プロローグ
遠い遠い、いくつもの海や山を越えた世界の果て。
ここではない、全く別の世界の何処か。
1人の木こりが、人里離れた山奥でひっそりと暮らしていた。
彼は大変大柄で、なおかつ力が強かった。
同時に、無愛想で無感情な彼に対して、人々は奇怪な眼差しを向けていた。
木こりの名は❮ベルナドット❯と言うのだが、その名を呼ぶ者は少ない。
次第に人々は 、人間味のない彼の事を❮ブリキの木こり❯と呼ぶようになった。
彼は1人だった。友人も居なければ家族もいない。しかし、そんな状況に彼は孤独を感じたことなど一度もない。1人で居ることに何の不安も抱くことなく、1人で居ることが日常なのだ。
人の温もりを知らない彼は、今日も❮日常❯を送っているのである。
1人の男が、額に汗を滲ませながら森の中をさ迷っていた。
見た目からして二十代前半。多少は小柄ながらもしっかりとした精悍な顔立ちをしていた。
「ようやく、到着かな」
森を抜け、少し開けた場所にある小さな山小屋が前方に見えた。
人気のないこのような場所に、一体この男は何の用事があるのか。
その答えは、すぐに現れた。
「誰だ」
低く、単調な声が後ろから響いた。男はすぐさま振り向いた。
「や、やぁ、はじめまして」
男は騎乗にあいさつをした。
「こんな辺鄙な所まで、一体何のようだ」
しかし、声の主は淡々と質問を問いかける。
少々たじろぐも、一方の男も負けてはいない。
「率直に言おうか。君に会いに来たんだ」
男が答えた。
声の主は、沈黙していた。
「今、嫌な顔をしただろ。いくら無表情だからって、それは分かるぞ」
「それなら無駄足だったな。帰ってくれ。俺は誰とも会うつもりはない」
声の主はそう拒否を示すと、山小屋の方へと歩みを進めた。
だが、そんな彼の前に男が立ちふさがった。
「そうはいかないな。少なくとも君には、僕の話を聴く義務がある」
「俺に、義務だと?」
「そうだ」
男は話しを続けた。
ここで一つ、この世界について説明しておこう。
この世界には多くの異なる種族が混在している。
エルフ、ドワーフ、ピクシー、ホビット、巨人
そして、人間。
彼らは長い時を争い、戦い続けてきた。互いに異なる生きものであるがために、共存することが難しかったのだ。
だが、そんな争いの日々が突然終焉を迎えることとなった。
今から1000年前、1人の人間が全ての種族の長に謁見を求めた。
彼がそこで何をし、何を言ったのかは長たちにしか分からない。
しかし、たかが1人の人間の行いが、なぜだか彼らの心に届いたのだ。
程なくして、全種族間における平和条約が締結され、争いは無くなった。
そして彼らは、その大いなる役割を果たした1人の人間を称え、同時に人間族を平和の象徴としたのだ。
次第に他種族達は全ての人間を敬い、尊重し、「主」として仕えるようになったのだ。
だが、
人間は、彼ら同しの信頼関係と団結力の強さによって世界のどの地域にも存在していた。
しかし、そんな彼らも徐々に衰退していき、次第に人口の100分の一にまで減少してしまったのだ。
かつて平和の象徴として君臨していた人間は、1000年経った今でも過去の栄華を引きずり、他種族にも奢りを見せ続けていた。
一方の人間以外の者達も、そんな人間を主のように扱っていた。
しかしそれはあくまで建前であり、実際の所は怠惰な生活を送り続ける人間を見下し、蔑んでいるのだ。
それを知らない人間達は、無様に、哀れに、滑稽に、堕落した生活を歩み続けているのだ。
以上が、この世界で起きた史実の概要である。
「義務とまで言い切るお前の話とは、一体何だ」
声の主が問いかける。
男はその問に、単純かつ明確な答えを提示した。
「あなたを、この世界の【王】にするために来た」