第009話 僕は悪くないもんね
第9話でございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
冒頭少し暗いです。
デュケインにはたった一つではあるが主義がある。
それは、『無駄な殺生は例え敵でもしない』である。
ただこの場合、一度でも敵対した場合は省くことは多いが、概ねこの主義を全うしてきていた。
しかし今回、デュケインはその主義に完全に反した行為をしたと感じてしまっていたのである。
『狂い鬼』―――イオとメア―――を倒した後、角を吸収した後に心臓を取り込んだ。
そしてその時に、2匹の想いも一緒に流れてきたのである。
そして流れてきた記憶のもっとも古いもの、100年前のある出来事がデュケインの脳裏によぎる。
当時、まだ『狂い鬼』と呼ばれる前のイオとメアはすでに番同士だったらしく、歪にもかかわらず人と敵対すらせずにひっそりと暮らしていた。
必要最低限の狩りしかせず、まるで隠者のような生活をしていた2匹は、まるで人で言う所の厭世家のようであった。
この段階ですでに歴史は捏造をしており、歴史書によるとイオとメアは当初から人里に下りては破壊と殺戮を巻き起こしていたと記述されている。
そして100年前、変異種のファブッターデイモンがいるとの報告を受けた教会がギルドを通してその調査を命じた。
強靭な肉体を持ち魔力に対してもかなりの抵抗力を持つ甲殻を当時の教会とギルドも強く欲しており、大規模な遠征軍となって隠れ住んでいた山へと押し入ったのである。
長時間の戦闘の末、番の片割れであるイオは深手を負わされて都市に秘密裏に運び込まれた。
メアは連れて行かれたイオを探して人里を襲いながら番を探し続けた。
黒い涙を流しながら愛する番を探し求め、狂った叫び声を上げながら。
いくつかの村を壊滅に追い込み、都市を破壊して、ようやく番のもとに辿り着いた時、メアはようやく愛する番と出会うことが出来た。
メアが見たもの、それは、全身のほとんどの甲殻を生きたまま剥がされ、再生すればまた剥がすという拷問を受けていたイオの姿であった。
現在その甲殻は軽くて魔力抵抗のある素材としてかなりの高額で取引されており、黒の冒険者のほとんどはこの甲殻を使った武具を使っていたという。
そして、今度こそメアは『狂った』のだという。
都市を完全に落とした後、イオとメアはさらに人跡未踏ともいわれる地域に身を寄せた。
そしてイオの甲殻については以前と比べて壊れやすくなっており、メアは番を守るために常に戦い続けてきた。
そして目の前の少女と青年と戦闘になりつつも2匹は逃げて教国へ逃げ込んだ。
どうやら女神に何らかの指示を受けていたようだが、詳細が流れてこない。
ともあれ、デュケインのすることは分かりきったことで。
自分を利用したものに対して徹底的な報復を行う事である。
さしあたってまずは…、
「そこの小娘、うちの子から手を離せ」
適当な理由を付けてこの2人を痛め付ける事にする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とはいえ、手を離せといわれて素直に話すほど、少女は素直な性格をしてはいないようで、デュケインの殺気交じりの視線にあてられながらも頑として受け付けなかった。
「悪いね坊っちゃん、こっちも上の意向に従わないといけなくてさ?
原因究明とかオタクらがどういう輩か調べないといけないワケ、分かる?」
金髪の青年が悪気はないというが、デュケインとしてはこの2人組が何らかの組織に属している言葉に気付き、若干計画を修正した。
デュケインはついでにこの青年の口の利き方に対して評価を若干下げたが。
「ふーん、上ねえ」
「ヴァッサーゴ卿、わしはとりあえず口の利き方のナットらん小僧を締め上げて、わしの弟子に手をかけておる小娘に罰を与えたいんじゃが?」
手甲を打ち鳴らしているエインディアの怒りはすでに噴火寸前で、それを直視しているハイドリヒまで涙目になってしまっている。
デュケインとしても【神言】を使えばすぐにハイドリヒを救出する事は出来るだろうと踏んで入るが、相手の能力について疑問に思っていた。
「エインディア、【異能】の使い手に油断は禁物だよ?
パッと見ザコに見えるかもしれないけど、『狂い鬼』とほぼ対等に戦える相手なんだから、少しは警戒してほしいね」
「え、どうしてそれをっ!?」
少女が声を上げ、青年の表情も固まってしまっていた。
デュケインはすかさずその油断に乗じて【神言】を使った。
ハイドリヒを指さすと一言、
『こっちに戻ってこい』
その言葉に促されるように、ハイドリヒが少女の手から消えると、いつの間にかデュケインの目の前に現れていた。
まるで瞬間移動のようだが、空間を跳躍しただけだが、人質をとって優位に立っていたと思っていた2人からすればとんだ誤算である。
「ふん…【異能】の使い手としては精々が中の下程度か。
この程度の事象にその驚き様、程度が知れるな。
ああブリンド、ハイドリヒ預かっといて、怪我さしたら毛毟り取るから」
「罰…なんだよな、分かったぜ」
さすがに理解していたのか、ブリンドは粛々と了解した。
擦れ違い様にハイドリヒの頭を一撫でして、少しだけ気分転換すると、不機嫌な様子の少女と青年はすぐに考えを改めて戦闘の態勢に移った。
とはいえ、デュケインがその様な態度を許す筈もなく、容赦なく一撃を加える。
『跪いて利き手と利き足を自らの【異能】で破壊しろ』
「まさかあんたも【異能】のっ!?」
その宣言通り、2人は自らの【異能】を使う。
少女が嫌だと叫ぶが、彼女の意思に反して炎は自らの使い手の利き手を容赦なく焼く。
「その程度の違いにも気づけないからその程度なんだ」
デュケインの言葉に耳を貸す余裕もなく、青年の身体を電撃で襲って利き手に浴びせた。
「ぐっあああああああああっ!!」
青年の声から獣のような声が上がる。
エインディアが報復をしようと思っていたが、やる気をなくすようなえげつなさであった。
利き手を別々のやり方ではあるがこんがりと焼いた2人は憔悴し切っていて、下手をすればそのまま意識を失って命を落とす事だろう。
ブリンドはハイドリヒに目の毒といって視界を塞いで、次いでとばかりに耳も塞いだ。
鼻も塞いであげたかったようだが、手も届かないようなので諦めていた。
「…さて、お前たちの所属している組織を教えてくれないかな?
うちの可愛い可愛い子に手を出した事と、僕個人の八つ当たりに遭って欲しいんだけど」
「…教会所属『守護騎士』第8位『炎華』エルフィー・バーネットよ。
そっちでのびているのは同じ所属で第7位『雷火』、リード・アイローグ。
さすがに2人じゃ教会に報復は無理でしょ、私たちで手を打ってくれないかしら?」
少女が渋々といった様子で白状すると、デュケインの知らない言葉が出てきた。
エインディアは知っていたようだが、口に出そうとはしない。
「…んー、何その中二な職種。
どこぞのゲームじゃあるまいに…とりあえずヨハン2・3回ほど殴ろうか?」
真面目な顔をしてデュケインは話したが、2人以外は反対する者はいない。
エインディアはデュケインとヨハンの関係を知っており、ブリンドもデュケインがヨハンの上位者であることを理解していたからである。
とはいえ、事情を知らないエルフィーとリードが知っているはずもない。
リードは気絶したままであるからどうしようもないが。
「あなた…正気?」
エルフィーがデュケインを信じられないものを見る様な目で見るが、本人は至って正気である、価値観はかなり異なっているが。
「本気さ、別に『降臨の塔』の最上階から突き落とすわけじゃないんだ、死にゃーしないさ」
「…いや、ヴァッサーゴ卿の加減次第じゃと2・3回殴れば大抵の者は屍にしかならん気がするがのお?」
エインディアが苦言を呈すが、デュケインの怒りの矛は以前ヨハンに突きつけられたままだ。
「大丈夫だって、ヨハンは不老不死だもの、器がちょっと壊れたくらいじゃ死なないよ」
「だったら…貴方をここから逃がす訳にはいかないわ」
エルフィーが憎々しげにデュケインを睨むと、デュケインは違和感に気付いてその場から後ろに下がった。
デュケインがいた位置には火柱が上がってその火が止む気配がない。
彼女の【異能】である『炎華』が発動したのである。
【異能】とはある魔法の中でもかなり特質的な分類に位置している。
魔法とは魔力を用いて事象を現す事であるが、【異能】は魔力を『変質』させて事象を現すのだ。
彼女の【異能】は彼女の意思で魔力を変質させて炎を顕現させる。
そして、何より異質なのは自らの魔力を全く使わないというものである。
大気中にある魔力を燃料に、炎はいくらでも出し続けられる。
彼女の意思が止めようと思うまで、尽きる事は無い。
「ちっ、はずしたっ!!」
「危ない危ない、さて、僕らはやる事が出来たから退散する事にしよう。
『狂い鬼』の件を片付けないと、このイラつきは収まりそうにない」
炎を避けながらデュケインが倒れている2人を嘲笑うかのように言う。
機動力を欠いたエルフィーに追う力は残っておらず、この場から逃さないことに専念するしかない。
集中して炎をデュケイン、それにエインディアに向けるが、避けられるばかりで周りの岩や木々に燃え移るばかりである。
「あ、やばっ!!」
樹海の側に火が燃え移ったのである。
炎はみるみるうちに他の木々に火を移していき、すでに大火災一歩手前である。
「…ぼ、僕悪くないよっ!?
当てられずに他のモノ燃やしたコイツが悪いっ!!」
とエルフィーを指さすデュケイン、当然の事だが、敵の炎に身を任せる事などありえないから言おうとすることはエインディアとブリンドには分かるが、技沢言い訳がましく言う必要はないのでは、と思うのであった。
「エインディア…消せるこれ?」
「【異能】は…どうじゃろう?
原理が少しばかり違うからのお…やってみよう」
エインディアが魔力を用いて水で火を消そうとしたが、蒸気が吹き上がり、且つさらに燃焼が加速した。
魔力を用いたことにより魔力を燃料にさらに火力が増し、水と魔力を分離して残った水が上気となったのだが、それに気づいてからではすでに遅く、
「…参ったのお」
「んー…エインディア、急いで竜化して、逃げるよ」
エルフィーに近づいて気絶させることを断念すると、デュケインはすぐさまエインディアに指示を出した。
てっとり早くエルフィーを気絶させてこの炎を鎮火させようとしたが、エルフィーは自分の周りに炎の壁を作っており、手を出すことが出来ないでいる。
エインディアが竜化すると、3人は急いで背に乗って上空から離脱した。
エルフィーは追撃をかけようとしたが、逃げられたと判断してからはこの火災をどう言い訳すればいいのか、それだけを考えていた。
既に痛みで感覚が鋭敏になっており気絶する事も出来ず、リードが目を覚ますまで治療は出来ないだろう。
ようやく鎮火した樹海は僅か10分ほどで全体の3分の1を焦土と化すという異常事態となっていた。
「教皇猊下…御無事で…いてください」
リードが目を覚まして治療が終わる間際、エルフィーは気絶する直前ヨハンの事を案じた言葉を残した。
読んで戴き誠にありがとうございました。
冒頭の『狂い鬼』…ちょっと裏話ということで。
えーと、火災発生です、主にデュケイン様が炎を避けたのが主な原因?
とはいえ、避けないとデュケイン様がコンガリ焼けるので避けるのは当然、結果、違うモノを焼いてしまったお嬢ことエルフィーが悪い、というわけです。
リード君は意外なことに治療ができちゃうわけでして、【異能】と魔法の系統は相性云々では語れない、ということに設定上なっております。
これについては、いつか詳細を書く予定になっておりますので。
続けて閑話が入りますので、第10話は少々お待ちを。
さて次回予告。
次回、『溜飲がほんの少し下がる』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




