マウスィーとカミクゥと先割れスプーンと……b
「あまり遠くへ行くではないぞ」
カミクゥを連れ出かけるマウスィーにドララが声をかけます。
普段は家に籠もりがちなふたりですが、今日は抜けてしまった3階の床の修理と、荷物の整理のために居場所がありません。
「わかったでチュ」
そう返事をしたものの、マウスィーは行き場に悩みました。
人さらいなどそうそう出会うものとは思いませんが、末の妹はマウスィー以上に幼いため、何かあったときのために孤児院から離れるのは得策ではありません。
かといって、日当たりのよい場所ではヴァーニィが育てているニンジンのプランターがあります。
以前、ライテとレフテがそれを倒したせいで、ヴァーニィがひどく落ち込んでいたのを覚えています。
かといって、孤児院の裏手は日があたらず昼間でも肌寒いです。
考えた末、マウスィーは日当たりの良い表で、プランターに害を及ぼさぬよう静かに遊ぶことにしました。
マウスィーはシートをもってくると、庭に敷きます。そこにカミクゥとともにすわると、おままごとを始めます。
「不景気なのに、春から増税でこまったものでチュね」
「ガウ」
「これも政治家が悪いんでチュね。政治家はみんな口先ばっかりの嘘チュきでチュ」
「ガウ」
マウスィーが口にした言葉にカミクゥが相づちを打つ。まだ3歳のカミクゥの方が姉のお遊びに付き合っているといった風です。
「ささっ、政治の不満はあとにしてご飯にしましょう」
そういって、こっそり台所から持ち出した魔物の肉の塊をとりだします。
「メシー」
と、カミクゥも嬉しそうにします。
でも、マウスィーはそこで忘れ物をしたことに気がつきます。お肉だけもってきて、切り分けるナイフを持ってこなかったのです。
「ん~」
マウスィーは考えます。
そして、愛用の先割れスプーンを手にしたまま、お預け状態の妹の姿を見ました。
カミクゥの口からはよだれが垂れています。
「私のことは構わないので、あなたがおたべなさいでチュ」
そんな物語にでてきそうな貧乏な母親の台詞を口にします。マウスィーの頭の中では稼ぎの悪い夫の役はイットでした。
カミクゥは先割れスプーンをお肉に刺すと、そのままパクリとお肉にかぶり尽きました。
そして、咀嚼もそこそこに固い魔物のお肉を呑み込もうとします。
その姿にマウスィーは驚きました。
なぜなら、マウスィーが持ち出した肉は、カミクゥの頭ほどもあったからです。そんなものが簡単に呑み込めるハズもありません。
マウスィーの懸念はあたり、カミクゥは喉にお肉をつめてしまいます。
マウスィーは慌ててカミクゥから肉を吐き出させようと、その背中を叩きますが上手くいきません。
「むーむー」
カミクゥの顔色がドンドンと悪くなっていきます。
慌てたマウスィーは、カミクゥの両足を掴むと頭を下にして持ち上げ、必死に揺さぶり始めます。
「カミクゥ吐くでチュ!」
それでもなかなかカミクゥは肉を吐き出しませんでしたが、しばらくしてようやく吐き出しました。
「あー、びっくりしたでチュ」
呼吸を取り戻したカミクゥもゼーハーとしています。
「おや?」
マウスィーはカミクゥの吐き出したお肉のよこに、人形が落ちているのをみつけました。
それはヤギの様な角が生えていて、背中には蝙蝠のような羽、お尻からは細長い尻尾が生えています。
そしてその人形は不思議なことにマウスィーが触れてもいないのに動いていました。




