第007話 VS二人の試験官(後)
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「あ、ウルって小説とか漫画の類って読んだりする?」
「図書館で読んだことのあるのは生活に役立ちそうな本くらいでした」
娯楽的書物にはお金がかかるので読んだことがありませんでしたしね。
「じゃあアニメといった二次元的文化というのにはとんと縁が無かったという事なんだね…うーん」
何を考えているのかは分かりませんが、目の前にいる魔神さまは何かよからぬことを考えてる気がしてなりません。
ふと思ったのですが、デュケイン様はいわゆるOTAKUという類の方なのでしょうか?
「いや、別によからぬことなんて考えてないよ?
ちょっとウルの身体を面白おかしく改造とかしようなんて思っていないしさ?」
「十分よからぬことの範疇ですよねそれ?」
これ以上基本性能を向上させたら制御するのが今以上に大変なので勘弁していただきたいです。
「んーその基本性能が問題なんだよねー…うっかり性能が高すぎた所為で、思わぬ暴発で土地を消し飛ばしちゃっても困るんだよ…という訳で、10段階くらいに力のリミッター付けよっか?」
10分の1に力を落とすとさすがに制御がし易くなりました。
これだけの性能でも十二分にこの世界の方たちより遥かに強いのは明らかなのですがこれは一体…?
「ふふふ、これで『僕の真の力を解放しよう』的な面白シーンが確実に出てくるんだよね?
……まあ真面目な話、ウルの強さは原石みたいなものだからね。
これから綺麗にカットしていく感じで成長していけばいいさ」
こちらの思考は筒抜けなのは分かっていた上で完璧こちらの思惑を無視するデュケイン様はちょっと嬉しそうでした。
ていうか、デュケイン様が一体何を言っているのかさっぱりです。
「…はぁ、これでウルが少しくらい話に付き合ってくれれば退屈がまぎれると思ったのに…向こうの世界の娯楽持ってくれば良かった」
「…人間がお嫌いなのに、人間が作り出す文化というのには随分と関心をお持ちなのですね、デュケイン様は」
「…ん?
何を勘違いしているか分からないけど、僕は別に人間が嫌いじゃないよ?」
嘘はよくないと思います、と思わず声に出してしまいました。
「嘘じゃないよ、僕は人間が作る文化はとっても面白いからむしろ好きだし?
いい暇潰しになるから、滅ぶまでにそれこそ数え切れない位遺していって欲しいなーって常々思っているんだ」
遠まわしに、目の前の魔神さまは人間を文化製造機にしていました。
それに、人間についての感想省いてますし。
「まあ真面目な話に戻って…ここだけの修行じゃまだ粗削りに等しいから、力に溺れずに、少しずつ成長していって欲しい訳。
リミッター云々は、そういう意味も含んでるんだから気を付けてね?」
真剣な顔をして話してくれたデュケイン様はやっぱり神様だと思わせるような、優しさに満ちていました。
…これで、『やっぱり変身機能とか付けようかな』なんて言わなければ更に最高なのですが。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「試験方法はさっきのでいいのかよ?」
降りてきて早々、準備体操をしながらブリッツにつっけんどんな態度で接しているブリンドに、ブリッツは特にいう事は無かったらしい。
既にバゼットは観客席に戻っていて、仲間と一緒にウルの実力について話しているようだった。
「いや、次は魔法抜きの、純粋な武器を使った戦闘のみでよい…構わんな坊主?」
「問題ありませんよおじいさん、魔法抜きでも私強いですから」
飄々と答えるウルはそんな空気に対してお構いなしに、ブリンドの大剣を眺めている。
ウルの挑発にブリンドは軽く流す程度で、第一印象だった獰猛な雰囲気が一変して落ち着いている様子だ。
…強いですね、これは。
ウルのような荒っぽさの残る強さではなく、経験からくる確かな裏打ちのある強さの体現がそこにあった。
ウルも準備がてら破軍の基礎の方を何度かふるって気を落ち着かせる。
胸に手を当ててみると、バゼット戦った時と違い、心臓の鼓動が早くなっているのに気付いたウルは、早くブリンドと戦いたいのか、緊張と期待で準備体操が終わるのを今か今かと待っていた。
最終的に、お互い身体の温まったところで試合が開始されたのだが、お互い一歩も動こうとしない。
ウルは中段で構えたまま、ブリンドも同様で相手の出方を観察しているようだ。
それだけでなく、お互いの見える情報をできるだけ多く知ろうとしていた。
お互いの武器の特徴、足の向き、そして纏っている雰囲気をつぶさに洞察し、その瞬間を待った。
ブリンドが仕掛ける、獣人の俊足を生かした一撃でウルの袈裟目掛けて一撃する。
ウルはブリンドの大剣を打ち払うと、そのまま回転しながらブリンドの胴体に柄で叩きつける。
材質が特殊金属なため、重量のある一撃はそのまま吸い込まれるようにブリンドに当たるかと思われたが、瞬時に大剣を盾に柄の一撃を防いだ。
三尖両刃刀には『槍術』と『大刀術』に共通した特徴がある。
斬り・突き・払い・薙ぐといった攻撃手段は多彩で、遠心力を加えた一撃は強力で防ぐだけでも腕に痺れが来るほどだ。
対する大剣を扱うブリンドだが、使い手はどうやら規格外の様で、まるで片手剣のような軽さで大剣を振るっていた。
打ち合っていて数十合、ようやくブリンドが口を開いた。
「…お前、本当に魔人族か?」
「…ええ、そうですが、それが何か?」
死角から高速でやってきた一撃を見ずに叩き落として再び遠心力を利用した一撃をブリンドに放つ。
ブリンドの戦法はウルからすれば舌を巻くほどに繊細で緻密な計算からくるものだった。
力尽くに薙いでも最小限で躱され、バゼット戦でも使った目潰しも大剣で防がれてしまう。
遠心力を使った一撃も、今では簡単にあしらわれ始めていた。
…まずいですね、この状態で勝てないとなると、一段上げるしか…。
頭上からくる一撃を柄で打ち払い、距離を開けるウルにブリンドが再度声をかけた。
「…もうやめとけ、お前じゃまだ俺には勝てねえ。
基礎はまあまあなってるが、足捌きは身体頼りで無理に動かしてる感じだ。
俺の一撃を防いでるだけでも実力的に『茶』で十分やっていける…が」
“『黒』はまだ無理だ。”
冷静に判断されて思わずカチンと来たのか、ウルの顔に初めて表情が消える。
「…魔人族はどちらかといえば魔法よりの才能を高めていく種族だ。
武器を使った戦いに関しちゃお前はまだ素人に毛が生えた程度…時間をかけてゆっくり」
「『王国』から『基礎』に移行」
何かしようとしたのに気付いたのか、それでも止めようとするブリンドに、ウルの冷たい視線がブリンドの経験からくる何かが危険を告げた。
ウルの纏っている空気が濃くなって、胸をざわりと何かが這ってくるような感覚に襲われる。
何人かの冒険者たちが同様の症状を憶えたが、この感覚を知っている者はある共通点を持っていた。
手に負えない存在を目の前にした、という経験から来る恐怖である。
「第二ラウンドです、頑張って防いでくださいね」
同時に、ウルがブリンドに向かって初めて自分から攻撃を仕掛けた。
本能的にどこからくるか察知できたのか、軸足からの一撃を済んでのところで防いだブリンドだったが、ウルが放った一撃はさきほどまでの一撃を更に超える力が込められていた。
「…ぐぅっ!?」
手首に異常な負担がかかったのか、それまで片手で持っていた大剣を両手に戻すと、間合いを詰めて再度攻撃してくるウルにお返しとばかりに上段から鋭い斬撃を放つ。
素早く回転を加えた柄で打ち払うと、高速の連撃を負荷のかかっていた片手に狙って打ち込んでくる。
速度も力もさらに倍以上の暴力の嵐がブリンドを襲った。
打ち払って完璧に防いで見せたが、更に片手に負担がかかる。
ブリンドの額から嫌な汗が流れてきていて、審判をしているブリッツも、いつ試験を終了させようかと決めかねているようだった。
「…ちっ、こんな隠し玉あるなら最初から殺る気で行けばよかったぜ」
「…いやいや、殺ったらダメでしょう?」
余裕が戻ったのか、表情の戻ったウルがからかうようにブリンドに話しかけた。
ブリンドが攻撃を放つが、三尖両刃刀は発達した刃の分岐は攻撃と同時に、敵の刃を受け止める機能も兼ね備えていて、力を十全に発揮できないブリンドの一撃は、容易に防がれた。
「…くそ、降参だ、これ以上は仕事に響く。
試験終了だ、俺の負けで報告しておいてくれ」
勝負はウルの勝ちで終了し、試験はこれで終了となった。
予想以上の激戦だったことから、一部の冒険者たちはウルとブリンドの試合に拍手を送り、残りの者たちもウルの想像を上回る実力に度肝を抜かれていた。
大剣を収めると、治療院へ向かうといって訓練場を去るブリンドをウルが呼び止めた。
「私が負わした怪我です、治療させてください」
「…多彩だなおい」
「厳しくしつけ…いえ、師がとても優秀だったので」
水属性の最大の特徴は治療回復であり、攻撃手段は数が限られている。
ウルのような特殊な事情でない限り、水属性で思いつくのは回復専門の魔法使いという事だろう。
「…今のは聞かなかったことにしてやるから、治療してくれ」
利き手を見せてきたブリンドの手首を軽く診察してみると、既に紫色にまで変色している程重傷だった。
『癒し安らぐ青の秘蹟 サクラメント』
表情の硬くなってしまっているウルだったが、治療の魔法も完璧にこなした。
「…すげえな、これほどの回復魔法は見たことねえぜ」
「お褒めに頂き光栄です…さておじいさん、試験も終わりましたしギルドで結果を聞きましょうか?」
「それはわしが言うべき台詞なんじゃがのう…」
そうぼやくブリッツに、思わず苦笑するウルであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…まあ、結果は分かるとは思うが『合格』じゃ」
「当然です」
当たり前のようにふんぞり返ったウルはギルド本部2階で試験終了後ブリッツから結果を言い渡された。
二人の試験官に勝利した実力は高く評価されて、ウルは晴れて冒険者入りを果たした。
「…言いてえことがまだかなりあるが、まあ優秀な奴が入って助かるぜ」
「私は彼に負けてまだ傷心中だよ…はぁ」
複雑な心境の二人をよそに、ウルは渡されたギルドカードを眺めている。
「そのカードがあれば、各ギルドでお金を預けたり下ろすこともできるから無くさんようにするんじゃな。
ちなみに、再発行には10万ヒトゥン必要じゃ」
更には本人確認と同時にペナルティも加えられるので、冒険者にとっては一番無くしてはいけないものとなるだろう。
「ああそうじゃ、上位ランカーじゃと宿屋とギルドと提携をしている道具屋での買い物が2割引きでの、金の使い方には気を付けるんじゃぞ?」
どうやらブリッツから見たウルは、金の使い方というのがまるで分っていない世間知らずに見られているようで、その感は正しいといえた。
なにしろ、この世界の相場について全く無知のウルには、どれが高くどれが安いかなど判断がついていないのだから。
「あ、おじいさんこれと併用できちゃいます?
教会でもらった十字架なんですけど」
ウルがブリッツに渡すと、三人の目が十字架に釘づけにされた。
ブリッツがしげしげと眺めながら十字架が本物かどうかを確認する。
最終的にため息をつきながらウルに返すと、どうしたものかと悩んでいた。
「…お前さん、教会のトップと知り合いじゃったか」
「噂で聞いたことあります、枢機卿以上の高位聖職者が持つとされる代行証の話を。
これがあれば、検問や国境を越える時に受ける審査が免除され、更には教会での寝泊りも取られない。
しかも教国と契約をしている商店では商品が3割引きという夢のアイテム」
バゼットの顔が引き攣っているが、ウルとブリンドは驚いた様子はない。
ウルはこの十字架の重要性に全く気になっていないのが原因だったが、ブリンドはウルの強さを証明しているようだと納得しているようだった。
「…なるほどな、枢機卿レベルに認められている実力者か…通りで俺でも歯が立たねえわけか」
「別にアドルフたちとは仲がいい訳じゃないんですけどね…悪くもないですけど」
そうぼやくウルに、ブリッツは枢機卿を名指しで呼ぶとは…と頭を押さえた。
「前例がないから併用できるかは分からんが…十字架の方は使わん方がいいかもしれんのお。
場所を特定されやすくなるし、教会はしつこいんじゃ。」
それを考えると、ギルドカードを基本的に使う方が賢明と判断したウルは、余程の事態が発生しない限り、十字架を使うまいと決める。
あーあ、便利だと思ったんですが…。
「お前さんは今日から『茶』ランクじゃが、当分同じ『茶』ランクのブリンドがお前さんと組んで依頼をこなしてもらう。
チーム経験を積むことと、冒険者の心得を知る為でもあるからの、拒否権などないからの?
2ヶ月程で済むから頑張るんじゃな」
「…よろしくお願いします、先輩」
「心配は特にしてねえが、問題だけは起こさねえでくれよ?」
「善処します」
「…そこはもっと意欲を見せろや…はぁ」
親子揃って似たような溜息をつく仕草にウルとバゼットが同時に噴き出して、2階が少しだけ騒がしくなった。
読んでいただきありがとうございます。
連続投稿してみました。
さて、なんやかんやでウル君が冒険者になりました。
ブリンドさんは書いているうちに性格がこんな感じに…。
似たもの親子ということで。
次回からウルの冒険者生活スタート、対人戦ではありませんが、歪とかいろいろ出ちゃいます。
コメント、ご感想をお待ちしています。




