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成敗完了&遭遇 上

 ―――月曜日。

 休みすぎると勉強がついて行けなくなる、そういう春ちゃんと一緒に教室に向かう。

 周りに教室に向かう生徒達がいて、俺と春ちゃんが一緒にいる事がおかしいのか、ちらちらと視線を向けてくる生徒たち。

 春ちゃんはそんな生徒たちの視線が怖いのか俺の制服の裾を掴んでいる。

 ……何か可愛い。

 とりあえず春ちゃんは守ってあげなきゃ、俺がっていうそういう思いが自然とわいてくる。

 「春ちゃん、大丈夫?」

 「ああ……」

 「ふふ、ま、何かあったら俺がどうにかしてあげるからね」

 そんな事を話していたら、教室にたどり着く。

 そして俺は勢いよく教室の扉を開けた。

 一斉に生徒たちの視線が俺と春ちゃんに集まる。

 だけど俺は気にしないで、春ちゃんを連れて席へと歩く。

 春ちゃんの席は、松崎君と毛玉君の近く―――まあ、春ちゃんの後ろが俺で斜め後ろが真希なんだけどね。

 松崎君と毛玉君はまだ来てないみたい。

 松崎君の行く先行く先に『裏切り者』と書かれるっていう嫌がらせは今まで続行してたんだけど、松崎君、今どんな感じかな?

 罪悪感に苦しんでるかな、それとも、自分の事しか考えてないのかな……。

 春ちゃんは相変わらず震えていて、後ろを向いて俺の手を掴んでいる。

 俺は安心させるように握り返す。

 そんな風にしていれば、教室の扉が開いて、真希が入ってきた。

 「………理人、柏木、よっす」

 「真希、何かテンション低いけどどうしたの?」

 何だか真希のテンションは低かった。

 こんなにテンションが低い真希も珍しいと驚いてしまう。

 「………美乃君が」

 「ん? 鏑木先輩問題で何かあったの?」

 鏑木先輩ってのは、真希の片思い相手。

 幼なじみで一つ上。

 人気者で風紀委員をやってる先輩だ。

 俺は面識ないけど真希からよく話聞くから鏑木先輩の事はよく知ってるんだよね。

 「…………香川に、香川にぃ」

 ちょ、真希。

 何かキャラが崩れてるぞ。

 毛玉君がまた被害を出したのか…?

 春ちゃんも毛玉君の名前に反応して真希を見ている。

 「……興味もったって、いや、あの目は何ていうか……あーもう俺悲しい」

 真希が珍しく泣きそうな顔をしてる。 

 …鏑木先輩が、毛玉君に興味を持ったねえ?

 そりゃ、ショックだよね。

 長年片思いしてる大好きな人が毛玉君に惚れるって…。

 「真希……、鏑木先輩、何で香川君と接触したの?」

 「風紀委員の奴が…、たまってるあの部屋に香川つれこんでたから、その関係で……。

 うぅ……、今朝会えて嬉しかったのに!

 嬉しそうに香川の事言ってきて……、同じクラスだから仲良くしろって……」

 真希は嘆いている。

 「それは……、なんというか悲劇だね」

 真希は悲しそうに俺の机に頭をのせて項垂れている。

 とりあえず、俺はわしゃわしゃと真希の頭を撫でる。

 「元気だしなよ、真希

 そんな真希に少しテンションの上がる情報をお伝えしよう」

 「……?」

 泣きそうな真希が顔を上げて俺を見る。

 「実はさー。寺口葉月って俺に片思いしてんだよね、昔から」

 真希には『クラッシュ』に知り合いと弟がいるとしか言ってなかったからね。

 言ったら言ったで、総長×親衛隊隊長……、イケメン攻め×かっこ可愛い受けとか気色悪い事いいそうだから言ってなかったけど。

 うん……、俺ってネコに見えるらしいから。

 小声でいったから真希と春ちゃんにしか聞こえてないみたい。

 真希は寺口葉月って名前をもちろん知ってるから驚いたように顔を上げ、春ちゃんは不良と関わりないから寺口葉月って誰? みたいな顔をしてる。

 「ふふ、春ちゃんには後で説明してあげる」

 葉月って有名だしあんまり詳しく大勢の前でいうと面倒な事になりそうだしね。

 「理人……、いつの間にフラグ立ててたの!?」

 「フラグっつか、あいつ二年ぐらい前に俺に一目惚れしたらしいから」

 「何その美味しい過去! 付き合わないのか!?」

 「あいつ俺の好みじゃないし。一目惚れされた当時は俺彼氏居たし」

 「か・れ・し、だと!?」

 元カレが海外にいった後に真希と仲良くなったからいってなかったんだよね。

 言えば真希が元気出るかなと言ってみたんだが、真希が何か詳しく聞かせろみたいな目で俺を見ている。

 春ちゃんは春ちゃんで彼氏とかいたの、って不思議そうな顔をしてる。

 「ま、昼休みにでも詳しく話してやるからさ」

 真希は結構単純だから、寺口葉月が俺に惚れてるって事実と俺に元カレがいるって事実ですこし元気が出たようだ。

 何かニヤニヤしてるんだが…、妄想でもしてんのか?

 そんな事を考えていたら、教室の扉ががらっと開く。

 ―――入ってきたのは、毛玉君と松崎君と篠塚君。

 毛玉君は俺が春ちゃんの手を握っているのを見るとズカズカと春ちゃんに近づいていく。

 春ちゃんが脅えるから、そんな風に近づいてくるのは止めて欲しい。

 しかしそこはやっぱり毛玉君………、

 「千春っ

 お前何でこんな最低な奴と一緒にいるんだよ!

 それに総矢を裏切ったらしいじゃん

 最低だな!」

 意味のわからない事をいい始めた。

 「は?」

 「え?」

 「………」

 上から俺、春ちゃん、真希である。

 真希に関しては何いってんだこいつ、とでもいう風に毛玉君を見つめているだけだ。

 「……裏切ったって何、香川君」

 自分の声が冷たくなるのを自覚する。

 平然とした顔で、毛玉君の隣に立つ松崎君と春ちゃんを攻め立てようとする毛玉君を俺は見つめた。

 「総矢が千春に裏切られたって俺に言って来たんだ!

 その時から千春は休んでて……、裏切って謝るのが怖いからって逃げるなんてっ

 それでこんな最低な奴といるなんて!

 謝ったら許してやるからな、千春

 総矢だって千春に何かしたみたいだけど、それは千春が先に総矢を裏切ったからで、互いに謝ればこれでおあいこだろ?」

 「は?」

 思わずそんな声が口から漏れる。

 春ちゃんが、松崎君を裏切ったって話に何でなってんの。

 おあいこだって……?

 違うだろ、謝らなきゃいけないのは松崎君だけだ。

 ―――そんな嘘をでっち上げたのは、毛玉君の隣にいる松崎君だろう。

 友人を裏切る行為で毛玉君に嫌われたくないからって、春ちゃんを悪者にしたって所かな……最低。

 「なあ、千春何か言えよ

 謝れば許してやるからさ」

 毛玉君がそう言って春ちゃんに触れようとする。

 春ちゃんの体が震えているのにも、あの毛玉君は気づかないのか……。

 俺は、春ちゃんに伸ばされた毛玉君の手を掴んだ。

 そして、毛玉君に向かっていう。

 「春ちゃんに触らないでくれる?」

 「何だよ! お前っ」

 毛玉君が何か喚く。

 俺はそんな毛玉君を無視して、松崎君を見る。

 「―――ねえ、松崎君。俺、全部知ってるよ?」

 ささやくような言葉に、松崎君の体がびくっと震えた。

 やっぱり、罪悪感は感じていたのだろう。後ろめたさもあったのだろう。でも、それを感じたうえで、春ちゃんに謝るわけはなく春ちゃんを貶めるなんて。

 松崎君の隣に立つ篠塚君は不思議そうな顔をしている。

 「いい加減離せ!

 俺は千春に用があるんだよ!」

 毛玉君がわめいているが、俺は煩いとばかりに、毛玉君の手を捻る。

 「―――っ」

 毛玉君が痛みに何とも言えない声を上げる。

 だけど俺は毛玉君を見ずに真っ直ぐに松崎君を見ていた。

 「春ちゃんは何もしてない

 勝手に春ちゃんを疎ましく思って行動に出たのは君でしょう、松崎君」

 その言葉にあたりがシンと静まっている。

 あらら、俺ってば注目されてる…?

 ま、いいか。とりあえず松崎君には俺、ムカついてるしねえ……ふふっ。

 「何わけわかんない事言ってんだよ!!」

 毛玉君がそう言って、そちらに視線を向ければ毛玉君が俺が掴んでない方の腕を振り上げていた。

 ―――気にくわなければ、暴力、ねぇ?

 何て呑気に考えながら俺は動かない。

 動かなくても真希がいるからね、全然問題はない

 「お前、何理人殴ろうとしてんだ」

 ふふ、やっぱり真希なら毛玉君の拳止めてくれると思ってた。

 「何だよ、お前」

 「俺は菅崎真希。クラスメートの名前ぐらい覚えとけば?」

 真希の声が冷たく放たれる

 うん、そういえば真希は毛玉君にちゃんと自己紹介した事なかったね。俺が毛玉君殴った時も真希見てただけだったし。

 毛玉君は真希の名前を聞いた瞬間、何故か目をぱっと明るくしていった。

 「お前が真希か! 美乃の幼なじみの!」

 ………その言葉の後すぐに、真希の手は毛玉君の首に移動していた。

 まあ要するにだ、首を絞めているわけである。

 あらら、真希ってば切れている。

 「………お前が、美乃君を呼び捨てにするな! 俺の名を呼ぶな!」

 真希……俺に手をあげたりするウザイ毛玉君が鏑木先輩を呼び捨てにしたので、カチンと来た様子。

 「―――っ」

 毛玉君が苦しそうな顔をしてる。首を絞められて、必死にもがいている。

 「おい、操を離せ」

 篠塚君と松崎君が必死に真希を止める。

 え、俺? 放置ですが、もちろん。

 真希は殺したりはしないだろうし、毛玉君がどうなろうと知った事じゃないし。

 「……ゲホッ…な、何すんだよ! 友達の首絞めちゃいけないんだぞ!」

 ようやく、真希が毛玉君の首から手を離した時に、毛玉君はそんな事を言った。

 何、バカなの?

 真希と毛玉君さっき自己紹介したばっかじゃね?

 それで友達とか、つか真希は友達の首絞めたりしないし。

 本当に毛玉君の思考回路はどうなっているのか俺は心底気になる。

 「ふざけんな、誰が友達だ」

 真希の声は冷たかった。

 周りの何人かは震えてるっぽい。まあ真希ん家ヤクザだもんね。

 真希は人気者でも大抵の人は真希がヤクザの次期組長だからって恐れてるし…。

 てか、真希が怒ってんのわかんないのかね、毛玉君は。

 「な、何でそんな事言うんだよ! 俺が友達になってやるって言ってんのに」

 何だか真希がまた切れそうな雰囲気だったので俺はいう。

 「まーき、ストープっ」

 そう言って、真希を止めて、

 「篠塚君さーちょっと香川君黙らせてくんない?

 俺、松崎君と話したいんだよねー」

 俺は篠塚君に向かって言った。













 *篠塚響side



 「あ、ああ」

 操を抑えろといった親衛隊のあいつの言葉に俺は戸惑いながら頷いた。

 とりあえず操をどうにかしない事にはあの菅崎がまた切れてしまう。

 ……喧嘩には自信があるけれど俺は菅崎には勝てないだろうから。

 「操、とりあえず落ち着け」

 「な、何で響、邪魔するんだよ!

 あいつらが悪いのに」

 まだ喚く操を親衛隊のやつと菅崎が睨み付ける。

 ……俺には切れた菅崎を止めるなんて出来ない。

 だけどあの親衛隊のやつは簡単にそれをなしとげた。それを思うだけで、あの親衛隊のやつが、只ものじゃないと思えた。

 「お願いだから大人しくしてくれ……」

 俺のその言葉に操は渋々といったように黙った。

 そして俺は明らかに動揺している松崎と、それを見て何処か震えている柏木と、松崎を睨み付ける親衛隊のやつを見た。

 柏木が居ない事が何故か疑問だったのだ。

 松崎と操は柏木が裏切ったとか言ってたけど俺には柏木が裏切りなんてするようには見えなかったし…。

 「ねえ、松崎君」

 あの親衛隊の奴の声に、松崎がびくっと体を震わせた。

 「君はさ、君の親衛隊の子に春ちゃんを疎ましく思ってるって言ったんでしょう?」

 そう言って笑う奴の笑顔は冷たかった。

 ―――親衛隊に柏木を疎ましく思ってるって言った?

 俺にも親衛隊がいるからわかるけど、そういう台詞を親衛隊の奴らに言ったら親衛隊がそいつに制裁をするものだ。

 「ね、松崎君

 君はわざと言ったんでしょ、君の親衛隊隊長にさ。

 春ちゃんが、香川君の言葉に反論したりするからって

 ふふ、さいてー」

 松崎が、わざと言った?

 俺は信じられないものを見る目で、松崎を見る。

 だって松崎と柏木は、親友だったはずだ。操が来る前からずっと。

 「元々生徒会や人気者に香川君が気に入られてから、香川君と一緒にいる春ちゃんへ色んな親衛隊から制裁が増えていた。

 そんな中で、松崎君は、春ちゃんに追い討ちをかけたんだよ?」

 「……っ」

 松崎の顔が歪む。

 明らかに動揺している松崎―――どうやら本当の事らしい。

 柏木があんなに脅えてるのもきっと、何かあったんだろう。

 松崎の親衛隊が柏木に何かしたと考えるのが妥当か。

 「何いってんだ! お前! 総矢がんな事するはずないだろっ」

 黙っていた、操が喚く。

 ――松崎の態度を見ても、それを理解しない、操。

 「本当の事だよ、香川君」

 親衛隊の奴がにっこりと笑っていう。だけど、操はそれに反発する。

 「なんだよ!

 どうせお前が嘘いってんだろ!

 お前は親衛隊だ! 信用なんてしちゃいけないんだ!」

 操が喚けば喚くほど、俺はその異常さに気づいてしまう――。

 親衛隊の奴に俺の操への思いが恋愛感情ではない、そう気づかされてから、操がわからなくなる。

 操は俺を怖がらない。

 操は俺に対等に話してくれる。

 ――だから、友達だと思った。

 俺は人付き合いが苦手だから友達って存在が嬉しくて、だけど恋愛感情抜きに、操を正当化せずに見てみると、操はおかしくて。

 「なあ、総矢こいつが嘘をついてんだろ!

 千春も最低だ。親友に嘘はくなんて!」

 そうやって喚く、操も

 「………ああ」

 明らかに動揺した顔で、明らかに嘘であろう言葉を吐く松崎も、おかしいと、気づいてる。

 だけど、情けない話――俺は折角出来た友人を手放したくないって思ってる。

 多分、俺はずっと一人で居たけど、友達ってものが、欲しかったんだと思う。

 何だか、本当に恥ずかしい話、俺は一人が寂しかったんだ、と思う。

 だから対等に話して、俺を怖がらない操に惚れてると思ってた。

 ―――操達がおかしいって気づいても彼らの友人としているのも、それが理由なんだ、と思う。

 だけど―――、

 「千春もお前も最低だ! 千春も親友を裏切って嘘ばっかいって

 何で俺を貶めようみたいにすんだよ!

 俺何も悪い事してないのに!

 親衛隊とか最低だしそんな奴らとつるむ奴も最低だ!

 毎回毎回俺に制裁とかいって呼び出したり……何でそんな事するんだよ……っ」

 そうやって、涙を浮かべる操は明らかにおかしいんだ。

 だから、操の友達として、言おう。

 「操―――、あいつらの話も間違ってるとはいえないと思う

 現に松崎も、動揺してるし……」

 友達なら、おかしいならおかしいって言うべきだと、思うから。









 *龍宮理人 side


 


 篠塚君の言葉に俺はおおっと思った。

 篠塚響は、冷静に物事を捕らえる人間。

 だけど毛玉君が来てからその冷静さがなくなっていた。

 ―――だけど今目の前にいる篠塚君はありのままの、冷静な篠塚君だ。

 「何だよ!

 何で響はそんな事いうんだよ

 総矢は響にとっても親友だろ?」

 「……操とはダチだが」

 あ、篠塚君が遠回しに松崎君は友人じゃないって言った。

 まあ、そうだよね。

 篠塚君は元々一匹狼で、毛玉君が自分を怖がらないから友人として、決して松崎君を友人にしたわけじゃないし。

 「なら響は総矢とも友達だろ!

 皆仲良くしよーぜ」

 つか毛玉君、話変えるなよ、面倒。俺は松崎君を見た。

 松崎君はこれでもかってぐらい動揺している。

 「松崎君……君は何なの、謝る事も出来ないの?」

 俺はそう言って、松崎君を見る。

 それに対して、松崎君は喚いた。

 「何で俺が謝らなきゃいけないんだよ!

 千春が、千春が悪いんだろ! 操に反発的だから!」

 俺の隣にいる春ちゃんが、松崎君に冷めた目を向けている。

 ―――親友だったはずの、松崎君と春ちゃん。

 そこにあった絆は、完全に切れてしまった。

 「そうだ! 操に反発的な意見ばっかいって、操が親友だって千春にいうのに……っ、千春がそれをいやがるから!

 だから俺は言った!

 それの何が悪い!」

 喚く喚く喚く―――その姿は何処までも、滑稽だ。

 周りがざわめいている――。

 松崎君の発言に対して。

 「松崎様が、そんな事をするなんて……っ」

 「優しい方だと思ってたのに」

 「松崎の奴……、ダチを親衛隊に売るなんて」

 松崎君は爽やかなスポーツマンとしてクラスで通っていた。だから、今目の前で喚く姿に、彼らは幻滅しているのだ。

 ―――まさか、あんな性格だったなんて、と。

 だけど松崎君はそれに気づかない。

 「大体千春も千春だ! 俺がちょっと親衛隊に言ったからって、こんな操を殴った奴と仲良くするなんて!」

 自分を正当化したくて彼は喚いている。

 自分は正しいと、そう言ってわめいている。

 爽やかの皮を被った自分勝手な人間――それが松崎君。

 「総矢……、本当なのか! 本当に千春を……」

 毛玉君がショックを受けたような顔をして、松崎君を見る。

 ――毛玉君はおかしな人間だけど、友人というモノを大切にはする気持ちはある、人間だ。

 だから、松崎君が春ちゃんを裏切った事にショックを受けたような顔をしている。

 松崎君は毛玉君の声にはっとなって、青ざめていく――。

 そして毛玉君は喚いた。

 「友達裏切るなんて最低なんだぞ!」

 「俺は……、操のためを、思って!」

 松崎君がそんな事を言う。

 ――何か面倒なんだけど、放置していいかな?

 こんな茶番みても楽しくないし。

 「操のためだろうが、裏切ったのは事実なんだろ…?

 操、こんな奴放っておこうぜ」

 篠塚君……、松崎君を完璧に放置する事に決めたらしい。まぁ、庇う義理もないよね。

 「……総矢、最低だ! 信じてたのに」

 何だか毛玉君が悲劇のヒロインぶって涙ぐんで、篠塚君の胸に頭埋めてるんだけど…。

 一番色々と被害を受けてるのは、毛玉君じゃなくて、春ちゃんじゃんか。

 「香川さ、柏木に謝れよ」

 真希が、毛玉君を睨み付けていった。

 皆、膝をついて項垂れている松崎君は放置の方向らしい。

 「じゃ、俺も謝るけどお前らも謝れよ!」

 「……香川君、何を謝ってほしいの?

 一応聞いてあげるけど」

 いや、本当何を謝ってほしいの毛玉君は。

 というかさっさと春ちゃんに謝れよとしか思えない。

 「お前は前俺を殴っただろ! それに親衛隊なんて最低だ!

 謝るなら、許してやるし俺が更正してやる!」

 ………更正って何? なんかイラッとくる。

 毛玉君は相変わらずよくわからない思考回路をしているらしい。そのまま、続ける。

 「あと真希は、俺の首をしめたんだから謝れよ! そしたら許してやるから!

 それにそんな最低な奴の味方するなんて、そいつに弱味でも握られてんだろ!」

 いやいや、何故に俺が真希の弱味を握らなきゃいけないんだ。

 「千春は、親友なのに俺の味方してくれなかったりしたじゃん!

 親友の味方しなきゃ駄目なんだぞ!

 それに親友の俺とじゃなくてそんな奴らと一緒にいるなんて!

 親友には何でも話さなきゃいけないのに、総矢の事相談してくれないし!

 こんな俺を殴るような最低な奴を前々からかばってたけど脅されてんだろ!全て話せよ」

 あーもうこの毛玉君何なの? 意味がわからないよ、俺は。

「…はあ、春ちゃんごめん今日の授業なしね、サボろー

 真希も行こ。」

 俺はもう呆れて、毛玉君の事は放置する事にした。

 潰す、と言っても焦っても仕方ないし、とりあえず、目的は完了したし。

 そう思いながら、真希と春ちゃんの手を取る。

 「あ、うん」

 「ああ、サボるか」

 二人が頷いて、立ち上がる。

 「待てよ! 早く謝れよ!」

 何か喚いてるけど、もう放置。

 教室から出ていこうとする中、松崎君の隣を俺は通る。

 そしてそこで松崎君の耳元で、俺は囁いた。

 「ふふ、これで松崎君の居場所はないよ」

 そんな言葉を―――。

 松崎君が俺を見る。

 だけどそんな視線は無視して、俺は春ちゃんと真希を連れて教室を後にした。

三人で廊下を歩く。

 あ、ちなみに手は繋いだまま。

 右手で春ちゃんと手を繋いで、左手で真希と手を繋いでる感じだよ。


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