嫌われものの副会長が可哀想と思うほどの仕打ちを
主人公は敵には容赦がないので、ご注意ください。
「副会長はっけーん」
今は、放課後。
校内に人が少ない、薄暗い時間帯。
俺と隗は副会長を闇討ちすべく、仮面を付けて校内にいる。
誰かに見られたら変人決定だね。
とりあえず副会長が一人な事を確認したので、俺がばっと副会長の前に出る。
「何ですか、あな――」
副会長が怪訝そうに眉を潜めて俺に何かいいかけた時、ドカッと、打撃音を立てて、隗が副会長に後ろから蹴りをかましていた。
隗、ナイス!
相当な痛みだったのか、うめき声を上げて倒れた副会長。
「うっ…後ろからなんてひ……」
何かいいかける副会長を今度は俺が蹴ってみた。
そうすれば、副会長はうめき声と共に気絶する。
副会長が気絶した事を確認して俺は言った。
「……副会長って副総長のくせに弱くない?」
「…まあ、直哉さんは暴力的な強さっていうより頭脳的な考える戦い方するからな。
予想してない事には対処出来てなかったんじゃね?」
「予想外に副会長弱くてボコすのが可哀想に思えてきた…」
「だな、ボコさない代わりに他のをもっとひどい具合にしようぜ」
隗はそういって、楽しそうにニヤリッと笑った。
そんな台詞で笑うあたり、隗って黒いよね。俺も人の事言えないけどさー。
「じゃ、隗。とりあえず副会長屋上に連れていこうか」
「ああ」
というわけでささっと副会長を屋上に運ぼう!
隗が副会長の足を持って、俺が手を持って二人で運ぶ。
てか副会長結構重い。まぁ、仕方ない事だけどさ。
屋上に到着した。
副会長をこらしめるための道具は大量に屋上に既に持ち込まれている。
屋上に置いていた袋から縄を取り出す。
そうしている間に副会長の制服を隗は脱がせている。
パンツ一丁にする。
そして隗は、袋からボロボロの汚い雑巾を取り出して、副会長の口に突っ込んだ。
本当、えげつないよね、隗って。
「はい、隗」
俺はそう言って、袋から取り出した墨を隗に渡す。
隗は筆で、パンツ一丁の副会長に落書きしはじめた。
俺は俺で縄で副会長の足をきつくしばる。
そして縛り終えると副会長が起きないように、催眠効果のある香りのを副会長の鼻に持っていく。
「さてと、隗、一端どいて」
俺はそう言って、隗を退かせて、袋に突っ込んであったゴミを眠ったままの副会長にぶっかけた。
それは、生ゴミである。
「うわ、くせえ」
「うん、臭いね。
生ゴミって威力抜群だよね、本当」
俺は軍手を手にはめながらそういう。
そして軍手を見につけたまま、副会長の艶のある髪(といっても生ゴミで臭い)をぐちゃぐちゃにする。
隗は隗で落書きを続行している。
エセ紳士とか、墨で隗が書いてて何か面白い。
副会長の髪を荒らした後、俺は袋に入れていた甘い蜜を副会長の顔にぶっかけ、髪にもたっぷり塗る。
「蜜塗ってどうすんの?」
「鳥とかに攻撃されてもらおうと思って」
「なるほど。
でも生ゴミの匂いで臭いし、よってこなくね?」
隗がそんな事を突っ込むけど、とりあえず目的は副会長を不潔にすることなのだから問題はない。
「ま、いいんだよ。
とりあえず清潔が好きな副会長を不潔に出来れば」
「さて、隗これぐらいでいいかな?」
「いいだろ」
目の前にいる副会長は墨の落書きで埋め尽くされ、生ゴミを体にまとい、髪はぐちゃぐちゃで顔や髪に蜜が塗られた状態。
そんな副会長の体を縄できつく縛り付け、手も縄で結ぶ。
副会長の手を縛り付けていた縄の余った部分を、屋上の柵にきつく、取れないように結びつける。
ちなみにその間隗はカメラで副会長を撮りまくっていた。
きっちり結ばれている事を確認して俺は隗に言う。
「隗、そっち持って」
「ああ」
隗に副会長の足の方を持ってもらって、二人で副会長を持ち上げる。
そして……、副会長を落とした。
要するにバンジージャンプって奴☆
副会長はそのままに落ちていき、丁度一階と二階の境目ぐらいに吊るされている。
屋上ってあんまり人来ないから放置は可哀想ってわけで人目につくようにバンジージャンプさせたんだよね。
下駄箱の真上だから皆、皆ちゃんと副会長の事見つけてくれるだろうし。
「さて、帰ろうか
やる事はやったし」
「おう
明日が楽しみだな」
そうして俺たちは笑いながら屋上を後にした。
ふふっ目が冷めた時の副会長の反応が楽しみだ。
*三谷直哉side―
チュンチュンという、小鳥の鳴き声がする。
ざわざわ、と何かがざわめいている音がする。
「ふ……さまが!」
「キモ……」
誰かの声が聞こえてきて、私は目を開きました。
「―――っ」
目の前の光景に私は絶句します。
視界が高いのです。
私の手は縄で結ばれ、その縄は屋上へとつながっています。
手も足も動かせません。
―――私は、吊るされている!?
それを理解して、私は自分の状態を見るために下を向きます。
「な、何ですかこれはぁああああ」
私は、パンツしか履いていなかった。
そして臭い匂いが私を多いつくし、体中は黒い何かで落書きされていた。
ピチュ、ピチュと音が近くで聞こえて見てみれば、小鳥が私の頭をつついていた。
「いっ……や、やめなさいっ」
もちろん言葉は通じない。
見れば、登校してきた生徒達が私を見ている。
幻滅したように私を見ている生徒達がいる。
私の格好を見て笑っている生徒達がいる。
「見るな……私を見るなああああ」
叫べば、生徒達の嘲るような笑みは増した。
「副会長様不潔…」
「紳士だと思ってたのに…」
「丁寧な喋りかたが取れてらっしゃる…」
私を見るのを止めない生徒達。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしいぃいぃい!
それにしてもどうしてこんな事に…。
あぁ! あの仮面を付けた変な奴のせいです。
そんな思考に陥り、どうしてこうなったかを考えている中で、パシャ、パシャとフラッシュの音が聞こえます。
「私を撮るな! 私を録るなあ!
見るな、見るな!
こんなの私じゃない私じゃないぃ! 夢なんだあぁあああ」
夢だ、これは夢だ。
こんなのが現実なはずがない!
美しい私が、生徒達誰もに愛される私が!
こんな風に嘲られるなんて!
ありえないありえないありえない!
私はこの学園で最も美しい、最も人気な存在だ!
そんな私が、こんな…こんな………。
「うわ…………、直哉汚い!」
声が聞こえた。
大好きな人の声、操の声。
操に汚いって言われた…。
それにどうしようもないほど悲しみを感じる。
「操…っ」
私は操の名を呼ぶ。
「直哉……、響、直哉を助けてくれよ!」
「……自分で助ければ?」
「やだ!
汚いの触りたくない!」
………………あぁ、泣いてしまいそうだ。
*龍宮理人side
「んー…、いい眺めだねえ」
ふふっと笑いながら俺は画面越しに吊るされたままの副会長を見る。
別に俺は、正義なんてものじゃないから、ただ愉快だなと思った。
性格悪いって?
知ってるよ、俺はそんないい子なんかじゃないからね。
「やっぱりさ、潰しってのは盛大にやるからいいんだよねえ」
「だよなあ。
潰す奴に手加減しても仕方ねえし」
「ふふ、だよね。
てゆーか、毛玉君副会長の事汚いからさわりたくないって言ってんだけど」
ちなみに俺と隗が居るのは、空き教室。
真希のしかけた監視カメラとか盗聴器で会話を聞いてるだけ。
「やっぱ害虫って変な偽善者っぽいよな、気持ち悪い」
「だよね。副会長と仲良いならあんな副会長を汚いとか言わないで心配すればまだいいのに」
副会長を此処までやったのは、毛玉君の反応を見るため、でもある。
あれだけやられて汚くなった副会長にどんな反応をしめすか、それが見たかった。
毛玉君の言う"親友"がどんな存在なのかきちんと知りたかった。
結果として、毛玉君にとっての"親友"は何処までも薄いという結論に至った。
それならば、手を差しのべたい、潰す対象から外せるかもしれない子がいる。
―――篠塚響。
篠塚君を、こちら側に引き込みたい。
「それにしてもさ、隗」
「ん?」
「俺さ、愛ちゃんとかに優しいって言われるけど全然優しくないよね、俺」
副会長にした仕打ちを思い返して、俺はそう言った。
好きだから、優しくする。
嫌いだから、厳しくする。
俺は単純にそれをやっているだけ。
「まあ、潰す対象には優しくないな
でも、あんなに汚くしたのってさ。直哉さんの目を覚まさせるためもあっただろ?」
「そりゃあ…。副会長もあんな毛玉君のために一生使ったら可哀想じゃん」
毛玉君は、外見はもっさもさで気持ち悪いけど、性格は結構綺麗好きだって、噂に聞いてたし。
汚くして副会長を精神的に痛め付けて、あわよくば副会長が毛玉信者じゃなくなればいいな、とは確かに思ってたけど。
大体毛玉信者はある意味被害者だから。
毛玉君に出会わなきゃ、真っ当に生きてたかもしれない。
バンジージャンプは、ただしたくなったからさせただけだけど。
「大体さ、中途半端に潰したらせっかく毛玉君から離れてもまた戻りそうじゃん?
どうせやるなら、目を覚まさせるか、二度と毛玉君の前に姿を現せないほどの状況を作るかのどちらかじゃん。
副会長のは、まあ両方やったけどね」
毛玉信者を確実に毛玉信者から外す事。
俺がまずしたいのはそれだから。
せっかく潰したと思って、また戻られたらたまったもんじゃない。
徹底的に潰すって行為は、副会長を毛玉信者から外す行為に繋がる。
副会長のこれからのためにも徹底的にやった方がいい。
俺はそう判断しただけでそこに優しさはない。
副会長が毛玉信者ではない方が害にはならないし、世の中のためになると思っただけ。
「本当、理人って嫌い人間には害になるかどうかで考えるよな…」
「当たり前じゃん。」
てゆーか、俺副会長が毛玉信者じゃなければ潰しなんてしなかったと思う。
親衛隊の子は生徒会によって傷ついてたけど、親衛隊のわんこ達は生徒会の奴らが自分達に態度ひどいのをわかった上で、生徒会を慕っていたから。
大体ある意味副会長は見せしめにもなる。
――松永君、担任、副会長と来たのだ。
勘がいい人なら気づくはずだ。
毛玉君と仲良い人が次々と潰されている事に。
――あんな目にあいたくないと思って離れてくれれば一番いいのだ。
学園で権力もある実力者である副会長ですらあの様だ。
毛玉君と仲良い人が潰されてる事実に気づけば、頭の良い奴らは毛玉君から離れていく、そう思った。
「副会長がこれで学校やめるか、毛玉信者やめるかしてくれればいいんだけど」
「やめるんじゃね?
直哉さんプライド高いし今の状況耐えられないだろうし」
そんな会話をした次の日―――副会長が転入したという話を聞いた。
副会長、潰し終了――。




