太陽
教会の鐘が鳴ったら飛び降りようと決めてから、一時間ほど経った。
今日はいつにも増して寒く、マンションの屋上ということもあって風も強いので、少し怖気づいてしまったみたいだ。全く私は最後まで情けない。
転落防止用の柵は私の胸くらいの高さで、乗り越えるのは安易だろう。 でも、ここまで来ておいて昔観たホラー映画とかサスペンス映画とかの、ビルから落ちるシーンがフラッシュバックしてしまう。
こんなことなら遺書なんて書くんじゃなかった。
私は風が揺らすスカートを握りしめて、今まで嫌だったことを必死に思い出した。友人から容姿で笑われたこと、父からの性的な暴力、デマの拡散。イジメ相談のフリーダイヤルに電話をかけたこともあったけど、生きていればいいこともあるの一点張りだった。そして私は、誰も私を理解してくれることはないということを悟った。
だから、今日は私らしい格好で、私らしい惨めで不要な人間らしい最後を飾ろうと決めたのだ。
急に空が明るくなった。
雪が降ってきているのに暖かな日が差してきている。アニメの演出のようだ。
強く握りしめていたスカートをもう一度風に靡かせると、いつの間にか私は柵を乗り越えていた。そして、手が届くはずもない光に触れた感じがしたとき、あるはずもない教会の鐘の音が聞こえてきた。
そのまま私は、重力を感じることなく、浮遊していた。
「さて、続いてのニュースです。昨日夕方、市内のマンションの屋上で飛び降り自殺がありました。亡くなったのは、N高校に通う男子高校生で、警察は男子高校生の周辺などを調べる方針です。さあ、続いてのコーナーは、冬の忘年会シーズンに持ってこいの人気店の紹介です!見てくださいこの…」




