第011話 暗鬼躍動
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
もうすぐ番外編も終了、そしてこの回で新事実がっ!?
・・・お楽しみを。
翌日、エインディアはハイドリヒと特号を置いてアドルフたちと結界を張りに出ていた。
とはいえ、案内された場所にエインディアが起点を作って次に巡るだけという簡単な作業で、9度も同じことを繰り返すとエインディアも後半から面倒だと思い始めていたが。
「…何で『九点結界陣』なんぞ張ろうと言い出したんじゃったかなあ」
役に立つのか不明な護衛にも聞こえるような声を出してエインディアがぼやいていた。
アドルフは齢の所為か体力的に息切れを起こしており、別の理由で同意の言葉を上げている。
「1つ起動させるのに小一時間かかるからのお。
面倒で仕方ないぞい」
「エインディア様が進んで手伝うと仰っていたとわしは記憶してるんですがのお?」
アドルフがエインディアの愚痴に律儀に対応している。
護衛たちは枢機卿であるアドルフがなぜか冒険者風の格好をしているエインディアに対して丁寧な言葉遣いをしていることに疑問を抱いているが、何も言えずにいた。
「これが最後の1つなんですから、もう少し集中してくだされ」
「わかっとるがな…にしても、最後の起点が『降臨の塔』とはのお…因果を感じるわい」
それからエインディアは黙々と他の起点と同様に作業を移していく。
夜も更けるギリギリのところで完了し、結界をすぐに起動させる。
既に首都内部では、本日未明に9本の光の柱が出る、と布告されているので、騒動などは起きなかった。
大半は教皇ヨハンが結界をさらに強めたと誤解しているが、エインディアはその誤解を解こうとは思っていない。
「よ、ようやっと終わったか…さて、帰るとするかのお。
弟子たちが待っとる」
「お、お疲れ様でございました」
アドルフと別れると、エインディアは『降臨の塔』から降りて行く。
それが、アドルフとエインディアの最後の会話であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
更に翌日、ハイドリヒと特号は教皇庁へと来ていた。
朝になっても師であるエインディアが帰ってこない事に不信感を抱いたからである。
デュケインも『管理者の間』にいるため、どういう事態になっているのか分かっていなかったのである。
腰痛に悩まされながらも、アドルフはハイドリヒと特号を応接室に招いた。
「わしは『降臨の塔』でエインディア様と別れてから少しして護衛と共に教皇庁へと戻り猊下に報告して部屋に戻ったんじゃ。
残念ながら、2人の役に立てる情報はないのう…面目ない」
ハイドリヒと特号の前で、アドルフが深く頭を下げた。
「ちょっ、やめてくださいっ!!
俺たち、そんなつもりで聞きに来たんじゃっ!?」
ハイドリヒも慌ててなぜか必要もなく頭を下げた。
「そうであります、貴殿の言い分が正しければ、これは由々しき事態。
とはいえ、現状不明な点が多すぎて、何から手を付ければいいのやら…」
特号は、結界を張ったエインディアがどういう理由でハイドリヒと特号―――デュケインから離れていったのかを疑問に思ったのである。
よほどの事が無い限り、エインディアが2人の元から何も言わずに消えるなどありえない。
そして、そのありえない事態が現状であり、不可解な疑問しか残らないのである。
「お、俺はその結界の事良く知らないんだけど…それ使った所為で師匠はどっかに行っちゃったのかなあ?」
「…いえ、逆でありますハイドリヒ殿。
この『九点結界陣』を張った以上、難攻不落の要塞都市に何らかの干渉が行われる等、実質不可能…なのでありますが、エインディア様に悪しき者が手を出せるのかどうかといわれれば…」
「無理じゃろうなあ。
この首都に、エインディア様より力ある者など1人としておらん。
『守護騎士』の2人も昨日の時点で首都から離れておるのを門番が確認しておる。
つまりじゃ、エインディア様について考えられることは一つしかなかろう」
つまり、自らの意思を以て消えたという矛盾した結論に至ってしまうのだ。
ハイドリヒと特号は途方に暮れた表情をして俯いてしまうが、アドルフとしてもどうしようもない気持ちでいっぱいである。
何しろ最後にエインディアと会ったはずのアドルフも、エインディアの異変に全く気付いていなかったのである。
「…そう言えば、ヨハン様の最近調子が悪いって言ってましたよね?」
そして何か思ったのか、ハイドリヒがアドルフに質問をした。
正確に言うと、強力な結界を200年近く張り続けた弊害で、一時期結界に綻びが出来たという話である。
何を言い出すのかとアドルフは思ったが、思い出すようにしてハイドリヒに答えた。
「そうじゃが…まさか、その時何者かが侵入したとっ!?」
「はい、後確認なんだけど…結界って、外側から内側に外敵が入って来ないようにするんですよね?」
「そ…そのはずじゃが…まさかっ!?」
「そ、某にも予想がつくであります。
事態は深刻であります、敵がその一瞬の綻びの内に首都に侵入し、未だ内部にもいた場合、最大の敵…つまりエインディア様を排除した後、大陸の要ともいえるこの地に痛恨の打撃が……っ!?」
特号の言葉が最後まで紡ごうとした瞬間、耳を抑えたくなるような爆発音が響いた。
教皇庁の上層部のどこかが爆発したのである。
以前はアドルフの部屋に起きた爆発の更に何十倍もの音が響いた。
「な、何事じゃあっ!?」
アドルフが驚いた声を上げるが、すぐに察知した。
大陸の要、つまり神聖不可侵とされた教国首都の更に中心部、教皇庁への強襲である。
「アドルフ枢機卿、御無事ですかっ!?」
退室していた護衛が即座に対応して応接室に入ってくる。
護衛によると、最上階にある教皇執務室付近から爆発が上がったとのことであった。
「げ、猊下はっ!?
教皇猊下は御無事かっ!?」
思わず護衛に掴みかかったアドルフだったが、特号に興奮が収まるまで抑え込まれた。
更にもう一度爆発音が上がると、教皇庁内部に響き渡るような大きな叫び声が聞こえた。
まるで怪獣のような唸り声に、侵入したのは強力な歪なのかとハイドリヒと特号は疑った。
アドルフと護衛を連れて2人は教皇庁から急いで外に出た。
あれほどの衝撃を受けて、教皇庁が崩壊するのではないかと思ったからである。
外に出て、まず2人は教皇庁の最上層から火と煙が上がっているのを確認すると、辺りを見回した。
唸り声の主が見当たらないためである。
「そ、そんな…!?
確かにさっきまで声がしたのにっ!!」
ハイドリヒがありえないといった声を上げると、特号が周辺地域に探知の術式をかける。
少しすると、何もない上空のある一点を指さすと、探知の結果を伝えた。
「いえ、敵は不可視の術を使って自らを視認出来なくしているようでありますっ!!
あの上空に異常な質量を感知したでありますっ!!」
「特号さん、なんとかできるっ!?」
「お任せあれっ!?」
ハイドリヒの期待を受け特号は両手に強力な魔力を込めると、そのまま上空に放った。
すると、そのまま上空を通過するだけだった何もない空間から爆発が生じた。
『グアアアアアアアアアアアッ!!』
再び唸り声がすると、不可視の術が解除され、その声の主が現れた。
しかしその姿は、ハイドリヒや特号、そしてアドルフにとって最も信じがたいものであったのである。
全身を黒く磨き上げた鱗は太陽に反射し、頑強な翼を羽ばたかせながら、紅い瞳を瞬きさせる。
外相が全くないようで、特号の攻撃はその姿に全くの影響を及ぼしていなかった。
そう、その姿は―――、
「「「し、師匠っ(エインディア様)!?」」」
強襲を仕掛けたのは『観察者』エインディアの姿をしていたのである。
巨大な竜は攻撃をしてきた特号やその周りの者達を睨みつけると、耳を劈くような声を上げてその場から去っていく。
結界に意味はなく、たやすく首都から離れていくのをただ見るだけしかハイドリヒ達は出来なかった。
『樹海火災』に続いて、歴史的な大事件である『教皇庁黒竜襲撃事件』は幕を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
黒竜の背に乗った黒い影は、少し新たに手に入れた『駒』の出来具合に喜んでいた。
「よい具合に操作は出来上がっていますな…栄えある女神さまの『駒』就任おめでとうございますよ『観察者殿』?」
『…キ…サ……マ』
唸り声を上げる黒竜だが、身体は影の命令に忠実で、憎々しげな声しか上げられない。
「おや、まだ意識がありましたか?
さすがに結界を解いた後の事ですからな、あの方も怪我無く済んでおられるでしょう。
心配召されるな、貴殿の攻撃で我らが主には傷一つついておられぬだろう」
黒竜は薄れゆく意識の中で影の言葉の意味に気付き、己の怠惰さに後悔した。
あの笑顔が一体どこで会った者と似ていたのか、それをすぐに思い出しておけば、このような失態をせずに済んだのにと。
そう、この影と同様、壊れた笑みを浮かべた歪人と同様なのだという事実に。
黒竜―――エインディアの意識は、暗い気持ちなまま意識を落としていった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
…な、何も言いませんよ?
怪しい伏線が色々と出てきましたが、読者の方々のご想像にお任せいたします、としか作者は言えませんっ!!
というか、作者の執筆能力について読者の方々に叱咤叱咤罵倒をしていただきたいのが本音なところです。
さて次回予告。
次で番外編も終了、そして長期休載へ…。
次回番外編最終回、『暗夜逃路』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




