愛ちゃんを泣かせるなんて、潰したい。
渉兄から聞き出すために理事長室に向かっていたら、
「理人君っ」
俺の名を呼ぶわんこ代表に遭遇した。
「どしたの、愛ちゃん
何かあった?」
彼の名は光永愛斗。生徒会親衛隊の、副隊長です。
愛ちゃん滅茶苦茶可愛い。
背が小さくて、小動物みたいで、見た目も性格も可愛い。
そんな愛ちゃんは会長の事が大好きだったりする。
あの俺様会長の性欲発散に抱かれる愛ちゃん……愛ちゃんは本気なのに全く相手にしない会長。
あー考えてたら会長ぶちのめしたくなってきた。
会長って愛ちゃんになびかないとか見る目ないよね?
「それが……っ暁様がっ、転入生を」
「って愛ちゃん大丈夫?」
愛ちゃん泣きそう。
誰だ可愛い愛ちゃんを泣かせた馬鹿は。
俺の可愛いわんこ泣かせるようなアホは許しません。
てか愛ちゃんから話聞かなきゃ、もう渉兄の話なんて後回しでいいや。
渉兄より愛ちゃんのが可愛いし。
というわけで渉兄に『今日キャンセル、明日行く。逃げるなよ?』とメールを送って、愛ちゃんを連れて、俺の寮の部屋に向かった。
何だか泣きそうな愛ちゃんと手を繋いで(愛ちゃんが不安そうなので握ってみた)、歩いてたら、周りから好奇の目を向けられる。
まあ、そりゃそうだろう。
俺って特待生権限で教室行かないし、生徒会嫌いだから出待ちみたいなのしないし。
愛ちゃんはいつも会長……東宮暁にキャーキャーいってるし、周りは愛ちゃんを親衛隊隊長って思ってるらしい。
ちなみに俺は周りからすれば淫乱でヤるために教室に来ない親衛隊の一員と思われてる模様(真希情報)。想像力豊かだよね、皆。
「理人君……っ」
俺の寮の部屋に入れば、愛ちゃんは遂に泣き出した。
俺は慰めるように肩を叩く。
「愛ちゃん、大丈夫?
何があったか俺に教えてよ。
俺愛ちゃん達、親衛隊メンバーの事可愛くて仕方ないんだよね!
だから出来る限りの事はするからさ」
そういって笑いかければ、愛ちゃんはポッと顔を赤く染まらせる。
あはっ、可愛いって言われて照れてるみたい。これだから親衛隊のわんこちゃん達は可愛いんだよねー。
あ、ちなみに愛ちゃんは一つ上なんだけどね、愛ちゃんが敬語と先輩付けしなくていいっていうから愛ちゃんって呼んでるの。
愛ちゃんも嫌がってないしね。
「理人君……あのね、転入生の事わかる?」
「うん。わかるよ
あの毛玉君でしょ? あの毛玉君が何かしたの?」
「毛玉君って……まあ確かに毛玉みたいだけど」
愛ちゃんはそういって苦笑して話始めた。
何でも毛玉君は俺のクラスへの転入生だったらしい。
1-S。それが俺のクラス。
Sクラスは家柄、容姿、学問、スポーツ……どれかが優れてなきゃ入れない。
まあ特待生と金持ちの集まりだ。
俺は龍宮の名は名乗ってないけど、首席だからってSクラス。
とはいっても渉兄脅して、首席だって周りにバレないようにしてるけど。
目立ちたくないしね。この学園で目立つと色々面倒だからさー。
「それでまず、篠塚様と松崎様と仲良くなったんです…
あの転入生……何でも篠塚様とは同室だったようで。それで松崎様といつも一緒にいる柏木君と一緒に食堂に来たんです」
篠塚様ってのは家柄と容姿がいい、一匹狼の不良だっけ。
松崎様は確か、スポーツの特待生で、容姿がよいんだよな。
二人とも親衛隊有りなはず。
で、柏木君ってのは確か、松崎君の親友で、顔は平凡な奴だよな。
柏木君は松崎君の側にいるから微妙に親衛隊が嫌がらせしてたんだよなあ…。
俺強姦とか度の過ぎた苛めは成敗するけど軽い嫌がらせは止めたらキリがないから止めてないんだよね。
つか三人とも同じクラスだけど俺教室いかねえからよくわかんねえな。
特待生権限+毎回首席取るかわりに教室に行かなくてもいいと渉兄と契約してるからさー。
「食堂で何かあったの、愛ちゃん」
「それが……まず三谷様が転入生に近づいたんです」
あー副会長は毛玉を気に入ってキスまでしてたぐらいだからね。よっぽど気に入っていたんだろうと想像できる。
「なれなれしく三谷様の名前を転入生がよんでて……三谷様の親衛隊が、暴走しかけてて」
あ、生徒会親衛隊って中で高等部の会長が好きな隊とか、中等部の会計が好きな隊とか別れてんだよね。
愛ちゃんは、高等部生徒会長親衛隊の隊長。
俺は総隊長ってわけ。生徒会の事嫌いだから、中で別れてる隊には入ってないけど。
「暴走はしなかったんだよね?」
「うん。僕が『理人君は、皆が暴走したって聞いたら悲しむよ』って言ったら収まったよ」
「そっか。
じゃ、あとで副会長の親衛隊にご褒美にクッキーでも持っていこうかな」
俺が作ったものご褒美とかに上げるんだけど、滅茶苦茶喜んでくれてマジ可愛いんだよね。
親衛隊のわんこたちは愛でるものなんだよ! まったく、なんで生徒会の馬鹿たちはわんこたちを冷遇するのか。
「うん、そうしたら皆きっと喜ぶと思うよ。
あ、それでね、副会長が近づいたからって暁様、隗様、螢様、義彦様、由月様が転入生の所に行ったの」
「へえ……高等部生徒会全員がねえ」
何だが、嫌な予感がするぞ…。
まさか真希のいう王道になってんじゃねえだろうな…?
「それで隗様と螢様を見分けたからってまずお二人が転入生を気に入ったんです」
「……へえ
あの二人の親衛隊メンバーは皆みわけられるのにあんな毛玉君を気にいるんだ?」
渕上螢と渕上隗は双子の書記。
あろう事か、うちの可愛い親衛隊メンバーは全員みわけられるというのに、見分けてくれた毛玉君を気に入ったらしい。
……なんか殴りてえな、なんて物騒な思考になる。
「それで由月様もなんかなついちゃって、義彦様も転入生が面白いって………」
「へえ……、で、会長は?」
「暁様はっ………あ、き様はっ」
「愛ちゃん泣かないで!
ゆっくりでいいから話してね」
愛ちゃん……会長の話しようとして泣いちゃった。泣いている愛ちゃんも可愛いけれど、笑っている顔の方が好きだからなんかやだ。それにしても愛ちゃん泣かせるとか潰したいなぁ。
「『俺にはむかうなんて気に入った』って、転入生にキスを……っ
暁様は、僕を抱いてはくださってもキスは絶対になさらなかったのに……っ」
「……へえ」
何だか自分の声が冷たくなるのを感じる。
愛ちゃんを泣かせといて毛玉君を気に入るねえ……?
ふふ、殺意湧いてきちゃった。
「転入生……顔真っ赤にして、暁様が、転入生を……抱き締めようとなさって!
それで暁様が、殴られたの」
うわ、これ真希の言ってた王道君そのまんまじゃね?
面倒だな、つか俺のわんこちゃん達を何れだけ悲しませれば気がすむんだ。あの毛玉君…。
「それにっ、あの転入生理事長の親戚みたいでっ」
「は?」
理事長の親戚、ねえ?
俺あんな毛玉君、親戚に居ないし、会った事もないし、操なんて名前知らないんだけど。
………これは詳しく渉兄に問い詰めてあげなきゃねえ。
「そっか……。愛ちゃん」
「……っ」
涙を流しながら愛ちゃんは俺を見る。
うん、可愛い。
「愛ちゃん可愛いんだから、泣き顔なんて似合わないよ。だから笑ってよ、愛ちゃん」
そういって、俺はまた続ける。
「会長は親衛隊ってだけで愛ちゃんの本質を知らないだけだから
愛ちゃんは、可愛いんだからさ、あんな毛玉君に負けてたまるかって思って頑張ろう?」
「理人君…」
「それに会長と転入生は付き合ってるわけじゃないんだからさ。
俺、可愛い親衛隊メンバーの誰かが会長と上手くいくってなら嬉しいし。
毛玉君より愛ちゃん達が俺は好きだからね」
ふふっと笑えば、
「うん、僕頑張るっ」
愛ちゃんは頷いた。
愛ちゃん、可愛い。
やっぱり親衛隊メンバーのわんこ達を見るといやされるよなあ。
そうやって愛ちゃんを見て癒されていれば、
「あ、理人君
近いうちに親衛隊の会議開きたいんだ。転入生についての」
愛ちゃんはそういった。
「会議ね、オッケー。
明後日以降なら俺はいつでもいいから決まったらメールして」
明日は、渉兄に問い詰める日だからね。
毛玉君の事、よーく聞かしてもらわなきゃ、ね。
「うん、わかった
あ、僕帰るね!」
「うん
またね、愛ちゃん」
そういって笑えば愛ちゃんは笑顔で返してくれた。