成敗完了&遭遇 下
「あ、あれ放置してよかったの?」
廊下を歩く中で、後ろを気にしながら春ちゃんが言う。
「いいのいいのー
松崎君を孤独にするのは成功したし、松崎君の味方はゼロに近い感じだし!」
そうだ。最近松崎君は常に毛玉君と一緒にいた。
毛玉君さえ居ればいいって他のクラスの友人とかを拒絶していた。
松崎君の友人達は松崎君の感じが悪くなったと思っていたはずだ。
そんな中で友人を裏切ったという噂が出回るのだ……、そして毛玉君に嫌われたという事は生徒会などの人気者を敵に回したと一緒。
松崎君程度の人間じゃ、その孤独に耐えられないはずだ。
そんなことを考えていたら、真希が口を開いた。
「理人、親衛隊の奴らも動かすのか?」
「うん。動いてもらうよ。
生徒会親衛隊メンバー、総勢700人が、松崎君の悪い事実を一斉に流すんだ。
全校生徒にすぐ広まるはずだよ」
「生徒会親衛隊って700人もいるの!?」
俺と真希の会話を聞きながら驚きの声をあげたのは春ちゃんだ。今は授業中なのもあって廊下には俺たち以外の人影はいない。
まあ、うちの学園って中等部2000人、高等部2000人ぐらいいてその4000人のうち700人が生徒会親衛隊だからねえ……。
「そうだよ
で、その全員が松崎君の悪い事実を言いふらすんだ。
これで、松崎君の居場所はないってわけ
ふふ……そのうち学園辞めるだろうねえ」
そんな風に春ちゃんや真希と会話を交わしながら、俺専用の空き教室に歩いていれば、
「……………?」
俺と真希の方を向いて不思議そうな顔をしている、無口会計・安住由月に遭遇した。
……何か最近生徒会との遭遇率が多くて嫌になる。
じーっと、こちらを見ている安住君。
「えーと、安住君、何か用?」
そうすれば何故か安住君は、くんくん、と俺と真希に近づいて匂いを嗅いだ。
って、何で?
匂い嗅ぐって何なんだ……?
変態かって思うけれど、安住君のその行為にはそういう気配は一切ない。ただにおいをかいでいるだけみたいな感じ。
「………、ぎ……こ? な……で……き?」
匂いを嗅いだ後、真希の方を向いていったかと思うと、安住君は次に俺の方を向いていった。
「……ク……シュ……、………いた?」
「ごめん安住君、もう一回言ってくれる?」
真希のいうBL小説の王道主人公って奴は言葉を理解できるみたいだけど、俺には安住君の言葉を理解するのは難易度が高すぎる。
俺にはさっぱり理解出来ない。
「クラ……シュ……りば……い……た?
そ……ちょ……なぐ……た?」
………聞き間違えか?
『クラッシュ』の溜まり場に居たかと聞かれてるように聞こえるんだが。
えー、俺顔見られてないよね? いやいや、何故にわかる?
安住君はその後また真希を向いて、真希の制服の裾を掴んでいう。
「………ぎん……こ?
なん……で……、か…み……き?」
『銀猫』?
何で髪き(金)?って聞いてんのか?
いやいやいや真面目に何故にわかる、安住君。俺の心中を察したのか安住君は言った。
「………にぉ……い、わか………る」
……匂い?
え、何安住君には真希に見せられたBL小説の生徒会の無口わんこ的位置にいる嗅覚が異常に発達してるスキルがあるのか…?
安住君の嗅覚に驚きながらも、詳しく話をするために、俺らは空き教室に到着した。
「うお、何ここ」
「………すご」
初めて此処にやってきた春ちゃんと安住君は驚いているようだ。
まあ仕方ないよね。この俺専用の空き教室って私物たくさん置いてあるし。
テレビまで持ち込んであるし、俺が寛ぐための私的な空間だし。
「とりあえずその辺座って。それでお話しよ?」
俺の言葉に真希を含めた三人は頷いた。
「まず安住君さー匂いでわかったって何?
そして何で真希に引っ付いてんの?」
そうである、何故か安住君は真希に引っ付くように座っていた。
「お………れ、ぎ……ね…すき」
………俺、銀猫好き、か? え、何真希安住君に惚れられてんの?
loveかlikeかはわからないけど、真希にはなついているらしい。
「にお……は、おれ………、わか……る」
匂いは、俺、わかるか……。
てか匂いわかるって凄くね?
しかも俺と安住君一緒に居たの短時間なんだけど。
それだけでにおい覚えているとか、恐るべき嗅覚だよ。
「な……で、ク……シュ……、いた?」
安住君が尋ねてくる。
春ちゃんは不思議そうな顔をしている。
まあ春ちゃんは不良関係知らないもんね。きょとんとした顔が可愛い。
「何でって、まあ『クラッシュ』には知り合いいるからね。
で、安住君はそれを会長に報告すんの?」
そう言って、俺は安住君を見た。
そうすれば安住君は何故か真希の方を見る。
そして言った。
「……ぎ……この……と……だち?」
俺の方を指差していった言葉は俺にはよくわからなかったが、真希には理解出来たらしい。
真希は、それに対して答える。
「ああ、理人は俺の親友だ」
真希には安住君の言葉理解出来たらしいけど、まあ真希は『ブレイク』相手に情報屋の仕事してるからな。
だから安住君の言葉にも慣れているのかもしれない。
「そ……ちょに……、ば……たらこま……る?」
ん? これは俺に聞いてるか?
総長にバレたら困るかと。
「困るってか面倒だから言わないでほしいけど」
「なら………いわ……な……」
「言わないで居てくれるの?
何で?」
「だっ………て、しん……ゆ……ならぎん………こ……こま…る」
ほうほう、真希が困るから俺を困らせる事はしない、と。
真希……よくぞ、安住君に懐かれていてくれた!
これでとりあえずは面倒事は避けられるな。あのバ会長に知られるとか面倒すぎるからな。
「ありがとう、由月」
「ん……ぎ……ねこと……そっち……、なま……何?」
安住君って、人に無関心なのかな。
この学園でも有名な真希の事も知らなかったとか……。
まあ安住君は中等部では生徒会入ってなかったけど特待生だからってクラスに基本的にいなかったらしいから。
「俺は菅崎真希」
「俺は佐原理人、で、こっちが友人の春ちゃん」
佐原理人、っていう俺の名前に安住君は反応した。
―――そして俺は安住君に睨まれる。
「……みさ、いじ………め……なぐ……た!」
どうやら転入生の事で睨まれているらしい。
まあ確かに殴ったけど苛めたって何? と意味がわからない。
「安住君、俺香川君を苛めてないし
香川君が俺に殴りかかるからやられる前にやり返しただけだし」
「でも……みさ、いっ……てた」
毛玉君よ、俺がいつ君を苛めた。
確かに反論したりはしてるけどそれって苛めじゃないだろ。
「由月……理人は香川を苛めてないぞ
俺見てたから知ってる」
「………みさ、………うそ……?」
「嘘っていうか香川は解釈がおかしいからな。
由月は何であんなのにはまってるんだ?」
最もな疑問である。
確かに毛玉君に何で安住君はまってるんだ?
俺と春ちゃんはとりあえず安住君と真希の会話に耳を傾けている。
「………みさ、おれ………こと……ば…わか…る」
「でもあいつ性格悪くないか?」
「…みさ…すき
で……も………みさ、き……から……な…やさん、と……よしと…、けぃ………しご……しない」
ダメだ。
俺安住君の言葉やっぱりよくわかんない。
慣れたらわかるだろうけど。毛玉君を好きだと言ってんのはわかるけど。それ以外はさっぱりだ。
「へえ、会長と渕上兄は仕事してるのか」
……真希よ、本当に何故にわかる。
安住君の言葉が。
うん、何か凄いなって思ったよ。本当。
「ん………、だか……ら、……忙し……い」
「そうか……
その原因が、香川でも香川が好きなのか?」
「ん…で……もぎ……ね……のほ……が、すき」
そう言って、何故か真希に安住君は抱きついた。
安住君は、真希の事大好きらしい。
「ちょ、由月離せ!」
微妙に顔が赤い真希。
つか思うけど真希って受けっぽいよなあ……なんかイメージ的に。
「………なま………呼ん………い?」
「名前はいいから離せ、由月」
「………やっ」
というか目の前でこんなイチャイチャ(?)されて俺と春ちゃんはどうすればいいんだろうか。
「萌え……じゃない! とりあえず離せ」
流石に三回も言われたからか安住君は離れた。
今、萌えるっていいかけたのか、真希。
「つか真希『ブレイク』の奴ら嫌いなんじゃなかった?」
「あー由月と双子はまだ嫌いじゃねえ」
要するに会長、副会長、下半身会計が嫌いと。
物凄いわかる、その気持ち。あの三人は心底腹立つ。
「理人、『銀猫』と『クラッシュ』って何?」
春ちゃん……不良関係本当知らないんだなぁ。
『クラッシュ』は有名だから一般人でも知ってる人多いのに。
「真希ね。情報屋やってんの。『銀猫』って名前で
で、『クラッシュ』は暴走族の名前だよ」
「へえ……」
頷いてるけど明らかにわかってないっぽい春ちゃん……うん、可愛い。
とりあえず頭を撫でといた。
「理人って頭撫でるの好きだよねえ」
「ふふ、俺可愛い子の頭撫でるの好き」
「お、俺可愛くない」
いやいや、照れてる姿が可愛いのを自覚しよう、春ちゃん。
ふと隣を見れば、何か安住君が真希に頭撫でるのをせがんでいた。
「ま………き、あ…ま」
って言って、真希を見てる。
「理人に撫でてもらいなよ、由月
俺は美乃君以外は、見る専門!」
「よし……の?
だ……れ?」
「………俺の、す、好きな……人」
真希は一途だからなあ……。
鏑木先輩の事昔から好きみたいだし。
つか真希は自分の恋愛に関しては恥ずかしがるからなあ。
「あと、由月
俺が『銀猫』ってわかったのはいいけど、学校で話しかけるなよ」
「な……で?」
安住君が悲しそうな顔してる。
まあ、真希に話しかけちゃ駄目だよな。
安住君生徒会の人間だし安住君が真希に絡んだら面倒な事になりそうだし。
「俺が困るから、あと理人も困るし」
「………じゃ……、メア………教…て」
「いいぞ」
真希はそう言ってスマホを取り出す。
メアド教えてって言ったのか、俺理解出来なかったなあ…。
話してるうちにわかったが安住君、毛玉君より真希の方が好きらしい。
だから真希の困る事はしない、と。
安住君……生徒会の中で親衛隊に何もしない人間だって聞いてたしいい子なのかもしれないと思った。