第052話 天と地ではそれぞれⅠ
お久しぶりです皆様、日嗣者でございます。
現状ではまだ復帰の目途があまり立っていないのですが、どうにかGW中には投稿できそうなので、少しばかり投稿しようかと。
新章突入です、この章では物語の核心部分…ほぼ全ての主要人物たちが登場します。
一部の方に人気なデュケイン様もはっちゃけて登場しますので、どうぞお楽しみに。
それでは、始まり、始まり。
『管理者の間』では来るべき事態に備えて厳戒態勢が敷かれていた。
デュケインにバル、それに使い魔五人衆とレギオンは細心の注意を払いながら周辺を睨んでいた。
デュケインは先の失態もあってか、まだかとそわそわしている始末である。
「…くる」
ぼそりと、そう口を開いたデュケインの口元は楽しそうに微笑んでいた。
空間がゆっくりと歪んでいく、バルは先制攻撃を仕掛けようと神器【鳴神】を引き狙い定めたのだが、デュケインが制止した。
「……」
楽しみを奪うな、そんな目をしたデュケインに、仕方なくバルは引いていた神器を収める。
「…随分と冷たい出迎えね、相手の底が知れるものね」
現れたのは魔神2柱の予想通り、今回の元凶である女神であった。
古今東西数多いる女神の良い点のみを選んだかのような美しさを誇る彼女は、誰もが心を奪われかねないほどに凶悪な笑みを浮かべている。
開口一番、女神メサイアはデュケインに対して無礼な言葉を投げかけたが、デュケイン以外の者が不機嫌になった以外何も変わっていない。
「はっ、お前程度の出迎えなんてこれが相応さ。
たかが地神如きが何を勘違いしている、いや、もはその『地神』の称号すら汚した時点でお前なんて『反逆者』で十分だ」
今回の一件で、他の世界を管理している地神たちは肩身の狭い思いをしていることを軽く説明したデュケインだったが、それでメサイアが反省する事を慮った訳ではない。
面倒を起こした反逆者に、事の次第と自分が仕出かしたことがどれだけ迷惑だったか示しただけである。
「…まぁ、一応僕にも報告義務というものがあるからね、供述の内容によっては処刑方法を留意してやってもいい。
もっとも、これだけの事をしでかしたんだ、ただ『ムカつきました』からなんてつまらない理由だったらこの場でそっ首刎ねるけど」
手に持っている神器【神斬】が唸りを上げ始める。
精神の弱い者がいれば、その場で昇天するほどに凶悪な笑みである、どちらが悪役か分からないほどに。
メサイアはデュケインの言葉に少しの怯えも見せず、端正な眉を少しだけ寄せながら、この数百年に及ぶ惨劇を引き起こした理由を述べた。
「…きもちわるいのよ」
「…それで?」
メサイアの一言でデュケインのやる事は決定したが、それだけでは神王である父に報告するのも難しい。
耳を塞ぎたい気持ちになったが、仕方なく聞くことにした。
「行動の全てが気持ち悪いのよ、仕草の全てが気持ち悪いのよ、呼吸をしているのも不愉快だわ、笑顔を向けられた時の醜さは身の毛もよだつわ」
「…つまるところ、これまで生きてきて、お前は地上の生き物たちの事を理解できなかった、そういう訳?
…ないわーマジないわ、どんだけ低能なんだよ永い時を生きといて地上の生き物たちの事を理解できないとか管理者…地神としても終わっているし、天地神明の理をなんだと思ってるんだよったくもうっ!!」
「…珍しくまともな事を言っているな」
「「「「「然り」」」」」
「…まぁ、普段がアレだったしねぇ」
バルや使い魔五人衆、レギオンまで言われているデュケインだったが、茶々を入れている隣人たちは無視した。
とはいえ、メサイアはデュケインの言葉が癇に障ったのか、いきり立ったように叫んだ。
「なによ、あなただってあの醜いゴミどもの事理解していないじゃないっ!!
自分の都合でしか動かない、理不尽の塊のクセして今更理だとかちゃんちゃらおかしいわっ!!」
「失礼な、僕は理解する努力はしてきたよ?
それに理解できた事だって沢山あるさ、僕がしなかったのは共感してこなかっただけ。
だってそうじゃない、僕ら魔神が性能の違う地上の生き物たちのせせこましい小理屈理解したところで、価値観が全く以て違うのだから共感できるはずがない。
僕ら天神は全てに於いて大局的な見地から判断する、ただ一つの結論から全てを台無しにするだなんていうのはありえない。
僕にだってそれくらいの分別がある、お前がやっているのは地神にあるまじき卑しい理屈でしかない、いや、理屈というのもおこがましい。
女神メサイアよ、お前のような卑しく汚らわしい存在は今ここで処刑する。
罪状は『理由なき世界破壊』、『神王陛下の御力の濫用』、『地上世界の生物の過干渉』、『反逆罪』だっ!!
神王が長子、デュケイン・ヴァッサーゴ・リヒテンシュタインが宣言する、『お前はクビだっ』!!」
デュケインが飛び出す、【神斬】が唸りを上げてメサイアに容赦なく振り下ろされるが、どこから出したのか黒い大鎌を取り出したメサイアが寸でのところで大鎌で神器をいなした。
「…神器【撫斬】か、デュケインめ、高位神器まであの世界に下ろすとは何事だ」
バルがメサイアの大鎌を見てそう呟くと、デュケインがメサイアと打ち合いながら弁解していた。
「あっちの世界の生存率上げるためにしたんだもん、まさかこのクズが使うだなんて思ってなかったしっ!!」
「一定の力を持つ存在は総じて神器の所有権が発生する事は卿も知っているだろう、適当にばらまいていた癖に何を言うかこの大バカモノがっ!!」
「余裕ねこのイカレ戦神めっ!!
その余裕っぷりすぐに崩してあげるわっ!!」
扱いにくいだろう大鎌をメサイアはまるで手足の様に振り回してデュケインの攻撃を捌き薙いで反撃した。
代行者さえ知らない、世界の命運を左右する戦いが、火ぶたを切っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…今日も今日とて、修行の日々ですか」
と呑気そうな声を上げたのは、代行者としてこの世界、ゴッターへやってきた魔人である。
世界の混迷の光となるべく、ある意味救世主として崇められるはずの彼は、現在弟子たちと仲間を相手取って模擬戦闘を行っていた。
前衛1人と後衛2人という中々にバランスの良い構成で、前衛のリオンとの剣戟の打ち合いの間に火系統魔法や風系統魔法が視界を覆い尽くすほど襲い掛かってきたりと、ぱっと見命の危機である。
「くぅ、この程度じゃ脅威にもなりませんか、さすが先生ですっ!!」
と魔剣を振るう弟子1号、リオンが悔しそうにウルの獲物を打ち付ける。
隙間を縫うかのように炎の矢がウルを襲うが、神器【散華】の効果による魔力崩壊によって触れる前に消えてしまった。
「先生の鎧ズル過ぎよ、あれなら普通不意打ち成功するのにーっ!!」
弟子2号であるジュリーが地団太を踏んでいた。
実際ただの鎧で炎の矢を受けていた場合、待っているのは着弾点周辺が爆発&炭化する大惨事となるのだが、お互い感覚がずれているのか、もはや気にしていないようである。
追撃のように風がウルに纏わりついて動きが若干悪くなると、最近仲間になったエーヴァがほくそ笑んだ。
「点が駄目なら面ですの、見たところ、あの鎧は攻撃魔法は防げても攻撃以外の魔法には対処不能と見ました。
ならば周辺の気圧を変化させてウルの動きを封じればっ!!」
「…見事な分析ですエーヴァ、さすがはランク最高位の黒、経験が違いますね」
「リオンっ!!」
思わず褒めたウルだったが、エーヴァは油断せずにリオンに追い打ちをかけるよう指示する、仮想敵ではある以上、存分に相手どるつもりであったようだ。
ウルは変動を続ける気圧に対応が遅れていたのか、動きがだいぶ鈍くなっていた。
神器で魔剣を打ち払いながら対抗魔法を練ろうとしているが、後方から白い炎球が大量に襲いかかってきて、反応が遅れた。
灼火の白弾を改良して効率化した魔弾が今度は約50という数でウルに襲い掛かる。
既にリオンは爆発範囲から離脱していて、準備は万端といったところであった。
「…『王国』から『美』へ移行っ!!
防御結界っ!!」
ウルが枷を外して纏わりついていた風を強引に破壊してみせると、ウルに襲い掛かってくる魔弾を防いだ。
爆発する魔弾はただの1つとしてウルを傷つけることが出来ず、模擬戦はそこで終了した。
「…ふむ、連携がかなり良くなってきましたね、この調子だといざ私があなた達と別行動をとっても一応の安全は確保できるでしょう。
リオンは攻撃の隙が少しですが減って来ていますし、ジュリーは魔力の効率化がうまくなってきています。
エーヴァは…まぁ、さすがの一言ですね、連携の要である貴方がいれば弟子2人も安心でしょう、ありがとうございます」
と弟子2人にはまずまずの評価が下り、エーヴァに対してはリオンとジュリーに見習うよう諭すウルである。
とはいえ、アメの後はムチである。
ここからウルの長い説教が始まった。
「リオンはやはりまだ脇が甘いですね、予期出来なかった攻撃を受け止めようとするのはどう考えても減点対象です。
攻撃は必ず躱しなさい、出来なければいなす、打ち落とす、払うなどして絶対に受け止めないようにしなければなりません」
「う…はい、注意します」
歪などは基本腕力の強いのが大半で、受け止めてしまうとまず間違いなく吹き飛ばされてしまう。
例え受け止めたとしても、第二撃をすぐに対処するのは難しいだろう。
故に躱す、すぐさま切り返す身体能力があるのなら、それが一番なのだと体に染み付かせるように、ウルはリオンにそう教えていた。
「ジュリーは前衛を頼りすぎです、加えて動きも遅い。
常に動きながら魔法を発動させなければ、いざ前衛が対処できなかった歪が来たときどうするのですか?
一撃で倒せなかった場合、待っているのは死、のみですよ?
魔法を放つ案山子でいたくなければ、もう少し考えて行動しなさい」
「精密制御しながら動くだなんて無茶だよせんせー。
してもすぐに何かにぶつかってそっちの方が危ないよっ!」
「何を甘えたことを言っているのですかジュリー。
私の旅に同行するというのなら、せめて高速戦闘できる位の実力になってもらわなければ困ります」
大半の魔術師は固定砲台として前衛の助けとなって牽制や大火力を放ったりと活躍するのだが、ここウルのパーティーに入ってしまった以上、そんな温い扱いは許されない。
実際ジュリーの魔術師としての腕前はかなりのモノで、磨けば必ず光ると言っても良い程である。
早い内から叩いておけば、必ず役に立つはずだとウルは半ば確信交じりの模擬戦闘をしていた。
事実ウルにでさえ出来たのである、才能のあるジュリーならばなおさらだろう。
なので、ジュリーの甘えをウルは許さない。
「…時間をかければジュリーも私のようになれます、最初から無理だと思わず精進なさい」
と素っ気なくはあるが甘い言葉をかけてしまうのはまだまだ自分も甘い、とウルはため息をつくのであった。
「エーヴァはやはり火力が足りていませんね、牽制や連携はさすがなのですが、ここ一番のトドメ…大火力による攻撃というものがありませんでした。
今後の課題としては、牽制や連携を生かしつつ、風系統や水系統を使った高位魔法を使えるよう訓練するといいですね」
「くっ、さすがにわたくしにもきましたか…そうですわね、このパーティーに入った以上、現状に甘えるという事は許されませんか。
分かりましたわ、わたくしも更なる精進をお約束いたしますわ…時間はかかりますが、そこの所はご容赦を」
以前エーヴァが組んでいたパーティーでもエーヴァの役割は牽制や連携の繋ぎといった物で、新たに入ったこのパーティーでもその役割はほとんど同じだった。
実際のところ、ジュリーの魔術師としての腕は一流と言っても良い程で、ジュリーには出来ていない高速戦闘など実現している辺り、さすが黒ランクの冒険者と言えるだろう。
が、それでもウルには通用しなかった。
ステルヴィアを出て一度だが1対1の個人戦をしたことがあった。
結果は惨敗、ウルの攻撃魔法を躱すのに必死になりすぎて、反撃の糸口をつかめずに敗北を喫してしまった。
加えて唯一出来た反撃は得意な風系統の中位程度の威力を持った魔法だったが、神器で断ち切られるという、何ともショッキングな場面を見てしまったのである。
実際ウルの強さが他の者達からすれば反則的なものなのだ、大抵の攻撃手段は即座に対処され不意打ちなど滅多に出来ない上、例え高威力の魔法を使ったところで、枷を少し外してしまえば簡単に対処できてしまう。
理不尽の塊が説教しているとジュリーがぼやくのも無理ないといえよう。
ともあれ、修行の時間が終われば後は殆ど無礼講、必要最低限のマナーがあればこのパーティーは比較的自由である。
時間も日が傾き始めていて、ムシュフシュでは日の入りが比較的早い。
野営の準備を模擬戦闘をする前からしていたので、すぐに食事の準備が出来たのは、幸いといえよう。
「先生、今日の夕食はなんですか?
僕は前食べた『パスタ』がいいです」
「あ、ズルいよリオンってばっ!
先生、あたしは材料あったら『オムライス』がいいっ」
「その…わたくしはウル様が作ってくれた料理ならなんでも…いいですの」
若干1名ほど主体性がないが、大体このような毎日を送っている4人である。
ウルはリオンの言葉を聞き入れて、夕食はミートスパになった。
多分な魔力のあるウルならではの行為であって、普通の冒険者が料理など本来ありえない。
エーヴァも当初は旅をしている最中は携帯食料が活躍すると思っていたが、旅を始めてから一度として携帯食料は鞄に入ったままであった。
「…それにしても、まさかムシュフシュが内戦を起こしているとは思っていませんでした。
アドルフから聞いていた話では、どうやら王女が何かやらかしたと聞いているのですが…お陰でムシュフシュに直接行く羽目になるとは」
「手紙で済ませなくて残念だとは思うけど、おいしい食べ物もあるかもしれないし、そう悲観する事ないと思うよ先生?」
最終的にジュリーのお腹を十分に満たしてくれる食事があればいいのだと、弟子2号は楽観視していたが、弟子1号はそれほど楽観していない。
「…はぁ、内戦真っ只中の国に行くなんて、きっと先生の力を狙ってバカな連中がアリみたいに群がってくるんだ…ついてない」
悲観していた。
「正直、わたくしもこの状況下でムシュフシュへ向かうのは無茶だと思うのですが…通り道には妖精の国フィンヴァラ、そして魔人の国ルーテンブルクがありますから…どの道行くことは決定なのですわ」
エーヴァはあまり乗り気ではなかったが、今後の事を考えると遠回りする方が面倒という事もあってか、渋々賛成といったところである。
「…そもそもの発端が私の師匠が関係しているらしいので、正直申し訳なさからくる謝罪もあるのですがね…」
以前無理矢理呼び出された際、師である魔神デュケインがムシュフシュの末姫を酷く苛めたと辟易しながら教えてくれていたため、ウルも当初は面倒になると分かってムシュフシュには行く気が無かった。
デュケインの情報によれば、元々の個体値が平均的に高い竜人ならば現状の危機に対して冷静に対応してくれるだろうと思って親書を送るようにヨハンに頼んだのだが、当時内戦勃発前だったムシュフシュ後に向かいたいという者が1人も出ないという事態に、どれだけヤバいんだその内戦、と内心顔をひきつらせたウルなのであった。
実際に竜人族の中でも特に強力な力を持つ者が引き起こす事件は『竜の災い』と呼ばれるほど酷いものらしく、まさしく天災のような扱いらしい。
切実に行きたくない、とウルは深い溜息をつくのだったが、デュケインが面倒を起こしてその始末を付けなくては、とふとした瞬間思ってしまい、そのままずるずると向かうことになっていた。
とはいえ、始末と言っても国の問題である、一介の冒険者として基本動き回っているウルが出来る事など本来はない。
そう、無いのである。
以前アヴァロンでやったような無理なやり方はこの国では絶対に問題がある。
そもそもこの竜人の国ムシュフシュでは『国教』というモノがなく、教会の権力を十分に及ぼせられない微妙な土地柄なのである。
いや、局所的な干渉は可能だが、国レベルとなると精々が首都機能を一時的に麻痺させる程度しかない。
そもそもこの国は魔人の国と同様に独立精神が高く、はっきり言って我が強いのだ。
故に、上からものを言う態度をすればまっているのは血塗れのケンカである。
要するに、ムシュフシュの竜人たちは血の気が多いのだ。
ケンカが発展してその後規模が広がり内戦へと走っていく。
他国と比べて、ムシュフシュの内戦回数は桁が1つどころか2つも違う。
それくらいに、竜人は血の気の多い人種なのである。
「…空が青いなぁ」
「先生、もう赤くなってるんだけど?」
現実逃避しようとしたウルだが、ジュリーの鋭い突っ込みで即座に現実に戻されるという苦い思いをしてしまうのだった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
…はじめてじゃないでしょうか、デュケイン様が結構真面目なこと言ってます、驚きです…いつまでこの真面目っぷりが続くやら。
地上ではウル君がぼやきながらもムシュフシュへ向かっています、複雑な気持ちで。
番外編と絡んでますので、これからどうなるのかある程度は予測できるの方も多いかもしれないですね。
それでは、次回予告。
次回、『天と地ではそれぞれⅡ』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




