第005話 実績上げて見せます
はい、第5話でございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
ハイドリヒです、今日は俺の修行兼冒険者としての初仕事の日です。
ヴァッサーゴ様と師匠が指定した依頼なんだけど、それをこなしたら合格とのことでした。
依頼内容はモルドラット5匹の討伐、ランク白は薬草採集がメインだと思っていたんだけど、何故かそれは却下されました。
シリア方面に向かって歩いて40分ほどすると、視界に森が入ってきます。
あ、そうそう、修行の内容は、モルドラットの換金部位だけを切り取ってくること、らしいです。
要は、『殺さずに部位だけ持ってくること』っていう事なんだけど…うーん。
俺の特殊血統魔法でどうにかしろっていう事だよな?
「…俺、まだ意識的に発動できないんだけどなあ」
ぼやく俺だけど、あの2人が俺に出来ない事を言う訳がないという事を知っているから、今の俺の考えが足りないっていう事なんだろう。
ヴァッサーゴ様は口が酸っぱくなる程、俺の耳にタコが出来るほどよく言っていた。
『いいかいハイドリヒ、能力っていうのは使ってこそなの。
自覚して理解してこそ、自分という者の使い道が広がっていくものなんだ。
ハイドリヒは自分の才能を自覚したよね?
じゃあ次は理解して使いこなせ。
そうすれば、僕はお前にもっと色々な事を教えてやれる』
修行の時だけ見せる真面目な表情は、それだけ説得力のあるものだったなぁ。
「…俺、単純だなぁ」
ヴァッサーゴ様の言う『色々』っていうのは、きっと闘い方やとか神様というだけあってか何でも知っているあの知識っていう事なんだろうと俺は思う。
俺のいた村は辺境部だったから首都と違って貧乏…清貧な感じの場所だったから、必要以上の物がほとんどなかった。
本とかも片手で数える位しかなくて、村長とかに無理言って何度も借りたことがある。
同年代とは違って家の中にばかりいる俺には友達はいなかったけど、特に仲良くなりたいとも思ってなかったから別にいいけどな。
最終的に俺以外の皆は死んじゃったから虚しい気分にはなるんだけど。
ともあれ、生きるためには『色々』と必要なんだ。
俺みたいな何にもできないガキじゃ師匠やヴァッサーゴ様に恩も返せない。
だから修行の成果を…結果を出さないといけないんだ。
頑張る事なんて誰にも出来るんだ、つまり、俺にだって出来る。
森に入ってすぐに木の上を登って行動する事にした。
飛び移るのは少し怖いけど、竜人族の俺ならこれくらいどうにかなる。
地系が不規則でもヴァッサーゴ様から教わった移動術は活かせているようだけど、木の枝が細いと少し揺れて音が漏れてしまう事に気付いたので、なるべく枝の根元に向かって飛び移るようにした。
「…いた」
モルドラットを見つけた俺は、周囲を見回した。
どうやらモルドラットは2匹、番なのか群れなのかは分からないけど、一緒に木の実を食べていた。
討伐証明と換金部位は一緒で長くて硬い尻尾だ、太くてよく動くから慎重に行動しないと修行が達成できない。
腰からナイフを取り出した、ヴァッサーゴ様がどこかで買ってきた怪しいナイフだけど、切れ味がすごくいい…こわい位に。
意識を集中させる、特殊血統魔法は詠唱の必要性がいらない上に魔力をそれほど使わない。
ヴァッサーゴ様が言うにはネンピとかいうのがいいらしい。
息を整えて胸の中央が次第に熱くなるのを感じ、それを意識して全身の張り巡らせる。
まだモルドラットは2匹揃って行動をしている、時折相手の身を案じるような視線を送っているため、群れなのではなく番なのだと判断した。
そうなってくると、2匹を引き離すのは難しい。
となれば、2匹を同時に不意討つしかない。
「頭上からの一撃で仕留め…違う、尻尾を切るんだ」
これは勝ち負けみたいな勝負じゃなくて殺し合い、という事を思い出す。
生き残りをかけた生存競争なのだ、戸惑ってばかりはいられない。
モルドラットの移動速度は思ったより遅い、身体が大きいせいなのか、尾行に関しては問題なくできている。
後はタイミング、何かの拍子に動きを止める様な事態が起きれば…いや、俺が起こせば自分でタイミングを計れるじゃないか。
とりあえず何か使える道具が無いかバッグに手を突っ込んで探してみる。
えーと、消臭玉と煙玉、後は万が一の為の小型爆裂球が各5つずつ。
…やべえ、使えないのばっかりだ。
爆裂球なんて使ったらモルドラット絶対に死ぬ、小型だけど、1個使ったら半径2メートルくらい丸焦げだもんこれ。
うう、いい案だと思ったんだけどなあ。
けど、俺は運が良かった。
他の歪がやって来て、モルドラットを襲っているのを目撃したからだ。
逃げるモルドラットを俺は再度追跡して、逃げ切って警戒しているモルドラットが安心して警戒を緩めるまで待つ。
きょろきょろと辺りを見回しているモルドラットがようやく落ち着いたのか、一安心したのに気付き、一気に仕掛けた。
音もなく木から降り立った俺にモルドラットは気付かずにお互いの身の安全を祝福していたが、俺はナイフを逆手に持って一気に斬りかかる。
なるべく根元から斬ったら、まあ当然の反応でモルドラットが斬られた痛みに悲鳴を上げて逃げ出した。
「…あれ、逃げるとは思わなかったんだけど」
普通襲ってくると思ったんだけどなあ、とか思ってたら、さっきまでモルドラットを追いかけていた歪とばったり遭遇した。
逃げ出した理由にすぐに気付くと、斬った尻尾を掴んで消臭玉と煙玉を地面に叩きつける。
モルドラットを殺すなとは言われたけど、それ以外を殺してはいけないとは言われたわけじゃない。
むしろ他の歪を殺してそれをエサにするくらいやって見せなければ、と思って猪みたいな歪をナイフで仕留めた。
背中の中心を縦に4か所ほどナイフで突き刺すと、動けなくなったイノシシを適当にばらす。
ついでに牙を切り取った、名前は忘れちゃったけど、この歪の討伐部位は牙だったはず。
ばらして血の臭いに反応した歪、その中からモルドラットだけを殺さずに尻尾だけを切り取る、という作戦は、予想外なほどに良い結果が出た。
運よくモルドラットだけが誘き寄せられて、俺はさっきの2匹と同じように背後から襲う。
後は逃げ切れば終了、今度は追いかけてきたモルドラット達の追撃を逃げ切り、俺は森から出た。
「よっしゃっ!!
『隠身不可侵』を初めて意識的に使えたぞっ!!」
振り返ってみるが森からモルドラット達は追いかけてこない、おそらくテリトリーからは出ないのだろう。
殺さなかったし5匹以上の尻尾も手に入れた、2人からは良い評価が貰えそうだ。
依頼を受けて3時間と少しで依頼を完了した俺は、師匠以上に喜んでいるヴァッサーゴ様にもみくちゃにされながら修行を終了した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
森を出て行ったハイドリヒを見送ると、僕とエインディアはハイドリヒを追いかけていたモルドラットを片付けた。
ていうかハイドリヒもちょっと迂闊かな、森から出てもなるべく距離稼いでいないと、視界の見え辛い森からいきなり飛び出されたら対応し辛いじゃないか。
「…けど、うんうん。
ちゃーんと僕らの出した指示には従っていたね、無視しても良かったのに頭も色々と使っているし、満足じゃ満足じゃ♪」
「モルドワイボアを撒き餌にする作戦も高評価じゃな、なかなか知恵もまわっとるし、特殊血統魔法も意識的に成功させておる。
満点じゃないかのお?」
エインディアの言葉を聞いて、僕も一応賛成した。
撒き餌の作戦はよかったね、うんうん。
僕の言っていた制限をきちんと理解してやったことだ、出来のいい生徒だよまったく。
「そうだね、3段階評価で言うと優が付く位に今回は出来がいい成果だ。
実績作り…とは言っても、下地だよね。
わざわざ白じゃないランクの依頼を受けさせたけど、案外ハイドリヒ青からスタートでもよかったんじゃない?」
「採集させてばかりでも仕方なかろうて、実戦を積ませて修行を重ねればそれでまずは良い。
採集等についてはわしらが教えればいい話じゃ」
「といっても、修行が終わった後にハイドリヒは教会の図書館行ってるからそれほど教えなくてもいいんだけどね」
どれだけ疲れても、ハイドリヒは修行が終わったら本を読みに教会の図書館へ毎日通っている。
たまに図書館で眠っているのを神父に呼び出されて連れ帰ってもいる位だ、勉強熱心だねえ。
というかそろそろ戻らないと、ハイドリヒにはギルドで待っているって嘘ついているんだから。
「エインディア、急いで飛ばないとっ!!
ハイドリヒがギルド本部着く前に戻っておかないとヤバいっ!!」
「そ、そうじゃったっ!!
急ぐぞヴァッサーゴ卿、掴まっとれよ!!」
慌てて竜に変化したエインディアに捕まると、透明化してすぐに首都へと戻っていった。
帰ってきたハイドリヒを迎えると、エインディアより先んじてハイドリヒをもみくちゃにした。
過保護な超越者をよそに、初依頼を終えたハイドリヒの達成感はもみくちゃにされても嬉しさでいっぱいであったという。
自らの可能性を信じ、彼の冒険者としての生活は始まった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
一人称形式ってホント難しい…出来ている感じが全くしません。
とはいえ、実績をきちんとあげたハイドリヒ君、お疲れ様でした。
完璧暗殺者じゃないですかこれ、正面から戦わないって正直微妙すぎないかこれ、と思わざるを得ないキャラです。
とはいえ、一撃で仕留めるならこれが一番です。
怪しいナイフが一体どこで買ったのやらと思っちゃう方、デュケイン様ですから、の一言でご理解ください。
さて次回予告。
次回、『ふとした違和感』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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