ワンワの出稼ぎと臨時パーティーd
「あんなところに隠し扉があったなんて」
階段を下りながらチアワが言う。
「しかし、長い階段だな」
「ああ」
ブッブの言葉にワンワが短く同意する。
この道を発見したのは失敗だったと考えるワンワだが、それを口に出すべきか迷っていた。
同行しているパーティーのメンバーが家族ならそんな不安はもたなかったろう。だが、いま彼女と同行している彼らは家族よりも圧倒的に弱いのだ。
だが、それを口にだして指摘すれば角がたつ。
「もう10層分は下りたんじゃないか」
黙々と下りるブッブがそう呟いた。
「10はオーバーでも6層以上は降りたことは確かだろうな」
ただ階段を下りているだけなのに、迷宮内の空気が重苦しいものに変わっていた。
迷宮は地下に潜れば潜るほど攻略難易度が高くなる。そのことをワンワは警戒している。あるいは、ブッブが階層をオーバーに言ったのも、警戒を呼びかけるものだったのかもしれない。
だが、チアワやプドル、テリーにその意図は伝わっていなかった。
「じゃ、ひょっとしたら、今日中に主の部屋についてクリアできちゃったりして」
「そしたら、ブルのやつを悔しがらせてやろうぜ。アイツには今日の分の分け前はなしだ」
浮き足だつパーティーにワンワの不安は増大していく。
「ようやく階段がおわったな」
階段は広い部屋へと繋がっていた。部屋にはなにもいないが、扉のない出入口に繋がっていた。
一行が部屋に入ると、その背後に分厚い金属の扉が落ちてくる。
「なに!?」
退路を塞がれたことに同様するパーティー。
パーティーで唯一テリーだけが扉の向こうに取り残される。
「ちくしょう」
ブッブが棍棒のような腕で扉を叩くがビクともしない。
「テリーさん、そっちは大丈夫ですか!」
ワンワが呼びかけ扉に耳をあてると、小さく「大丈夫だ」という言葉が聞き取れた。
だが、魔法使いであるテリーと分断されては帰還魔法を使うことができない。
もっと早く撤退を決意するべきだったと後悔する。
「テリー、なんとか魔法で扉をあけられないか!?」
チアワが必死に呼びかける。
だが、状況はすでに動き始めていた。
「気をつけろくるぞ」
ワンワが異臭をかぎつけると、槍を構えパーティーに警戒を呼びかける。
出入口から現れたのはワニであった。ただのワニではない、その背面には不気味な人面がいくつも浮かんでいる。その顔のひとつひとつが、生者を呪う言葉を紡いでいる。
それが、残る3つの出入口から、ぞろぞろとあらわれる。
「きゃー!」
突然の窮地にプドルが悲鳴をあげた。
それを合図としたように呪面ワニが牙の並んだ長い口をあける。そしてそこから強酸性の液体を吐き出した。
ワンワは長槍から魔法文字を展開させると防御魔法を張る。だが、とっさに出せた魔法文字は1つだけで、その効果は不十分だった。
それでも、ワンワとブッブは直接浴びることは防げたが、プドルを落ち着かせようとしていたチアワはもろに浴びてしまう。
チアワの身体から人肉が焦げる異臭がはなたれる。激痛にチアワは気を失う。その姿をみたプドルはさらなるパニックに陥った。
「まだ、チアワは死んじゃいない、戦闘に集中するんだ」
プドルに訴えるワンワだが、パニックに陥った人間がすぐに戦力になることはない。ワンワは彼女は戦力にならないだろうと諦め、ひとりでこの場を切り抜ける方法を考える。
だが、逆境慣れしていない人間たちを抱えつつ、この場を乗り切るのは厳しい。
「しずまれぇーい!」
突如として、ブッブがさけぶと、プドルの頬を叩く。
「とっと治療に入れ、テメーのメンバーを僧侶が見殺しにしてどうする」
「でもっ、こんなに血がっ、傷だってこんなに深くちゃ、もう手遅れよ」
涙を流すプドルにブッブは強引に命令する。
「言い訳してる間に、とっとと手を動かすんだよ。テメーがやらなきゃ、その男は確実に死ぬんだぞ。俺たちはアレを倒す、オマエはオマエのできることを死ぬ気でやれ。余計なこと考えてんじゃねぇ」
そう言うと、戦斧を構え直し呪面ワニへと突撃を開始する。
プドルは嗚咽を漏らしながらもチアワの治療へと入った。これで少なくともチアワの一命は取り留められるだろう。それが早くすめば、回復魔法の援護も受けられるかもしれない。
「意外とやるじゃん」
感心したワンワは、自らも長槍をかまえ突撃を開始した。




