1
いざ話そうと思うと緊張する。
だって――――何て言えばいい?
自分が死んだ後の言葉なんて――
そんなの、普通思いつくものだろうか。
でも、それでも――残さなければならない。
それが、私の生きた意味。
そして、ここまで来た答えになるのだから。
「――――よし、整った。じゃあ始めるとしよう」
* * *
「――本当にいいんだな?」
それが、私からの最終確認だった。
ただそれは、場の空気によってほとんど無意識に発せられたものであり、私自身がそれにどう反応してもらいたかったのかは、正直わからない。
とにかく言えることは――
ツグネも、ハヅミも、藍雪組の皆も。
誰も、この場から去ろうとするものはいなかったということだ。
「わかった。じゃあ、行こう」
私達は、戦闘式服の上に飛空礼装を纏った状態で、戦術院の最南に位置する灯りの点いていない第2ハンガーに集まっていた。
第1ハンガーと比べてその大きさは半分以下だが、ここにも戦術院の所有する空船が多数格納されており、使用頻度は高い。
だが、時刻は深夜。
今夜、このハンガーから機体が出る予定はない。
故に、当然人気はなく、灯火される予定もない。
空船が規則正しく並んで眠るこの場所は、昼間のそれとかけ離れた静寂を孕んでいる。
……私達は、明らかにこの場にいるのがおかしい存在であった。
当然だ。
だって私達はここに、予め輸送機の中に隠しておいた飛空礼装を回収――要は強奪――しに来たのだから。
幾つもの許可を経てようやく使用できる最上位礼装を、無許可で、しかも盗み出す。
言い逃れのしようがない反逆行為。
だがそれぐらいしなければならない理由がある。
私達はもう覚悟を決めたのだ。
ハンガーから出た私達は、海岸に面した戦術院の南端へと、人目を避けつつ走って移動する。
院内ではそろそろ誰かが違和感に気づき始める頃だろう。
「級長格が三人もいて、飛空礼装を奪い取って、無許可出撃……捕まったら懲罰房ですら生ぬるいレベルね」
隣を走るツグネは、開き直ってしまったせいか、笑みすら浮かべている。
「地獄まで来てくれるんでしょ?」
だから、私も軽口を叩く。
「地獄ですめばいいけど」
全くもって、その通りだ。
何せこれから私達は、戦術院が百数年隠し続けていたものを、暴こうとしているのだから。
むしろ、地獄程度ですむような秘密であって欲しくない。




