第057話 重なる疑念
お久しぶりです皆様、時間帯を変えて投稿してみました。
長い間空けておいて約4000字ほどですが、次第に増えていく予定です。
今月中に本章を終わらせる予定ですので、不定期ですがよろしくお願いします。
歪人たちが儀式をして女神メサイアの呪いを解こうとしているとき、ウルはアンストル教国首都アンヌンへ来ていた。
情報収集へ来たこともあったが、他にもある人物へ訊ねたいことがあったからである。
最も情報が集まるのは教皇であるヨハンではあるが、彼女の元に集まるのは全てという訳ではない。
教会の生き字引とも呼ばれているアドルフに、ウルは訪ねたのである。
「アドルフ、ここ数百年でのこの首都アンヌンで何があったのか、わたしに教えなさい。
小さなことから大きなことまで、省略することなくです、わかりますね?」
アドルフはウルの真意に気付いて、長くなりますぞと前置きをして300年ほど前の事件から話し始めた。
ウルはアドルフの話を聞いて、ヨハンの体長がおかしいという事に違和感を抱いた。
ヨハンの能力はかなり限定されているが、その力は強大だ。
首都アンヌンでの活動しかできない代わりにアンヌンにいる限りの不老不死、全体的な能力向上、強大な魔法を行使しても魔力が尽きる事がない、並の神より強大な力を備えているのである。
ウルと同等という程ではないが、歪が現れた頃から500年経とうが、その力に陰りが起こるなど考えられないのである。
しかし、アドルフの話からでは、まるで力を使い過ぎたから体調を崩しているといわんばかりの言に、一体彼女の身に何が起きているのかと感じたのだ。
加えて先日の黒竜襲撃事件である。
抵抗できずに重傷になるほどの傷を負うなど、どう考えてもおかしいとウルは考えたが、アドルフはヨハンの能力については限定的な不老不死と強大な魔力くらいしか知らなかったらしく、他の可能性に気付けていなかったらしい。
「300年前、教皇ヨハンが倒れた…ですか、正直言ってあり得ないとしか言いようがありませんね。
彼女の力なら1000年規模で強力な結界を維持し続けても顔色を悪くするなどありえない。
…彼女と面会する事は可能ですか?」
すぐに会って確認したいことが出来てウルはアドルフを睨むが、アドルフはゆっくりと首を横に振った。
「申し訳ありませぬが…未だ猊下はまだ眠りにつかれております。
状態も落ち着き始めておりますし、今あって話したところで…」
どうにもならないという事を返されて、ウルは渋々納得するしかない。
とはいえ、アドルフとの話だけでも十分に推測が立っているため、これで十分だと判断したウルは、すぐに思考を切り替えた。
その後、1時間ほどかけて細部に至るまで情報を集め、分析したウルは、ふとよぎった不穏な考えが浮かんでしまう。
―――女神が教皇に手を出している可能性が高いですね…手を打つべきでしょうか?
手を打つというのは、現在首都を覆っているような結界を張ってヨハンを隔離するといった物でなく、物理的な行為である。
すなわち、彼女の生命活動を強制的に止めてしまうという事だ。
メリットデメリットを考えている中、もう1つの気配―――室内にはウルとアドルフの2人しかいないはずなのにだ―――がウルに襲い掛かってくる気配に気付き、すぐに破軍を振り抜く。
金属の打ち合う音が室内に響き合い、次に何かがぶつかる音がする。
アドルフの表情は変わらなかった。
どうせ成功するなど微塵も思っていなかった、そういう顔をしているとウルは判断したが、躊躇なく代行者であるウルを手にかけようとしたその覚悟に少なからず驚いていた。
代行者であるウルを手にかければ、この世界がどうなってしまうのか、アドルフではなくともどうなるか分かっているはずである。
しかも、ウルの考えが正しければ、ヨハンの問題を先延ばしにしていればさらなる悪化が待っているのは間違いないだろうことは明白である。
「…とはいえ、実力差が分からないほどの腕ではないでしょうに。
まぁ、この案は破棄しましょう。
考えましたが、デメリットの方が際立ってメリットと割に合いませんし」
「…それはよかった」
と、アドルフは一言しか言わなかったが、それだけでも十分な綱渡りを終えたといわんばかりの深い溜息をついた。
ウルはもう1つの気配に辺りに視線を配っていたが一向に姿を現せないため、忘れる事にしたらしい。
おそらくはアドルフ直属の特殊部隊の隊員なのだろうと把握していたが、それは正確には違った。
教会所属『守護騎士』第3位『不可視の襲撃者』リンディは不穏な空気を纏おうとしたウルに襲いかかろうとし、あっけない程の返り討ちに遭いながらも意識を落とさずになお自らの【異能】で透明化を維持していた。
彼女の異能は意識が途切れない限りありとあらゆる認識を無効化する。
どれだけ目立つ服装をしていようと、どれだけきつい臭いを発していようと、部屋を震わす大声で叫び続けても、どれだけの物音を立てようとも、彼女を認識する事は出来ない。
アドルフのように、あらかじめその場所にいたという事を知っていない限り、気づく事は出来ないのである。
そしてなぜリンディの襲撃にウルが対応できたのかといえば、これもアドルフの責任であった。
一瞬とはいえ、アドルフはリンディの立っている場所に視線を送ったことが、会話中に一度だけあったのであるが、その一瞬を逃さなかったウルは気付いていたのであった。
あとは状況を把握した際の可能性の1つとして、行動していたのである。
ウルはリンディが倒れている辺りに視線を移したが、すぐに元の様にアドルフに戻した。
「…さて、そろそろ帰るとしましょうか。
アドルフ、くれぐれも、注意を怠らないように…頼みますよ?」
その後1時間かけて情報を交換したウルは満足したのかアドルフにそう言い残し、転移結晶を使い仲間たちの元へ戻っていったのだった。
「……心臓に悪い会見じゃったな。
リンディよ、そのままで聞くがよい」
アドルフはリンディの起こした行動が結果的に良い事に繋がった、という事をかいつまんで話していた。
リンディが何もせず、ただアドルフがきつい口調でウルの思考に歯止めをかけようとしても、歯牙にもかけられなかったのは、以前からの報告でのウルの苛烈さが物語っていたからである。
老若男女容赦なく、対象の首を撥ね飛ばす苛烈な代行者は、その刃を教皇ヨハンにも向けていただろう。
リンディの行動は、いざとなればこの異変終結後の混乱をも辞さない覚悟でウルに刃を向けた、いわば決意の表れだったのだと、アドルフは言う。
「…これでウル殿は猊下に手を出す事は無いじゃろう。
じゃが、この問題はわしらの手に委ねられたといっても過言ではないぞ?
早急に手段を講じねばならん以上、遅々として対処が出来なければ、ウル殿は今度こそ猊下の胴と首が分かれることになるじゃろう。
そうさせぬ為にも、急ぎ他の『守護騎士』を全員召集するのじゃ。
特に、第1位と2位の2人は絶対じゃ彼女たちの【異能】が無くてはどうにもならんからの」
アドルフはリンディに全『守護騎士』の召集命令を下し、部屋から出て行った。
リンディはアドルフの命に従い、教皇庁から少し離れた教会へ向かって行った。
守護騎士団本部があるフィーラ大教会である。
かつて聖女と呼ばれた女性の名から取った教会であり、首都でも指折りの大きさを持つ教会である。
普段は司祭として活動している彼らは、地下へ潜れば騎士たちであり、従士たちが毎日せわしなく走り回っていた。
リンディは教会の地下へと着くと【異能】を解除して一直線に目的の場所へと向かって行く。
擦れ違う従士や騎士たちに敬礼をされるのに慣れているのか、気にしない素振りであった。
黒装束に身を纏い、顔や頭部にかけても黒い布を巻く彼女の素顔を知る者はいない。
唯一見える瞳さえも黒であり、こしらえている短剣の刀身までも黒というのはまさに筋金入りといえよう。
そんなリンディの姿はまるで暗殺者の格好ではないかと思う位に黒子であったが、周りの者たちは一切口にしようとはしない。
以前話しかけた同僚の『守護騎士』は、彼女に投げ飛ばされるという事故が起きており、その話が肥大化してリンディの噂に、『服装について聞かれると半殺しの目に遭う』とささやかれているのであった。
リンディが自分の執務室へと着くと、早足で彼女の元へ近づく騎士が現れた。
ヘルトというこの騎士は、まるで執事のように彼女へ傅いている古参の騎士である。
「おかえりなさいませリンディ卿、この後のご予定をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「…緊急召集よ、大陸に散らばっている『守護騎士』を全員首都へと呼び戻すわ。
他の『守護騎士』の部下たちにも連絡して、急ぎこれを伝えなさい」
「はっ、直ちに行動を開始いたします」
大陸各地に散開している彼、あるいは彼女達をサポートするのが『守護騎士』直轄の彼らの最重要任務であり、行動は故に迅速だった。
特にリンディの部下たちは情報収集に長けた者が集まっており、デュケインがその場にいれば、『何この忍者集団』と茶々を入れるほどである。
リンディを中心として、大陸に散らばった『守護騎士』は2週間という短い間に全員が揃う事になる。
そして、その2週間の間に、事態が更に急変するとは、アドルフを含め、まだ誰も知らなかった。
―――事態を引き起こした、代行者さえも。
黒竜を追うウルたち、山を越えていく中、ウルは違和感に気づき、その中心へと向かっていく。
そこで出会ったのは…次回、第058話『サーチアンドデストロイ』です。
…ちょっとアニメ予告チックな次回予告にしてみました。
グダグダと話すのもありかもですが、こんな感じもありかも? と思いながら執筆しております。
それでは皆様、次回まで。
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