プロローグ
「今年の漢字は、応募ではなく『今年の漢字委員会』が決めることにしよう。」
公家さんが漢字協会の定例会議で発言した結果、実際に「今年の漢字委員会」が決めることになった。今年の漢字に毎年応募してくれている人も大勢いたため、かなり問題にはなったが漢字協会のサイトに
「見た人全員が『参った。今年の漢字は間違いなくこれだ。』と言ってくれる漢字にいたしますので、何卒見守っていただきたい。」
と載せると、SNSで大盛り上がりこそしなかったがそこそこ盛り上がったため、「今年の漢字委員会」が今年の漢字を決めるに至った。
「しかしこれでみんなの期待値がかなり上がってしまいましたね。『見た人全員が』という文を入れたのは間違いだったんじゃないでしょうか。」後藤さんが言った。
「でもそれくらいインパクトのあることを書かないと事態はおさまらなかったよね。」山本さんが会議室のイスに細く綺麗な脚を組みながら話した。山本さんが問いかけた。
「それにしても、『今年の漢字委員会』から清水くんが抜けていま今メンバーは3人だよね?」
「…そうですね。」後藤さんが困った顔で答えた。
「てことは、3人でいま日本人全員が注目してる『今年の漢字』を決めなきゃいけないってことでしょ?」
「…そうなりますね。」日本人全員ではないです、という反論は後藤さんは述べない。
「公家さんとあんたと私の3人で見た人全員が納得する漢字を決めて、日本人が納得しなかったら私たち、罰ゲームだよ絶対。」
そのとき会議室に公家さんがにこにこした顔で入ってきた。
「ついに殺人予告まで来た。いよいよやばいな。」
「あんたのせいだよ!」後藤さんと山本さんの声が重なった。