リレートライアル〜前夜〜
市立八川中学校から5kmほど西に向かった所にある八川西陸上競技場に俺達はいた。
「よし、アップが終わったらリレーのタイムを1回測ってみるぞ」
橋本顧問は車を停めると競技場事務所へと向かっていく。
「早崎と橘はミニハードルを持っていけ、遠藤と柴田はミニコーンとマット、バトン入れを頼むよ」
桂木部長はそう言うと橋本顧問のところへと向かった。
俺は
「なんで自分でやらないんだよ」
と、ぼやくが優に頭をはたかれてしぶしぶミニハードルを持って競技場に入る。
赤色のタータンを踏む前で全員で整列する。
いつの間にか部長も整列していた。
礼をすると等間隔にミニハードルを設置していく。
アップを行うと俺は橋本顧問に呼ばれた、俺は橋本顧問のところへと向かうと
「リレーは初めてだから1回見てみろ」
と伝えられた。
「わかりました.....」
何故か納得できないがとりあえず見ることにした。
1走者は柴田 要先輩
2走者は早崎 優
3走者は早野 幸太先輩
4走者は桂木 冬夜先輩
ベストタイムは45.98だ。
市の大会では速い方だが県大会までいくと44秒台には少なくともいかなければならないという。
本番のように一連の流れを行うと柴田先輩はスターティングブロックに脚をのせるとしゃがみこむ。
橋本顧問が雷管ピストルの銃口を上に向けて発砲する。
その音に反応して柴田先輩はおよそ100m先の優のところへとバトンを持って走っていく。
優と柴田先輩の距離が近くなり、柴田先輩が一定の所を越えた瞬間、さっきまで柴田先輩を見ていた優が前を向いて走り出す。
バトンをもらうところでかなり優が減速しているのが見える。
バトンをもらった優は直線をひたすら走り、3走者の早野先輩のところへと突っ込んでいく。
上手くスタート出来たようで優がほとんど減速しないでバトンが上手く渡った。
流れるようにカーブを曲がる早野先輩は最後の直線へと向かうところで待つ桂木部長のところへと走る。
ここのコンビは一瞬のことだった。
タイミング良く走り出し、近づいたと思ったらいつの間にかバトンは部長の手の中にあった。
そのまま加速していくと部長がゴールをする。
タイムは47.63
1,2走者間が大きなタイムロスをしているようだ。
「どうしても1,2走の所で減速するな」
橋本顧問は独り言のようにぼやく。
「早崎は加速するまでの早さとトップスピードが化物級だからな」
桂木部長が苦笑しつつ言う。
部長は俺の方に顔を向けると
「とりあえず、橘は柴田がやってた1走者だな」
橋本顧問に確認するように告げた。
橋本顧問もそれに同意するように頷く。
ジョグをしながらバトンの受け渡しをするバトンジョグを行い、各走者間のバトンパス練習をした。
当然最初は上手くいかず、バトンが綺麗に渡ったのは7回目のバトンパスの時だった。
「よし!今の歩測した距離とタイミングを忘れるなよ」
橋本顧問は各自ダウンとストレッチをしたら片付けをして車に来るように言うと競技場のフェンスを開けて出ていってしまった。
「もう帰るのか」
400mのトラックをジョグしながら優に話しかける。
「まぁ、競技場がもう閉まる時間だべ」
「やっとバトンが綺麗に渡ってこれからだって思ってたのによー!」
「しょうがないべ〜、本来ならもう帰ってる時間だからな、それに......」
優が何かを言いかけて口を閉ざしてしまった。
俺は優の言いかけた続きを聞こうと思ったがジョグが終わったのでそこで会話が切れた。
明日は祝日で1日休んだ後、再び競技場で練習すると車内で伝えられると学校で解散した。
優は迎えが来ているらしく普段と違う門から出ていった。
生徒が全員門を出たのを確認し、橋本 文雄はスーツの中ポケットからタバコを取り出すと口に咥えて火を着けた。
外で吸っているが校内だ
「見つかったら怒られるか.......別にいいけど
」
自分の言葉に苦笑しながらぼそりと呟いた。
「今年が唯一全国に行ける可能性のあるチームかもしれねぇな」
タバコを吸いながら何かを思案しているのか、時折空を見上げ険しい顔をする。
「橘にアンカー任せてみるのもいいのかもな」
タバコの火を消すとポケット灰皿の中に入れる、そのまま職員用の玄関口へと入って行った。