迷宮探索者《メイズシーカー》
初めての大人数ハーレムへの挑戦ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
毎日連載を目指しますが、こぼれた日もあるかと思います。そんなときは生暖かい目で見守ってやってください。
薄明かりに照らされた石造りの迷宮内部に、金属同士がぶつかりあう鋭い音が響き渡る。
迷宮深部へとつながる回廊では探索者と守護者の攻防が繰り広げられていた。
一方は身体に魔法で動く3体の骸骨。
武闘骸骨と呼ばれるその魔物はひとつの身体に6本の腕をもち、それぞれに剣を構えている。
合計18本の剣が侵入者を撃退せんと鋭敏に舞い続ける。
対する侵入者は未成年ばかりの5人組。
姿も戦いかたもそれぞれ異なっている。
黒色の皮鎧に身を包んだリーダーの少年――イットは武闘骸骨を封じるべく、極細のワイヤーを操りその身体に絡みつける。
「どうだっ」
動きを阻まれる武闘骸骨だが、6本の腕は完全には封じられておらずワイヤーを断ち、抜けだしてしまう。
「ちぃ、やりにくい」
毒づきながらも、再開された剣舞を刀身の短い剣で受け流す。
「みんな大丈夫か」
武闘骸骨の死の舞いから逃れつつ、イットは家族でもあるパーティーメンバーに声をかける。
「こっちは平気だぜ、兄ちゃん」
引き締まりながらも女性らしさのある身体をチャイナドレスで飾りたてた少女――ダイガが楽しげにこたえる。
徒手で武闘骸骨の前に立つダイガは、舞踏のようななめらかな動きで迫り来る剣をかわしている。
余裕を浮かべた口もとからは牙がのぞき、腰からは縞模様がある尻尾が伸びている。
「イッちゃん。こっちも大丈夫よ」
全身を金属鎧で固めた少女――ニュウが大盾を構えこたえる。
目にも止まらぬ剣撃を彼女は大盾と鎧で防ぐ。その振動で太いロープのように編み込まれた赤毛が揺れる。その頭には牛を思わせる双角が生えている。
「あんっ」
順調に攻撃を防いでいたニュウだが、隙をついた一撃が鎧の薄い部分を叩いた。
「大丈夫か、ニュウ姉!?」
「だっ、大丈夫よ」
痛みに奥歯を噛みしめながらも、ニュウは弟であるイットに無事を伝える。
「お兄ちゃんまえっ」
ニュウに気をとられたイットに注意を呼びかける声がかけられる。だが、それは手遅れで、6本の剣による逃げ場のない攻撃がイットに襲いかかる。
「しまった」
だが、眼前までせまった剣は『ギュイン』と、ひどく耳障りな音が鳴り響かせただけでイットを傷つけることはなかった。
「大丈夫!?」
窮地を救ったのはニンジン型の杖を握った小柄な少女――ヴァーニィだった。
長い白髪に、迷宮には似つかわしくない黒のバニーガール姿をしたヴァーニィであるが、まだ幼く発育途上な身体には凹凸が少ない。
支援魔法の使い手たる彼女は、瞬間的に防御障壁を展開し武闘骸骨の剣を防いだのだ。
「ああ、助かった」
頭から自前のウサ耳を生やした妹に礼を言って、イットは体勢を立て直す。
他のふたりにも同時に2体の武闘骸骨を相手できるほどの余裕はない。ここで彼が倒され、突破されては後衛に危険がおよぶ。前衛が苦戦するような相手に斬りかかられては後衛のふたりはひとたまりもない。
「スネコちゃんの詠唱が終わるわ!」
赤い瞳のヴァーニィが前衛に知らせる。
その報告を聞いた、イット、ニュウ、ダイガは各々相手にしていた武闘骸骨に一撃を加え、距離をあけた。
「氷雪の女王よ我にその力の一端を貸し与えたまえ……」
最後方に控えていたフード付きのローブの少女――スネコが樫の木で作られた魔法杖を掲げる。
杖の先にはサファイヤに似た魔法石がはめ込まれている。魔法石の内側には、魔法文字が刻まれ、それを利用することで効果を増大させるのだ。
魔法石が蒼い輝きを帯びると、スネコはぐるりと杖を回転させる。すると何もない空間に円の軌跡が浮かびあがると、その中央には杖に仕込まれた5つの魔法文字が浮かび上がった。
丸い眼鏡越しに目標を確認し、最後の呪文を唱える。
「魔精氷結」
小さな呟きとは裏腹に、完成した魔法が生み出した効果は強烈だった。
無数の魔氷がスネコの前方に現れたかと思うと、高速で飛翔し回廊一面に叩きつけられる。逃げ場のない武闘骸骨は為す術もなく氷漬けになる。
「でかしたスネコ」
イットがその功績を称えると、スネコはフードの内側で笑みを浮かべた。
動きを封じられた武闘骸骨に止めを刺すべく、前衛の3人は凍てついた回廊を駆け武器を振るう。
「モウモウあたーっく!」
ニュウの振りかざした槌矛が魔氷もろとも武闘骸骨を打ち砕いた。
「猛虎破砕脚!」
ダイガが宙高く舞い上がると、動けぬ武闘骸骨を魔氷もろとも蹴り抜いた。
「でやっ!」
イットもふたりに続くべく手にした小剣に力を込める。だが、彼の剣だけが魔氷の表面にはじかれ、武闘骸骨を砕くことができなかった。続けざまに小剣を振るうイットだが武闘骸骨を倒すことができない。
兄の苦戦に気づいたダイガが支援に入ろうとする。だが、それはすでに遅く、武闘骸骨は魔氷の呪縛からぬけ、自由をとりもどしていた。
「すまない」
「なに、気にすんな兄ちゃん。これで3対1だ」
彼女の言うとおり戦況は有利に運んでいた。パーティーとして勝利できるのならば彼ひとりの功績など気にかける必要はない。だが、自分だけが敵を倒せないという事実はイットの心にしこりを作った。
パーティは残る一体を確実に仕留めようと、隊列を組み直す。
だが、イットは武闘骸骨の向こう――ぼんやりと光る天井の下に別の輝きを放つ気配を感じとった。
その瞬間、イットの脳内に警戒音が鳴り響く。
「みんな、敵の増援だ!」
警告を発した直後、回廊の奥から魔法とおぼしき光線が放たれた。
すかさず身をかがめ回避するイットだが、その直後にニュウの声が響く。
「イッちゃん、それ避けちゃダメ!」
光線はイットの頭上を越えると、後方で次の魔法の準備へと入っていたスネコへと襲いかかった。
「しまった」
己の失態に気づくも、彼には時間を巻き戻すことも光線を防ぐこともできない。
だが、スネコへ直撃すると思われた光線は、突如として割り込んだ白い影に阻まれた。
影の正体はヴァーニィだった。
長い白髪が揺れ、華奢な体から鮮血が飛び散る。
「ヴァーニィ!」
一拍遅れで、状況に気づいたスネコが悲鳴をあげる。
イットは自らの判断ミスに奥歯を噛みしめた。
迷宮の奥からひときわ大きな武闘骸骨が現れる。骨の表面には魔法文字が刻印されており、武器はないが手の内に魔力が集められぼんやりと輝いている。
「高位魔法型か」
イットは相手の増援を睨みつつ状況把握に務める。
戦況は2体4とはいえ、ヴァーニィが倒れた以上、支援魔法がなくなる。スネコにケガはないものの妹が倒れた状況下で冷静に魔法を扱えるとは思えなかった。
イットはそこで判断をくだした。
「みんな撤退するぞ。ダイガ、先頭はまかせた。スネコは走れるな? ニュウ姉はヴァーニィを頼む」
「でもっ」
「ニュウ姉、ここは俺にまかせて、みんなは先に行ってくれっ」
躊躇いながらも撤収する家族を見送ると、イットは2体の武闘骸骨をまえに立ちふさがる。
高位魔法型は手の内に宿した魔法の力を集める。それは先程とは比べものにならない程輝いていた。
「さっきのは小手調べって訳か。頭空っぽのクセに小賢しいマネをするじゃねーか」
【イット:回避力S、危険感知S、攻撃力E】
【ニュウ:防御力A、攻撃力B、すばやさD】
【ダイガ:攻撃力A、回避力A、かしこさE】
【スネコ:魔力A、防御力E、体力E】
【ヴァーニィ:魔力C、危険感知B、可愛らしさA】