佐原理人と渕上隗
「翔兄っ!」
週末、俺は龍宮家次男の翔兄に会うために実家に帰ってきた。この前は翔兄には会えなかったからなあ。
それに、担任が未だに学園を止めずにいるからな。
恥ずかしい思いさせてから、人前には出てない行方不明状態だけど。どうせなら、徹底的に消えてもらわなきゃ、ね?
「久しぶりだな、理人」
翔兄はそう言って笑う。
翔兄は背が高くて、かっこいいから俺の憧れ!
だから会えると嬉しい。
俺翔兄の事大好きだし! 俺も翔兄みたいにかっこよくなりたい。
「ねえ、翔兄。
克典君の弟にさ、会った事ある?」
俺はそう言って、翔兄を見る。
翔兄と克典君は仲良しだし、もしかしたら会った事ある可能性もあるしね。
「克典の弟――?
正典の事か? 数年前に一度会った事あるがそれがどうかしたか?」
「あのね、克典君の弟さうちの学園の教師なんだよね。
でさ、俺襲われかけたんだけど」
そう言って、翔兄を見れば、一瞬理解出来ないという顔をする翔兄。
しかしすぐに意味を理解して翔兄はそれはもう恐ろしい顔を浮かべていた。
「へぇ……」
わー、翔兄めっちゃ声低い。
まあ、翔兄って家族思いだからね。
ふふ、あんな毛玉信者なんて潰れちゃえ、としか思えないよね。
「とゆーわけで、別にあんな変態に襲われようが俺はぶちのめせるけど、他の生徒襲う可能性もあるしさ。
翔兄の方から克典君に頼んでくれない?」
にっこりと笑ってやれば、翔兄も笑った。
「理人さ、襲われた事相当むかついてるだろ?」
「当たり前。
二回も襲ってきたし」
「ほぉ、二回もか……」
「そうなんだよ!
だからもうあんなのと同じ学園いーや!
ってわけで克典君に頼んでよ、寧ろ宮財閥から戸籍外していいと思う
あの変態、自分ん家の権力使おうとしてたし」
本当に、あんなのが克典君の弟とか…、克典君がかわいそう。
翔兄は俺の言葉にスマホを取り出す。
そしてその黒いスマホを操作すると、すぐにそれを耳に当てた。
どうやら電話をかけているらしい。
「よお、克典」
どうやら克典君に電話をかけているらしい。
克典君の声は聞こえなくて、翔兄の話す声だけが俺の耳に響く。
「お前の弟変態だったんだな」
ちょ、翔兄。
いきなりそんな話するのか。
克典君きっといきなり何だよって思ってるだろうねえ。
「いや、だって嫌がる奴に無理矢理襲いかかろうとする奴なんだろ、性的な意味で」
翔兄は直球である。言い方に悪意がある。まぁ、翔兄も怒っているんだろうけど。
「確かな話だ。
だって理人が言ってたし。
ところでさ、お前の弟潰していい?」
問いかけながら翔兄は笑っている。
「だってお前の弟が襲ったのって俺の大事な理人だし
というわけで学園止めさせるぐらい出来ない?」
その後すぐに翔兄は俺にスマホをつき出した。どうやら克典君が代われとでも言ったらしい。
俺は克典君と会話をするのも久しぶりだから嬉しくなって声をあげる。
「久しぶりだね、克典君!」
『ああ、久しぶりじゃなくて!
正典が理人襲ったって……マジ?』
克典君の声が聞こえてきたので、それに対して俺は答えた。
「うん、本当の事だよ
しかも宮財閥の権力使おうとしてるし
はあはあ、って興奮しながら襲ってきて気持ち悪かった」
あれは思い出したら鳥肌物だよね。マジキモすぎ。
大体無理矢理で興奮するってマジ近いうちに強姦魔になりそうで危ないってーの!
『それは………、確かに気持ち悪いな』
ふふ…、兄にまで気持ち悪いなんて言われるなんてあの変態哀れだよねえ。
まあ、克典君はノーマルだしね。
男同士に偏見あるわけではないけど、自分は男と付き合うなんて絶対嫌だってのが克典君だし。
「俺に不愉快な思いさせるから恥かかせたのにさ。それでも俺を襲おうとしてさ、ぶっちゃけうざいんだよね」
『………そうか。
学園辞めさせて家に連れ戻せばいいのか?』
「そ、あの変態邪魔だし。
あんなのが学園の教師とか最悪だし。
ついでにもう二度と強姦未遂なんてしないようにしてほしーな」
『ま、強姦なんてする奴は弟にいらねえしな
そこらへんは俺がしっかりしつけとくよ』
「ふふ、変態のしつけ大変そうだけど頑張ってね」
『おう』
そんな会話をして、俺は電話を切った。
さて、これで変態はオッケーだよね。
克典君も強姦とか嫌いだし、しっかり変態をしつけてくれるだろうし。
「はい、翔兄」
そう言って、俺はスマホを返す。そして俺は続けて言った。
「俺、ちょっとでかけてくるね」
*渕上隗 side
俺は今、『ブレイク』の溜まり場にいる。
そして何故か目の前には、あの害虫……香川操がいる。
「操、私の物になりなさい
優しくしてあげますから」
「みさちゃんさー俺とヤらない?」
「操は僕のだもんっ」
………何やってんだ、こいつら。
いや、螢のだもんは滅茶苦茶可愛いけどよ。直哉さんも、義彦さんも何か気持ち悪い。
てか、総長は何故か害虫に群がってないが、どうしたんだろうか。ついこの前まで超群がってたのに。
というか、螢があんな害虫に夢中なのが気にくわない。
俺の可愛い弟が、あんなうざい奴に夢中とか嫌だ。
理人はあの害虫とその信者潰すって言ってたから、それまでに螢を害虫信者じゃなくしなければ……。
俺は螢が入るって言ったから『ブレイク』に居るだけだし……、正直、直哉さんや義彦さんとか総長みたいな性格の奴好きじゃないし。
あ、螢はもちろん可愛い弟だし好きだし、由月は総長達みたいにウザくないから別に普通。
ちなみに俺と由月は今生徒会の仕事してる。
とはいっても、行事は基本二学期にあるから今は一番忙しくない時期だけどな…。
でも三人もサボってるから忙しい。
つか総長……、害虫も口説かずぼーっとしてるだけなら俺と由月の手伝いしやがれ!
そうしていれば害虫に声をかけられた。
「なあ、隗、由月!
お前らも一緒遊ぼうぜ!」
「んー、今僕忙しいんだよね」
何か自分で言っててキモいな。
しかし、まぁ……そっくりな双子演じたいって螢が言ってたからな。
ま、俺の演技に騙されんの見るのは面白いんだけどさ……、害虫に呼び捨てにされるのか最悪。
大体害虫のせいで俺と由月は今仕事してるってのにさ…。
「えー何でだよ!
俺達親友なんだし、親友が誘ってんだから、遊ばなきゃ駄目なんだぞ!」
………誰と誰がいつ親友になったんだよ。
大体学園で螢と一緒に害虫に構ってるから週末や夜とかに生徒会の仕事しなきゃ間に合わないんだよ…。
「隗、操が誘ってるんですから……」
「みさちゃんは皆で遊びたがってるんだぞ!」
……ああ、もう何このウザさ。
というか俺、害虫が理解出来ないんだけど。
理人に電話で聞いたけど、害虫の友人を理人潰したらしいじゃん。
それなのにその友人の事を害虫はもうどうでもいいって思ってるっぽいし。
つか害虫って何で総長や直哉さんや義彦さんに迫られるのを普通に受け入れてるんだろうか。
俺なら絶対嫌だ。
「んー、僕も遊びたいんだけどー。生徒会の仕事たまってるから」
「隗! せっかく操が溜まり場に来てるっていうのに…。何で生徒会の仕事先に終わらせないんですかっ」
ちょっと待て、直哉さん…。
何で生徒会の仕事先に終わらせないんですか? って、お前らがサボるから終わらないんだよ
一回思いっきりぶちのめしたい。
俺、直哉さんと本気でやりあった事ないからなあ…。まぁ螢より喧嘩強いのに、それも合わせてるからなんだけど。
「な、直哉さん!
遊びましょう!」
螢は俺が怒ってる事に気がついたらしく、慌てたように直哉さんにそう言った。
「えー俺、皆で遊びたい!
生徒会の仕事なんていつでも出来るだろう、遊ぼうぜっ」
「………おわ……ない」
害虫の言葉に答えたのは由月だった。
うんうん。本当今やらなきゃ終わらないからな。
大体、俺と由月で五人分の仕事やってるわけだし……。
そういえば、由月ってつい最近まで害虫にべったりだったのに、何か最近はべったりじゃないんだよなあ。
何でだろうか、後で聞いてみよ。
「終わらないとは何ですか! 操が誘ってるんですから、そんなの放置してこちらに来なさいよ」
そんな声を上げる直哉さん。
………だから、うぜーよ、直哉さん。苛々してきた。
「暁もそう思うでしょう?」
「………」
そして会長はぼーっとしすぎだろ。
「暁、聞いてますか?」
「え、あ? 何がだ?」
確実に聞いてなかったな、総長……。
とりあえずどうでもいいから生徒会の仕事させてくれ。
つか、やれよ、生徒会の仕事。
休日にまで害虫に構わなきゃとか勘弁してほしい。
「はあ……暁、ぼーっとしすぎですよ。
操が遊びたがってるんで、遊びましょう」
「ああ、いいぞ」
「……総長、直哉さん。僕は遊ばないからね!」
というか、こいつらって馬鹿だよな。
俺の演技に気づかないし。
ま、直哉さんの分かりやすい作り笑顔と違って俺の演技は完璧だし?
害虫も俺の演技に気づいてないしな。
「何でそんな意地悪いうんだよ……隗、ひどい………っ」
………はぁ、何こいつ。何で泣くんだ?
簡単に泣く奴って好きじゃねえ。
まあたまにすぐ泣く可愛い男をあっちから望まれて抱く事あるけど。
つかウザすぎてぶんなぐりたくなる、真面目に。
「お………も、あそ……ない」
由月も遊ばずに仕事してくれるらしい。
やっぱり、由月はいい奴だな、と思う。
それに比べて……、
「何、操を泣かせるんですか!」
「みさちゃんを泣かせるな」
こいつら何なわけ?
直哉さんと義彦さんって意味不明。
ちなみに総長は何故かまたぼーっとしてる、いつも変に俺様な総長がぼーっとしてるとか逆に気持ち悪いな。
「な、直哉さんも義彦さんも、そんな隗を責めないで…」
螢は必死に二人にそう言ってる。
まあ、螢は俺の素の性格知ってるし、流石に怒ってんのわかってるんだろう。
「直哉さん、義彦さん……そういう事は生徒会の仕事やってからいってくれると僕嬉しいなあ。
あと操さ、僕にも都合があるんだから、泣かれても困っちゃうよ…。
僕達親友何でしょ? 親友の事困らせないでよ」
本当にさ、親友親友いうなら逆に困らせるなってーの。
演技している最中なのにキツくいってしまった事は自分で理解出来ている。
直哉さんや義彦さんだって一瞬驚いたような顔をした。
螢はあたふたしている。
害虫は相変わらず泣いて、
「何で親友にそんな意地悪いうんだよぉ」
なんて言ってる。
というか害虫の声って男にしては高くて気持ち悪い。
ウザったくて、ムシャクシャしてきた。
害虫が居る所に居たくない、そう思ってくる。
生徒会の書類を重ねて、鞄の中に突っ込む。
「僕、帰るねー」
そう言って、その顔に笑みを張り付ける。
そうすれば、直哉さんと義彦さんが、俺を責める言葉を吐いた。
「なっ、操に謝りもしないなんてっ」
「みさちゃんに謝れよ!」
馬鹿らしい、と思う。
生徒会の一員のくせに、仕事をしないで害虫になんか構って。
俺は馬鹿にしたような笑みを浮かべて、
「じゃ、バイバイー」
なんて言って、幹部室を後にする。
後ろからバタバタと俺を追いかけてくる、音が聞こえた。
下っ端達の居る、一階へと降りれば、『ブレイク』のメンバー達が俺を見た。
「隗さん、帰るんですかっ」
「うん、バイバイー」
笑みを作った瞬間、何人かの顔が赤く染まる。
――同性愛を否定なんてしないけど、ホモとバイばっかの『ブレイク』って何なんだろうと思う。
ノーマルの連中からすればさぞ恐ろしい場所だろう、ここは。
「隗さん、可愛いな」
「やべっ、なんかたつんだけど」
……はあ、気持ち悪い。
笑顔ぐらいでたつってどんな欲求不満野郎だよ。
出入口に向かって歩いていたら、
「隗っ、待って」
「………か……い」
螢と由月が俺に追いついて来た。
「隗……えっと、ごめんね」
戸惑いながらそう言う、螢。……可愛いなぁと苛立っていた心が和む。
「螢も由月も僕とお話しよー」
俺はそう言って、二人を連れて、溜まり場から出ていく。
溜まり場から出て、静かに慣れる場所が何処かないかなんて思案しながら歩く。
「隗…、これ……から、ちゃんと、僕も仕事する!
隗に……、負担かけてたのに、操と一緒に居たいからって、ごめん」
螢がしゅん、とした顔をしている。
螢は害虫信者になるような馬鹿な子だけど、根は優しいからなあ…。
「そうか、螢はいい子だなあ」
そう言って、螢に笑ってやれば螢は嬉しそうな顔をする。
あ、由月は俺の素を知ってる。
てか何故かバレたし、由月にならいいかなってばらしてるし。
「螢さ、あんな害虫の何処がいいんだ?」
「害虫って! 幾ら隗でもそんな事言うのは許せないよ
操は僕らの見分けつくんだよ!」
本当、螢は馬鹿だなぁ。
まあそこが可愛いんだけど。
見分けつく奴なんて他にもいるってのに、害虫しか見分けつかないみたいに言うなんてさ。
「でも螢、俺らの見分けつく奴なんて他にもいるだろ? 何であんな害虫なんだ?」
「他にもって……」
「ほら由月だって俺らの事間違わないし、母さんだって、父さんだって間違わないし…。
俺らの事キャーキャーいう学校の奴らだって間違わない
それなのに何であんな害虫?」
そう言って俺は一端言葉を切っていう。
「俺、螢の事大好きだよ。大事な弟だし。
だから螢に好きな人が出来るのは別に構わない
けど、あいつは嫌だ。
螢には悪いけど俺はあいつが嫌いだ。
害虫のせいで生徒会の仕事はかどらないしさ」
真っ直ぐに螢を見つめれば、螢は黙り込む。
あんな害虫に惚れ込む螢が、俺には理解出来ない。
螢を見つめる俺と由月。
そして黙り込む螢。
そんな中で声が響いた。
「わー、隗かっこいいねえ」
振り向けば、フードを被った男が居る。
俺はその男を見た。
声と口調でそれが誰かなんてすぐにわかった。
「………理人」
そう、そこに居たのは理人だった。
*龍宮理人 side
「わー、隗かっこいいねえ」
街を徘徊していたら、隗、渕上君、安住君に遭遇した。
隗とは仲良くなったし、安住君は真希が大好きだし……、ま、いいかなって事で話しかけた。
だって、なんか隗のブラコン台詞かっこいいし、やっぱり面白いね、隗って。
「……理人」
隗が驚いたように俺の名を呼ぶ。
渕上君と安住君はそんな隗の態度に驚いたような表情を浮かべる。
「か………い、さ……らり……とと、しり……い?」
「隗、この人誰?
隗が素を見せるなんて珍しいし」
渕上君とは初対面だし、俺警戒されてるっぽいね、微妙に睨まれてるし。
「…理人、俺らの関係ってなんだ?」
「さあ?
直接会ったの二度目だしねえ
ま、俺は隗の事気に入ってるよ?
だからお友達でいいんじゃない?」
実際俺は隗の事気に入ってるしね。隗は面白いからね。
「隗の友達…?」
渕上君は不思議そうな顔をして、俺を見る。
友達で何かいけないんだろうか、なんて思って首をかしげていたら、隗が言った。
「あー、俺基本的に演技してるし、友人とか作らないから」
「へえ…。面白い事やってんだね」
「俺螢が居ればよかったし、なんというか騙されてる奴見ると面白い」
「あ、それわかる。
なんていうか、騙される奴みると滑稽だよね。」
「だよな、馬鹿ばっかで笑える」
「つかさ、副会長の作り笑いが一番アホらしいと思うんだけど
あれ、バレバレじゃん?」
本当、可愛いわんこ達も気づいているのに、自分では気づかれてないと思ってるからな。
ナルシストで自分の作り笑顔に自信満々とか気持ち悪いよね。
「それは言えてる。
直哉さんって本当作り笑いとか下手すぎ
あんなバレバレの作り笑いならやる価値ないと思う」
「だよねえ
やっぱりさ、演技ってのはバレないようにやるから面白いんだよ
その点隗の演技はいいよ、親衛隊の奴らも騙されてるし」
ふふ、と隗に向かって俺は笑う。
「そりゃあな、バレないようにやるからこそこういうのは面白いし」
「ふふ、隗って本当いい性格してるよね」
隗って面白いなあと思いながら話していれば、渕上君が口を開いた。
「えっと、名前は?」
「俺? 俺は佐原理人だよ」
にっこりと笑ってそう言ってやれば、渕上君は何かを考えた後に俺をきつく睨み付けた。
「あらら、俺嫌われてる?
あ、そっか。あの毛玉君が俺に苛められたって吹き込んだんだっけ」
「そうだ、聞けよ、理人。
あの害虫今俺ん所の溜まり場居るんだけど」
俺が毛玉君、と口にすれば、隗は思い出したようにそんな事を言った。
……毛玉君が、『ブレイク』の溜まり場にいるって。
毛玉君って、『龍虎』の『妃龍』だよね?
敵チームの溜まり場にいていいのか……?
「安住君、渕上君――ちょっと隗借りていい?」
安住君は俺の事好きなわけじゃないし、渕上君ってもろ俺の事睨んでるし。
渕上君に関しては余計な情報与えたら広められそうな気もするからな。
『ブレイク』の幹部は『妃龍』を追いかけてるって聞いてるし。
多分隗は演技で追いかけてたんだろうけど。
「なっ、操を苛めてる奴と隗を二人きりなんて…」
「別に苛めてないし。
てか渕上君さ、あの毛玉に惚れるとか目がイッテるよね」
「理人、螢は馬鹿だから害虫の悪い部分が見えてないだけだ」
「う……、隗馬鹿ってひどい!」
渕上君はショックを受けたような顔をする。
「螢は馬鹿でもいいんだ。馬鹿な所も可愛いから」
「隗って、渕上君の事好きだよねえ
ま、俺にも弟居るしその気持ちわかるけど」
「理人、弟いんの?」
「うん
今中一で滅茶苦茶可愛い」
「へえ……」
隗は興味深そうに笑ってる。
今度隗と都を引き合わせてみるのも楽しいかもしれない、なんて考える。
俺は渕上君と安住君の方を見て言った。
「渕上君、安住君。
俺、別に隗に危害加える気ないし。
てか隗は面白いからね。俺面白い奴好きだしさ
ちょっと隗貸して」
安心させるようににっこり笑ってやれば、渕上君は渋々といった形で了承する。
安住君に限っては俺が真希の親友だから大丈夫とでも思っているらしい。
――二人で話をするために俺らは公園に入った。
公園に、他に人影はない。俺らは、ベンチに腰かける。
「で、何?」
「あーとね、隗。
毛玉君が溜まり場いるんだよね?」
「ああ。居るな。あの邪魔な害虫」
「毛玉君が『龍虎』の『妃龍』だって、隗知ってる?」
多分知らないだろうな、なんて考えながら俺は言った。
「は?」
案の定隗は驚いたような表情を浮かべていた。
「ふふ、隗ってば驚きすぎ」
その表情が何か面白くて笑ってしまう。
「……あの害虫と『妃龍』が同一人物」
「てか隗さ、俺『ブレイク』の総長とか幹部は『妃龍』追いかけ回してるって聞いてたけど……。隗って『妃龍』の事好きなの?」
多分渕上君に合わせて追いかけ回してただけだろうな、なんて考えながらからかうように笑ってやる。
「んなわけないだろ。
螢が気に入ってるから一緒にやってただけだし。
つかあいつと害虫が同一人物って…、お前それ本当か?」
「うん。
『銀猫』と俺親友だから調べてもらったんだ」
『銀猫』と親友と言った瞬間、ますますその瞳は見開かれた。
「あはは、さっきから驚いてばっかだね、隗」
「そりゃな…。
理人って本当、面白いな」
「ふふ、隗だって面白いよ?」
俺と隗って結構似た者同士だと思うんだよね。
何ていうか、隗は面白ければいいみたいだし。
あと多分渕上君とか仲良い人に危害加わらなきゃどうでもいい、みたいな感じだよね、隗って。
「とりあえずさ、『妃龍』である毛玉君が『ブレイク』の溜まり場にいるって、何か色々駄目な気がするんだけど」
「確かにな。
つか敵同士なのに溜まり場に来るとかあの害虫やっぱり嫌いだ
なんていうか、害虫は誰にでもいい顔しすぎっていうかさ」
「わかる、それ。
毛玉君って自分を好いている人間なら誰でもいいって感じじゃん。
それで皆友達、自分を否定する奴は苛めっ子って……、毛玉君って馬鹿だよね」
「きっと頭おかしいんだろ
あいつ、総長達に追い回されてた時も何か幸せそうに笑ってたぞ
『龍虎』のメンバーと総長達が言い争うの見ても笑っててさ
なんか正直気持ち悪い」
隗って気持ち悪いとか心の中で思いながら、『妃龍』の前では笑顔だったんだろうな。
何か黒いよね、隗って。
それにしても毛玉君は男に狙われて楽しいのかね。
てか状況楽しんでたりしたら性格最悪だよね。
「確かにそれは気持ち悪いよねえ。
てゆーかあの性格と仲良くするとか俺無理。
大体さ、毛玉君が転入してきたせいで、可愛い可愛い親衛隊メンバーが悲しい思いしてるしさ」
「親衛隊か……。てか何で理人って親衛隊入ってんの?」
「あー、俺二年前に学園に転入してきたんだけどさ。
なんていうか強姦とか大量発生してんじゃん?
俺無理矢理って嫌いなわけ。だから、無くしちゃおう、と思って」
本当、転入当時はひどかった。
なんていうか、四宮学園って滅茶苦茶広くてさ。
風紀委員とかも強姦防ぐために見回りしてたらしいけど、大量発生してて。
生徒会親衛隊の当時の隊長はいい先輩だったんだけど、メンバーの多さに管理をちゃんと出来ない人だったっていうか…。
というより、甘かったんだよ。先輩は。
強姦した人を簡単に許してしまって、何をしても許されると思った親衛隊メンバーは本当好き勝手してた。
昔の生徒会親衛隊のメンバーにはもちろんいい子も居たんだけど、嫉妬で人を追い込む子とかも居たんだよね。
あ、今の親衛隊メンバーに昔は嫉妬で人を追い込んじゃってた子も居たよ。
だけどちゃんと話せばわかってくれる子も沢山居た。
わかってくれなくて強姦しようとする輩はもちろん排除したけどね?
俺、前隊長みたいに甘くないし。
「……強姦か、俺も嫌いだ」
「てかそんなの好きな奴とか潰れていいよね
ま、俺は親衛隊に入ってさ。嫉妬したからってやりすぎな奴とか排除したり色々しててさ。
そうしてるうちに、親衛隊メンバーが何か可愛く思えちゃって。
親衛隊メンバーと俺仲良いしさ、だから仲良しな子が毛玉君のせいでかなしんでるから、嫌だなって」
「へえ……」
「ふふ、今度隗の親衛隊メンバーに会ってみる?」
隗の親衛隊メンバーも結構居るしね。
隗様隗様って隗の事大好きな子が多いしきっと皆喜ぶだろうし。
「まあ、いいけど…。居心地悪かったらすぐ帰るぞ?」
「ふふ、いいよ。それで。きっと皆隗の事間近で見れるだけで嬉しいだろうから」
皆、演技してる隗を見てるんだろうけど。
演技してようがしてまいが、隗は隗だし。
「てか隗ってさ、いつまで演技すんの?
演技して毛玉君追いかけるとかダルくない?」
「滅茶苦茶だるい…。面白そうだからって三年も演技してたけど、なんか害虫ウザイ」
隗がダルそうにいい放つ。
そりゃそうだよね。
演技してあの毛玉君を追いかけ回すとか、本当疲れそう。
「じゃあさ、もう演技止めちゃえば?
俺、素の隗の方が演技してる隗より好きだよ」
にっこりと笑ってやる。
「お前なぁ……」
「ふふ、隗照れてる?」
「そりゃ……、そんな笑顔でそんな台詞言われるとか…何かハズイ」
照れてる隗、何か可愛い。やっぱり隗っていいキャラしてる。
「………素で行くのもいいかもな」
「ふふ、ならさ。毛玉君の周り排除した後までさ、毛玉君の味方のふりできない?」
「まあ、いいけど…」
「それでさ、毛玉君の周りに信者が居なくなった後に、隗が素見せれば毛玉君に大ダメージじゃない?」
俺がそう言えば、隗は笑った。
「それはいい考えだな」
「てかさ、隗
とりあえず一緒に誰か潰さない?」
にっこりと笑ってそう言ってやれば、隗も口元を緩めた。
―――二人で潰すとか、滅茶苦茶楽しそう。
それを思って、心が弾む。
「……誰を潰す?」
「んー隗と仲良くなった記念に隗が潰したい奴でいいよ?」
「じゃあ直哉さんか義彦さんがいい」
「ふふ、そんなに奴らウザイ?」
「そうだな……、ぶん殴ってボコボコにして海に捨てたいぐらいウザイ」
「ふふ、じゃあ、副会長潰そうか」
俺も副会長嫌いだしね。
あんなバレバレの作り笑顔に気付いたからって毛玉君を気に入ってさ…。
それに隗にも酷い態度してるみたいだし!
思い切って潰しちゃおう。
「どんな潰し方する?」
「……直哉さんナルシストだしさ。そこらへんで潰せば?」
「あ、そっか!
恥ずかしいボロボロの格好を人前で晒せばいいんじゃない?」
名案だよね。
副会長ってナルシストだし、きっとショック受けるはずだし。
「いいな、それ。
あ、俺直哉さんぼこしたい」
「ふふ、やれば?
じゃあぼこして、汚い格好にさせちゃうって事で!」
副会長……どんな風に潰れてくれるかな? 楽しみだ。