第004話 弟子が弟子なら師も師
はい、第4話でございます。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「…で、あいつの師匠っていえば何でもトンデモねえくらいの『カミサマ』らしいじゃねえか」
『月下亭』の一室で、ブリンドはデュケインと話し込んでいた。
デュケインはブリンドやこの地上世界の存在がどの程度事情を知っているのか、ブリンドはウルの師匠が一体どういった理由でこの世界に建言したのかをお互い探ろうとしているためである。
友人のように見えていて、内心ではお互い煙たい仲となっている事にも自覚していた。
エインディアとハイドリヒは各国の商会本店に行って珍しいものを見に観光している。
「…その様子だと、ウルってば結構この世界の人間に随分と事情を喋ってるみたいな感じだね。
事情を話さなくてもいい位に仕上げたのに、どうして役に立てそうにない存在にペラペラ喋ったのか理解できないよ」
毒を吐くデュケインの表情は本心で、1人で代行者であるウルに事態の収拾を命じたのである。
それが蓋を開けてみれば獣人を2人ほどで師にしたりと余計な事態を引き起こしたりと、あまり褒められた部分は少ない。
獣人に関して言えば、アヴァロンの件を片付けた際に置いておけば身軽になったはず、とデュケインなどは考えていたのだが、ウルはそのような事をせずに弟子を現在も同伴して旅を続けている。
「…俺ぁ逆におめえの事が理解できねえ。
師匠だったら弟子放り出して1人で勝手に旅だなんて許せる訳ねえだろうが?」
「師匠がいないからこそ奮起して修業に励むべきでしょ?
師匠がいなくなってピーピー言うもんじゃ、どの道そんな輩に先なんてないよ。
さっさと諦めて適当な幸せに逃げ込んだ方がまだましさ。」
痛烈に皮肉るデュケインだが、ブリンドは納得していない。
ブリンドの師は全て一から剣の師であり人生の師でもある人物に大切な事を抱えきれないほどに受けた。
それがあったからこそ今の自分というものがあると自負しており、父であるブリッツとの関係にも区切りをつけたのである。
対してウルの師であるデュケインといえば、勝手気ままに遊び呆けているようにしか見えず、“神”である所為なのか地上の生き物の下等生物の様な目で見ているのである。
そんな目で訴えていたせいか、デュケインがはっと笑いながらブリンドの考えを否定した。
「大方、僕が『カミサマ』だから君らみたいな存在が下等で使い物にならないだなんて思っているかもしれないけど、まあ言っておくね?
僕ら『天神』に限って、三千世界を生きる地上の生き物たちに対して、蔑みといった感情はこれっぽっちもない。
ちなみに、僕に関しては他の神々からは屈折した愛情、なんて評価貰っているけど、それにしたって君らの存在を高く評価していてのこと、勘違いは甚だ不愉快だ」
「…だが、あんたはさっき言った。
役に立てそうにない存在にペラペラ喋るだなんて理解できない、と」
ブリンドが表情を硬くして言う。
デュケインが応えたとしても、おそらくブリンドからしてみれば意地悪く応えるだけでお互い平行線でしかない事に気付いている。
「それは仕方がないんだよブリンド、黒狼の末裔よ。
この件に関しては僕たち神々からしても数千年規模での異常事態だ。
ウルから聞いているかもしれないけど、この世界の住人が例え束になってかかっても、勝てる確率は0しかない。
だから僕がウルを送り込んだんだ。
故に、教えた所で被害しか増えない存在にいくら言っても無駄でしかない。
厳しくも嫌味ったらしく聞こえるかもしれないけど、ブリンドが100億人いた所で元凶には勝てない、それが事実だ」
挙句に突き放して言う始末である。
ブリンドとしては憮然とするしかない言葉を受けて、冷静ではいられなかったようで、座っていた椅子が後方へ跳ぶとデュケインの胸倉を掴み持ち上げた。
デュケインは黙ってブリンドの行動を受けると、まあ無理もないといった様子で構えている。
「だからって…だからって、あいつの助けにならねえわけじゃねえっ!!
ここは俺たちの世界だ、俺たちにだって生活があって友人があって家族があって必死こいて生きてるんだ、役に立てねえだなんてことはねえんだよっ!!」
「それは戦闘能力がそこそこ(・・・・)ある存在が言えるセリフだよ。
それで?
役に立たないとのたまった挙句、ウルと行動を共にしなかったブリンドは一体どんな理由があったっていうのさ?
まさか、父親との関係にケリがつくまでとか言わないよね?
いつまでもウダウダしているブリンドにそんな小器用なこと出来たらすぐに追いかけてるはずだもの」
「そ…それは」
ブリンドが教国にいるのは、各国に散らばっているランク黒たちが現在教国にいないというものだ。
傭兵時代から名を上げて冒険者に鞍替えしてからすぐに最高戦力候補に名を連ねたブリンドの実力を、ギルド本部が手放さなかった所為でもある。
父親との関係は、二の次であるはずだ。
ブリンドの手に力が籠もる。
「本当はもっともらしい理由があってホッとしたんでしょ?
ウルと行動をしていて、先輩風吹かさないと手に負えないほどの強さを持つウルと行動するのが苦痛だったんでしょ?」
粗削りながらとてつもない膂力で歪を切り裂く姿に。
内包する膨大な魔力で歪を圧倒する姿に。
ブリンドの鋭敏な耳にデュケインの通りの良い声が響く。
「嫉妬したんだ、魔人族だからという説明では片付けられない、非常識なほどの力に。
気付いたんでしょ、いつか嫉妬した自分がウルに酷い暴言を吐いてしまいそうな自分に?」
「ち、ちがっ!」
更に力が籠もると、デュケインの着ていた服が耐えられなくなって、布が引き裂かれる。
バランスが崩れたのに慌ててブリンドがデュケインを掴もうとして、手を伸ばすと。
偶然にも、その手はデュケインの細い首に収まった。
「己の限界を知っていたんだねブリンド。
良い事じゃないか、己の領分に気付ける者は稀だよ?
己の非力さを悔いる事は無いよ、種の限界というものさ」
首を絞めてしまっているせいか、くもぐった声を上げながらもデュケインがブリンドに声をかけ続ける。
「だま…れ」
「いいや黙らない…ブリンド、認めなよ?
自分より強い存在に嫉妬したことに」
「だまれっ」
「ウルみたいな存在に成りたがっていた自分を認めなって」
「黙れって言ってるだろうっ!!」
「この世界を救えるような、英雄的な存在に成りたがっていたって認めなよ?」
“そうすれば、父親に認められるんだって思ってしまったことを、認めなって。”
「だああまあれえええええええええええっ!!」
室内に鈍い音が響き始める。
ブリンドは気付かないうちにデュケインを殴っていた。
デュケインの言葉を遮るように|殴っ(否定し)ていた。
自分は強い。
嫉妬などしていない。
父親に認めて欲しい等思っていない。
その言葉を語りかけてくるデュケインの口を塞ぐ。
そして、鈍い音がしなくなると、今度は何かを締め上げるような音がし始めた。
「俺はっ俺はっ俺はっ俺はっ俺はっ俺はっおれはおれはオレハッ!!」
扉を開くとエインディア達が帰ってきたのか、仲の良さそうに手を繋いで現れた。
「何をしておるおのれはっ!?」
エインディアが手を離せと叫んでブリンドを力尽くで引き剥がすと、首に手を当てて急き込んでいるデュケインの背をさすった。
ハイドリヒは目の前の光景が理解できなかったのか、固まってしまったままである。
ハイドリヒが見たもの、それは。
「ど、どうして…ブリンドさんがヴァッサーゴ様の首を|絞めているんです?」
顔を真っ赤にするほどに殴られた痕が残り、首を今にも千切ってしまうのではないかと思うほどに絞められていたデュケインの姿だったのである。
デュケインがようやく息を整えたのか、痕の残る首をさすりながらブリンドに優しい声をかけた。
「ブリンド、そんなに否定したいのなら力じゃなくて言葉で否定しなよ」
エインディアは力ずくで引き剥がしてからブリンドが固まってしまっている姿に何かに違和感を感じたのか、デュケインとブリンドを交互に見た。
そして何かに気付いたのか、溜息をつくとブリンドを憐れむような目で眺めてデュケインを軽くだが殴った。
ハイドリヒは何故デュケインが殴られているのか理解できなかったが、エインディアが理由もなく他者を殴らないことを知っている。
そしてハイドリヒもおかしなことに気付いた。
ブリンドより強いはずのデュケインが、何故されるがままに首を絞められていたのかを。
「…ヴァッサーゴ卿、貴重な戦力におイタをするなど何事じゃまったく」
「えー、だってあれはブリンドが認めないのが悪いんじゃん。
僕悪くないもんね、自分の分というものを知らないブリンドが悪いんだよ」
「可哀想に、塞ぎ込んでしまっとるわ。
しかしまあ相変わらず趣味が悪いのおヴァッサーゴ卿は。
いくら資格があるからとはいえ、ああも痛め付ければ這い上がってくるのか怪しいもんじゃぞ?」
「しかく…ってなんですか師匠?」
ハイドリヒが口を開くと、デュケインがハイドリヒの頭を何故か荒くだが撫でる。
最近面白がってか、デュケインはこうしてハイドリヒで遊んでいるのだ。
「んー、ハイドリヒにはもうちょーッと先の話かなあ。
あと何年かしたらエインディアが教えてくれるかもしれないから、その時になったら聞くんだね」
そういうと、勝手気ままな魔神は3人を残して部屋から出て行った。
残されたブリンドやエインディア、それにハイドリヒは開かれた寝室に無言のまま時間が過ぎていく。
「…仕方ない、助け舟を出すか。
これブリンド、ある世界の言葉に『性悪説』というものがあるんじゃ」
紀元前3世紀ごろの中国の思想家荀子が、孟子の性善説に反対して唱えた人間の本性に対する主張である。
『人の性は悪なり、その善なるものは偽なり』というものだ。
人間の本性は悪である為、努力しようというものである。
努力次第で何者にもなれるのだという事を荀子は主張していたのである。
「…まぁ少し引用できておるか不安じゃが、こんな所じゃな。
まあなんじゃ、主は自分が弱い事を識った。
ならば、後は努力次第じゃろうて」
そう言い残すと、エインディアはハイドリヒを連れて寝室から出て行く。
最期にハイドリヒは蹲ったブリンドが何かに気付いたような表情をしているのを見て、何故だかホッとした気持ちになるのであった。
「…遅いよ2人とも、いつまでかかってるのさ」
1階へ降りると、部屋から出て行ったデュケインが食堂辺りで食事をしている。
「ヴァッサーゴ卿の尻拭いじゃよ、まったく、これだから性悪だの悪逆だの酷い扱いを受けるんじゃ」
エインディアが呆れたようにデュケインに説教をするが、本人には全く堪えていないようだ。
「いやさ、随分と屈折した中身してるなーっていうのを思い出してね。
ウルがお世話になったことだしお礼でもしようかなって」
「捨てる神あれば拾う神あり…じゃの。
この場合、どちらも同じ神というのが何とも酷い話じゃが」
痛烈に皮肉るエインディアに、デュケインもやられたといった表情を見せた。
「あいたたた、うまい上に痛いとこ突く。
おせっかいのくせに生意気な」
憎まれ口を叩くデュケインだが、エインディアは全く堪えていない。
ハイドリヒはよく分からずに、給仕の少女から食事を受け取ると、2人のやり取りを見ながら食事を摂る。
「ヴァッサーゴ卿、お主はもうちっとばかしその歪んだ愛情表現をどうにかした方が良いぞ?
あれだけ痛め付けられてからに…下手して自殺でもされてみよ、目も当てられんじゃろうが?」
「あの程度でへたばるんだったらその程度の器だったのさ、神器を持ち続ける資格なんてないよ、まさに宝の持ち腐れだね。
神器はいわばリミッター解除装置、種の限界を超える資格を持っておきながら、中途半端な覚悟もってふらふらされるだなんて目障りだ。
ウルの役に立たないのなら、そこらでくたばってたらいいんだよ」
食事が終わるまで2人の口喧嘩は終わらず、周囲の注目を浴びてハイドリヒはこっそりとその場から離れていくのだった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
なんというか、ブリンドを精神的に追い詰める回でしたというか、弟子も師匠も性格が悪いといいますか…。
とはいえ、絶望させるのが神ならば、救いの手を差し伸べるのも神というわけでして、色々と自覚というものは誰にでも必要なわけでございます。
さて次回予告。
次回、『実績上げて見せます』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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