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迷宮都市《ダンジョンシティ》a

「くー、美味そうな匂い。なー兄ちゃん、串焼き買ってくれよ~」

 人で溢れんばかりの広場で、串焼きの匂いをかぎつけたダイガがイットにねだる。

 無事迷宮を脱出した一行は、そこで得た物を金に換えるため、なじみの道具屋へいく途中である。ただ、今回は怪我人がいたために近道として広場を通ったのだ。そのことをイットは軽く後悔していた。


「ダメだ、まずふたりの治療が先だ」

 あたかも後回しにしたかのようにダイガに伝える。だが、大家族の財布を預かる彼は妹の買い食いを許す気はなかった。

「んじゃ、パパッといつものカレー屋にいこうぜ」

「ダっちゃん、カレー屋さんじゃなくて、道具屋さんよ~」

 ニュウがおっとりとした口調で修正する。

「まぁどっちだって似たようなもんじゃねーか」

「そうね~」

「それで納得するなよ。普通は似てないと思うぞ?」

 イットはそう口にするが、指摘は街のざわめきに飲まれふたりには届かなかった。



――ディッカイ

 迷宮都市の二つ名で呼ばれるデッカイはサラウエ大陸の西に位置する海に近い自治都市である。

 その二つ名の由縁である迷宮ダンジョンが街の下に無数に存在する。

 正確には街の下に迷宮があるのではなく、迷宮の上に街を作ったのだが、住んでいる人間にとってはどちらでも大した差はない。


 当初、迷宮探索は金持ちたちの道楽の一種とされていた。恐ろしい魔物が多数徘徊し、中には金になるような物がないと思われていたからだ。

 だが、迷宮とそこで発見されたものの研究が進むとその価値は翻った。

 人々はそこで手に入れた知識と技術、道具を求めてこぞって迷宮に入るようになったのだ。

 そして、迷宮の噂はさらに多くの人々を呼び寄せ都市を発達させた。

 かくして、迷宮都市はサラウエ大陸でも有数の都市として成り上がったのだった。



「あれ、スネコちゃんは?」

 となりを歩いていたヴァーニィが黒いウサ耳をピクピクさせながら、いなくなった姉の姿を捜す。

「まさか迷子じゃないよな?」

 妹の姿を求めあたりを見回すイット。

 露店はどれもイットたち迷宮探索者向けの物ではない。それもそのハズでたとえ迷宮都市であっても、進んで危険に挑む迷宮探索者の数自体は人口の1%程度しかいないのだ。露店で売られる商品が一般向けになるのも当然のことである。

 だが迷宮探索者であるスネコは、そんな一般向けの露店の前で足をとめていた。

「どうした?」

 イットは妹の側まで歩み寄ると、露店に並べられているものを覗き込む。そこにはバッファロー、パンダ、ウマといろいろな動物が描かれた木彫りのブローチが並べられていた。

「なんでもないです」

 スネコはそれだけ言うと、慌てたように露店から離れる。

 妹が眺めていたあたりの商品に目をむけるイット。

 ニスを塗り綺麗に磨かれた木彫りのブローチの値段はさして高くない。けれど、安いと言えるほどの額でもなかった。そして、彼らに無駄遣いをするだけの余裕はないし、いまもダイガの無駄遣いを却下したばかりである。


 だが、スネコがアクセサリを欲しがることは珍しいことだった。

 節操のなく食べ物をねだるダイガとちがい、まだ子供であるスネコのこのくらいの我が儘は許されるのではないだろうかと考える。そして、同行している家族の様子を盗みみた。

 問題児ダイガはまだ串焼きをもの欲しそうにながめ、ニュウがそれを引きとめている。

 となりを歩くヴァーニィは、イットの意図を読んだように「好きにすれば~」と目で語っていた。

 そこでイットは決心し、妹を呼び止める。

「おいスネコ」

「なにです?」

 財布から銀貨を1枚だけ取り出すと、色白で小さな手の上に置く。そして「買ってこい」と囁くように耳打ちした。

「えっ、でも……」

 スネコは突然のお小遣いに戸惑いの表情をうかべる。

 1枚とはいえ、銀貨ならばちょっとした食事ができる額である。迷宮探索で収入があったとはいえ、イットにはそれほど簡単にだせる額ではない。

「早くいってこい。ダイガに気づかれるなよ」

 気を使い、辞退しようとする妹にイットは強引にそれを握らせた。

「あ……りがとうです」

 つっかえながらもお礼を言い、フレームの下に笑顔をつくる。そして、スッと接近すると、背伸びをし桜色の唇をイットの頬に押し当てた。

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