第一会議室にて
「てめえらが操を苛めたのか」
「真希………お前が操を苛めるなんてどうしてだ」
今、俺、春ちゃん、真希がいるのは風紀委員達の溜まり場である第一会議室に来ている。
というのも今日松崎君が自主退学したのと、香川君が風紀委員に俺たちに苛められたと泣きついたからだ。
俺たちの目の前には、同じクラスの風紀委員の平野昌士君と、真希の思い人でもある鏑木美乃先輩がいる。
美乃先輩は明るい茶髪を靡かせた、背の高い先輩だ。
「美乃君っ、俺苛めてなんてない!」
「でも…真希、お前首締めたんだろ?
操に暴言吐くなんてどういうつもりだ?」
「それは……香川が理人を困らせるから……」
真希は鏑木先輩に対して強く出れないみたいだ。惚れた弱味だからか。しかし真希が弱弱しいってなんだか新鮮で面白い。
真希は必死に鏑木先輩と話している。
そして平野君は俺と春ちゃんをきつく睨み付けている。
「柏木……」
平野君が口を開いて、春ちゃんの体がびくっと震える。
平野君の視線が怖いとでもいう風に不安そうな顔をする春ちゃんを安心させるように、俺は手を握った。
「お前……操の親友だったたんだろうが
それなのにそんな淫乱な親衛隊と一緒にいるなんてっ
セフレにでもなったか?」
平野君は軽蔑したような瞳を春ちゃんに向ける。
「ちが……う
操の、親友…でもない
それ…に、理人は優しい人」
平野君に睨まれてすっかり脅えてる春ちゃんは声を震わせていった。
可愛いなぁ。必死で頑張って対抗しようとして。俺は頑張る子は大好きだよ。
「は? 操が親友だって言ったのに親友にならないなんててめえふざけてんのか」
平野君から殺気が漏れ出す。
……風紀委員って一般生徒を守る役割もあるのに、その風紀委員が春ちゃんを脅えさせて、何やってるんだか。
「平野君さ。親友って押し付けられる物じゃないよ?」
俺はにっこりと笑って続ける。
「平野君も、鏑木先輩も春ちゃんや真希を責めるのやめてください
俺が香川君と言い争ったんですから
だけど一つ言わせてもらいますが、俺は香川君を苛めてはないです。
ただ俺は自分の考えを言っただけ、それだけです」
「操は苛められたって言ってた」
「そうだ。操が嘘をつくはずないだろ
お前、親衛隊か?
真希、この親衛隊の奴に脅されでもしたか?」
うわ、鏑木先輩ひどいな。
まあ、鏑木先輩は真希が理由もなしにそんな事するわけないっては信じてるみたい。
よかったね、真希。
てゆーか香川君が嘘ついたんじゃなくて、香川君は苛められたって思い込んでるだけだよね。
「美乃君……俺脅されてない
理人は悪い奴じゃないし…、ごめん、美乃君
美乃君が気に入ってても俺は香川の事好きにはなれない」
真希は鏑木先輩に恋愛感情があるから鏑木先輩が大切に思ってる人を大切にしたい気持ちはあるんだろう。
だけど香川君には真希も苛ついてるしね
真希の言葉に鏑木先輩は何とも言えない顔をしている。
――真希の事は信用してるけど気に入った毛玉君を真希が嫌うなんて。そんな思いなのだろう。
「菅崎……てめえ操の事好きになれないってなんだろ
操以上にいい奴なんていねえよ」
「平野は黙ってろ
俺は美乃君と話してんの!
それに香川以上にいい奴ならいっぱいいるだろ」
「……真希。どうしても操と仲良くできないのか?」
「ごめん…。美乃君俺それは出来ない」
真希、鏑木先輩、平野君の会話を俺と春ちゃんはただ椅子に腰かけて聞いていた。
そんな風にしていれば、
「……佐原、お前今度は何した?」
そう言って、小長井先輩が第一会議室に入ってきた。
「小長井先輩こんにちはー」
とりあえず、笑って挨拶をする。
小長井先輩はそれに、おうとだけ答え、近づいてきた。
鏑木先輩と平野君は小長井先輩に挨拶をする。
「本当に今度は何した?」
「何って、ただちょっと香川君と色々あったら香川君ってば、風紀委員に泣きついたらしくて
それで呼び出された感じです」
てゆーかさ、毛玉君って仮にも『龍虎』の総長なのに簡単に泣きついたりしてプライドないのかね?
俺なら男に泣きつくとか女々しい真似したくない。俺はかっこいい男を目指しているからね。
「そうか…
それだけなら帰っていいぞ」
小長井先輩は何か思案する表情を浮かべて、そういった。
「委員長!
こいつらは操を――」
平野君が反論するが、
「別にこの前と違って殴ったわけではないだろう。それなのに罰する事は出来ない」
小長井先輩はそう言うと目を細めて、平野君を見る。
「平野。
風紀委員は公平の立場でみる必要がある。
香川に入れ込むのは構わない、勝手にやってくれ
だけど風紀委員に私情を持ち込むな
香川が何ていったかは知らないが、泣きつかれたからと一々相手を罰するなんてする必要はない」
小長井先輩がはっきりとそう言えば、平野君は言葉につまったかのように口を閉じた。
それを確認すると、小長井先輩は次に鏑木先輩を見た。
「鏑木、お前もだ
お前は先輩だろうが、一緒になって香川の味方をしてどうする
風紀の一員として平野に注意もせずに一緒になってやるなんて、風紀としての自覚がないのか」
平野君も鏑木先輩も気まずそうな顔をしてる。
風紀委員内では、風紀委員長の力は絶対なんだねえ。
さっきまで喚いてた平野君が大人しくなってるなんて、何か愉快。
さて、用もないし帰るとしますか。
そう思って俺は立ち上がって、真希と春ちゃんに声をかける。
「真希、春ちゃん
行こう」
それに対して、ずっと鏑木先輩を見つめていた真希も、会話を聞いていた春ちゃんも頷いて立ち上がる。
「小長井先輩さようなら」
俺はそう言って、真希と春ちゃんと共に第一会議室を後にした。
*鏑木美乃side
パタンとドアがしめられる。
真希が、第一会議室から去っていた。
何で、どうして……真希は操を好きになれないなんていうんだろうか。
真希とは幼なじみだから、真希がどんな奴か俺は知ってる。
ヤクザに生まれたから誰からも怖がられていたけど真希は優しいって俺は知ってる。
その真希が、親衛隊の、操を苛めたであろう男を庇ったのだ。
………わからない。
操は苛められたと言った。
だけどこちらでは違うと言われる。
操を信じたいけど、真希は俺には嘘はつかない。
……操は苛めたって嘘をついたのか?
わからない…。でも操と仲良くなるなら、真希との仲が拗れるかもしれない、そう思うと操を気に入ってても関わるべきではないかもしれないと思った。
とりあえず……真希に後で詳しく話を聞こう…。
「鏑木、平野」
そんな事を考えていたら、委員長に名前を呼ばれた。
俺はそれに反応する。
「……お前ら、香川と仲良くしたいなら此処に連れ込まず、外でやれよ
真面目に仕事してる奴らが、香川が煩くて困ってるんだ」
それに俺ははっとなる。
そういえば操はこの第一会議室で騒ぎまくっていた。
真面目に仕事をしている面々からすれば迷惑以外の何でもないのだろう。
「そんな……操を迷惑だなんてっ」
「平野、迷惑なもんは迷惑なんだ。
やるならよそでやれ」
委員長が平野を睨めば、平野は何も言えなくなる。
委員長は、風紀の中では絶対的存在だ。
そんな存在に平野が口で勝てるはずもない。
「すみません、委員長」
俺は正直に謝った。
操を気に入ったからと連れ込んで、風紀委員の仕事を邪魔してしまったのは事実だったから。
素直に謝った俺に、委員長は「これからは迷惑かけないようにな」と笑った。
*龍宮理人side
第一会議室を後にした俺達は、空き教室へと向かっていた。
並んで歩く中で、真希が口を開く。
「そういえばさ、理人。松崎をさ、退学に追い込むだけでよかったのか?
理人の事だからもっと徹底的にやるかと思ったんだけど」
そんな事を言う真希に思わず笑ってしまった。まぁね、俺がそれだけで満足するわけないって真希はわかっているよね。
「ふふ、本当に俺が退学に追い込むだけだと思ってた?」
「わー、って事は何かやったのか」
「もちろん。
松崎君の家って葉月ん所の下の会社だから手回ししてもらったんだ」
そう松崎君の会社は葉月の家の下。
だから俺は、
「松崎君が退学になって帰ってきてから一年間、松崎君を助けてはいけないって松崎君の両親にいってもらったの」
そう、葉月に頼んだ。
松崎君はいい所のお坊ちゃんで苦労を知らずに生きてきたはずだ。
だから一年間自分で生きていかなきゃいけない、ってのは彼にとっての地獄のはずだ。
「へえ、やる事が理人らしいね」
「理人、そんな事したの?」
面白そうに笑う真希と驚いたような顔をする春ちゃん。
とりあえず、松崎君は潰したし、篠塚君は多分大丈夫だとして、あと毛玉信者は誰がいるっけ?
生徒会……安住君を除いた奴ら。
風紀委員……平野君を含む何人か。
あとは、『龍虎』のメンバーと、担任か。
平野君はあれだけ言っても毛玉信者っぽいから多分潰さなきゃだよなあ…。
鏑木先輩は真希に任せるとして、次は誰と接触してみようか?
喋ってみないと、わからないからな、潰す対象かどうか。
……考えるのが、面倒。
うん、成り行きに任せよう、それが一番だ。
俺が把握してない毛玉信者もいるかもだし