篠塚響と柏木千春と狩屋奏と俺 下
廊下を歩いていたら、授業が始まるチャイムが鳴った。
毛玉ムカつくなあ、なんて思いながらあるいていれば…、
「……ぁ」
変な、喘ぎ声みたいなのが聞こえた。
………誰かヤってんのか。
今授業中だぞ、午前中だぞ?
会長か会計か?
いやあの二人は毛玉君に惚れてるはずだしな。
あの二人の他に下半身野郎なんて居たか…?
なんて思っていたら、
「ゃめ……」
そんな、その行為を嫌がる声が聞こえた。
その声に俺はハッとなる。
―――強姦か。
それを思って、声のしている方へと駆け出して、ヤっているであろうその空き教室の扉をバンッと開ける
そうすれば…、
「あれぇ、佐原理人じゃん」
「うお、君もヤられに来たの?」
ニヤニヤと笑うガタイの良い三人の男と。
「何、邪魔するの?」
冷たく笑う松崎君の親衛隊隊長、確か名前は狩屋君と、
「や………」
ガタイの良い男達に襲われている、柏木君が居た。
「……ふふ」
体が冷たくなっていくのが、わかる。
―――ああ、そう。
そんなに俺にぶっ飛ばされたかったんだね。
「佐原の奴笑ってるぞ?」
「そんなにヤりたいのか、混ぜて………」
男の言葉は、最後まで放たれる事はなかった。
俺が殴り飛ばしちゃったからね。だってムカついたから。
「……うっ」
うめき声を上げて、男の一人がぶっ飛んでいく。
それに対して、周りは唖然とした顔をする。
つか柏木君に一人は覆い被さったままだし、柏木君はつらそうだし、早くぶちのめしてあげなきゃ!
ボコッ、ともう一人を気絶させる。
そして柏木君に覆い被さっている奴を柏木君から勢いよく離す
「う……ぁ」
柏木君は全裸状態……、白いアレが飛び散ってるし、うわーって気分。
ガタイの良い男達をのした後、狩屋君を見る。
青ざめたように、俺を見ている狩屋君は腰を抜かしたように座り込んでいる。
狩屋君はもう何も出来ないだろう、それを思って柏木君に近づく。
「……ほら、これ着れる?」
散らばっていた柏木君の衣服を集めて差し出す。
柏木君の体はびくっと震える。
………怖くて、口も動かせないようだ。
俺はそんな柏木君に近づいて、制服を着せようと柏木君に手を伸ばす。
そうすればますます震える柏木君の体………、あー本当強姦って嫌い。
「柏木君、とりあえずさ、制服着させていい?
で、保健室行こう?
千里先生はノーマルだし、信用できるからさ」
にっこりと笑って、震える柏木君の頭に触れる
そして震えたままの柏木君の頭を撫でながらいう。
「大丈夫大丈夫……、柏木君にひどい事する奴は俺がどうにかしたからね、安心してよ」
「……さ、はらく、ん」
柏木君の瞳から涙が溢れ出す。
俺は黙って、柏木君の頭を撫でる。
そうしているうちに柏木君は泣きつかれたのか眠ってしまった。
眠った柏木君に制服を着せ、未だに腰を抜かしている狩屋君と向かい合う。
「狩屋君、こいつらの名前、何?」
倒れている男達を指差して、俺はにっこりと笑う。
「あ、青木君と、中原君と、美濃君……」
「ふーん」
俺はそう言って、スマホを取り出し、真希に電話をかける。
「まーき☆」
『……どうした?
てか今授業中なんだけど』
てゆーか、授業中にかかってきた電話を普通に取る真希も真希だと思う。
「あのさ、3階の美術室の隣の空き教室に3人気絶させてるからしばって口にガムテープして見張っといて
俺、ちょっと今から保健室行くから」
『は?』
「じゃ、お願いね」
さてと、倒れてる男達は名前さえ分かればどうにかなるし……そんな事を考えながら柏木君を背中に背負う。
そして、狩屋君へと向かい合う。
「……俺と真希、どっちに色々言われるのがいい?」
そう言って、笑ってやる
「ど…、どっちも嫌というのは…」
「もちろん却下だよ? あ、逃げたら真希ん家に連絡してヤクザさんに来てもらうよ?
大丈夫、安心して。とりあえずは話聞くだけだから」
ふふ、と笑ってやって、
「立てる?」
と、問いかける。
「……はい」
やだなあ、狩屋君ってば脅えすぎ。
まあ目の前で俺暴れたしなあ。
背中に柏木君を背負い、後ろに震える狩屋君を連れて、保健室に向かう。
「千里先生っ」
保健室の前に辿りついて勢いよく扉を開ける。
「理人じゃねえか……って誰背負ってんだ? そして後ろのは狩屋か?」
「イエス、千里先生。松崎君の所の親衛隊――つまり狩屋君の所が柏木君を強姦したんだよね……。
だから、柏木君をとりあえずここに連れてきたんだけど」
「………そうか。
ベッドに寝かせとけ、余計な奴は近づかないようにしとくから」
「ふふ、ありがとう。千里先生」
千里先生ににっこりと笑いかけ、俺は次に後ろにいる狩屋君の方を向く。
狩屋君は俺に見つめられると体を震わせた。
「狩屋君……何で柏木君に手を出したの、今まで君は確かずっと柏木君を襲うって事に反対してたんじゃなかった?
真希に聞いたんだけど松崎君がそれを望んでないから、止めてたんでしょ?」
そうである。
柏木君が強姦を今までされなかったのは、俺が事前に知って止めていたのも理由だけど、狩屋君の働きが大きい。
松崎君は柏木君を親友として、大切にしていた。
だから、松崎君の親衛隊隊長である狩屋君はその気持ちを知っていて、柏木君に対する強姦を止めてきたはずだ。
そう、俺は真希に聞いていた。
それなのに何故、狩屋君が率先してそれをやったのか、俺にはどうしてもわからなかった。
「そ、それは………」
狩屋君は震えた声でいう。
「……何か理由があるんでしょ?
今まで強姦を止めていた、狩屋君がそれを実行すると決めた理由がさ」
そう言って、真っ直ぐに狩屋君を見つめる。
不安そうに揺れる瞳が、俺を見つめ返している。
そして、狩屋君がいった。
「だ、だって………松崎様が、最近柏木君を………疎ましく思ってるって…、俺にいって、来たから」
「は?」
いや、このは? は狩屋君に対してじゃなくて松崎君に対してだからね?
だって、松崎君は自分が人気者だという事を自覚しているはずだ。
それなのにただでさえ嫌がらせを受けている、柏木君の事を親衛隊に言えばどうなるかぐらいわかったはずである
「松崎君が、柏木君を……?」
「……お、俺は松崎様に喜んでもらいたくて、だ、だから」
狩屋君が、震えながら言った。
強姦という、最低な行為―――それは、狩屋君が、松崎君に喜んでもらいたくてやった事。
好きという、思いが暴走して、行ってしまった事………そして、松崎君がわざわざ狩屋君に柏木君の事を言ったという行為は、その思いを利用した事だ。
思えば、前に対面した時松崎君は毛玉君のいう事に柏木君が反対するから、と睨み付けていた。
………とりあえず松崎君はあとでどうにかするとして、まずは狩屋君だ
「狩屋君………、狩屋君がさ、松崎君を好きで、それで喜んでもらいたくて行動するのは別にいいけど
他人を傷つけるてか、強姦って最低じゃん?
最低な行為をやるってのは駄目だよ。それはやっちゃいけない。
松崎君が柏木君を疎ましく思ってたとしても、別の方法があるはずだし、何よりさ、狩屋君……自分や、自分の大事な人がヤられた時の事考えてみなよ」
本当に、そういうことやったら自分に帰ってくるものだ。ヤったってことは、ヤラれても文句は言えない。
「やったって事はさ、そのやった事が自分に返ってきても仕方がないって事なんだよ。
狩屋君が命令を下したっていう事実を知れば狩屋君から離れていく人もいるかもしれない。
今は大事だけどさ、やってしまったら、その事実が付きまとうんだよ?」
そう、やったという事はやり返されても仕方がないという事。
汚い過去ってのは誰かが知れば絆が崩れてしまう事。
「それにさ、好きだからって何でもしていいわけじゃない。
寧ろ、狩屋君が本当に松崎君を思っていたなら、柏木君を疎ましく思ってると聞いた時にちゃんと言ってやるべき、なんだよ
松崎君は香川君が来てから変わってしまったけれど、香川君が来る前はちゃんと柏木君を親友として扱っていたんだからさ」
松崎君は毛玉君が来てから変わってしまったけれど、柏木君を大切な親友だと思っていたはずだ。
変わってしまって親衛隊に疎ましいといったけれど、柏木君が傷つけられれば松崎君は後悔するかもしれないのだ。
それにしても松崎君は馬鹿なのかねえ…。
柏木君に何て事をしてるんだか…。
「……うぅ」
あーあ、狩屋君泣いちゃった。
「狩屋君、泣いちゃダメだよ、君が。
松崎君に喜んでもらいたくてやったときても命令したのは狩屋君だから。
とりあえず、もう強姦とかしちゃダメだよ?
今回は松崎君のためにやった、として見逃すけど……、次はないよ」
今回は、松崎君の方に非があると思うから、見逃してあげる。狩屋君も、後悔してるみたいだしね…。
だけど…、
「ごめんね、狩屋君。
松崎君の事は、見逃せないんだ」
松崎君は、許せないよね、そりゃあ…。
俺の声が冷たかったのか、狩屋君の体が、びくっと震える。
「松崎君の親衛隊隊長として、狩屋君が俺にはむかいたいならはむかえばいい。
ただし、その時は徹底的に俺は潰すよ、狩屋君ごとね…」
松崎君を潰す、とはいってもどうしてくれようか…。
そこまでは考えてないけど、松崎君は俺の中で潰される側の人間だ。
―――親友だったはずの人間を裏切ったんだ。恋心を優先させて。
「………つ、潰すって。
さ、佐原理人、にそんな、そんな事でき…るの」
「ふふ、出来るか出来ないかじゃなくて、やるんだよ。
それに狩屋君の知る佐原理人っていう俺は噂の俺でしょ?
噂と真実は違うものだからね」
噂の俺、は嘘の塊だからねえ。
淫乱で、教室に来ない親衛隊メンバー。
それが噂の俺だからね。
狩屋君は悲しそうな顔をする。
……あんな松崎君でも狩屋君にとっては思い人、だからね。
「ごめんね…狩屋君。」
俺はそう言って、狩屋君の頭に手を伸ばして、頭を撫でながらいう。
俺の言葉に狩屋君は驚いたような顔をして、俺を見る。
「松崎君の事、狩屋君は好きだから、俺の事憎いって思うだろうし、悲しいよね…
まあ、でも俺は強姦って大嫌いなんだ。あとダチを裏切る奴とかも嫌い。
だから、ごめんね?」
「………俺、もごめんなさい。
松崎様のため、とかいって………、柏木君の、事………」
狩屋君の瞳から涙が溢れ出す。
ごめんなさい、ごめんなさいと謝罪の言葉を発する。
「狩屋君………それは柏木君に言いなよ、ね。
狩屋君が本当に謝らなきゃいけないのは、柏木君だから。
とりあえず俺、ちょっと行くから」
真希に縛るようにいっておいた、男達をどうにかしなきゃだしね。
というわけで、
「千里先生、後よろしく!
あ、狩屋君も柏木君にちゃんと謝りなよ?
ま、謝ってゆるされる事じゃないけどね?」
俺はそれだけいって、保健室を後にした。
*狩屋奏 side
佐原理人が、保健室から出ていった。
その場には、眠ったままの柏木君と、保険医の五十院先生が居る。
「………狩屋。お前な強姦はダメだぞ」
「……ごめん、なさい」
昨日、松崎様が俺に話しかけてくれた。
親衛隊を嫌っていて話しかけてなんてくれない松崎様が。
俺はそれが嬉しくて……、松崎様が柏木君の事を疎ましく思ってるって聞いて、排除したら松崎様が俺に話しかけてくれるかななんていう醜い思いで、俺は今日……やってしまった。
冷静になってみれば、自分が最低な事したんだって体が震える。
「……とりあえず理人の言ったようにもう二度とするなよ
理人は二回目は流石にお前を庇いはしないから」
保健医がそんな事をいう。
親しみを込めて、佐原理人を理人と呼ぶ保健医。
「先生と佐原理人はつきあ……」
「ってねえよ! 俺は学園の外に彼女いるから!
何でこの学園の奴は、名前呼び=恋人みたいに思うんだよ」
………どうやら保健医、佐原理人と恋人に間違えられた事があるらしい。
それに、何故かほっとした。
俺の家はそこそこに金持ちで今まで誰もあんな風にやっちゃダメだって言われた事がなかったから、佐原理人が心に残った。
責めるように俺に何かいったかと思えばごめんね、って謝ってくる………噂とは全然違ったけれど変な奴なのには代わりない。
松崎様は、転入生が来てから変わられてしまった。
優しい方だったのに、柏木君を大切にしていた方だったのに……。
優しい松崎様が大好きだった。
その瞳に映りたかった。
松崎様の事、大好きだけど、今の松崎様は少し、嫌なんだ…。
…………許されないだろうけど、柏木君に謝ろう。
『菅崎真希による暴走族勢力の説明』
この辺には三つのでかい暴走族があるんだ。
本編読めばわかるだろうけど、『クラッシュ』、『龍虎』、『ブレイク』の三つだ。
『龍虎』と『ブレイク』はいい勝負をしているが、『クラッシュ』とは格が違う。
『クラッシュ』はずっとこの辺のNo.1を維持しているからな。
俺はフリーの情報屋だけど主に生徒会が所属する『ブレイク』と仕事をしている。
生徒会の連中馬鹿だから俺が情報屋だって気づいてないけどな。
まず『クラッシュ』の説明だな。
『クラッシュ』は理人の知り合いが結構いるらしい。
てか理人に聞いたんだけど理人の弟が此処に所属してるらしいよ。
『龍虎』は、あの香川の所だな。
香川は『妃龍』って呼ばれていて、実力はそこそこのお飾り総長だ。
『龍虎』の奴らは全員香川信者らしいから余計恐ろしい。
そして望………俺の弟が香川信者になってるんだよな。
次に『ブレイク』。
此処は生徒会メンバーがやってる暴走族
族の時でも『ブレイク』は『妃龍』を追いかけてたし、学校でも香川を追いかけてる。
というか香川と『妃龍』が同一人物と気づいてないのがあり得ないと思う
さて、とりあえずの説明はこれだけだ