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再会  作者: 蘇鉄
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約束の日

 私は待ち続ける。

 もうどのくらいたったのだろう?

 ここの景色は全く変わらないから、もう飽きてしまった。

 ただ、たくさんの人がこちらへ渡ってくるだけである。

 こちらから向こうへ渡っていく人はめったにいない。

 たまにこちらに向かってきている途中で向こう側の人に呼び戻される。

 一日何千何万と来る人の中で、一か月に一回見られればいいほうだろう。

 あくまで、私が確認している範囲でだけど。


 約束の日はまだ来ない。

 とくにいつと決めたわけではないから、私はその時が来るのを待つしかない。

 いや、もしもそのときが来ても気付かないかもしれない。

 むしろその可能性のほうが高いだろう。


 私はここで、人探しをしている女性に出会った。

 その人は息をのむほどの美人で、声をかけられてから返事をするまでに数秒の時間が要ったほどだ。

 彼女はその人に自分と交際してほしいと言われたそうだ。

 それをあきらめさせようと、無理な要求をしたところ、それを承諾し、達成しようとしていたのだという。

 だが、最後の日を前に死んでしまった。

 この話、どこかで聞いたことがある気がする。

 彼女はその人の姿を見て、だんだんこちらも好きになっていったのだ、と言う。

 だが、その気持ちは伝えられないまま。

 そして彼女はここに来てからずっと、彼を探しているらしい。

 それでもまだ会えないらしい。

 私はその年月を聞いたとき絶望した。

 もう千年以上探し続けても見つけられない、と聞いたら誰でも失望するだろう。


 他にも、自分が仕えていた将軍を探していたり、家族を探していたり、たくさんの人を見てきたが、実際に尋ね人に会えたという人を私は見たことがない。

 それでも私は待つ。

 彼との約束だから。

 もう一度会うと。

 それにこんな時間の流れを感じることが出来ない世界で生きていくには彼をいう存在が必要不可欠だ。

 私がいまここにいられるのも、彼といつかまた会えるという確信が心の支えになっているからだろう。


「もう五十年か~。あと十年くらいで会えるかな?」


 私は空を眺めながらつぶやく。


「ほぅ、誰のことだ、それは?」


背後からの声。

間違えようのない聴きなれた、そして懐かしい彼の声だった。

 私はバッと振り返り、彼の姿を確認すると、硬直する。


「よっ」

 

 彼は手を肩の高さまであげて私に挨拶をする。

 彼らしい、驚くほど簡単なそれは、私と彼が最後に会った日のことを思い出させるものだった。


「な……」


 私は不意打ちに頭がフリーズし、返事すら出来なかった。


「いろんな人に聞いてみてよかったぜ。だいたいの人がお前のこと知っていたぞ――って、お~い? 聞こえますか~?」


 彼は私の肩をつかんで大きく揺さぶる。

 やっと脳が機能し始めて頭の中にたくさんの言いたいことが、思い浮かぶ。


「あ、あ……」


 あまりの多さにまたフリーズした。


「うーむ。じゃあ勝手に話すぞ。俺がここで出会った人みんなお前と面識があったみたいでな、どこにいるかって聞いたら、みんな案内してくれたんだ。だがな、しばらく歩いたら、長年探していた人に出会ったみたいで、俺を放置して失踪。で、違う人にまたお前のことを聞いて……それを3,4回繰り返したな。そして今にいたる」


 この人、淡々と話しているけど、奇跡を起こしまくっている気がする。

 ていうか私と面識があるって、さっき話していた人ぐらいなのに。

 しかも話からすると、さほど時間もかかっていないみたいだし。

 

「それにしてもあれは尋常じゃなかったな。何かの木の下にいた人を見て『あの人だわ!』と駆けていく人もいれば、『殿、殿~』と叫んで涙を流しながら走り去った人もいたし――」


 彼はそれ以上言葉を続けなかった。私が抱きついたのだから。


「会いたかった。ずっと……ずっと……」


「ああ、待たせたな」


 私たちはしばらくそのままでいた。やがて、私が彼から離れる。


「でも、ちょっと早くない? さっきも言ったけど、あと十年は来ないかと思っていたんだけど」


「ん? 寿命だよ。年とって死んだら、原因が何であろうが老衰」


「ふーん、日ごろの行いが悪かったのね」


「いや、むしろよかったから早めに死なせてくれたんだろ。それじゃないと、まだお前に会えてないし」


 相変わらず、サラッっと恥ずかしいことを言う人だ。

 まぁそういうところが好きなんだけど。


「ねぇ、これからどうするの?」


「予定が狂ったからな……俺はてっきり、死んだときの姿であの世に来るのかと思ったぜ。まさか自分で年齢調整できるとは……都合よすぎだろ。すぐにお前と生まれ変わりに行くつもりだったんだが」


「そんな制度だったらここの人ほとんどがお年寄りになっちゃうよ。私はこの歳までしか生きられなかったから、ここまでしか年とれないんだよね。ていうか、次生まれ変わったら、会えるか分からないんだよ。それでもいいの?」


「ここでも会えたんだ。向こうで会えないわけないだろ。でも、せっかくだからもう少しこっちで過ごすか。いまのところ、ここでの不自由は感じないし」


「うん。じゃあ、奥のほうに行ってみようよ。私ここから奥に行ったことないんだ」


 私はここに来た人のだいたいが進む方向を指差す。


「お前、五十年もここにいて、行ったことないのかよ」


「うん、だってあなたのこと、ず~~~っと、待ってたんだから」


「それはすいませんでしたね……お詫びに何かいたしましょうか?」


 彼はわざとらしく聞いてくる。


「そうねぇ……じゃあ、腕を貸しなさい?」


 私も口調を変えて対応する。


「こうか?」


 彼が差し出した腕に私はしがみつく。


「エスコートしてよね」


「はいはい。じゃあ、行くか」


「うん」


 私たちはしばらく生まれ変われそうにない。


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