第007話 鬼退治
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ハイドリヒです、起きたらなぜか馬車に乗っていました。
外を見てみると、日の出なのか日の入りなのか、判別しにくい時間帯のようです。
眠気具合からだと…たぶん日の出前のはず。
「あ、起きた起きた。
おっはよーハイドリヒ、お土産美味しかったよー。
これから僕ら鬼退治に行くんだ、ハイドリヒにはお留守番頼もうかと思ったんだけど、何かあったら後々酷い事しそうだし、連れて来ちゃった」
「…色々突っ込みたいんですが…鬼退治ですか、そうですか」
昨日ギルドに入っていないから、その間に張り出されたんでしょう、師匠とヴァッサーゴ様、後よく見てみたら、この前ヴァッサーゴ様と戦ったブリンドさんも不機嫌そうだけど来ている。
と、ようやく眠気も収まってきたのか、思考が巡り始めた所で気づいた。
鬼退治?
「…ってよく考えたら、『鬼』種って上位歪以上の存在じゃないですかっ!?
しかもガイドブックだとそのほとんどが『名付き』指定されているのばっかりだしっ!!」
「おー勉強熱心な奴だな、正解だ。
これから俺らが対峙するのは上位歪の中でもタチの悪い程に強いと有名なファブッターデイモンの変異種で『狂い鬼』の討伐だ」
『狂い鬼』というと…教会の図書館にあった、100年くらい前から歴史にも出るほどの超有名な歪だ。
確か番で行動しているらしく、深手を負わせると手が付けられなくなる位に暴れるから、『狂い鬼』って言われているらしい。
…い、意識が…遠のいて…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…あらら、伸びちゃった?」
「当然じゃろうて、昔話に出てくるほどの化け物を退治しに行くんじゃ。
夢の世界にも行きたくなろうて」
御者をしているエインディアがかかっと笑いながら答えた。
「…あんたらも似たようなもんだろうが」
皮肉とも取れる言動をとるブリンドに、2人はひねくれたものだと苦笑していた。
別に不快に思ったわけではない。
デュケインやエインディアな様な者は地上世界の者たちからしてみれば『化物』としか認識されないことも確かなのである。
普通の人は普通ではないものを中々認めようとしない。
どうして人が普通にこだわるのか、同じでなければ不安になるから。
比べて見て同じならば自分に照らし合わせておおよそだが理解する事も出来るだろう。
しかし、理解されないからこそ意識をすり替えて異質なものを攻撃するのだ。
直接間接問わずだが、それ位の事を2人も味わってきたし見て来た。
とはいえ、そのほとんどは間接的な情報ばかりなので、ブリンドの様に皮肉を言ってくるものなどそれこそ珍しい位で、逆に心地よい程なのだから。
とはいえ、ハイドリヒのように受け入れる者の方が更に珍しいのだが、これはハイドリヒにとって2人にどれだけ恩があるか、という問題が上がってくる。
「…でも、ブリンドはそういうのが本当に似合わないね。
それくらいの嫌味で僕たちが応える訳ないって分かっているのに」
「そりゃヴァッサーゴ卿、嫌がらせを受けて少しでも意趣返ししたいというのは人の情というもんじゃろう?」
「…はぁ、心の整理が出来てねえのに無理やり連れてくるからだろうが。
適当な事言って緊急依頼に黒3人使うとか…本部には最高戦力を最低1人は確保しておかねえといけねえのに」
好き勝手にからかうデュケインや観察し的確に心理分析するエインディアの言葉に、ブリンドの疲れたため息が馬車内に流れる。
「バカ言わないでよ、緊急依頼だからといって本部が黒2人にいきなりこんな依頼を名指ししてくるとかまずありえないでしょ?
単にブリンドは言い訳が聞かなくなったのに苛立っているだけ、重ねてちょっと前に僕から受けた嫌がらせも相まって気疲れしちゃってるんだよねえ」
こころにずけずけと響くような言葉で滅多刺しにしてくるデュケインに、ブリンドもどこか納得している自分がいた。
「…そういう事を言うから嫌われるんじゃろうが」
ぼそりとエインディアが呟く。
「だってさー、ブリンドうじうじしていてすっごく鬱陶しくない?
黒になって父親と肩並べるようになってるんだよ?
辿り着きたかった所に着いたのに、一体何を悩む必要があるのさ、目を逸らすのを止めないとみっともないっていう事にすら気づけないの?」
デュケインの言葉には嘘が全くない。
真実を語らないという事は多くの面で見受けられるが、嘘をつくという事はまずないのである。
その分相手が過剰に反応する事が多々あり、デュケインの人神関係はかなりはっきりしていた。
「…やっぱりあれだね、ここは一発気分転換の鬼退治に行ってこそ心が気分爽快になるというものさ。
ヒントは貰っているんだ、その大剣をいい加減使いこなさないといい加減取り上げちゃうぞ?」
「おーい2人とも、そろそろ目的地の山じゃ。
教国のかなり外れじゃからな、慎重に臨むぞい?」
エインディアがデュケインとブリンドに声をかけた。
ブリンドはデュケインの言葉の意味にすぐには気付かなかったが、後々になってようやくその意味を悟る事になる。
この大剣の本当の持ち主が一体誰だったのかを。
何のためにここまでしてくれたのかを。
樹海に足を踏み入れようとするブリンドは、まだその事に気付かない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこには鬼たちがひっそりと洞窟の中に佇んでいた。
『…メア、キブンハドウダ?』
『…イオ、ワレノコトハキニスルナ』
教国最南端に位置するメルクボ樹海、その最奥の洞窟に『狂い鬼』の番は傷を癒していた。
教国に入ってくる少し前の事、『守護騎士』を名乗る男女と交戦した所為である。
消えない炎を操る女と目で追い切れないほどの速さで動き回る男の2人組を鬼たちは思い出していた。
刺し違えようと思えば勝てていたはず、とメア―――狂い鬼は言うが、深手を負ってしまっているイオはそうは思っていなかった。
『…ヤハリ、コノケンハウケルベキデハナカッタ』
女神に唆されたのだとイオが憤りを感じていて、一方的に命令をしてきては狂い鬼たちを使う女神の事がイオは嫌いだった。
洞窟に貯まった水で喉を潤しながら、これからどう動くのか2匹の鬼は考えている。
いくら上位歪―――言葉を喋れるほど知能のある存在―――であろうと、立場というものを考えればあまり多くのことが出来る事は言えないだろう。
『奪う』以外を知らない彼らに、『平穏』など彼方の果てにしかない。
『…メア』
『ワカッテイルイオ、ナニカガチカヅイテキテイル、ツヨイヤツダ』
そして洞窟に転がしている金棒を拾い上げる。
長年愛用してきている金棒をしっかりと握りしめ、慎重に洞窟の外へと向かっていく。
洞窟内部は狭く、満足に戦うことが出来ないことが分かっていること、もし強力な魔法を放たれれば避けることが出来ないという理由から狂い鬼たちは理解している。
「…あれ、呼びだす手間が省けちゃった、ラッキー」
洞窟を抜けると、気が抜けるほどの軽い声をかけられた狂い鬼たちは、一瞬だが困惑した。
そして気づいた、それが錯覚だったことに。
後に『樹海火災』と呼ばれる事件の始まりだった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
ハイドリヒ君とブリンドには災難ですが、まあ戦闘開始まであとわずか、というわけです。
ブリンドの方に言えばふてくされてますね、御愁傷様です。
そして『狂い鬼』…喋りましたよっ!?
『名付き』はそのほとんどが知能高いので喋れます、ネタバレですが一応ご報告。
鬼退治、次回決着です。
さて次回予告。
次回、『一難去ってまた一難』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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