えっと、俺はついて行っていいんですか?」
ミサト「ふふ、さっきのは冗談よ。だってホシノさんが原始人以下の暮らしをしているのだもの」
ミサトさんはカゴから取り出したココナッツを、細長い石で手早く穴を開けて一服した。
ホシノ「はあ、ミサトさんはどんな暮らしをしているんですか?」
ミサト「私の拠点に来ればわかるよ」
浜辺を東へ一時間ほど歩くと、ミサトさんの住んでいる洞窟があった。
ミサト「この辺りは常に潮風が吹くから、虫や動物が寄り付かないみたい」
ホシノ「なんか、色々と道具がありますね」
藁を編んだ敷物やロープのようなもがある。他にも棒や石が整然と並んでいる。
ホシノ「これ、かまどですよね?。火を使えるんですか?」洞窟の入り口には石をコの字に積んだ竃があった。
ミサト「ええ、使えるわ。私の靴はホシノさんみたいに紐履じゃないから苦労したのよ」ミサトさんの足元を見る。ダイヤル式の最新シューズだ。紐類は島にあるもので作ったのか。
ホシノ「そういえば糸車みたいなので火起こしができるんでしたね」
ホシノ「魚でも取れたなら火を使うことも考えたんですけどね」
ミサト「私は調理よりも狼煙をあげることが必要だと思ったの」
ホシノ「なるほど。でも、救助が来る気配がありませんね」
ミサト「島に着いて1日目にヘリが飛んでいたのは知っている?」
ホシノ「まじっすか?全然気付きませんでした」
ミサト「ヘリは何度か島を周っていたようだけど、見つけてはもらえなかったわ」早い段階で狼煙を上げられていたのなら救助されていたかもしれないのか。
ミサト「日が暮れてしまいそうだから、そろそろ夕飯の準備をしましょう。ホシノさんは薪を集めてきてくれるからしら?」
ホシノ「了解です。燃えそうなものを集めて来ますね」
籠を背負って森へ入ったが、燃えそうなものは落ちていない。近場の薪はミサトさんが拾い尽くしたのだろう。
森で迷わないように海岸が見える範囲内で薪を集める。
ミサト「おかえり。ちょうど焼き始めたところよ」洞窟に戻るころには夕方になっていた。
ホシノ「串焼きですか。でもこれ何ですか?」低木樹の生木の枝にいろいろと刺したり挟んである。貝のようなものや、ヒラヒラとした何か。
ミサト「ナマコとフジツボ。だと思う。後は貝類」
ホシノ「フジツボって食べられるんですか?といか、中身こんなだったんですね」
ミサト「私の地元ではフジツボを食べるよ?これ焼けたから食べてみて」
ミサトさんから渡された串の先には貝のような物体が刺さっている。
ホシノ「ちょっとグロテスクですがいい匂いですね。いただきます」割って食べてみるとカニのような味だった。食感はふにゃふにゃで微妙だ。
ホシノ「うまい!こっちのひらひらのはナマコですか?」ナマコも食べてみた。こちらは食感が良い。味も悪く無い。
ミサト「美味しいでしょ?ヤシの実だけで生活をしていたのだから、沢山食べたほうがいいわよ」
串焼きをたらふく食べた。ナマコは沢山取れる上に調理もしやすいようだ。
夕食が終わる頃にはすっかり夜になっていた。洞窟の壁に二つの影が揺れている。
ホシノ「洞窟内で焚き火をしても煙くならいもんなんですね」
ミサト「そうね。ここは広いし、適度に風が流れるからかしら」
手頃な石に腰掛けて、二人で焚き火を囲む。
ミサト「一息ついたところで今後の方針を決めめましょ」
ミサト「ホシノさんは現状をどう捉えているのかしら?」
ホシノ「無人島に遭難している。救助は期待できない。というところですか?」
ミサト「そうね。森を見る限る人の手が入った痕跡がないし、漂着物も自然のものばかりだから無人島かもしれない」
ミサト「救助が何故来ないのかはわからないけれど、期待しないほうがよさそうね」
ホシノ「どうしましょうか?船でも作りますか?」
ミサト「うーん。ヨットが欲しいところね。この島を調べるためにも」
ミサト「なにより、私たちが日本へ帰るには、筏で航路まで行って拾ってもらうしかないと思うの」
ホシノ「航路ですか。一日中海を見て居ましたが船らしいものは確認できませんでした」
ミサト「私も毎日確認していたのだけれど、島の南側には航路は無いかもしれない」
ホシノ「なるほど、他の方角なら航路があるかもってことですか」
ミサト「頻度の問題はかもしれない。航路探しは持久戦になりそうね」
ホシノ「食料は何とかなりそうですし、気長にやっていきますか」
ミサト「気長にね......私の見立てだと食料は二ヶ月以内に尽きる。もっと早いかもしれない」
ホシノ「まじっすか?ナマコならあちこちで見かけますが?」
ミサト「問題なのはヤシの実なの。現状、私たちはココナッツで水分とビタミンを摂取している状態だから」
ホシノ「確かにヤシの木は浜辺沿いにしか生えていませんね。水分は川の水など、他で代用できませんか?」
ミサト「水を沸騰させるための道具があれば飲めるでしょうけど。ビタミンを摂取する方法が他にないのよ」
ホシノ「鍋と野菜が必要なんですね。森に食べられそうな物はありませんでしたか?」
ミサト「私は植物の形状や匂いで、ある程度種類を識別できるのだけれど。人が食べられる植物は見つからなかったわ」
ホシノ「タイムリミットがあるってことですか。なら計画的に動かないとですね」
ミサト「そうね。まずはこの島の調査をしたいところね。危険だけど崖を登って島の全景をみたいわ」
ホシノ「崖なら登りましたよ。島を囲むように崖があって」
ホシノ「崖はアルファベットのUを逆さにしたような形で島を囲んでいました」
ミサト「登れるところがあったんだ。もっと詳しく島の様子を教えて」
ホシノ「そうですね。島の中央は森で埋め尽くされている感じで、建物とか人工物は見当たりませんでした」
ホシノ「北側の崖は山のようになだらかになっていました。普通に歩いて登れそうです」
ミサト「なるほどね、島の大きさはどのくらいだと思う?」
ホシノ「島の大きさは......縦長で。横幅の倍以上、北側に続いています」
ミサト「そっかぁ。島の北側に行ってみたいのだけど大変そうね」
ホシノ「当面は北側以外の航路探しをしますか?こちら側に航路が見つかればいいだけですし」
ミサト「そうね。筏を作りながら、海を監視しましょ」
今後の方針が決まった。俺は西と南海の監視、それと蔓などのロープや帆の材料集めをする。ミサトさんとは東の海の監視と道具の作成をする。
ミサト「そろそろ眠くなってきちゃった」ミサトさんは筵でできた寝具の上に横になった。
筵の下には藁のようなものが敷き詰められて居てふかふかしている。
ホシノ「あの、俺はどこに寝ればいいですか?」
ミサト「うん?何処に寝てもかまわないよ」俺は試しに岩肌に横になる。痛い。体と地面が接する部分が痛い。
ホシノ「めっちゃ寝心地が悪いんですが」
ミサト「そうね。私はこの島で最初にしたのは寝床の確保と寝具の作成だもの」
ホシノ「そういえばミサトさんは睡眠量が多いですよね。俺なんか寝るのがもったいなくていつも夜更かしですが」
ミサト「休息は大事なことよ。疲れがたまると能率が下がるもの」ミサトさんはおもむろに立ち上がりズボンを脱ぎだした。
すらりと伸びた白い脚が、焚き火に照らされて艶めく。
ミサト「ホシノさんも脱いで」
ホシノ「ええっ?はい!ぬぎまう」俺は慌てて衣服を脱ぎ去る。全裸待機だ。
ミサト「......パンツは履いてね。藁を半分分けてあげるから、その上にスボンを敷いてね。藁に直に寝るとチクチクするから」
そう言ってミサトさんは藁で寝床を作ってくれた。
ホシノ「いいんですか?足が冷えませんか?」
ミサト「このズボンは寝心地が悪いからいつも夜は脱いでいるの」
ミサト「もうすぐ火が消えると思うからトイレは今のうちにね。おやすみ」
ホシノ「ハイ、オヤスミナサイ」
悶々とした気分でしばらく眠れなかったが、明かりと共に興奮も消えていった。
こうしてミサトさんと二人での生活が始まった。
8日目の朝。
香ばしい匂いで目が覚めた。
ホシノ「おはようございます。早いですね」
ミサト「おはよ、朝ごはんができているわよ」ミサトさんはナマコの串焼きを作ってくれていた。二人で竃を囲む。
会話を楽しみながらの朝食。キャンプ気分だ。
ミサト「今日はロープを作るための蔓を取って来てもらえるかしら?それと定期的に海を見て、船が通っているか確認ね」
ホシノ「了解です。ロープが沢山必要なんですね」
ミサト「うん、筏を作るにはロープが必要だからね」
ホシノ「てことは、丸太も必要になりますね。斧はありますか?」
ミサト「斧は無いから作らないとだわ。ちょうどよさそうな石を見つけたら拾っておいてね」
ホシノ「了解です。じゃあ行って来ます。カゴがいっぱいになったら戻りますね」
浜辺を西へ歩く。森で蔓や藁の採取をしつつ定期的に浜辺へ戻り海の監視をしなければならない。島の西側は崖で囲まれているので、森からだと西の海を見ることができず効率は悪い。
それでも太陽が真上になる頃には籠が重くなっていた。
拠点に戻ると俺用の寝具が完成していた。
ミサト「大量ね。このぶんだと今日でロープの材料は揃うかな」
ホシノ「ちょっと頑張りすぎました。布団ありがとうございます」
ミサト「もうすぐ昼食ができるからしばらく休んでいてね」俺は藁と筵の布団にねころがる。
ふかふかとまではいかないが、岩に比べれば上等だ。少しウトウトしていると香ばしい磯の香りが漂って来た。
ホシノ「おっ、魚ですね。どうやって取ったんですか?」手のひらサイズの魚の串焼きが四つ焼かれていた。
ミサト「潮溜まりがあってそこで取ったの。潮の満ち引きを計算できれば良いのだけど」
ホシノ「なるほど、干潮時なら魚が取れるわけですね」俺は串焼きを一本取って食らいつく。
ホシノ「うまいです。魚料理は好きじゃないんですけど、これはうまいです」
ミサト「何の魚かはわからないけど、癖のない白身魚ね」
ホシノ「そういえば、毎回食事はミサトさんが作ってくれてますね。今日の夕食は俺が作りますよ」
ミサト「そうね。手伝ってもらおうかしら」
昼食後も午前と同じ作業を繰り返す。森と拠点を行ったり来たり。
ホシノ「ちょっと早いですが、夕飯の支度をしませんか」
ミサト「まずは、薪と串のじゅんびね」
茂みで低木樹の枝を取り、枝先を海水で洗う。岩礁で貝を拾って枝にぶっ刺す。
ホシノ「ナマコはどうやってさばくんですか?」
ミサトさんは石のナイフでナマコの両端を切って内臓を引っ張り出した。ナマコの内臓は茶色でうねうねしている。
ミサト「こんな感じだけど?」
ホシノ「......ぐろいっす」
ミサト「そうね。ホシノさんを魚をさばいたことないのでしょ?」
ホシノ「はい。ないです。料理をしないことはないんですけどね」
ミサト「以前、一緒に昼食へ行った時に、ホシノさんはサンマを内臓を丸ごと食べてたから」
ホシノ「料理漫画でサンマは内臓が一番おいしいって書いてあったので」
ミサト「あれは胃と肝臓を食べるのよ。胃は鱗を避けで食べるの」
ホシノ「そうだったんですか?めちゃくちゃ苦かったです」
話しながらナマコを捌いてみるが、石のナイフでは全然切れない。
ミサト「刃物は斜めに押すか引くかしてつかうのよ。それに石だから切れ味にムラがあるの」
何とかナマコを一匹捌き終える。俺一人で料理をしたら、グロテスクな丸焼きが完成しただろうな。
ナマコを短冊状に切りそろえて枝に刺す。
ミサト「次は火おこしね。左手で軸を抑えて右手で弓を押し引きして使うの」
弓矢のような火おこし機を渡された。試しに使ってみるが、火がつく様子はない。
ミサト「全力で回さないとダメよ。火種ができるまで回し続けて」
ホシノ「了解です。うおおおおおおお」五分くらい回し続けた。
焦げ臭い匂いがするのに火種は作れない。
ミサトさんに代わってもらうと、すぐに火を起こしてくれた。
ホシノ「まじっすか、コツがあるんですか?」
ミサト「うーんどうかな。軸は少し斜めに抑えた方がいいかな」
ミサトさんに料理?をならいつつ、夕食が完成した。焚き火を囲んで二人で食事をする。
ホシノ「美味いっす。ただ毎食串焼きとヤシの実だと飽きてきそうですね」
ミサト「そうね。せめて薬味でもあればいいのだけれど」食べ物の話をあれこれしながら夜が更けてゆく。
ホシノ「そろそろ寝る時間ですね。明日はどうしましょうか?」
ミサト「紐の材料は十分だから。丸太作りかな」
ミサト「斧を作っておいたから、拳くらいの太さの木を切ってきてもらえるかしら」
ホシノ「了解です。なんだかトイクラみたいですね。ちょっと楽しくなってきました」
ミサト「ハードモードだけれどね……おやすみ」
トイクラはPCのサバイバルゲームだ。ハードモードはプレイヤーが死亡すると復活できない。つまりリセットの効かない一度きりの人生。
慎重にプレイしていても、ちょっとした油断で餓死、転落死、モンスター襲われる危険がある。
拠点から離れれば食料を確保できる保証はない。森深くには危険な動物がいるかもしれない。
9日目。
ホシノ「クズ龍斬!」森の中で俺は斧で細い木を滅多打ちにする。
朝から森で丸太作りをはじめた。斧で枝を落として切り倒すの繰り返し。2時間ほど続けているが疲労が半端ない。丸太作りがこんなに大変だとは思わなかった。
ホシノ「天翔るホシノ閃き」狙いが定まらないから樹皮を削るだけに終わる。
ミサト「やっているわね。斧の使い心地はどうかしら?」ミサトさんがやってきた。手には形が違う石斧が二つ。
ホシノ「一本切り倒すのにかなりの時間と労力が必要です」
ミサト「石の刃だからかしら?重さや長さの違うのも作ったから使ってみて」
新しい斧を使ってみる。
ホシノ「柄の長い斧が使いやすい気がします。狙いを定めやすいので」
ミサト「了解。手頃な石があればまた作るね」
ミサト「私も使ってみよう」
ミサトさんの斧は流れるようなフォームで木の一点を連打する。
ミサト「......全然切れない。それに手が痛い」
ホシノ「切るというか叩いて削る感じですね」
スポーツではパワーファイターのミサトさんだが、こうゆう力仕事は体格がものをいうのだろう。
ミサト「長時間続けると手の皮がむけちゃうかも。午後は一緒に紐作りをしましょ」
ホシノ「そうですね。一日中やるには体力的に厳しそうです」
午後は拠点の洞窟で紐作り。紐は用途に合わせていくつか種類があるようだ。蔓から繊維を取り出してロープ状にしたものから、干した草を縒っただけの簡易的な物まである。
俺は荒縄作りをまかされた。
ホシノ「そういえば、衣服って作れないんですか?」
変えの服がないと、洗濯の際に裸で過ごすことになる。それはそれでかまわないが。
ミサト「難しいわね。羊毛か棉でもあればよいのだけれど」
ミサト「今ある素材だとチクチクして着心地が悪いと思うの」
ホシノ「なるほど......話は変わりますが、なんでズボンをはかないんですか?」拠点にいる際、ミサトさんは肌着でいるから、なんとなく目がいってしまう。
ミサト「湿気っちゃって気持ちわるいの。ホシノさんだって自分の家では下着でいるじゃない?」
ホシノ「そうですけど、ミサトさんは肌を露出しないイメージがあったので」
ミサトさんは温泉ではふつうに裸だったが、海では服を着たまま泳いでいた。
ミサト「ホシノさんはいつも楽しそうね」みんなで海で遊んだことを思い出してにやけてしまった。
ホシノ「みんなといる時はいつも楽しいです」
ミサト「楽しい旅行になるはずだったのにね」なんとなく、ミサトさんから疲れや焦りを感じた。
ホシノ「俺はこうしてミサトさんと一緒に居られるだけで楽しいですよ。こんな状況ですけど、楽しんでいきましょう」
ミサトさんは頷いてみせたが、いつもの強烈な覇気は感じられない。
一週間もサバイバルをしているから無理もないか。
次の日。
何か夢を見て居た気がする。
夏季休暇で実家に帰省した夢だったような。しばらくぼんやりとしていたが、雨音で目が覚めた。
ミサト「おはよ。今日は雨だから朝食はココナッツですませましょ」ミサトさんもまだ寝具で寝転がって居た。
ホシノ「この島に来て初めての雨ですね。どおりで寒いわけです」
ミサト「昼になれば気温が上がると思うから、それから食べ物を取りに行きましょ」
正午を過ぎの時間になっても雨は止まず、気温もたいしてあがらなかった。
ホシノ「雨が止む気配はありませんね」
ミサト「雨季でなければ良いのだけど」ミサトさんは藁の布団で胎児のように丸くなっている。
ホシノ「寒いんですか?火をおこしましょうか?」
ミサト「ううん、平気。薪はしばらく手に入らないだろうから節約しないと」薪を洞窟内にもっと備蓄しておくべきだったか。
ギュルル。おもむろに腹が鳴った。ココナッツは数日分蓄えてある。
ホシノ「雨が止むまではココナッツで我慢ですね」
この日は何をするでもなく、一日中洞窟でごろごろして過ごした。
次の日も雨だった。
魚介の味を知ってしまうと三食ココナッツでは味気ない。
ホシノ「栄養が足らない気がします。ひとっ走りナマコでも取って来ましょうか?」
ミサト「いってっらっしゃい。濡れるから服は脱いだ方がいいかもね」
俺は素っ裸になって洞窟の入り口に向かう。
ホシノ「やっぱ無理っす。寒いです」プールの入り口にある塩素シャワーの前で立ちすくむ感じだ。
ミサト「体を冷やすと体力を消費するから、食べ物があるうちはじっとしていましょ」
ホシノ「そうですね。アイスを食べると摂取したカロリーより熱で消費するカロリーが多いって聞きますからね」
ミサト「それはないと思うけれど、風邪を惹くと大変だから」そういえばミサトさんは風邪で休むことが年に二、三回あったような。俺はここ数年、風邪を引いた覚えはない。
ホシノ「暇です......藁縄作りでもします」昨日までは疲れがたまっていたから一日中休んでいられたが、今日は体がうずうずして暴れたい気分だ。
ホシノ「縄跳びでもしませんか?」縄の材料がなくなってやる事がなくなってしまった。
ミサト「......」返事はない。ただのしかばねのようだ。
ミサトさんは今日も一日中寝て過ごすのか。
仕方ない、俺も大人しくしているか。洞窟の壁を見ながら物思いに耽る。両親のこと、会社のこと。飛行機までは一緒だった二人の友人のこと。
ミサトさんに視線を移す。今日も藁の毛布に丸まって寝ている。筵の毛布は硬くてやや小さく、隙間から白い脚が見える。
寒いからか昨日よりも小さく丸まっているような気がする。
さらに次の日も雨だった。
洞窟の隅に転がるココナッツは今日の分くらいか残っていない。
ホシノ「食料を補充しないとまずそうですね」
ミサト「なるべく省エネですごしましょ」ミサトさんは相変わらず丸くなって寝転がっている。
ホシノ「今日も気温が上がりませんね」正午をすぎても肌寒い。
ホシノ「原始人は雨の日をどうやって過ごしたのでしょうか?」
ミサト「動物と同じじゃないかしら?雨宿りをして消耗を抑えいたのじゃない?」
食料が残っているなら、雨の日は動かないのが一番なのだろうか。
ホシノ「なら動物に倣って省エネですごしますか」
俺は自分が使っていた毛布をミサトさんに掛けて、そこに潜りこんだ。
ミサトさんを背中から抱きしめて密着する。柔らかくて温かい。人の温もり。
ホシノ「くっついて寒さをしのぎましょう」
ミサト「確かに温かいけれど、暑苦しい......」ミサトさんは俺に抱きしめられても動かずにじっとしている。
嫌なことはすぐに行動で示す人だから、多分嫌がってはいないはず?
ミサトさんの手を握ると冷んやりしていた。
ホシノ「冷えてますね。もっと早くこうするべきでした」体全体を密着させてミサトさんの白い脚を触る。
しっとりしていて手に吸い付く、それでいてすべすべしている。
ホシノ「前から気になっていましたが、ミサトさんって脚の毛を剃っているんですか?」
ミサト「腿には毛がはえないの、それとそっちのけもないからね」
ホシノ「女性みたいですね。えっと、そっちのけってなんですか?」
ミサト「ノンケ、つまり同性愛者ではないということよ」
ホシノ「今までそのあたりを触れませんでしたけど、ふつうに女性が好きなんですね」
ミサト「うーん、どちらかというと性愛に興味が無いのかも」
ホシノ「男同士の恋愛は好きなのに?」
ミサト「それとこれとは別の話かな。禁忌とか普通と違うことって興味をそそられるでしょ?」
ホシノ「なるほど、でも、もったいないですね。こんなに綺麗なのに」ミサトさんの身体を撫でまわす。お腹も胸も柔らかい。
ミサト「ホシノさんは女性が好きなのでしょ?特に二次元の幼女が」
ホシノ「いえ、俺は。二次元に対しては純粋な心で見ていますよ。性別とかじゃなくて、可愛いものが好きというか」
ミサト「可愛ければ男でもいいの?」
ホシノ「俺は男に興味ないですよ。でも、女性には気が引けちゃうというか......」
ミサト「ホシノさんは男兄弟の中で粗野に育っていそうだものね。男友達が何時泊まりに来ても快く迎えてくれるのは良いことだと思うよ」
ホシノ「そういや、ミサトさんは家に泊めてくれませんよね。何でですか?」
ミサト「落ち着かないから。私はひとりっ子だし、部屋で一人過ごすのが普通だったからかな」
ホシノ「今は毎日俺と一緒ですね」俺はミサトさんの後頭部におでこをくっつける。
森林浴のような匂い、それと果実のような匂いがした。
ホシノ「ミサトさんは何か、森の匂いがします。リンゴ狩りに行った時を思い出します」
ミサト「ホシノさんは獣くさい」俺がミサトさんに臭いと言われるのはよくあることだ。
普段はやられてばかりの俺だが、仕返しにうなじを舐める。ペロリ。にが!めっちゃ苦い。ゴーヤよりも苦い。
そういえば虫除けの薬を作って体に塗っていたような。
いたずら心が萎えてしまって、俺も寝ることにする。
しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
ホシノ「全然眠れません」小さくつぶやいてみたが、反応はない。
外へ出られないストレスのせいか、体がうずうずする。
体全体をミサトさんにおしつけては、柔らかさを楽しむ。抑えきれない欲望が思考を奪っていく。
ホシノ「ぐっは!」横腹に肘打ちをくらった。
ミサトさんはしなやかに立ち上がり、服を脱ぎ始めた。
ミサト「ホシノさんも脱いで」
ホシノ「はい!脱ぎます!」俺は素早く立ち上がり、超高速で全裸になる。
少し遅れてミサトさんも一糸まとわぬ姿になった。同じ男なのに、白くて華奢でしなやかな身体だ。洞窟の薄暗さと相成って、淫靡で背徳的な雰囲気だ。
ミサト「食料を取りにき行きましょ。私はココナッツを取ってくるから、ホシノさんは串焼きの準備をして」
ホシノ「はい?ええっ?わかりました......」
雨の中、洞窟を出て行くミサトさんを追いかけて行く。寒いけど、それ以上に体が熱を持っている。
串用の枝を集めに行こうとしていたら、ミサトさんが砂浜で手招きをしていた。
ミサト「そのまえに。溜まったものを出おきましょ」
ホシノ「なんですか?へっ⁈」
ミサトさんが急接近してきたと思ったら、俺は大の字で倒れていた。大外刈り?なぜ?
俺が放心して天を仰いでいると、ミサトさんは俺の両足を掴んで、足で急所を攻撃する関節技?をしてきた。
ホシノ「なにをするんですか!?ぐあああああああ!」
俺が精魂尽き果てると、ミサトさんは技を解いてくれた。
ミサト「あまり私の手を煩わせないでちょうだい」
ホシノ「使ったのは足ですけどね......すんません」なんだか嬉しいような悲しいような。満足感と喪失感が入り混じった複雑な気分だ。
そのあと、二人で貝の串焼きを山ほど食べて、体が乾くまで焚き火で温まった。
夜になる頃には薪が尽きてしまった。
ホシノ「一緒に寝ますか?」
ミサト「暑苦しいから嫌、おやすみ」
ホシノ「はい......おやすみなさい」
ミサトさんとはいつも通りだ。お互い大らかな性格だから拗れることはないだろう。
今日は久々の労働でよく眠れそうだ。
14日目
ミサトさんの咳き込む音が洞窟に響いた。雨音は止んだが、今日も肌寒いようだ。
ホシノ「大丈夫ですか?」
ミサト「うーん。なんだか熱っぽいかな」昨日、雨の中で行動したせいか。少し責任を感じる。
ホシノ「今日は休んでいてください。俺は薪を拾ってきます」
朝食を軽く済ませて森へ行く。雨上がりの濃い緑の匂いがした。薪は湿っていて干さないと使えなさそうだ。となると、火を使えるのは夕食からか。
黙々と作業をする。ミサトさんには滋養のつくものを食べさせてあげたい。
鳥の囀りが聞こえる。けれど、何処に居るかはわからない。鳥を捕まえるのは厳しいか。
長細い木の枝を折って、枝先を尖らせた。これを銛にすれば魚をとれるかもしれない。
服を脱いで海へ入る。海は青く透きとおっていて、穏やかにキラキラ揺れている。
浅瀬には小さい魚しかいない。深い場所ならどうだろう。潜水して、水の中で目を開けてみる。
目がしみる!全然見えない!視界はレーシックを受ける前の、視力が低かった頃のようだ。それに、木の棒の浮力でうまく潜れない。
泳ぎには自信があったのだが、銛で魚を取るのは無理そうだ。
色々と模索したが、陸へ戻り、砂浜に倒れこむ。体が重い。水中で動き回ると疲労が激しい。
ミサト「こんなところで寝ていると、熱中症になるわよ」いつの間にかミサトさんが隣に座っていた。
ホシノ「海へ入っていたので体を乾かしています。ミサトさんは調子どうですか?」
ミサト「体を冷やさなければ平気だと思う。海で何をしていたの?」
ホシノ「魚を取れないかと思ったんですが無理でした。水中ではゴーグルが必要なようです」
ホシノ「子供の頃、プールでなら水中でも目が見えた気がしたんですけどね」
ミサト「確か、大人になると水晶体が硬くなって水中でピントが合わなくなるのだったかしら」
ホシノ「大人になると色々と失われていくんですね......子供のままで居たいです」
ミサト「ホシノさんはショタ好きだものね」確かに俺のアバターはいつも少年キャラだが。
ホシノ「なんか語弊があります。俺は少年の心を忘れてないだけですよ」
ホシノ「子供の頃は早く大人になりたいと思っていたんですけどね」
ミサト「ふふ、人は自分にないものや失ったものを求めるものなのよ」つまり俺は自分が大人だと自覚しているってことなのか。
ホシノ「ミサトさんが普通でないものや禁忌を求めるのも、自分に無いからですか?」
ミサト「私の場合は、そうね。ルールに縛られて、それに従うことしかできないことへの現れかしら」
ホシノ「俺から見たミサトさんは、自由で普通でない人ですけどね」見た目は女の子だけど実は男で、色々な謎スキルを持っている。
ミサト「あらあら、ホシノさんの方こそ尋常では無い精神の持ち主よ」
ミサト「切迫した現状を楽しんでいるし、砂に潜って夜を明かしちゃうし」
ホシノ「俺は友達と一緒ならなんでも楽しいです。砂を布団代わりにするのは気持ち良いですよ」
俺が砂の上で寝転がったまま伸びをすると、ミサトさんも同じよう砂に寝そべった。
ミサト「あたたかい」
二人でのんびりと時間を過ごしていると、俺の腹が時間を知らせた。
ミサト「そろそろ、お昼にしましょ」
昼食後は森で木こりをすることにした。石斧を振り回すのはけっこう楽しい。
ホシノ「大木切り!あちょっ!ちょっ!ちょっ」俺は斧で手頃な木をめった打にした。
急に手応えが軽くなったと思ったら、斧が壊れて刃が無くなっていた。
拠点に予備の斧はあるが、手に馴染んでいた物だったから残念だ。せめて外れた刃の部分だけでも探してみよう。周囲の藪や落ち葉をかき分ける。
今まで使っていた刃は見つからなかったが、代わりになりそうな石を見つけた。
石を削り、適当な棒を探し、紐で巻き付けて斧を作る。試行錯誤の末、三時間ほどで斧が完成した。
ホシノ「ホシノストラッシュ!」新しい斧で細い枝をスパスパと叩き切る。
見た目は斧というより鉈っぽいが切れ味は良い。藪を薙ぎ払うのにも使える。この斧はスターハチェットと名付けよう。
なかなか良いものを作れた。おかげで丸太作りが捗る。
夕飯は俺が準備した。いつもの貝類の串焼きだ。
火おこしだけは自力でできなかったのでミサトさんにやってもらった。もっと練習しておこう。
二人で焚き火を囲んで夕食にする。
ミサト「今日はだいぶ頑張っていたようね。私は筏の設計をしていたわ」ミサトさんが指差した洞窟の壁に白い線がいくつか見える。
ホシノ「なるほど、細い丸太を三本括って一つにするんですね。作るのには時間がかかりそうですか?」
ミサト「大きさは縦が5メートル横が1メートルくらい。材料があれば三日もかからないと思う。ただ、どのくらい浮力があるのか計算できないわ」
ホシノ「材料は細い丸太約60本ですか、それくらいなら数日で調達できそうですね。とりあえず作ってみましょう」
ミサト「そうね、作ってみないとね。イメージは二人乗りの小型ヨットなのだけど、うまく動いてくれるといいな」
ミサト「ここには書いていないのだけど、マストは折りたためないから抜き刺しして使うの」
ミサト「それとオールを二本作るわ。浅瀬を動くための長い棒も二本」
ホシノ「補助輪みたいのも付いていて色々と考えられていますね」筏の見下ろし図は漢字の『車』を90度回転したような形状をしている。
ホシノ「そういえば、何故陸路で北を目指さないんですか?航路を見つけてから筏を作ってもいいのでは?」
ミサト「それはね。いずれにしろ筏を作る必要があることと、森が安全でないからよ」
ホシノ「海の方が危険な気がしますが?」
ミサト「航海は避けられないことだから、練習も兼ねて移動に使うの」筏で航路まで行って船を待ち構えるには技術が必要ということか。
ミサト「森にはどんな生物がいるかわからないから深くへ入りたくないわ」
ホシノ「確かに。熊や毒蛇がいたら怖いですね」
ミサト「あと、夜の森は真っ暗だけど、海なら月明かりの下で移動できるわ」そういえば夜でも浜辺は明るかった。
ミサト「筏は樹液や蔓で出来る限り補強するつもりだけれど、壊れてしまったら泳いで陸へ戻りましょ」
どのみち危険を伴わないと先へは進めないか。
ホシノ「了解です!良い船を作りましょう!」
それから一週間かけて筏を作った。
天候に恵まれたおかげで作業は順調に進み、ミサトさんの体調も回復した。
21日目明朝。
今日は完成した筏の浸水式をする。余った丸太をころにして筏を陸から海へ押し出す。
ホシノ「結構おもいですね。うおおおお!」なんとか筏を海へ押し出す。これだけで一苦労だ。
自作の筏は海に浮かんで揺れている。
ミサト「小型に設計したのだけど、二人で海へ押し出すには力がいるわね」
ホシノ「砂の上だと踏ん張りが効かないです。今思い出しましたが、ロープでひっぱた方が体重を乗せやすいらしいですよ」
ミサト「そっかぁ、そこは後で改良しましょ。私から乗ってみるね」
ミサトさんが筏に足を掛けてゆっくりと乗船した。ロープで繋いだ丸太がグラグラと揺れる。
ミサト「私が前に移動したら星野さんも乗ってね」続いて俺も筏に足を掛ける。
俺が筏に両足を乗せると、筏は少し沈んで甲板に水が浸みてきた。
ホシノ「床上浸水してますね......」海に囲まれた甲板で寝転がりたかったが無理そうだ。
ミサト「船の形になっていないと浸水しちゃうわね。木の浮力だけではこの程度かしら」
ホシノ「足が濡れるのはいいですけど、腰掛けが欲しいですね」
ミサト「そこも改良しましょ。沖へ出てマストの効果も見たいわ」
棒て海底を突いて筏をすすめてみる。ベニスのゴンドラのようにはスムーズにいかない。
ミサト「ある程度の深さまできたらオールを使った方が良さそうね」二人でオールを一本ずつ手にとり海を撫でる。
二人三脚のように息を合わせないといけないと思ったが、案外まっすぐ進んでくれる。
沖までくると風が強くなってきた。ミサトさんがマストをロープで固定した。
ミサト「良い風ね。ここからは風の力で移動してみましょ」筏は風を背にして南へ進む。
ホシノ「追い風なら速度がでますね」筏はオールで漕ぐ数倍の速度が出ている。
ミサト「今度は進路を北にしたいから、オールを使って時計回りに旋回しましょ」
船首を北へ向けると、ミサトさんはマストの角度を再度調整した。
ホシノ「お?向かい風なのに若干前に進んでいるような気がします」
ミサト「揚力を使っているの。でも、ヨットのように速度はでないわね」
ホシノ「妖力?妖怪の力ですか?やはりミサトさんは雪女」
ミサト「飛行機が浮かぶ原理のほうの揚力よ。まだそのネタが続くのね」
以前、みんなで旅行をした際にスキー場で遭難したことがある。
吹雪のせいで髪の毛が真っ白にコーティングされたミサトさんは雪女にしか見えなかった。
ホシノ「ミサトさんは雪山は得意なのに、水の寒さにには弱いですね」
ミサト「防寒着があれば寒さはなんとかなるものよ。海ならウエットスーツが欲しいわね」
そういえば、ミサトさんだけスキーウエアを持参して防水も自分でやっていたな。
ホシノ「無人島に何か一つ持って行けるなら何が良いと思いますか?片手で持てる範囲で」
ミサト「衛星電話がいいわね」救助を呼ぶならそれがベストか。
ホシノ「なら無人島で1年暮らさないといけないなら何にしますか?」
ミサト「うーん、難しいわね。ライターが便利だけど、道具作りにナイフも欲しいし」
ホシノ「俺ならミサトさんにします」俺の真剣な眼差しに、ミサトさんは目線を少し下げた。
押してダメなら引いてみろとは言うが、俺は駆け引きとかしたくない。だからちょっとずつ押し続ける。
ミサト「あらあら、寂しがりやさんね。私を片手で持てるくらい鍛えないとだわ」
ホシノ「こんな事になるなら鍛えておけばよかったです」力こぶを作ってみせる。
ミサト「ふふ、世紀末を生き残るにはマッチョにならないとね」
筏に乗ってのんびりと時間を過ごす。風は涼しいが、太陽が高くなると暑くなってきた。
ホシノ「なんだかうなじあたりが熱でチリチリします」
ミサト「ホシノさんの分も帽子が必要そうね。そろそろ、陸に戻りましょ」
筏を陸へ向けてオールを漕ぎ、陸まで近づいたら筏を押しあげる。
拠点へ戻ると俺はココナッツジュースをがぶ飲みした。
ホシノ「沖へ出ると楽ですが、そこまでが大変ですね」
ミサト「そうね。筏を海に停泊できればいいのだけれど」
丸太を紐で繋いだだけの筏では耐久性が低い。海に浮かべておいたら数日でバラバラになってしまうだろう。
ホシノ「でもまあ、良い感じでした。明日は筏を改修しますか?」
ミサト「うん、改善点は引っ張るためのロープと腰掛け、それと帽子しかしら」
ホシノ「思いついたんですけど、マストに色をつけられませんか?船に見つけてもらいやすくするために」
ミサト「良い考えね。赤い花の汁を使えば目立つかも」
次の日は船の改修作業と北への移住計画をした。洞窟で夕飯を食べながら明日の話をする。
ホシノ「道具は全て持っていくんですね。ここへはもう戻りませんか?」
ミサト「戻らない予定だけれど、北で飲み物を確保できない場合は定期的にこちらへ戻らないといけないわ」島の北で航路を探すのだから当然か。
ホシノ「カゴいっぱいにココナッツを積んで、筏が沈まないか心配です」
ミサト「昨日よりも浸水するでしょうね。移動速度に影響しなければいいのだけれど」
明日、天候が良ければ北へ出発する。
慣れない航海への不安はある。だが、新天地を見るのが楽しみだ。
23日目朝。
筏を沖まで漕いで、マストを調整後に一息いれることにした。改修で設置した腰掛けに二人で並んで座る。
ミサト「今日も良い風が吹いているわね」ミサトさんの髪が靡く。
ホシノ「気持ちが良い天気ですね。ベットでも作って寝転がれるようにしたかったです」
ミサト「ふふ、良いわね。でも、寝返りを打ったら海に落ちちゃうわ」筏はゆっくりだが着実に北へ進んでいる。
改めて島を見る。島の周りは断崖絶壁に囲まれていて周囲は岩礁になっている。今のところ上陸できそうな場所は見つからない。
ホシノ「砂浜って以外と少ないんですね。海沿いはほとんど砂浜かと思っていました」
ミサト「そうね。この島は岩礁で囲まれているようね」
出だしは順調だったが、日が西へ傾き始めると風が止んでしまった。
ホシノ「どうも沖の方へ流されている気がします。オールで漕ぎますか?」
ミサト「島からあまり離れたくはないのだけれど、もう少し様子を見ましょ」
ホシノ「了解。それにしても風がないと暑いですね」額から汗が垂れる。
すでにココナッツを二つ消費してしまった。上陸しなければちゃんとした食事を作ることができない。
その後も風は吹かず。オールを漕いでは休憩をしてを繰り返した。
ホシノ「暗くなってきましたが、風が吹いてきましたね」夜風はやや肌寒い。
ミサト「雲がなくて良かった。月明かりで十分動けるわ」筏は風に乗りスイスイと進んで行く。
夜の海を数時間進んだところで、島影にぼんやり白い砂浜が見えた。
ホシノ「あそこ、島が白っぽくなってるところは砂浜じゃないですか?」
ミサト「確かに明るい感じがするわね。島に近づけましょ」二人で力一杯オールを漕ぐ。ラストスパートだ。
砂浜に上陸して船を引き上げる。陸の方は森になっているようだが暗くてみえない。
ホシノ「疲れましたね」ミサトさんを見ると筏に腰掛けて船を漕いでいた。
ホシノ「寝るなら砂の上のほうが気持ち良いですよ」砂を適度に掘って、ミサトさんをそこへ寝かした。
ミサトさんに砂をかけてあげてから、俺も同じように砂に潜る。
星空を眺める余裕もなく、俺は眠りについた。
24日目。
日の出とともに目が覚めた。今日も良い天気のようだ。
砂の上で寝心地は良かったが、空腹と喉の渇きで気持ちが悪い。
ミサト「おはよ。まさか砂に潜って夜を明かすなんて思わなかったわ」
ホシノ「以外と良いものでしょう?にしても腹が空きました」
ミサト「ココナッツならいくらでも食べていいわよ。沢山手に入るのだから」
二人でヤシの実を食べる。改めてあたりを見渡すと、ここの浜辺にもヤシの木が生えていた。
夜は気づかなかったが、森が所々隆起していて、奥が山になっている。
ホシノ「太陽の位置から察するに、ここは島の北側みたいですね」
ミサト「島の北東あたりかしら。人工物は見当たらないから、やっぱり無人島のようね」
ホシノ「山が見える以外は今までいた場所とにたような景色ですね」
ミサト「拠点になりそうな場所を探しましょ。できれば洞窟があればいいのだけれど」
まずは東の崖沿いを探索することになった。この島の岩礁沿いは高い崖がそり立っていて、その崖下には横穴がいくつかある。
ホシノ「ここの洞窟なんてどうですか?やや狭いですが」
ミサト「そうね。浜から近いし、ここが良いかもね」
新しい拠点が決まった。洞窟を掃除し、新しい拠点へ荷物を運んだ。
ミサト「夕方まで薪拾いがてら森の調査をしてくるね」
ホシノ「はい、なら俺は川を探しに浜沿いを西へあるいてみます。それと航路があるか海を見ておきます」
浜沿いを歩く。探索するのは島に着いた初日を思い出す。あの時は本当に辛かった。
今はミサトさんがいるし、探索が楽しい。
拠点から早歩きで三十分ほどの場所に川を発見した。川幅は狭いが水浴びはできそうだ。川を飛び越えてさらに西へ歩く。
一時間ほど歩いたところで浜の終わりが見えた。この島は浜以外の外縁が崖に囲まれているようだ。
おや?北西の海を見ると微かに島のような影が見える。目を凝らしてじっと眺めてみた。雲ではないし、蜃気楼でもないと思う。
もう少し近づいて確かめたいが、そろそろ戻らないと暗くなる。帰ってミサトさんに報告しよう。
拠点に戻るとミサトさんが既に食事の準備を終えていた。相変わらず仕事が早い。貝類とナマコの串焼き。こちらでも貝類は沢山とれるようだ。
食事をしながら探索の報告をする。
ミサト「島?そっかぁ、もしかしたらそこは人が住んでいるかも」
ホシノ「だと良いのですが、かなり離れているように見えました」
ミサト「これを見て」ミサトさんが隅に置かれたカゴを指差す。
ホシノ「あれ?これってヤシの実ではないですね?なんですか?」ココナッツよりやや小ぶりな果物が数種類ある。
ミサト「パパイヤとパンの実だと思う」ミサトさんは緑色で丸い実を取り出して焚き火へ放り込んだ。
もう一つの実は石のナイフで半分にカットして、片方をこちらへ渡してくれた。
ミサト「こっちはパパイヤ。ちょっと水っぽい味ね」俺も食べてみる。
ホシノ「ココナッツもそうでけど、南国の果物ってなんか青臭いような独特な後味ですね。思ったより美味しくないです」
ミサト「たぶん、土や日当たりがよくないのかも。邪魔な木を切って日当たりをよくすれば甘くなるかも」
次はパンの実を食べてみる。皮を剥くと焼き芋のような匂いがした。
ホシノ「おお!パンっぽい!フカフカした焼き芋って感じですね。うまいです」
ミサト「久々の炭水化物ね。もっと焼きましょ」二人でパンの実をあるだけ食べた。
ミサト「明日の分にと取っておいたのだけど、食べつくしてしまったわね」
ホシノ「明日も食べたいです。パンの実は沢山取れそうですか?」
ミサト「ええ。二人で一年中食べてもなくならないくらい手に入るわ」
ホシノ「まじっすか!やった!ここで一生住んでも良いです!」
ミサト「飲み物も山が近いから安全な湧き水が手に入るかも」
ホシノ「食料の心配はなくなったわけですね」ミサトさんが真面目な表情で目を合わせてきた。
ミサト「どうする?新しい島へ行く?それともここで救助を待つ?」
どうするか一瞬だけ思案した。だが。
ホシノ「ミサトさんにお任せします。俺はミサトさんに一生ついていきます」
ミサト「うーん、そうね。しばらくは今までどおり航路を探しましょ」
ミサト「でもね、島の北側に人が食べられる食料がいろいろ見つかったということは」
ミサト「北の海に見つけた島に、人が住んでいる可能性が高いわ」
ホシノ「あちらから種が流れてきたってことですか?」
ミサト「ふふ、そういった感じね」
食料問題を解決し、安住の地を手に入れた。だが。
ホシノ「行きましょう。あの島へ」
25日目。
今日はミサトさんと二人で島の北西へ行くことにした。
ホシノ「あそこです。昨日、俺が見つけた島は」改めて島を確認する。
ミサト「確かに島のように見えるわね」
今日も晴れてはいるが、昨日より雲が多い。
ホシノ「筏でいけそうですか?」
ミサト「行けないことは無いと思う。でも、五十キロ以上は離れている気がするわ」
そういえば実家から十キロ先にある山は木々や建物がはっきり見えた気がする。
今までの航海は島の近くを周回する程度で、筏が沈没しても泳いで陸へ戻れる距離だった。
ホシノ「危険そうですね。昨日はああ言いましたが俺はミサトさんと一緒ならここで暮らすのも......」
ミサト「のんびりしていると筏や救命胴衣が劣化してしまうから、行動は早い方がいいわ」確かに、野ざらしのままの筏は数週間で使い物にならなくなりそうだ。
ホシノ「行きましょう、あの島へ」希望があるのなら前へ進むべきかもしれない。
その日の夜はミサトさんと浜辺で過ごす。
焚き火にあたりながら、二人で横並びに座って海と星を眺める。夜空いっぱいの星々は、日本にいたら見られない壮観な景色だ。
ホシノ「ロマンティック、で〜すね〜」会話が続かなくなり歌ってみる。
ミサト「ふふ、本当の勇気が必要ね」別にロマンティックな夜を過ごしているわけではない。
星の位置を記憶して夜間でも方角を見失わないためだ。
ホシノ「あっ!流れ星......」手を合わせて願い事をする。
ミサト「何をお願いしたのかしら?」
ホシノ「ミサトさんと添い遂げる」
ミサト「......他人に教えたら叶わないのではなかったかしら?」
ホシノ「ミサトさんは他人ではないのでセーフです。一心同体ですから!」
ミサト「運命共同体なのは確かね......」そう言ってミサトさんはあくびをした。
ホシノ「今の時間の星の位置は大体把握しました。ミサトさんは休んできて良いですよ」
ミサト「そうね。2時間くらいで交代しましょう」ミサトさんは拠点に戻った。
相変わらずミサトさんはそっけないな。いや、難攻不落だからこそ本当の愛にたどり着くはず。きっと。
26日目。
新しい拠点で目がさめると太陽が真上にある時間だった。
昨晩、俺は休まずに浜辺で徹夜してしまった。ミサトさんを浜に一人で残しては行けなかった。
ホシノ「どうやら俺は一人で眠れない体なってしまったようです」一緒に焼きたてのパンの実を食べる。
ミサト「寂しがり屋さんね。孤独は慣れるものよ」
ホシノ「日本に帰っても一緒に暮らしませんか?ノギさんとヤマさんみたいに」
ミサト「ダメよ。なんだか死亡フラグっぽいから」物語だと戦いが終わったら故郷で何かする発言は死の伏線だったりする。
ホシノ「はあ。そういえば、あの二人も無事だといいですね。また一緒に夜通しゲームをしたいです」
ミサト「きっと無事よ。ヤマモトさんは肥えているから遭難に強そうだし、ノギさんの生命力はG並よ」
ホシノ「褒めているようには聞こえませんね......」
ミサト「私たちも沢山食べて太っておきましょ。何があるかわからないもの」
ホシノ「こっちに来てから、パンの実と魚介類が美味しいので食べすぎちゃいますね」減少気味だった体重は、ここ二日でだいぶ戻った気がする。
ミサト「新しい島への出発は三日後にしましょ。天候次第だけど」
ホシノ「了解です。しっかり休んでおきましょう」
それから三日間は島の探索と筏のメンテナンスをしつつ、のんびりと過ごした。
29日目。今度は新しい島への航海だ。
朝からしっかりと食事をし長期戦に備えた。
筏を沖まで漕いだら後は風を待つ。
ミサト「穏やかな風ね。少しは進めているかしら?」
ホシノ「元いた島からは離れている気がします」筏の速度は歩くより遅いくらいだ。
今まで暮らしていた島が手のひらサイズに小さくなってゆく。
ミサト「ホシノさんはあの島へ流れ着いた日を覚えているかしら?」
ホシノ「ええ、長い間海を漂って、やっと見つけたあの島へ全力で泳ぎました」
ミサト「私も同じ。二日くらい嵐の海を流されていたかしら?」
ホシノ「かなり長い時間を漂流していた気がします。呼吸をするだけで必死だったので時間感覚は曖昧です」
半分夢を見ているような感覚だったが、永遠と冷たい波を打ち付けられて苦しかった。
ミサト「何もない海の真ん中を漂っていた時は、もうここで終わりかと思ったわ」
ホシノ「普通なら死にますよね?」あのまま海で漂っていたら脱水症状で数日も持たないはず。
ミサト「運が良かったんだと思う。そもそも飛行機事故に遭遇する時点で運は悪いけれど」
ホシノ「ならこれから運が向いくるってことかもしれません」
ミサト「ふふ、そうね。そろそろ良いことが起きるかもしれないわね」
心なしか、風が強くなってきた気がする。
ミサト「日が暮れて始めたわね。この分なら暗くなっても島を目視できそうね」
目的の島は太陽五つ分程度に大きくなっていた。
ホシノ「波が高くなってきましたね」風が強いため船が大きく傾く。
ミサト「横転しそうね。マストを外しましょ。私が筏のバランスをとるからお願い」
マストを引き抜く練習は予めしていたが、こんなに揺れていると立っているのも困難だ。
ホシノ「うおおお!」マストを筏から引っこ抜き、支柱を肩に乗せてゆっくりと横に倒す。
ミサトさんはマストが筏から落ちないように紐で固定する。
ミサト「OK。ご苦労様」ミサトさんの合図で肩の荷を下ろす。
ホシノ「左肩がめっちゃ痛いです......オールで漕いで島を目指しますか?」
ミサト「そうね。少しずつ漕いで見ましょ。このままだと西へ流されてしまいそう」
すっかり夜になってしまった。二人でオールを使って濃紺色の海を撫でる。
ホシノ「遠いですね......」俺の声は強風で掻き消せされた。
一時間ほどオールを漕いでみたが、目的の島に近づく様子はない。
ミサト「もうだめ。手が疲れちゃった」俺の体力も限界だ。
休憩をしていると体がだんだんと冷えてくる。
ミサト「そっちに座ってもらっていいかしら?」俺はミサトさんの指示通りに動いた。
ホシノ「おお!」ミサトさんが後ろから俺に抱きついてきた。背中に暖かさがじんわりと伝わってくる。
ミサト「島を見失わない間は休んで風が変わるのを待ちましょ」耳元で話されるとこそばゆい。
暗い海の真ん中で波に揺さぶられ、冷たい風に吹かれても、二人なら怖くはない。
うつらうつらしているうちに夜が明け始めた。日差しを浴びると意識が鮮明になってくる。
海が穏やかになったのでマストを立て直す。風は弱いが追い風だ。筏は目的の島までまっすぐ進んで行く
ミサト「思ったより流されなかったわね。丁度折り返し地点といったところかしら」
ミサトさんは眠たそうにあくびをして腰掛けると目を閉じた。だいぶ疲れているようだ。
ホシノ「俺が体を支えます。眠っていいですよ」今度は俺がミサトさんを後ろから抱きしめた。
正午過ぎには視界いっぱいに島が見える距離まで近づいた。この島は浜が多く、所々岩礁と崖がある感じだ。近場の浜までオールを漕いで上陸する。
ホシノ「到着しましたね」砂浜に座っていても、まだ波で体が揺れている気がする。
ミサト「うん。けれど、人がいる気配がないわね」筏から島を眺めたが、人や人工物は見つからなかった。
ホシノ「今までの島とは違い、ひらけている感じがします。きっと人が住んでいますよ」
ミサト「西に背の高い岬が見えるわね。あそこから島を一望してみましょ」
浜沿いを歩いて小高い岬を目指す。森を抜け、緩やかな傾斜を登る。草は生えているが地面は岩のようだ。
岬の頂上まで登り、島を見渡す。島の中心は深い森に覆われていて、起伏の激しい地形だ。中央は山になっている。
ミサト「はあ。人のいる気配はないわね」ミサトさんはため息混じりにつぶやいた。
ホシノ「ミサトさん。あの辺りの木に黄色い果物がなってませんか?」
俺は森を指差してみたがミサトさんは果樹を見つけられなかったようだ。
ミサト「近いのかしら?森に入って確認してみましょ」
岬から果樹のある方面へまっすぐ進む。
ホシノ「森に入ってすぐ近くだったんですけど、あっ!ありました」
ミサト「パンの木のようね。他にパパイヤもあるわ」森の中に果樹が整然と生えている。
ホシノ「奥の方にも沢山あるようですね。見たことのない果物もなっています」
ピンポン球サイズの赤い栗や、大きな松ぼっくりのような木の実だ。他にもいろいろな種類がある。俺は好奇心のまま森の深くへ足を向けた。
ミサト「ホシノさん!戻って!」ミサトさんが珍しく大きな声を上げる。
ホシノ「どうかしましたか?」
ミサト「獣の臭いがする」俺の体臭のことを言っているわけではなさそうだ。
周囲を警戒する。森は隙間なく木々に覆われていてやや薄暗い。所々茂みがあり鳥の囀りと梢の騒めきが聞こえる。
ホシノ「おや?」なんとなく茂みに違和感があり目をこらす。
ホシノ「ミサトさん、犬がいますよ」保護色で見つけにくいが、痩せこけた焦げ茶色の中型犬が一匹いた。
ミサト「囲まれているわね。私が合図したら海の方向へ走って」
ホシノ「え?」
ミサト「走って!」ミサトさんが走り出す。
俺が状況をつかめずにうろたえていると、茂みから現れた犬達がミサトさんを追いかけて行った。
残った犬は一匹。俺が初めに見つけた奴だけだ。犬は低く唸りながら、少しずつ接近してくる。膝の高さくらいの犬だが、鬼の形相で牙を剥いているから迫力がある。体重10キロ程度の動物が単独で人を襲う気なのか?
鼓動が早くなる。冷たい汗が流れる。犬の一匹くらいならなんとかなるはず。それより6匹以上に追われているミサトさんが心配だ。
石斧を構えて迎え撃つ。正直、殺生は気が乗らない。多勢を相手にしているミサトさんを助けるためだ。
せめて一思いに一撃でーー。一歩間合いを詰めて斧を振り上げる。
ホシノ「ああああ!」
俺のすぐ眼前に犬の顔があった。犬はノーモーションで飛びかかってきた!噛みつかれる!
石斧で防御したが、犬の勢いに負けて押し倒されてしまった。馬乗りされている状態だ。犬は尋常じゃない動きで俺を嚙みつこうとしてくる。
俺は犬の首を両手で掴んで押しのけようとしたが、犬の動きが激しすぎてどうにもできない。
全力で首を締めてやった。ねじり切る勢いで首を折ってやろうともした。
駄目だ、全然効果がない。体制が悪すぎる。悪夢のようだ。俺はこんな小さな犬っころに負けるのか。
ホシノ「ああああああああ!!!」やばい、何かが近づいてくる気配がある。
その時、俺に馬乗りになっていた犬が茂みに吹き飛んで行った。
ノギ「大丈夫かね?おお!ホシノ君ではないか」ノギさんが犬を蹴り飛ばしてくれたようだ。
ホシノ「ノギさん!無事だったんですね!いや、そんなことよりもミサトさんが犬に追われてあっちに」
悠長に話をしている場合ではない。俺は立ち上がってノギさんと走り出した。
全力でミサトさんの後を追う。落ち葉や木の根で足場が悪い。
辺りを見渡しながら走っていると藁で編まれた帽子が落ちていた。
ホシノ「これはミサトさんの帽子です」逃げならが落としたのだろう。
ノギ「ふむ、物を投げて囮にしたのだろう。さすがのミサト君でも犬より早くは走れないだろうからな」
帽子の落ちていた場所からミサトさんの居る方向を推測して、再び走り出す。
後方でノギさんが転んでも、気にせずに置いていく。ミサトさんはどこだ!
浜まで行くと、こちらを向いて佇んでいるミサトさんを発見した。
ミサトさんは全身濡れていた。海へ逃げたのだろう。
ホシノ「無事でしたか、よかった」ミサトさんはこちらへゆっくり歩み寄って抱きついてきた。
ミサト「よかった。ホシノさんを置いていってしまって、どうしたらいいかわからなかった」いつも違うくぐもった声だった。
ホシノ「俺なら大丈夫ですよ」俺もミサトさんを抱きしめ返す。
ミサトさんの濡れた体が少しずつ俺に伝わってくる。
いつもは飄々としているミサトさんが震えいる。よほど怖かったのだろう。
ノギ「ふむ、無事であったか。しかし、いつまでそうしている気だ」そういえばノギさんが居たんだった。
ノギヤスト(乃木 泰人) 俺の会社の同僚。長身イケメンのタフガイで中二病だ。二つ名は『鋼鉄の胃腸と心臓を持つ男』
ミサト「ノギさん!生きていたのね。ということはヤマモトさんも一緒なのね?」
ノギ「そう簡単には死なんさ、鋼鉄の二つ名は伊達ではない。ヤマモトは洞窟に居る。ついてきたまえ」三人で浜辺を西へ歩き出す。
ミサト「そう、この島も無人島なのね」ノギさんの話だとここも無人島の可能性が高いようだ。
ノギ「うむ、しかし我々は島の南側の一部を知っているだけだ。人がいる可能性はゼロではない」どうやら俺たちのゴールはまだ先のようだ。
ノギ「船を作りそれに乗って此処へやってきたのか。今まで遭遇しなかったわけだな」
これまでのことを話しつつ、20分ほど歩いたあたりで岩礁にでた。
この辺りは切り立った崖が海沿いを囲んでいて、崖下には洞窟がいくつも口を開いている。
ノギ「あそこが我が城だ」ノギさんが洞窟の一つに入って行く。俺とミサトさんも続く。
洞窟の中はかなり広く、いくつか小部屋に分かれているようだ。海水が流れている場所もある。
ミサト「くさい......わね」ミサトさんが顔をしかめた。
確かに生ゴミや公衆トイレのような不快な匂いが漂っている。
ノギ「生きるということはにおうものだ。これでも清潔にしているのだが」
ホシノ「ヤマさんはどこですか?」洞窟の奥へ進むと、藁のベットで眠っているヤマさんを見つけた。
ヤマモトミノル(山本ミのる)会社の同僚。小柄で童顔の大人しい青年だ。長年の浪人経験で色々と物知りで頼りになる。過酷な職場に派遣されてからすっかり太ってしまった。
ホシノ「ヤマさん?起きてください」返事がないただの屍のようだ。
ミサト「ヤマモトさん、顔色が良くないわね。どうしたの?」
ノギ「それがだな、ヤマモトは二日前に山犬に噛まれてしまってな。それから調子が悪いようだ」
ミサトさんがヤマモトさんの藁布団をどかして噛まれた場所を探ると、ヤマモトさんのふくらはぎが一直線に切り裂かれていた。
ミサト「縫うレベルの傷ね。噛まれた後はどう対処したのかしら?」
ノギ「一旦止血してから海水で洗っていた。その後は傷口に笹の葉を貼っている」
ミサト「対処は間違っていないわ。けれど、危険な容態ね」
ノギ「うむ、食事を与えてもすぐに吐いてしまう始末だ。体力が持たないだろう」
ホシノ「ヤマさん......」薬がなければ犬に少し噛まれた程度で重症なってしまうのか。
ヤマモト「うう......ホシノさん、ミサトさん。迎えにきてくれたのかい?」ヤマモトさんが俺たちに気がついて、横になったままこちらを向いた。
ミサト「残念だけど、私たちも遭難していて、ここへたどり着いたの......」
ヤマモト「そうか......僕はもうだめだよ。けどよかった。ノギさんが一人にならなくて済むよ」
ホシノ「ヤマさん!四人揃ったのだし、なんとかなりますよ!気をしっかり持ってください」
ヤマモト「ううう......」
ノギ「全くだらしのないやつめ、私も犬に噛まれたがどうということは無い」ノギさんはそう言って腕をまくって見せた。
ミサト「結構深く噛まれているわね」ノギさんの前腕には大きな噛み傷が二つ残っていた。
ホシノ「相変わらずタフですね。普通は病気になるんじゃないですか?」
ノギ「傷くらい舐めておけば治るものだ。怪我はしたが二頭仕留めた。いずれ駆逐してやる」
ミサト「殺してしまったのね。毛皮はその時に作ったかしら?」
改めて洞窟内を見渡すと、壁際に毛皮が吊るされていた。他にも石槍などの石器、様々な大きさの土器、筵や籠がある。
ホシノ「この道具、ヤマさんが作ったんですか?」土器は色んな形のものがある。石器の種類も多い。
ノギ「うむ。ヤマモトは体力面以外は役にたつやつだ。飯も美味い」
ミサト「ふふ、上手いの料理だけじゃなさそうね」ヤマさんの容態は気になるが、四人揃えばなんとかなる。きっと。
ヤマモト「ううう、ミサトさん。お願いがあるんだけど、いいかな......」
ミサト「なにかしら?私にできるなら何でも言って」
ヤマモト「ホシノさん、ノギさん。二人きりにさせてもらっていかな......」
俺とノギさんは洞窟を出て、薪拾いをすることにした。
ホシノ「ミサトさんとヤマさんが二人きりの組み合わせって珍しいですね。何をお願いしているのでしょうか?」
ノギ「願いと言えば、ギャルのパンティが定番だろう?そういうことだ」
ホシノ「いやいや、ツェンロンじゃないんですから。そんな願いは無理でしょう」ツェンロンは願いを叶える龍の神様だ。
ノギ「わからないのか?我々に無く、ミサトくんに有るものをヤマモトが欲しているのだ」
ホシノ「はあ。なんか気になります」
ノギ「気にするな。しかし、ホシノ君は今までミサト君と二人きりだったのだろ?羨ましい限りだ」
ホシノ「確かにミサトさんは頼りになります。でも、ヤマさんだって色々なことを知っていて非常時に強いじゃないですか」
ノギ「そうゆう意味ではない。つまりだ、ミサト君の抱きごごちはどうだったかと言っているのだ」
さきほどミサトさんを抱きしめた感触を思い出して顔が熱くなる。
ホシノ「ミサトさんはとは別に、そうゆう関係じゃ......」
ノギ「ならば私が、押し倒してしまっても構わんのだろう?」ノギさんの目がギラつく。
ミサト「あらあら、誰を倒すのかしら?」ミサトさんがやってきて話に加わる。
ノギ「早かったな。あの体では無理もあるまい」
ミサト「東の方に花畑があるそうね。ノギさん、案内してもらってもいいかしら?」
ノギ「うむ、案内しよう。花を愛でるのもいいだろう。ホシノ君、夕飯作りは任せた」
二人は浜辺を東へ歩いていった。
夕方に二人が帰ってきたので一緒に食事をする。
貝の串焼きにパンの実とココナッツ、定番メニューだ。少し風が吹き込む洞窟内で焚き火を囲む。
ホシノ「ヤマさんはジュースだけで平気なのでしょうか?」
ミサト「固形物は喉を通らないみたいね。薬を飲ませてあげたからきっと良くなるわ」ミサトさんは薬作りをしていたようだ。
ノギ「何か精のつくものを食わせてやりたいものだ」
ミサト「ふふ、ノギさんの精を分けてあげればいいのよ」ノギさんは顎の無精髭を撫でた。
ホシノ「もしかして、ヤマさんのお願いって薬作りのことですか?」
ミサト「そうよ。毒薬作りを頼まれたわ。もちろん断ったけれど」
ノギ「毒を......最後まで戦わないとは情けない奴め」
ホシノ「苦しそうでしたからね......」しばらくの静寂。
ミサト「大丈夫よ。肥満だったおかでげ体力の消耗は少ないみたいだから」
夜は洞窟の隅に藁を敷いて、そこで寝ることにした。
ミサト「結構冷えるわね」
この洞窟はトンネルのようになっていて、いくつか出口がある。そのせいで風が吹き込む。
ホシノ「火を起こしても温まりませんね」
ノギ「さて、今夜は誰がミサト君と一緒に寝るかを決めるか」
ミサト「あら?いつもはヤマモトさんで暖をとっていたのね?」
ノギ「うむ、夜は冷える。体を寄せて寝なければ凍えてしまうぞ」
ホシノ「いやえっと、それならヤマさんを囲んで寝ましょうよ」
ミサト「そうね。面積の大きい二人でヤマモトさんを温めてあげて」
ノギ「仕方が無い。川の字になるとしよう。左からホシノ君、ヤマモト、私、ミサト君の順で」
31日目。
朝、いかがわしい夢を見て目が覚めた。洞窟は朝日が入らなくて暗い。
何やら暖かくて柔らかいものを抱きしめている。ヤマさんだ。男同士で一緒に寝ることに嫌悪感は無いが、抱き心地は気持ち悪い。なんかべっとりしてるし、雄臭い。
すぐに離れたかったが、背中の暖かさで身動きができない。
ミサトさんが俺の背中にぴったりとくっついている。しばらくじっとしていよう。
ノギ「さて、皆のもの、そろそろ起きるぞ」ノギさんが起き上がると、ミサトさんも目を覚ました。
ミサト「おはよ。ノギさんのイビキでよく眠れなかったわ」俺は気にならなかったが。
ノギ「疲れていたのだ。自分ではコントロールできないのでな」
ミサト「はあ、ノギさんはいつもイビキがうるさいのよね」
ホシノ「悪気は無いから仕方ないですよ。ミサトさんはもうちょっと寝ててもいいですよ」
ミサト「明日からは少し離れたところで寝ることにするわ」ミサトさんは洞窟の隅で横になった。
ノギ「やれやれ、ミサト君は相変わらずだな」
ホシノ「一昨日は徹夜で海を渡っていましたから疲れているんですよ」
ノギ「私もヤマモト介護でここ数日ろくに眠れていなかったのだが」
ホシノ「とりあえず、朝食ができるまで寝かせておきましょう」
朝食後は作戦会議をすることになった。
ノギ「これがこの島の地図だ」洞窟の壁に白く書き込まれた地図を見る。
ミサト「島の南側外周しか調べられていないのね」
ノギ「うむ、犬がいるのでな。奴らを駆逐しなければ森深くへは入れん」
ホシノ「西の崖にヤギがいるんですね」
ノギ「断崖地帯にはヤギがいる。行ってみればわかるが、ヤギを取らえるのは至難の技だ」
ミサト「笹の葉があるのなら竹林があるのよね?」
ノギ「竹は東に行けば大量に生えている。ここから片道1時間かかるが」
ホシノ「この家マークはなんですか?」
ノギ「遺跡がある。石作りの家の跡がいくつかある程度だが。昨日、ホシノ君と出会った場所の近くだ。
ミサト「果樹園のあたりね。どのくらい前の遺跡なのかしら?」
ノギ「ヤマモトが言うには100年以上は昔のようだ。石が積まれているくらいで大したものではない」
ホシノ「この島に今は人は住んでいないってことですか?」
ノギ「恐らく、我々意外に人はいないだろう」
ミサト「世界地図だこの島がとどのあたりだかわかるかしら?」
ノギ「わからん。私とヤマモトの当面の目的は島の北側や、君らがやってきた島を目指すことだった。
ホシノ「あっちの島は何も無いですよ。犬は居なくて安全ですが。ひとまず、この島を調査しますか?」
ミサト「そうね。筏で一回り見ておきたいわね」
ノギ「わざわざ船に乗るのか?犬対策にはなるな」
ミサト「ノギさんとホシノさんで島の調査をできるかしら?私はヤマモトさんを看病をしようと思うの」
ホシノ「ミサトさんとヤマさんを残していくのは正直心配です。俺とミサトさんじゃだめですか?」
ミサト「ノギさんに薬の作り方を教えてもいいのだけど、ノギさんは目が悪いから薬草を間違えそうで危ないわ」
ノギ「うむ、コンタクトが無ければ足元さえよく見えん」それであの時、犬を槍で突かずに蹴り飛ばしたのか。
ホシノ「なら、ヤマさんが回復してから島の調査をしませんか?急ぐ必要はないですから」
ミサト「......ヤマモトさんが薬で回復するかはわからないの。早くちゃんとした治療をしてあげないと」
ノギ「先日までヤマモトは一日中うなされていたが、ミサト君の治療のおかげでそれがなくなった。薬が効いているではないのか?」
ミサト「ヤマモトさんに与えている薬は痛み止めの効果しか無いわ」
ホシノ「そんな......早く救助してもらわないとですね」
ノギ「明日にでも出発しよう。ミサト君。ヤマモトのことは任せた」
この後は航海の準備をした。
32日目。快晴で程よい風が吹いている。
航海の準備万端。持ち物は槍、斧、火おこし機、二日分の食料。
早朝から気合を入れて筏に乗って海へ乗り出すが。
ホシノ「沈んでますね」俺とノギさんが筏に乗ると、筏は10センチほど沈んでしまった。
その上、ノギさんの動きに合わせて筏が大きく揺れる。
ノギ「本当にこれで海を渡ったのか?」
ミサト「一旦陸に戻って!」ミサトさんが波打ち際で手招きをしている。
筏を陸に引き上げて、作戦会議をすることになった。
ホシノ「ノギさんとミサトさんの体重差を忘れていました」ミサトさんが筏のバランスを取っていたのもある。
ミサト「東に竹が生えているのよね?竹で補強して浮力をあげましょ」
ノギ「竹なら拠点にある。こちらも筏作りの準備はしていたのだ」
筏の両サイドに竹を括り付けて改造する。
ミサト「推進力が下がりそうだけれど、浮力を上げるにはしかたがないわ」
筏を再度海に浮かべて乗ってみる。
ノギ「まだ沈むな。尻が濡れてしまう」筏はまだ1センチほど浸水する。
ホシノ「このくらいは仕方ないですよ。予定よりも遅れましたが出航します」二人でオールを漕いで沖を目指す。
ミサト「いってらっしゃい。無理はしないでね」波打ち際のミサトさんが遠くなってゆく。
ノギさんとの二人旅が始まった。
沖に出ると風が強くなってきた。マストを固定し、あとは風に任せる。
ノギ「天気が良くて何よりだ。だが、暑くなってきたな」ノギさんはココナッツをゴクゴクと飲みだした。
ホシノ「長期戦になるので消費は押さえてくださいね」
ノギ「食料が尽きたら陸に戻ればいいだろう。ヤシの木は島中にあるのだからな」
北から時計回りに島を眺めているが、確かにヤシの木は絶えずに生えている。それに上陸しやすい浜が沢山ある。
することが無いので、俺も食事をとることにした。
ホシノ「暇ですね」会社にいる時はノギさんとアニメやゲームの話題が尽きなかったが、現状ではそんな話をする気にはなれない。
ノギ「交代で睡眠をとるとしよう。徹夜で移動するのだろ?しばらく寝ていたまえ」
ホシノ「仮眠しますね。何かあったら起こしてください」
一抹の不安はあるが仮眠をとることにした。寝転がれないので腰掛けに座り目を閉じる。
ノギ「ホシノ君。そろそろ起きてもくれるか?」
目を開くと空が薄暗くなっていた。
ホシノ「結構眠れました。交代しますよ」
ノギ「では、頼む。しかし、電車内で眠るスキルが役にたつとはな」
どのくらい進んだのだろうか。島を見渡すと様子が変わっていた。浜が無く岩礁と崖だらけだ。
数時間は島を眺めていたが上陸できそうな場所が見当たらない。
急に筏が大きく揺れて、ノギさんがひっくりがえった。
ノギ「ぶっは!何事だ!?」浸水した床で倒れこんだノギさんはびしょ濡れになってしまった。
ホシノ「すみません。島に近寄りすぎて岩礁にぶつかったみたいです」棒で岩礁を突いて距離をとる。
ノギ「くっ。夜は冷え込むな」ノギさんは濡れた服を脱いでマストに引っ掛けた。
ノギ「ホシノ君、こっちに来たまえ」ノギさんが今まで座っていた腰掛けに俺を座らせた。
背中が暖かい。ノギさんが俺に抱きついている。硬くてゴツゴツした骨の感触は気持ちを不安にさせる。
ホシノ「本当ごめんなさい。風邪をひいたら不味いのに」俺の不注意のせいだ。
ノギ「気にするな。鋼鉄の二つ名は伊達じゃない」ノギさんは物怖じしない性格と、焼肉屋で生焼け肉を好むことから、鋼鉄の胃腸と心臓の持ち主と呼ばれている。
ノギ「この方が眠り安い」ノギさんの腕がガッチリと俺の腰にまわっている。
だんだんと背中が熱くなってきた。暑苦しい......
朝日が登る頃には気温があがり、ノギさんの服が乾いたので抱き合うのをやめた。
ホシノ「二日分の食料でしたが、もうなくなりましたね」ノギさんのペースに合わせていたら食料を食べつくしてしまった。
ノギ「一度上陸して食料を確保しよう。だが、浜が無いな」
ホシノ「岩礁と崖ばかりですね。ヤシの木も見つかりません。水が無いのはやばいです」
ノギ「あの辺り、崖の間から森に入れそうだな。行ってみるか?」
ホシノ「そうですね。見渡す限りあの辺りしか上陸できなさそうです」オールで向きを調整しながら陸を目指す。
その時、筏に大きな衝撃が走り、俺とノギさんは海へ落ちた。
ホシノ「大丈夫ですが?ノギさん?」海底は浅かったので俺はすぐに筏へ登ることができた。
ノギ「ぶっは!」ノギさんもすぐに筏へ手をかけたが。
ホシノ「筏が!壊れそうです!」筏が歪んで今にもバラバラになりそうだ。
マストがゆっくりと倒れて、繋いでいた丸太は解けてゆく。
ホシノ「ノギさんはカゴを持って上陸してください」俺はロープや帆を掴んで陸を目指した。
なんとか二人で上陸するが、筏はバラバラになり修復不可能だ。
ノギ「ふむ。これからどうするか?」
ホシノ「陸路で拠点へ戻るしかないですね」
ノギ「なんの成果もあげずに船を失ったまま帰れというのか?」成果以前に帰れる保証もない。
ホシノ「帆とロープがあるのでキャンプはできるかもしれませんが、森でサバイバルはしたことがありません」
ノギ「最低限の道具もあるのだ。北へ向かおう」ノギさんは躊躇無く森へ入っていった。
別々に行動するわけにもいかず、俺はノギさんについて行くしかない。
33日目。
昼だというのに森の中は薄暗い。ノギさんを先頭に北へと進んでゆく。
ノギ「思ったよりも歩きやすいな。陸路でも問題ないようだ」
ホシノ「問題は夜です。多分、真っ暗で何も見えないですよ」
ノギ「ならば、松明でも作るか」
ホシノ「火を使うのは賛成ですが、油が無いと松明は作れませんよ。それと太陽が見えないと方角がわかりません」
ノギ「暗くなったら眠るしかないか。ペースを早めるぞ」
3時間ほど歩いた。食料を探すが見つからない。黒々とした森が永遠と続いている。
ホシノ「喉がカラカラです。川でも見つけないとやばいです」土器を所持しているから沸騰させて安全な水を得られる。
ノギ「ふむ、安心したまえ」ノギさんは槍をふるって近くの蔓を切り払った。
蔓の断面から水分が滴る。蔓を口元へ運んで吸ってみた。
ホシノ「口の中は潤いますが、水分補給とは言えませんね」蔓からは2、3滴ほどしか水分は得られなかった。
ノギ「チリも積もればなんとやらだ。死ぬことはあるまい」
さらに数時間歩くと、しだいに暗くなってきた。
ホシノ「そろそろキャンプをしましょう。俺はテントを作るのでノギさんは薪を拾ってください」
筏の帆を持ってきた理由は二つある。作成に時間がかかることとテントとして利用できること。周囲の木の枝を利用してテントを作る。人が二人入れるサイズの筒状テントが完成した。
焚き火を炊いた頃には辺りが真っ暗になった。ノギさんと二人、焚き火を囲んで作戦会議をする。
ノギ「腹が減ったな。一度海へ行って貝類でも食べるか」
ホシノ「海側は崖になっていましたよね。降りられる場所を探しますか。あれ?ノギさん、肩のところから出血してますよ」
ノギ「ヒルにやられたな。蚊にもだいぶ刺された」ノギさんは背中をかいた。
ホシノ「俺は蚊に刺されても平気ですが、ヒルは気持ちが悪いです」ミサトさんが海路を選んだ理由がわかってきた。
ノギさんがこちらに近づいてきた。揺れる焚き火がノギさんの目をギラつかせる。
ノギ「ホシノ君。私に小便をかけてくれ」服を脱ぎだすノギさん。
ホシノ「はっ!?俺はそうゆうのちょっと......」
ノギ「これでは痒くて眠れん。頼む」そういえばオシッコには痒み止めの効果があったような気がしなくは無い。
仕方なくノギさんの背中にオシッコをすると、ノギさんは俺のオシッコを全身にぬり始めた。
ホシノ「......」
ノギ「忘れていたが、露出部分に泥を塗ることで虫から体を守ることができる。明日は泥を塗って行動しよう」
ノギさんの体が乾いてからテントで眠ることにした。
しばらく横になっていると、俺の腹の音とノギさんの腹の音が交互に鳴りはじめた。空腹のせいか、森にいる不安のせいか、眠れない夜が過ぎてゆく。
34日目朝。
体に泥を塗って、一旦海を目指すことにした。
ホシノ「この泥、どこにあったんですか?」ノギさんと泥を塗り合う。
ノギ「その辺の土に小便をかけて使ったのだよ」
ホシノ「......最悪です」
ノギ「贅沢を言うな。ミサト君の聖水はここには無いのだ」
ホシノ「壺に海水でも入れておけばよかったです......喉が乾いた」
ノギ「残念だが、もう小便はでないぞ」
西へ30分ほど歩くと岸に出た。崖下まで20メートルはありそうだ。
ホシノ「降りられそうな場所はありませんね。ヤシの木もありません」
ノギ「いや、あの辺りならロープで降りられそうだ」ノギさんの指差す場所なら6〜7メートルくらいの高さだ。
移動して改めて周囲を確認する。木にロープを括り付けられそうだ。崖に近寄ってみる。
ホシノ「怖っ!無理っすよ、高すぎます」マンションの三階くらいの高さだ。しかも絶壁で下は岩だらけ。
ノギ「落ちなければどうということは無い」ノギさんはロープを手にして崖下へ下っていった。
仕方無い。道具を崖下へ下ろしてから俺も降りる。
ノギ「どうだ、問題なかったろう?」得意げなノギさん。
ホシノ「血の気が引きましたよ。ロープの耐久性くらい確認したほうがいいです」
ノギさんは岩礁で貝類をとってそのまま生で食べ始めた。
ノギ「うまい。空腹とは最高のスパイスだ。五臓六腑に染み渡る」
ホシノ「......自分は火を通してたべます」腹を壊したら死活問題だ。
この日は移動せずに食事と休息で終わった。
35日目。昨日の休息のおかげで活力は十分。
一日中歩き続けて川、浜、ココナッツを見つけた。
ホシノ「岸と太陽の位置から察して、島の北側へ到着したと思います」
ノギ「そうか、だが何も無いな。ここまま帰っても仕方あるまい。調査を続行しよう」
昼の間はココナッツを大量に集めた。三日分の水分は確保できたと思う。
今のところ、俺もノギさんも体力は問題無い。でも、シャツはヒルに噛まれて血まみれで、体も虫刺されが目立つようになってきた。
何か病気になってもおかしくないし、精神的にきつくなってきた。
ホシノ「救助を呼べるまで島を探索するつもりですか?」夕食を食べながら作戦会議をする。
ノギ「ここまで着たのだ。そうするしか無かろう」
ホシノ「漂着物を見る限り、この島は無人島の可能性が高いです。明日一日探索したら拠点へ帰りませんか?」
ノギ「救助を呼ばなければヤマモトは助からない。友のために命をかける機会などそうは無いことだ。この身尽きるまで使命を全うする」
ホシノ「俺だってヤマさんを見捨てるつもりはありません。でも、他にも帰りを待っている人がいることを忘れないでください」
ノギ「旅に出て四日か。はやいものだ」ノギさんは顎を撫でながらしばし思案した。
ノギ「不本意ではあるが、明日一日島を調べて帰還しよう」
夜は砂に埋まって眠ることにした。森でキャンプをするよりも安全で落ち着く。
36日目。さらに北へ歩く。
ノギ「ホシノくん見たまえ、遺跡だ」指差された場所を見ると膝くらいの高さの石積みの塀があった。
ホシノ「遠くの方にパンの木も生えています。このあたりは人が住んでいたんですね」
果樹が沢山生えていた。川もある。川沿いを降ると浜に出た。ヤシの木が沢山生えている。海には––
ホシノ「あっちに島がありますね」海の向こうに島が見えた。かなり大きい。
ノギ「近いように見えるが、泳いで渡れる距離では無いな」
ホシノ「あちらへ渡るには帰って筏を作るしかありませんね」
しばらくの間、未開の島を眺めていた。港や灯台はなさそうだ。
ノギ「帰ろう。ヤマモトのところへ」休みを入れずに、そのままの足で拠点を目指す。
帰りの足取りは思いの外軽い。森の中でのキャンプもよく眠れた。
37日目。昨日からヤシの実しか口にしていないが気力は衰えない。
薄暗い森を早足で進む。先頭のノギさんが槍で道を切り開いてくれるから助かる。
その時、ノギさんの頭上に赤い蔓が見えた。
ホシノ「ノギさん!危ない!」俺はノギさんの肩に噛み付いた蛇を掴んで放り投げた。
ノギ「なん?だと?」急いで服を脱がせてノギさんの肩に口をつける。
ホシノ「ぺっつ!」毒を吸い出せたかはわからない。でも処置は正しいはず。
ノギ「蛇に噛まれたか。毒蛇とは限らん。まあ、問題無かろう」
ホシノ「動くと毒が回りますよ。しばらく様子を見ましょう」噛まれた場所が肩では血流を抑えることができない。
時間が経過するとノギさんの肩は赤黒く変色してきた。
ノギ「熱いな。だが問題無い。先を急ごう」さすが鋼鉄の二つ名を持っているだけあって平然としている。
ホシノ「体調が悪くなったらすぐに言ってくださいね」
俺が先頭になって進む。30分ほど歩くと後方からの足音が消えた。木にもたれるようにノギさんが倒れていた。
ホシノ「ノギさん!しっかりしてください!」ノギさんに駆け寄って体を揺する。
ノギさんは白目を剥いて気を失っていた。
脈はある。呼吸もしている。でもどちらも弱い気がする。今はノギさんの意識が戻るのを待つしか無い。
まだ正午くらいの時間だがここでキャンプの支度をした。
夜中にノギさんの意識が回復した。
ノギ「ここは?長い夢を見ていた気がする」焚き火の明かりではノギさんの顔色はわからない。
ホシノ「平気ですか?毒蛇に噛まれたことは覚えていますか?」
ノギ「ああ、そうだった。まだ意識が朦朧とする。すまないが、ココナッツを割ってもらえるか?」
ノギさんはココナッツを一気に飲み干し、中身を食べ終え、横になった。
ホシノ「平気そう?ですね」声をかけたが、ノギさんはすでに眠っていた。
38日目。
朝になってもノギさんが目を覚まさない。いくら揺すってもダメだ。
食料はまだ足りているが、このままここにいるわけにはいかない。
ノギさんを背負って食料と道具の入ったカゴを首にかける。少しでも前進することにした。
ホシノ「うおおおお」ノギさんが言っていた。友のために命を賭ける機会なんてそうは無い。
だから俺の全力でやれる限りをしてみせる。ゆっくりだが着実に、日が暮れるまで歩き続けた。
39日目。
太陽の位置を確認しつつ森を歩く。
あれからノギさんは目を覚ましていない。でも背中に確かな体温を感じる。
しかし、身体中が痛い。一歩踏み出すごとに体の節々にヒビが入るような痛みが走る。
やめたい、やすみたい。でもノギさんを背負って歩いていると、使命感や友情が俺を鼓舞する。
ホシノ「こんな所で死なせませんよ!」精一杯、後悔の無いように生きたいと思った。
突然、ふくらはぎに何かが刺さったような痛みが走って俺は地面へ倒れる。
別に蛇に噛まれたわけじゃなさそうだ。ただ、右端の足の筋肉が収縮して動かせない。ものすっごく痛い。
痛みでのたうち回りたいが、ノギさんとカゴがあって身動きができない。
ここが俺の限界か。木々の切れ間から覗く太陽が滲んでいく。俺は眩しくて目を閉じた。
ホシノ「ミサトさん。ごめん」
40日目。
目をさますとノギさんが立っていた。
ノギ「起きたか。食事を済ませたら出発するぞ」そう言って最後のココナッツをこちらに手渡してきた。
夢でも見てるのかと思ったが、節々の痛みが現実を知らせる。
ホシノ「ノギさん?体は平気ですか?」
ノギ「私は不死身のノギと呼ばれた男だ。一晩あれば十分回復できる」
ホシノ「誰もそんな二つ名で呼んでいませんよ。あと、二日間眠りっぱなしでしたからね!」
食事を終え、二人で歩き出す。
ノギさんは口ではああ言っていたが、足取りはふらふらだ。俺も右足が痛くて引きずるようにしかあるけない。
満身創痍。おまけに食料も尽きた。だけど、なんとかなるって思えた。
41日目。
夕方。見覚えのある景色が見えて、俺とノギさんはふらつきながら走り出した。
拠点は目と鼻の先だ。早く水を飲んで、ぶったおれたい。
途中、見慣れないオブジェクがあったので足を止めた。石が膝ほどの高さに積まれていて、花が数本添えてある。
墓標?ノギさんはそこで膝をついた。わかもわからず俺は拠点の洞窟へ走った。
ホシノ「ヤマさん!ミサトさん!帰ってきましたよ!」洞窟には誰もいない。
外へ飛び出て石の積まれた場所へ戻る。
ノギ「見たまえ、字が彫ってある」ノギさんの指差す場所を見ると。
(ホシノ × ノギ)と石に字が掘られていた。添えてあるのはバラの花。
ホシノ「......」
ミサト「おかえりなさい。泥だらけね。家に入るなら体と服をあらってね」いつものようにミサトさんが俺の後ろに立っていた。
ホシノ「ただいま......」少し離れた森からはヤマモトさんがこちらへ向かってくる。
ヤマモト「おかえり、その様子だと救助は呼べなかったようだね」
ノギ「どうやら、治療に成功したようだな」ノギさんは明後日の方向を向いて黙った。
ホシノ「ヤマさんが助かってよかったです。それでですね、島の北には」
ミサト「報告は後でいいわ。夕食を作るから、二人は海で体を洗ってきなさい。臭いわ」
俺とノギさんはなんとも言えずに海へ向かった。
夕食。どうやら俺とノギさんが旅をしている間にあたらしい文化が生まれたようだ。
ホシノ「その、石鍋の上で動いているの。虫ですよね?」熱した石鍋に白い幼虫が蠢いている。
ミサト「ミールワームよ。これを絞った汁をヤマモトさんに毎日与えたら元気になったの」だめもとでヤマさんに虫を食べさせたらしい。
ヤマモト「昆虫は栄養バランスがいいんだ。疲労回復にちょうどいいよ」
ノギ「......」ノギさんは黙ってパンの実を食べている。
ホシノ「いや、虫はちょっと」ミサトさんとヤマモトさんは焼いた幼虫を箸でつまんで美味しそうに食べ始めた。
ミサト「美味しいわよ?そういえばエビチリのエビってカブトムシの幼虫みたいよね」
ヤマモト「カブトムシの幼虫は腐食性だからうまく調理しないと美味しくないよ」
幼虫を美味しそうに食べる二人を見ていると自然に箸が伸びた。何度も躊躇いながら幼虫を口に入れる。
ホシノ「うまい!エビグラタンの味がします。なんで?」続けてぱくぱくと食べる。やめられない止まらない。
口内に広がるクリーミーな甘みと塩加減が実においしい。
ホシノ「ノギさんも食べてみてください。めっちゃうまいですよ」
ノギ「私は遠慮する......そろそろ旅の報告をしよう」
ミサトさんとヤマモトさんに北方調査結果を伝えた。
ミサト「ご苦労様。けれど無茶するわね。次は多分死ぬわよ」さらりと怖いことを言う。
確かにミサトさんかヤマモトさんが同行していたなら安全を優先し行動したはずだ。
ヤマモト「ありがとう。僕のために無理をしてくれたんでしょ?」
ノギ「勘違いするな。早く家に帰ってアニメを見たいだけだ」
北方調査報告を終えて次の目標を立てる。
ノギ「次の目標は新しく発見した島へいくことだな?」
ヤマモト「そうだね。まずは筏を作りから始めよう」
ホシノ「筏を壊したのはほんと申し訳ない。何日もかけてやっと作ったのに」
ミサト「筏は仕方ないわ。以前も話したけど、防腐や耐水処理をしていない船なんてすぐに劣化して使い物になわらなくなるわ」
ノギ「では明日から筏作りに取り掛かろう。開発の指示はミサトくんに任せる」
ヤマモト「二人は帰ってきたばかりだから、明日は休んでいていいよ」
ミサト「そうね。ゆっくり休むといいわ。私とヤマモトさんは筏の設計を始めるわ」
明日からの行動は決まった。俺は洞窟で横になると同時に気を失った。
42日目。
目覚めるとみんなは起きていて、筏の設計図を洞窟の壁に描いていた。
ヤマモト「なるほど、この作りなら向かい風でも進むことができる」
ミサト「そっかぁ、そうやって補強すれば力が分散するのね。でも、四人乗りは耐久的に無理そうね」
ノギ「なるほど、こうなっているのか」ノギさんは理解していなさそうだ。
ホシノ「おはようございます。そういえば、外にある墓標みたいのは何なんですか?びっくりしましたよ」
ノギ「あれは私も気になっていた。なぜ、私が受けなのだ?」
ミサト「あれよ。死んだと思っていた人が実は生きていたってあるじゃない?生存フラグを立てておいたのよ」
ホシノ「確かに物語でよくありますね」ミサトさんなりの願掛けなのだろう。
ノギ「私は受けでは無いぞ?」
昼食後は川へ行くことになった。片道1時間近くかかるが真水で体を洗うには川へ行くしか無い。川幅は5メートルほど、流れは弱く、ちょうど良い深さだ。
着ている服を洗ってから木に干して、湯船に浸かるように川へ入った。
ホシノ「以前、温泉にいった時を思い出しますね。ちょっと冷たいですが」
ノギ「うむ、日本に帰ったらまた温泉に行くとしよう」
ミサト「できれば、毎日お風呂に入りたいわ」
ヤマモト「きもぢいい」
ただのバカンスのようだ。いつもの四人が揃うと緊張感がなくなる。
ミサト「ヤマモトさん、痩せたのにおっぱいだけは残ったわね」ヤマさんは急激に痩せたせいで皮が弛んでしまっている。
ヤマモト「元にもどるといいな......」ノギさんがヤマさんの胸を触る。
ノギ「喜べヤマモト、以前よりも女性に近い感触だ」
ミサト「ヤマモトさんは体毛も薄いし、体の部分だけ見ると女性と変わらないわね」
ホシノ「髭は一番濃いのに、人体って不思議ですね」
ノギ「それを言うならミサトくんは、あれが付いている意外ほぼ女ではないか。女体化は男のロマンだ」
しばらくお風呂を楽しんだ後、俺とミサトさんは体を乾かしがてら川辺をぶらぶらする。
ホシノ「あの二人はいつまで川に浸かっている気でしょうか」ノギさんとヤマさんは風呂で大事な部分を隠す派だから裸でぶらぶらすることは無い。
ミサト「付き合っていても恥じらいは大事よ。四六時中相手の裸体を見ていたら何とも思わなくなるもの」
ホシノ「そんなものですかね。ってーー」別にあの二人はそんな関係では無い。
ミサト「人は隠されたものを暴きたくなるでしょ?」ミサトさんはビーナスの誕生のポーズをして流し目をした。
ホシノ「風になってきます!」俺は砂浜へ走り出し、心頭滅却を試みた。
ミサト「ホシノさんは元気ね」
この日は目一杯遊んで休んだ。
43日目。筏作りが始まった。
俺とノギさんは森へ木こりを、ミサトさんとヤマさんは洞窟でロープなどの道具作りをしている。
ノギ「しかし、丸太一本作るのにこれほど苦労するとは」
ホシノ「無理すると手の皮が剥けますよ。手が痛くなったら別の仕事に移りましょう」
木の枝を切り落としていると、中から大きな幼虫が出てきた。
ホシノ「てっぽうむしゲットだぜ!」竹で編まれた虫かごに幼虫を入れる。
昆虫食がブームになってから、みんな虫かごを持って行動するようになった。
ノギ「こっちにもいるぞ。取り除いてくれ」ノギさんは頑なに虫を食べない。
昼食に戻ると料理が待っていた。
カメムシとフジツボのスープ。ミサトさんが開発したトムヤククンの味がする最高のスープだ。柑橘の酸味が疲れた体に優しい。
竹虫のパンの実包み炒め。ヤマさんが開発したカニクリームコロッケの味がする炒め物で、パンの実を衣に使っている。外はサクサク中はクリイーミーだ。
世はグルメブーム、未知なる味を求めて探求するブームメント。
ホシノ「今日はレアムシもんの鉄砲虫が沢山手に入りましたよ」
ミサトさんとヤマさんは歓喜する。俺はキク科の草で鉄砲虫を包み、焚き火にほおった。
ホシノ「さあ、食べてください。鉄砲虫の香草蒸しです!」
ヤマモト「これは!和の味がする。炙りトロだ!」
ミサト「おーまいほしの!最高の食材を生かした料理だわ」
ノギ「......」ノギさんだけパンの実を焼いて食べている。
ミサト「あらあら、ノギさん、好き嫌いはだめよ」
ヤマモト「ノギさんの為に魚介料理も作りたいけど、森で蔓や藁をとるついでに食料を調達したんだ。ごめん」
ノギ「かまわん。パンの実だけで十分だ」
ミサト「仕方ないわね。秘蔵のあれを飲ませてあげるわ」ミサトさんはツボを持ってきてコップに注いだ。
ノギ「これは!ワインか?ややドロドロしているが良い香りがする。うまい!」
ミサト「ブドウをベース作ったお酒よ。味わって飲んでね」
俺とヤマさんもお酒を飲んでみたが、酸っぱいだけしか感じない。酒飲み意外の評価はいまいちだ。
ヤマモト「これは保存が効きそうだね。保存食の開発も考えよう」まだまだグルメブームは続きそうだ。
47日目。
今日もいい天気だ。俺とノギさんは木こりに精を出す。
ホシノ「保存食はお酒意外上手くいってないみたいですね」長期保存できる食料はココナッツだけだった。
ノギ「私は酒でかまわん」
ホシノ「俺はお酒ちょっと、ヤマさんなんか一口で真っ赤ですよ」
ノギ「それよりもだ。最近あの二人、仲が良すぎないか?今頃二人きりで何をしいるかわからん」
ホシノ「あの二人に限ってありえませんよ」そう思いつつ、確かにミサトさんとヤマさんは寝床が近くなっている。
ノギ「こっそり様子を見に行かないか?」
ホシノ「いいですけど、ミサトさんの気取られずに近寄るのは無理ですよ」何てことは無い、いつもの雑談ーー
すっかり日常に油断していた。気づいた時には俺とノギさんは野犬に囲まれていた。
ノギ「6匹か」ノギさんは警戒しながら槍を手にとって構えた。
槍を常時携帯しているノギさんと違って、俺は斧しか持っていない。
ノギ「私が攻める。ホシノ君後ろは任せた」ノギさんは一匹に的を絞って接近する。
犬はノギさんの接近に臆して後ずさる。でも、だんだん包囲が狭くなっている。
全体を警戒して視線を配るが、俺の視界から外れていた犬がいつの間にか接近していた。一匹でも飛びかかってきたら、それが合図になって一斉に襲ってくるだろう。
前回、一匹相手をするだけで大変だったのに、一人で三匹は相手にしなければならない。
犬の間合いまであと数歩。勝負の時は近い。恐怖で眉間がズキズキする。呼吸がままならない。足が地についていない。
犬たちがどこか別の方向を向いた瞬間、俺のそばの犬がはねた。
反射的に石斧で防御するが様子が違う。犬の脇腹に矢が刺さっていた。さらに別の場所の犬がびくんとはねて、同じように矢が刺さる。10メートル以上離れた木の陰にミサトさんが弓を構えていた。
矢を受けなかった犬たちは一斉にミサトさんへ向かって駆け出した。
ノギ「ゲイヤスト!(刺し貫く漢の槍)」ノギさんは手負いの犬の一匹にとどめを刺して、ミサトさんのあとを追って走る。
俺はもう一匹の手負いの犬と対峙したまま動けなかった。犬は矢が刺さっていても弱る気配を見せず、こちらを睨んで低く唸っている。
前回の戦いを思いだす。俺は斧を手放し、石のナイフを構えた。
手に暖かい液体が流れる。勝負は一瞬だった。飛びかかってきた犬を待ち構えるように俺はナイフを突き刺した。
ナイフは犬の首のやや下に突き刺さり急所を捉えてたようだ。
足元で血を吐いてもがく犬が動かなくなるのを、俺は呆然と眺めていた。
ノギ「ホシノくん、無事のようだな。ミサトくんも無事だ。他の犬は取り逃がしてしまったが」
ホシノ「出てこなければやられなかったのに......」足元の死骸にこころが痛む。こうして見ると小型犬程度に感じる。あれだけ、恐ろしかったのに。
ノギ「さて戻ろう。今日はご馳走だ」ノギさんは自分で仕留めた犬の足を掴み上げた。
ホシノ「それどうするんですか?」
ノギ「皮を剥いで食べる。それが狩りであり弔いだ」
拠点へ帰ると、毛皮はヤマモトさんがなめしてくれて、肉はミサトさんが料理してくれた。
ノギ「酒と肉、最高の組み合わせだ」肉はすぐに腐ってしまうので、少し早いが夕飯になった。
石鍋で焼かれた肉は焼肉屋のにおいがした。でも、俺の食欲はわかない。
ヤマモト「中国料理店では犬料理は一般的なんだよ。鳥、豚、牛、犬の肉ごとにメニューが分類されているくらいだ」
ノギ「ミサトくんの作ったタレが絶妙だ。こんなに美味い焼肉は食べたことが無い」
ミサト「なかなかコクのある肉ね。獣臭さを消すのに苦労したわ」他のみんなは美味しそうに焼肉を食べている。
ホシノ「こっちは俺が仕留めた肉ですよね?」殺したことへの責任で肉を口へ運ぶ。
めちゃくちゃうまい。牛肉ような濃厚な味だ。一欠片も残さずに犬肉を食べ尽くした。
ノギ「肉はいいものだ。ミサトくんの長弓なら崖にいるヤギも取れるのではないか?」
ミサト「そうね。私の弓とヤマモトさんのスリリングなら鳥や足の速い動物を狩れるわね」
49日目。
最近は料理ブームから派生して狩り技ブームがやってきた。
ミサトさんとヤマさんは遠距離攻撃が可能だ。おかげで鶏肉が手に入るようになった。
俺とノギさんは弓も投石も上手く扱えなかったが、ノギさんは得意の槍で蛇やカエルを狩っている。
ホシノ「ホシノストラッシュ!」逆手で石斧を振り回し竹を切り倒す。俺は竹を綺麗に切り倒す技を身につけた。
夕食はみんなそれぞれ料理を用意する。
ノギ「私の作った蛇の蒸し焼きはどうだ?」ブームに乗り遅れたノギさんの料理は正直まずい。
ミサト「海鳥の照り焼きはどうかしら?」鳥は脂がのっていて甘辛いタレが美味い。
ヤマモト「今日はシンプルに鳥ガラスープと焼き鳥だよ」美味い。肉料理の幸福感が別格だ。
ホシノ「竹虫の塩炒めです......」料理の技術以前に食材で負けている気がする。
ノギ「ふむ、鳥肉は反則だな。射撃技術の無い私とホシノくんには勝ち目が無い」
ミサト「あらあら、狩りにはいろいろ方法があるのよ」
ヤマモト「そうだね。トラップなら誰でもどんな動物を狩ることができるよ」
ホシノ「釣りってできませんかね?魚を食べたいです。昔の人はどうやって魚を取ったのでしょう?」
ヤマモト「サカナもトラップや網で取るのが主流だったと思う。繭を作る前の幼虫を茹でればテグス糸が手に入るけど難しいよ」
ミサト「魚もいいわね。どうにかして獲れないかしら?」
ノギ「私も刺身を食べたい。何か手は無いのかヤマモト」
ヤマモト「うーん、引き潮の時に磯の潮溜まりに閉じ込められた魚なら取れると思う」
ヤマモト「潮汐の周期は12時間25分だけど、時計が無いから時間を合わせにくいよ」
50日目。
昼過ぎに、ヤマさんが引き潮の時間を見計らってみんなを磯へ連れて行ってくれた。
ホシノ「小さい魚しかいませんね」潮溜まりには4センチほどの青い小魚がたくさん見える。
ノギ「磯は広い、探せば大物もいるだろう」
ミサト「ホシノさんの大好きなヒトデがいるわよ」俺はミサトさんの方へ向かった。
ホイシ「わーいヒトデーって毒々しい模様だし星型じゃないので可愛く無いです」
ヤマモト「一部のヒトデは食べることができるよ。内臓が蟹味噌みたいで美味しいんだ」
ミサト「こっちのウミウシは小さくて可愛いわよ」手のひらサイズで黄色い。ピーカチュウみたいだ。
ヤマモト「ウミウシは不味いらしいね。アメフラシは一部の地域で食用にしているけどおすすめしないよ」
長い間、魚を探したが、拳サイズの魚が二匹獲れただけだった。
ヤマモト「多分、タイの仲間だと思う。寄生虫がいるかもだからよく噛んで食べて」半身づつ分けあって、刺身で食べる。
ホシノ「美味い!ですが、一口だけですね」
ノギ「うむ、苦労する割には収穫は少ないな。では、こいつを食べてみるか」
ノギさんは槍でウニを一突きしたが刺さらず。ウニは弾かれて海へ帰った。
ノギ「......やるな海栗」
ヤマモト「ウニの針には毒がある場合があるから、装備を整えないと危ないよ」
ミサト「獲るならナマコや貝が一番かしら。魚はついで獲れればいいわね」磯遊びを満喫した。
51日目。事件が起きた。
俺はいつもより早く起床してトイレのついでにミサトさんの寝顔をみようと、洞窟の一角を通った。
ミサトさんの眠る隣に全裸のノギさんがうつ伏せで寝ていた。ノギさんの下にはヤマモトさんが下敷きになっている。
ホシノ「何やってんすか?」ノギさん達を揺さぶってみるが目を覚まさない。
ミサト「どうしたの?あらあらお盛んね」ミサトさんが目を覚まして立ち上がる。
ホシノ「ええっと。もしかしてこの二人って本当に?なんですか?」
ミサト「そうよ。信じていなかったの?」ショックを受ける。ミサトさんの腐った妄想と思っていた。
いや、俺は応援するぞ。男同士でも公に交際できる日が来る、その時まで。
俺とミサトさんは気をつかって洞窟の外へでて朝食を始めた。
しかし不可解な点がある。ヤマさんは服を着ているし、隣のミサトさんは何事もなかったように眠っていた。
ノギ「おはよう諸君」ノギさんが顎を撫でながら外にでてきた。
ヤマモト「おはよう、みんな早いね」ヤマモトさんはノギさんから離れた場所で食事を始めた。
ノギ「ミサトくん、昨日はすまない。少々酔っていたようだ」
ミサト「お酒はほどほどにね。顎は大丈夫かしら?」
ノギ「首が少々痛いが、どうということは無い。しかし、あれはなんだ?動きが見えなかったぞ」
ミサト「フリッカージャブのようなものよ」何故二人はボクシングの話をしているのだろう。
ホシノ「えっとあの。今更なんですがノギさんとヤマさんって付き合ってるんですよね?」一応確認してみよう。
ヤマモト「付き合ってないよ」ヤマさんは即答した。
ノギ「何を言っているのだ?ああ、今朝、私が倒れていたの見られてしまったか」
ミサト「体だけの関係なのね。性愛なんてそんなものよ」
ノギ「私は男に興味は無い。酔って倒れこんだ先にヤマモトが居た、それだけの話だ」
ホシノ「全裸でしたよ?ノギさんが酔って脱ぐなんて初耳ですが」
ヤマモト「夜は冷えるから一緒に寝てもいいけど、服は着てほしい」
ノギ「私にそんな趣味は無い。ミサトくんを襲おうとしたところ反撃にあい。そのまま気を失ったのだ」
ホシノ「何やってんですか!仲間を襲うなんて見損ないました!」俺はノギさんに詰め寄った。
ミサト「あらあら。お盛んな人同士で処理するのが一番よ。だから寝床を変えたのに」
ホシノ&ノギ「......」
ヤマモト「刑務所のような男しか居ない環境だと、同性愛に近いことをすると聞くけど、実際はそんなこと無いんだよ」
ヤマモト「欧米みたいなお盛んな国だとわからないけどね」
ミサト「持って生まれた性質と言うことね」
ヤマモト「それもあるけど、幼少期の経験、例えば母親がヒステリーだと女性を避ける性格になると言われている」
ノギ「そんな複雑なことではない。夜中にすらりと伸びた白い四肢を見せられては誰だって間違いを起こす」
ヤマモト「最近、精がつく食べ物をたくさん食べたからね。刑務所ではーー」
ホシノ「混乱してきました。他の話題をしましょう」
ノギ「ふむ、木材はだいぶ集まったが、そろそろ組み立てるかね?」
ミサト「そうね。午前は材料集め、午後は組み立てをしましょ」
予定通り午後から筏の組み立てが始まった。
ミサトさんが作業指示を出してみんなで行動する。ヤマさんの作った大工道具と紐結びの技術は素晴らしかった。
ヤマモト「このペースなら一艘、三日くらいで完成すると思うよ」
ミサト「並行して二台作ってもよいのだけど、初号機を浮かべた結果を見てから二号機を作りましょ」
ホシノ「改良を重ねていくんですね」
54日目。筏初号機が完成した。
初号機は俺とミサトさんで作った零号機と比べると補助輪?と垂直尾翼が大きくなった。それと、竹を要所要所に使うことで耐久性が上がっているらしい。帆は零号機の物を手直したものをつかっている。俺の案で寝転がれるように、甲板に竹のベットをつけた。
進水式。俺とミサトさんのペアで沖まで漕いで、一通り操縦してみた。
ホシノ「以前に比べると床上浸水が減りましたね。あとコントロールもしやすいです」俺はベットに横なる。
少し強めの風と日差しを全身で浴びると力が漲ってくるようだ。
ミサト「荷物を積んだらもっと浸水すると思うから、ベットを作って正解ね」ミサトさんも俺の隣で横になる。
ホシノ「この船なら、ミサトさんと一緒ならどこへでもいける気がします」
ミサト「ふふ、ヨットでの世界一周ならよく聞くわね。ホシノさんは、すっかりアウトドア派になったみたいね」
ホシノ「ゲームの世界を旅するのも好きです。一人きりじゃなければですが」
ミサト「私も命がけじゃなければ冒険は歓迎よ。それにしてもこのベットいいわね。拠点でも使いたいわ」
ホシノ「取り外して使っていいですよ。そろそろ戻りますか」
次はノギさんとヤマさんが筏に乗った。二人は筏の操作を覚えないといけない。ヤマさんがいるから平気だろう。
57日目。筏二号機が完成した。
今度の船は浮力を強化したお陰で体重の重いノギさんとヤマさんが乗っても浸水しにくく安定した。問題は、船自体が大きく重くなってしまったので四人がかりでないと海へ押し出せないくらいか。
夕方までに二号機の進水式を終えて、拠点で作戦会議を開いた。
ミサト「一旦北側の浜で補給をしてから、新しい島へ向かいましょ」
ヤマモト「手旗信号はもう覚えたかな?」海上では旗の上げ下げで情報をやりとりする。
ヤマさんが手旗信号の一覧を洞窟の壁に描いて教えてくれた。
ホシノ「俺とミサトさんはほぼ覚えました。でもたまに間違えます」
ノギ「私はばっちり覚えたぞ。だが視力的な問題で距離が離れるとわからん」ノギさんは左右を間違えてばかりですが。
ヤマモト「どの筏に誰が乗るかを決めないとだね。視力を考えるとミサトさんとホシノさんが別れた方がいい」
ミサト「けれど、体重を考えると私とホシノさんが一号機に乗ったほうがいいわね」
ホシノ「あと、情報伝達にミスが発生するかもなので、俺とミサトさんが二人でチェックした方が安心です」
ノギ「マストやオールを使う腕力を考えると、やはり私が非力なヤマモトをサポートするしかない」
出発は明後日に決まった。明日は食料の準備と休息をする。
58日目。
航海するための食料を確保した。明日の準備は万端だ。
時間に空きができたので、この島に到着して初日に登った岬へ行ってみた。
水平線には、俺が始めに流れ着いた島がぼんやり見える。あの島にも、この島にも、もう二度と来ることは無い。きっと。
内陸を眺める。森はどこまでも続いている。俺はこの森を死ぬ思いで縦断してきたのか。
四人揃ってからは毎日が本当に楽しかった。狩りをして料理をして同じ屋根の下で寝て。
もっとここで遊んでいたいと、何度も口に出しそうだった。わかっている。万全の状態がいつまでも続くわけじゃ無い。雨が続けば火を使えなくなるし、誰かが病気になるかもしれない。不慮の事故で誰かを失ったら永遠に後悔すると思う。
だから、楽しい時間のままで終わらせよう。また機会はあるさ。
62日目。夕方。
新しい島に着いた。
島は外縁に浜と崖がまばらに点在している点は以前の島に似ているが、内陸は高い山がいくつもある。
この島はかなり大きそうだ。
筏を陸に引き上げていると、遠くの砂浜から人が駆け寄ってくるのが見えた。俺たち四人の旅はここで終わりーー
続く
ここまで読んでくれた読者様、ありがとうございます。
男だけの島で生活をしたらどうなるかをテーマにしています。吊り橋効果、性欲などで男同士の恋愛に発展するのか?
約5万字を一気に書き上げたので修正が必要な箇所だらけです。完結を目指しつつ修正をしていきます。