第003話 苦労人背負う
はい、番外編第3話です。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
ハイドリヒです、すっごく強いお2人と旅をしています。
今俺たちはアンストル教国の首都ヘルツィカイトにあるギルド本部にいます。
俺は正規の冒険者になって、これから頑張って功績…実績を上げないといけないみたいです。
駆け出しなんで、一番下っ端の白からなんですが…、
「何でテメエみてえなガキと女がいきなり最高ランクの黒になるんだ、ふざけんじゃねえっ!!」
あ、最高ランクは黒らしいんですけど、本当は金があるらしいです。
けど、誰1人として到達できたことが無いみたいで、今じゃ冒険者のほとんどが最高ランクは黒だと勘違いしているようです。
ガイドブック見ればすぐわかるんですけど、文字の読める人…識字率があまり高くないせいか、せっかく作ったガイドブックも読まれていないそうで、受付の端にホコリかぶっていました。
話が逸れました、ええっと、そうです、ヴァッサーゴ様と師匠が他の冒険者の人達にいちゃもんつけられているんです。
あ、ヴァッサーゴ様と師匠っていうのはですね?
ヴァッサーゴ様は滅茶苦茶…破天荒な性格をしていて、よく分からないんですけど『カミサマ』らしいです。
師匠じゃないんですけど、俺の修行の助言をよくしてくれます。
意地悪だけど、よく遊んでくれるので結構少しだけ好きです。
俺の師匠でもあるエインディア様も、『カミサマ』じゃないけどそれに等しい位の力を持っているらしいんですが、よわっちい俺じゃよく分からないです。
たまにじっと俺のこと見てきて、『ハイドリヒなら男の娘もありだね』とか師匠に力説するように言っていたんだけど、すぐにぶん殴られてました。
俺男の子なんだけど、ヴァッサーゴ様何が言いたかったんだろう?
師匠は優しくて美人で強くて、色んなことを教えてくれます。
空を読んで天気の移り変わりを教えてくれたり、薬効のある草花を教えてくれたり、狩りの仕方、文字まで教えてくれました。
いつか恩返ししたいけど、未成熟…未熟な俺には当分できそうにないです。
…また話が逸れました、ええっと。
「うっわ、ブサイクが僕に話しかけてきたっ!!
エインディア、塩かけないとっ!!」
「いやいやヴァッサーゴ卿、ナメクジじゃないんじゃ、塩かけてもどうにもならんわい。
それよりも鍋はないかの、そこの小僧が入りそうな大きめの鍋じゃ。
煮詰めて用水路に捨ててくれるわ」
…えーと。
「上等だっ、そのお綺麗なツラぐちゃぐちゃにしてやらあっ!!」
「役に立たないゴク潰しなんかが僕に敵う訳ないじゃん。
100人くらい束になってかかってきなよ、バーカっ!!」
…その。
「はっはっは、まるで戦争じゃな」
「#$%&@:っ!?」
…戦争、らしいです?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「戦争はーっ、全部殺すまでが戦争ですっ!!」
「はっはっは、腕が鳴るのお」
「えーと…時間、かかりそうですね」
真面目に狂気的な発言をしたデュケインに呼応するエインディア、そしてピントのずれた発言をするハイドリヒ3人は首都中央区から外円部近くにあるギルド第三演習場にいた。
演習場の中でも特に広いこの場所は、まるで決闘場のような広さを誇っており、間違っても魔法による誤爆が無いよう配慮をされていたり、大規模な演習などをするための用途に設計されていた。
少し離れた先には、デュケインの挑発に乗って100人以上が殺気を漲らして3人を見つめている。
さすがにランク黒の冒険者は出てこなかったが、ランク赤の冒険者が10人ほどと参加しているようで、その者たちからすればパッと出であるデュケイン達の存在は不愉快極まりないのだろう表情をしていた。
「えっと、師匠?
俺、いなくてもよくないです?
正直、戦力になりそうにないんだけど…」
「まあ見ておれ、わし等でちょちょいと遊んでやれば彼奴らもわしらに文句も言わなくなるじゃろうて」
現在白のハイドリヒがこの事態に際して戦力に数えられることはまずないだろう。
使い魔とはいえ、その身には魔神が控えており、そしてその相棒には『観察者』が構えているのである。
たとえ相手が全員ランク黒であろうと、負ける要素は一つとしてない。
観客もこの事態に他の演習場から足を運んだり、話を聞きつけた者たちが観戦したりと、割と水面下ではともかく、表面上穏やかである。
とはいえ、ハイドリヒの様にランク白の冒険者はこの場どころか観客席にすらおらず、内心ハイドリヒも観客に回りたい気分にさせられていたが。
審判を任されたのは最高幹部の一人であるマクスウェルと名乗ったエルフ族の老人である。
「…双方、準備は良いか?」
「無論だっ!!」
「待つの疲れたからぱぱっと終わらせちゃおうね~」
いきり立っている代表の冒険者とニヤニヤしながら構えているデュケインは馬鹿にするように審判の目から隠れるように冒険者たちを挑発していた。
「それでは双方が位置に着き、30秒後に模擬戦を開始する。
間違っても死者の出ないよう、配慮を持って己の領分を守った戦いをするよう」
マクスウェルが旗を上げると、2人は元の位置に戻っていく。
悠々と戻ってきたデュケインは、もうすぐ模擬戦が始まるにもかかわらず、まるで場違いな質問をした。
「ハイドリヒってさ、僕のこと嫌い?」
てっきり模擬戦でどうするのかを指示してくるのかと身構えていたハイドリヒがどっと疲れたような溜息をついた。
その仕草が憂いを帯びていて、近くの観客が黄色い歓声を上げているのだが、2人はまるで気づいていない。
デュケインは嘘が嫌いだという事を身を持って知っているハイドリヒは、ゆっくりとだが口を開いた。
「その…よく意地悪されてますが、ヴァッサーゴ様の事は嫌いじゃないですよ?」
苦笑しながらハイドリヒが答えると方針が決まったのか、適当に頭を撫でられるともう何も言ってこなくなっていた。
エインディアと何か話しているのだが、予定の30秒はもうすぐ過ぎてしまう。
「…ヤバいよエインディア、ハイドリヒが超かわいい」
「何を言っておるヴァッサーゴ卿、わしの弟子はどこからどう見ても可愛いじゃろうが?」
と、何とも気の抜けた会話をしているうちに、試合は切って落とされた。
相手の今後などお構いなしの気迫を持った冒険者たちがデュケイン達に殺到しようとした。
『跪けっ!!』
のだが、それと同時にデュケインの【神言】が発動し、敵勢力は為す術無く鎮圧された。
はじまって10秒どころか5秒も経っていない。
おまけに観客の一部もデュケインの【神言】が適用されていて、総じてそれはデュケインに対して腹に一物抱えている者たちのみであった。
挙句審判のマクスウェルまで跪く始末で、審判なんだから公平にしようよと内心デュケインはごちていた。
100人以上の冒険者たちがまるで息を合わせたかのように跪くのを見た観客たちは、まるでマスゲームを見ているかのような錯覚を覚え、なぜか拍手があがっている。
「…っていうか、抵抗できる奴いなかったのは誤算だね。
1人か2人くらいは耐えるかと思ったんだけどなー」
デュケインの放った【神言】はデュケインに敵意のある者限定で作用する力で、ハイドリヒにしていた質問の真意はそこにあったのだと、後にハイドリヒはデュケインの力の説明を聞いて納得した。
「全員殺すんじゃなかったのかの?」
「いやーそれもありかなーって思ったんだけどさ、さすがにハイドリヒの前でそんな100禁的な惨劇見せたらトラウマもんじゃん?
…っていうかさ、僕ハイドリヒのぴゅあな目見てたら自分が穢れてるなって思っちゃって…という訳でこんな事態」
茶化すようでいて真面目な表情で話すデュケインに、事情を察したのかエインディアが軽く首肯した。
「まあ長いこと生きておればそういう事も次第に重なるというものじゃ。
まあ模擬戦はこれで終わりじゃろうし、帰って飯にでもするかの?」
「ワリいが少し延長だ」
デュケイン達以外の声が聞こえ、視線を向けた。
赤銅色の髪と赤い両目が印象的な、歴戦の戦士の雰囲気を思わせた狼の獣人である。
「…あれ、あんなのいたっけ?」
首を傾げるデュケインにハイドリヒが対戦者側の入り口から普通に入ってきたのだと伝えると、うんうんと首を縦に振っていた。
「という事はだ、地面に這いつくばるのが1人また増えたという訳だ…『跪けっ!!』」
デュケインの【神言】をギリギリで察した獣人は背中に背負った大剣を引き抜くと地面に突き刺して体を固定した。
獣人の全身を強制的に跪かせようと何らかの力が発生したが、身体を固定している獣人は跪く事は無い。
それでも消耗は激しいようで、方から息をしている獣人はそれでもデュケイン達を睨んでいた。
ハイドリヒなどは思わずエインディアの背後に回ってやり過ごしたが、2人はその気迫を肌で感じていた。
一度きりしか見せていないのにも拘らず見事に対処したことに、デュケインは素直に獣人を称賛した。
「すごいすごい、その大剣の使い方よく分かっているみたいじゃないか?
名を聞こう、名乗りなよ獣人」
息を整えおえたのか、最後に深呼吸をした獣人が大剣を抜いた。
「黒狼族のブリンドだ、ランクは…つい先日黒になったところだ」
何故だか不本意そうに答えたブリンドが、デュケインと対峙する。
瞬殺されていた冒険者たちはようやく立ち上がると口々に言い訳をしていたようだが、ブリンドが一喝すると端へ寄っていった。
「…正直俺も出る気はなかったんだがよ…いかんせん結果が結果だ。
さすがにパッと出のお前らにこんだけの結果を出されて今更だが、こっちにもメンツってもんがある。
そこそこ戦闘をしてある程度成果を上げてこいとのことだ」
苦々しく言うブリンドに、デュケインは思い出したかのように手を叩いた。
「ブリンド…ああ、ウルの先輩かぁ。
ははっ、面白い因果もあったもんだね。
まさか師弟揃って同じ相手と戦うだなんて」
「…なんだと?
師弟って…お前、まさかっ!?」
どこまでウルが話していたのかデュケインは知らなかったが、ブリンドはデュケインの事を知っているようである。
エインディアはもう模擬戦に興味を失ったようで、ハイドリヒにナイフの使い方を教えていた。
その様子を見たブリンドは、あの傍迷惑な代行者と同じ匂いがする、とげんなりしていた。
たった数ヶ月の間の仲ではあったが、コンビを組んでいたウルの事を思い出しただけでブリンドの胃に幻通がよぎった。
確かに友といっても良い程の仲にはなったが、いかんせんその友人はブリンドの頭を悩ます上に、迷惑千万としか言いようのない被害はブリンドを中心に引き起こしていたのである。
デュケインは空間から【神斬】を取り出した。
魔力を流し始めると、デュケインの魔力に呼応して鎖鋸が次第に回転速度を上げていく。
甲高い機構音は観客からすれば次に何が起こるか分かるというものだ。
ブリンドは大剣を構えると、飛びかかってきたデュケインに応戦した。
回転する鎖のこと大剣が打ち合うと同時に火花が散り続ける。
「ったく、師弟揃ってトンデモねえ使い手だなくそっ!!
目ぇ見えねえクセしてなんだその空間把握力はぁっ!?」
「ははっ、ウチの弟子がお世話になりましたぁっ!!
お礼にちょっと削らせなよ、病み付きにさせちゃうぞっ!!」
「お断りだこんチクショウめっ!!」
悪態をつくブリンドに笑いながら攻勢を続けるデュケインはブリンドの見せた隙をついてすかさず袈裟切りを仕掛けた。
ブリンドは大剣の腹を盾にすると、自らの身体を乗せた。
袈裟切りはブリンドの大剣にぶつかると、火花を散らせながら下に反らされ、鎖鋸は地面に激突して土煙を撒き散らした。
「ヤバッ!?」
ただでさえ感知能力の低いデュケインの障害がさらに増え、ブリンドが先ほどまでいた場所を計算して後退した。
それでも鎖鋸の巻き上げた土煙はデュケインを逃さない。
遠目から見るとまるで土煙がデュケインを囲い込んでいるのだが、デュケインはそれに気付かないでいた。
デュケインの側頭部に向かって大剣が向かってきたのに気付いてすぐに避ける。
斬るつもりが無かったのか、剣の腹の部位を使った攻撃だったため気流の変化に気付いて即座に判断したデュケインは胸を撫で下ろした。
そしていつまでも収まらない土煙の違和感に気付いたのか、さらに【神斬】の回転を上げた。
気流に乱れが生じ始めたのか、土煙が次第にデュケインから離れていく。
「やっぱり魔法か…まあいくら獣人だからといって、剣の腕だけで黒に上り詰めれるわけじゃないからねえ。
微細な魔力コントロールまで可能だなんて、獣人にしては中々に面白い」
遠くから舌打ちする音が聞こえ【神斬】を振るうと、土煙は今度こそデュケインから離れ、ブリンドの姿を捕えた。
「…で、まだやる?
僕はもう充分楽しんだんだけど、ブリンド次第じゃまだ戦ってあげるよ?」
余裕の表情を見せたデュケインに、ブリンドが剣を地面に突き刺して両手を上げた。
「これ以上は仕事に差し障る、俺の負けで構わねえよ」
模擬戦は今度こそ終了し、デュケイン達3人の記録的勝利で終わった。
ブリンド以外の戦えずに終わった冒険者たちは悔しそうな表情を滲ませていたが、負けは負けだと納得する以外にないだろう。
模擬戦が終わっていつの間にか代表者になっていたブリンドがデュケインと握手をした。
「…ちっ、削れると思ったのに」
「テメエ今物騒な事言いやがったなっ!?」
ぼそりと不穏な言葉を呟いたデュケインに反応したブリンドの関係はまるでじゃれつく友人のようであった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
やっぱり【神言】がチートすぎる…とはいえ、きちんと戦闘はしました。
ハイドリヒ君が色々弄られまくってますが、基本可愛がられるということで一つ。
…うーん、この章だけBLチックな表現有になっちゃいそうで少し不安ですが、弄られるだけでそんな描写はとくに出す予定はございませんので。
さて次回予告。
次回、『弟子が弟子なら師も師』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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