第008話 一難去ってまた一難
はい、番外編第2弾第8話でございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
活動報告にも書いたのですが、3月15日をもちまして、少々の救済を予定しております。生活の変化が理由の一つでございまして、なるべく早く連載再開をする予定です。
では、お楽しみください。
メルクボ樹海のある場所では、2人組の男女がいた。
歩き続けていたのか、吐いているブーツがかなり汚れていて服も少し汚れているようだ。
1人は燃える赤い長髪をなびかせた少女、端正な顔立ちだが目元のクマと疲れた表情が印象的な所為か少し病んでいるように感じられる。
ボロボロの神官服で穴が空いていたり橋が破れていたり、服装に気を使っていないようだ。
もう1人は何日か髪を洗っていないのか、くすんだ金髪の青年で、こちらも少女と同様目元のクマが印象的で、心配そうに少女の方をしきりに見ていた。
端正という訳ではないが見ていて落ち着く顔をしている青年は、今日何度目かの休憩の声を少女にかけた。
「…お嬢、いい加減休みましょうや?
オレもうクタクタっすよ…2日ほど眠ってないし風呂にも入っていないしで色々とヤバいから一度首都の方に戻りません?」
口を開くと外見と全くそぐわない口調で話す青年に、見た目に会わない溜息をついた少女が嫌と答える。
「折角『狂い鬼』の1体に重傷負わせたのにこのまま帰るとかありえないでしょ?
しかも教国に侵入されるとか失態も極まりだわ、他の『守護騎士』はまだ国外なんだもの、こっちで処理しなきゃ誰がするっていうのよ?
他人任せにするような発言したら燃やすわよ、リード?」
「お嬢はもう少し身だしなみに気を付けてねえと旦那が出来ねえぜ?
歪だってお嬢くらいの齢になってりゃあ番も出来てるってのにぃっ!?」
リードと呼ばれた青年がいた場所から火柱が上がった。
リードは焼かれたのかと思いきや、いつの間にか少女の背後に回っている。
その体の周りには、淡い光が纏われており、時折何かがはじける音がしていた。
「…お嬢、こういう場所じゃあお嬢の力使っちゃだめだぜ?
あっという間に大火災、樹海を禿げさせちまうとさすがにアドルフ枢機卿のじいちゃんがうるさいっての」
服の裾を鼻にあててすんすんと臭いを嗅ぐとわざとらしく辛そうな表情をとるリードに、少女は無視して歩を進めた。
そして数分後、遠方で爆発が起きた。
『グアアアアアアアアアアアアアッ!!』
爆発に遅れて野太くも周囲を威嚇するような低い悲鳴が響き渡る。
少女と青年はこの声の主を知っていた。
「…リード、行くわよ」
「…はぁ、なんか厄介ごとの予感」
2人組は自らの失態を拭いに走る。
舞台の役者はこれで揃った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おー、一本角の赤鬼と三本角の緑鬼か。
しかも片割れの方は火傷してる?
ある程度の炎は効くんだ、いい情報だね」
「じゃがここでは炎は使えそうにないのお、ヴァッサーゴ卿が使えば一帯が火の海にしかならんわい。
という訳じゃ、肉弾戦じゃな…後は引火性のない魔法でも使うとするかの」
4人の内デュケインとエインディアは呑気な声で洞窟から出てきた『狂い鬼』を出迎えた。
体格は他のファブッターデイモンと変わりはないが、変異種とあってか全身を覆う甲殻で覆われており、その硬さは強力な魔法でも傷をつけることが出来ないといわれており、『魔法殺し』という魔法使いの天敵のような存在だ。
加えて近接戦闘に持ち込もうにも、強靭な甲殻で全身を覆っており、剣で斬りつけても逆に剣が痛む、鬼の武器である棍棒を受けて武器が破損するなどで攻守ともにバランスの取れた強大な力を持つ鬼である。
「…師匠、俺逃げた方がよくないですか?」
「…俺の腕でアレに致命傷入れられるか?」
残りの2人―――ハイドリヒとブリンド―――は『狂い鬼』の姿を見てそれぞれ自信を喪失していた。
エインディアはハイドリヒとブリンドに空間魔法『匣』を展開して囲い込むと、2匹の鬼が力強くトンデモ届かない高さに固定した。
「って、おいっ!?」
『主らは高みの見物をしておれ、こ奴らはわしらで片を付けよう』
エインディアの声が周りから聞こえ、2人はエインディアが魔法を使ったという事に気付いた。
声を荒げたブリンドだったが、エインディアの声を聴くと溜息をついてその場に座る。
下に何も敷いていないはずなのに、なぜか浮かんでいる空間、というのに気分が悪くなりそうだったが、どうにか平静を保っていた。
何より隣にいるハイドリヒが高所にいながら平静だという事に気付き、意地があった面もあるが。
『…オマエラハ…ヒトデハナイナ?』
緑鬼の1匹が鉄を擦り上げる様な奇音で話しかけてきた。
どこか理性的な声のようで、デュケインは思わず感心してしまった。
「へぇ、やっぱり今までのザコいのとは違うね。
あーうんうん、お前らとは違うけど結構はっちゃけた怪物2人組ね、殺すまでヨロシク♪」
デュケインが笑って返した、強い敵がいればいるほど元気になる根っからの戦闘大好きっ子は、いつ仕掛けようかとうずうずしている。
エインディアは手甲を慣らして関節周りの柔軟を始めている、こちらは鬼の呼びかけに答えはしなかったが、いつも以上に殺気が増していた。
『…マア、イイ。
ソレデハ…シアオウカ』
2匹の殺気も尋常じゃないほどに膨れ上がった、
「…エインディア、怪我してるの先に仕留めて、僕はこっちの元気なのと戦う。
ちゃちゃっと片付けて、こっちの援護よろしくね?」
「承知した、ところで【神斬】を使う気かの?
分かっておると思うがあれは…」
鈍器と刃物を打ち合わせた場合、十中八九刃物には何らかの不具合が生じる。
例え神器であろうと、それは例外ではない。
故に、デュケインが『狂い鬼』の獲物―――何らかの金属で作られた金棒―――を見た時、別の神器を使う事をすでに決めていた。
デュケインはどこからともなく神器を取り出した。
何の装飾もない、一見見たところそこらに有りそうな柄の長い金鎚である。
唯一の特徴といえば、鎚から柄まですべてが真っ赤に彩られた位で、まるでこの世の赤と呼ばれる特徴あるモノを全て込めたかのような、そんな深く暗い色をしていた。
「…【万象打ち滅ぼす鎚】か、それあれば2匹とも楽勝な気がするんじゃが?」
エインディアはその神器を知っていたのか、思わずそんな言葉を口に出した。
『狂い鬼』は金棒を構えると、2人の間を割って入るように強力な一撃を振り下ろした。
デュケインのリクエスト通りなのか、どちらも1対1で闘うつもりらしい。
左右に分かれた2人は話が中断されたため会話をする事すらも叶わないが、デュケインの思惑通りなのか、怪我を負っている緑鬼の方はエインディアに向かっていく。
怪我を負っていてもあちらの緑鬼の方が強いのか、それとも戦闘能力の劣るデュケインを万全の状態の赤鬼が倒して2対1にして畳みかけるのか。
どちらにしても、『狂い鬼』の計算は破綻している。
細い柄を振り回すように遠心力を利用して一撃を繰り出すデュケインに、赤鬼の振り下ろす棍棒と打ち合った。
『グウウウウウウウッ!?』
衝撃が走ると、小柄な体格のデュケインではなく、倍以上の背丈のある赤鬼が吹き飛ばされる。
神器【万象打ち滅ぼす鎚】、その能力は力押し型の敵に対応した神器である。
対象の力より遥かに超える威力を行使し、あらゆるものを打ち滅ぼす。
破壊行為でいうならば、数多ある神器の中でも断トツの1位であり、『作ったものは壊れる』という意味を力尽くで理解させられるいわくつきの神器だ。
どんなに硬くとも最終的に打ち滅ぼし、どんなに軟らかくとも打ち滅ぼす。
滅ぼせなかったモノは、現在進行形で見つかっていない。
【神斬】と対を為す神器で、デュケインは好んでこの2つの神器をよく使っていた。
「鈍器には鈍器ってね?
どうだい赤鬼、自分より小っちゃい敵にぶっ飛ばされた感想は?」
『ガァアアアアアアアアアアアアッ!!』
巨体に似合わない速さで赤鬼は立ち直ると、距離を一気に詰めて薙ぐように金棒で一閃する。
デュケインは真横から来た金棒を跳んで避けると、勢いが良すぎたのか右腕をそのまま遠心力を使って更に回転してデュケインに再度一閃を加えようとした。
デュケインはまだ浮かんでいたが、そのまま金鎚をタイミング良く合わせて金棒と打ち合わせる。
今度は足場のないデュケインが軽くだが打ち上げられ、そのまま態勢を整えると、今度は落下の勢いと回転しながらの強力な一撃を御見舞いした。
赤鬼は金棒で受け止めたが、金棒に異音が走る。
「次はその頭をトマトみたいに潰してやるっ!!」
地上に降り立つと、続け様にデュケインが金鎚を振るう。
今度は素足だった右足の小指に狙いを定めると、攻撃を避けながら金鎚を適度に伸ばし口元に笑みを浮かべながら叩きつける。
小指に叩きつけられたと同時に小指を守っている甲殻が割れ、その個所から強力な火柱が上がった。
『グアアアアアアアアアアアアアッ!!』
「デカいだけの的如きが、僕を上から見てるんじゃない。
図が高いぞ、このザコっ!!」
『万象打ち滅ぼす鎚』の能力の1つである、『部分燃滅』である。
対象と打ち合いをして、最適な『破壊度数』を自動設定して文字通りその部分を燃き滅ぼすのだ。
デュケインは炎対象以外に飛び火はしないため、遠慮なくこの能力を使うことが出来る。
更に追い打ちとばかりに脛の辺りを殴りつけるように鎚を打ち付けた。
悲鳴を上げる赤鬼は痛みに耐えきれずに後方へ跳ぶが、着地する際にバランスを崩して失敗した。
「逃げちゃだめだよぉ赤鬼ぃ、追いかけたくなっちゃうだろうっ!?」
態勢を崩したまま金棒で金鎚を防ぐ赤鬼だが、デュケインの猛攻は止む気配がない。
優位に立ったデュケインはちらりとエインディアの戦闘がどうなっているのか見てみると、あちらも優勢ですでに緑鬼の持っている金棒が真中から壊れていた。
赤鬼の金棒にさらに異音が聞こえ始め、デュケインは赤鬼の獲物の限界が近い事を悟ると、さらに力を込めて攻撃を加えた。
赤鬼も気付いていたが、態勢の悪い状態では反撃のチャンスが無く絶望的といっていい事態であった。
小指を消されたことにより満足に立ち上がれず、さらにはバランスをとることも難しい状態、しかも利き足である。
悪い事が立て続けに起きており、赤鬼にとってはよくない状況で周りが囲まれている。
「オオオオノォレエエエエエエエエエエエエエッ!!」
金棒を持っていないもう片方の手で辺りを探ると、手元に丁度良い岩が見つかった。
デュケインと同じくらいの大きさで、赤鬼にとっては手の平に収まる位のもので、別段問題はない。
振り下ろそうとするデュケイン目掛けて、赤鬼が投げた岩が迫る。
思わぬ反撃のようだったが、予測していたのか少し態勢を変えてデュケインはその岩に金鎚を叩きつけた。
「ははっ、ピッチャー返しってねっ!!」
岩は丁度よく金鎚に当たると、赤鬼の顔面目掛けて打ち返された。
高速で飛来する岩が赤鬼の顔面中心に直撃する。
「ヴァッサーゴ卿離れいっ!!」
エインディアの声に反応して振り返ると、間近に迫った緑鬼がデュケインに折れた金棒を叩きつけようとしていた。
『メアアアアアアアアアアアアアッ!!』
『すべろ』
デュケインは冷静に対処して【神言】を使うと、緑鬼が言葉通りに足を滑らせ、叩きつけようとしていた金棒が寸でのところで狙いがずれた。
赤鬼―――メアはデュケインの打ち返した岩で目に入ったのか、片手でごしごしと擦っているが、緑鬼の危機に気付いていずにいた。
よく見てみると片腕や背中に怪我しており、何か所も穴が空いていた。
血がかなり流れ出しており、このまま放っておいても出血多量で死ぬのではないかと思う程である。
既に瀕死の状態だったのか、既に立ち上がることすら出来ずにいた。
決死の思いで番を助けに来たのだろうが、デュケインは戦いにおいて甘い思惑など懐いていない。
「まあとりあえず…1匹目っと」
緑鬼の首元に目掛けて、金槌を振り上げて振り下ろした。
『メア…ニゲ』
火柱が上がり、緑鬼は最後に番の心配をしながらその命を散らした。
『部分燃滅』で首を滅ぼしたせいか、最後まで緑鬼が言葉を紡ぐ事は無かった。
『イオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
赤鬼―――メアが吼える。
緑鬼―――イオという番を失い、黒い涙を流しながら吼え猛った。
「んー?
ああ、奥さん死んでようやく狂ったのか。
狂ったらもう興味ないや『こけろ』」
無理矢理立ったのか、無意識ではあるがバランスをとっていたメアの態勢が前のめりに崩れそうになる。
デュケインは【万象打ち滅ぼす鎚】を再度構え、メアの顎を狙って打ち上げた。
直撃したメアは意識こそ飛ばなかったものの、既に知性ある言葉など吐きだせずにいて番を失った悲しみなどどこかに消えているようである。
デュケインは飛び上がると、今度は後ろに倒れそうなメアの喉元を狙って金槌を打ち付ける。
『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!』
金棒を盾にするかのように喉元にあてるが、もう何度目かの打ち合いで、既に金棒はボロボロであり、
『ア…』
金棒は耐え切れなくなり砕けたと同時にメアの言葉から放心の声が漏れた。
それはまるで人が正気に戻った時のような呆気ない言葉であり、最後の一時であった。
『イオ…』
最期の言葉はお互い番の名で、デュケインは『狂い鬼』に最後の一撃を振り下ろした。
火柱が上がると、メアの首は断たれて転がる。
デュケインは着地したまま何か思う事でもあったのか、立ち止まったままである。
エインディアは『匣』を降ろして解除すると、2人に周りを警戒するように指示を出してデュケインの元へ向かった。
「…ヴァッサーゴ卿、如何したのか?」
「んー?
ああ、別に何でもないよ。
単に2人は愛し合っていたんだねーっと思っただけさ?」
「…『狂い鬼』の事か。
そうじゃな、今際の際の言葉がお互いの名とは、随分と想い合っとったんじゃろう」
首の断たれた『狂い鬼』を見てデュケインは使い魔の強化に使えそうな部分を切り落とした。
強靭な肉体を動かしていた心臓2つを抉り出し、力の象徴ともいえる合計4本の角も根元から切り取る。
事情を知らないハイドリヒとブリンドの目があるので、デュケインは食べるようなことをせずにそのまま吸収するように手を当て角と心臓はデュケインの体内へと還元された。
「…うん、最高記録。
これなら十分戦えるね、これでもう強化する必要もなさそうだ」
デュケインは背伸びをすると、『狂い鬼』の死骸をどこかの空間へ移送してしまった。
「さてと…帰ろっか?」
デュケインはエインディアにずっと黙ったままのブリンドに声をかけ、樹海から出ようとした。
「あれ、ハイドリヒは?
ブリンド、ハイドリヒってどこ行ったの?」
「いや…見てねえな」
今気づいたのか、ブリンドの顔に緊張が走る。
メルクボ樹海に生息している歪は冒険者ランク緑でも困難とされている場所で、白のハイドリヒではもし何かあったとするとかなり危険な状況になりかねない。
「ブリンドっ!!
考え事しながら組んでいる仲間放っておくなんて何やってるのさっ!!」
「…貴方たちの探しているハイドリヒって、この子の事かしら?」
少女の声が聞こえ、そちらに3人が顔を向けてみると、赤い髪をした少女とくすんだ金髪の青年がハイドリヒと一緒にやってきた。
そして残念な事に、あまり友好的な雰囲気ではないようである。
「…参ったわね、『狂い鬼』は私たちが任されていたと思うんだけど、見たところ相当な使い手? のようね」
少女の右手はハイドリヒの首元を掴んだままであり、ハイドリヒの表情も硬くなってしまっている。
疲れた表情と声で少女は3人に声をかけた。
「貴方たち…ちょっと、色々とお話ししない?」
『樹海火災』の発端となる一言が紡がれ、
少女と青年は、その一言を口に出したことを一生後悔する羽目になる。
読んで戴き誠にありがとうございました。
『狂い鬼』討伐完了…と思いきや、何やら怪しい雰囲気が。
少女と青年がどうなるのやら…どうなっちゃうんでしょうねえ。
さて次回予告。
次回、『僕は悪くないもんね』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




