第001話 意外と通り抜けちゃいました。
番外編第2弾、始まりましたー…はい、第1話でございます。
そして読者の方々にまず謝罪を、冒頭限定で出演するはずだったエインディアさんなんですが、作者の都合で普通に出演です。
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
「…ふーん、ここが教国ねえ。
牧歌的でのどかな国じゃない、僕結構好きだな~こういうの」
教国に入国してから、デュケインは何度もこの言葉を繰り返していた。
数ヶ月前、歪の大群が教国の首都を襲ったことがまるで嘘かと思う程ののどかさである。
デュケインが周辺の街で調べたことではあるが、あの歪の大群の被害はかなり上がって来ていたのだが、代行者であるウルのお陰で被害はその日以降上って来ていないそうであった。
「うむうむ、さすがはギルド本部を膝元に置いておる教国じゃな。
教国も所有しておる軍を導入して巡回警備を増やしたそうじゃし、良くも悪くもここは平穏じゃよ」
とエインディアも茶を啜ってのんびりと眺めていた。
美女なのに色気のない服装と年寄りじみた口調な彼女だが、その正体は『観察者』という役目を負った永い時を生きる竜である。
エインディアの視線の先には、下位ではあるが大型の歪に追い掛け回されている少年が映っており、半泣きの状態でいる彼がどう対処するのかのんびりとではあるが確かめているようであった。
時たまデュケインに助けてと声を上げていたが、都合の良い事にしか耳を傾けない気まぐれな魔神は半泣きの少年を見て笑っている。
空間系統魔法の基礎にあたる『匣』と呼ばれる魔法で、対象を閉じ込めるだけという単純な魔法なのだが、一対一での決闘などで使ったりする。
師であるエインディアが弟子であるハイドリヒと深手を負っていた歪を放り込んでその様子を眺めているのだが、小一時間経ってもハイドリヒが攻撃せずに逃げ回っているので、体力が尽きるまで終わりそうになかった。
アンストル教国の平原でデュケイン達はハイドリヒの修行を見ており、周りには歪など見当たらない。
街道から少し外れた場所な為誰とも擦れ違わず、ハイドリヒの修行に時間を割いていた。
首都まではまだ距離がある為、休憩がてらの修行なのだが、基礎訓練からの命懸けの勝負はハイドリヒの今後に役立つという事で、エインディアが時たま行っているのである。
ハイドリヒの体力に限界が来たのか、歪との距離が詰まってきているようだ。
「…そろそろ手を出しても構わんかのお」
あのままハイドリヒが歪に手を出せずに終わると、大型の歪の事である、ハイドリヒを食べてしまう事は間違いないだろう。
「んー、とりあえず動けなくなったらでいいんじゃない?
どうせ心臓が一発で止まったり頭が潰れちゃわない限りエインディア治せるでしょ?」
エインディアの隣にいるデュケインはハイドリヒの修行を最後まで見るべきだと口を挟んだ。
確かに、エインディアの治癒魔法ならばハイドリヒが瀕死の重体でも即座に回復させることは可能だろう。
だが、子供を瀕死の状態にまで追い込むまで鍛えるのは修行というよりもはや虐待なのではないか、と思っているのである。
何より、ハイドリヒの心に傷が残るのではないかと心配したエインディアは、デュケインの言葉を少しだけ聞き入れ、10分だけ待つことにした。
その時間でハイドリヒが歪に手が出なければその時点で修行は終了とし、小休止してからの首都への再出発することを決めたのである。
「…やっぱさあ、特殊血統魔法が使えないとハイドリヒはまだ駄目だよねえ」
「そうじゃのお、一度認識されれば再発動出来ぬというのはなかなか難しいものじゃて」
ハイドリヒが所有している特殊血統魔法『隠身不可侵』は現段階では使用者の無意識化の発動しか可能にしていないため、使い勝手が極めて悪い。
加えて、一度認識されれば再発動しても魔力の無駄遣いにしかならず、出来ないというよりやっても無駄、という訳なのである。
とはいえ、一度発動すれば例え正面からでも認識されないという驚異的な魔法である為、極端に言ってしまえば暗殺向きな能力でもある。
かつて歪人に襲撃されて発現した『誰にも気づかれない』という想いが為したものであり、村唯一の生き残りであるハイドリヒにとっては何より大切な『心の支え』でもあったのだ。
認識される条件が『音を立てる』というものなため、基礎訓練に加え無音移動・歩法術などデュケインが仕込まねばならず、泣きべそをかきながら必死で覚えようとしているハイドリヒはそう時間をかけず基礎程度ならばすでに仕えている。
ハイドリヒが手に持っているナイフであれば、歪の心臓・喉・脳のどれかに届けば確実に倒しきるだろう。
が、まともな戦闘技術など一切教えず、基礎訓練だけしかしていないハイドリヒにどこまでできるのか。
と、ジリ貧になってようやく攻勢をかけようと思ったのか、追い付かれまいとハイドリヒが反転して大型歪の視界から抜け出そうとした。
大型歪は得物であるハイドリヒを視界から逃さず、未だ認識の外へは出ていない。
やはりハイドリヒではまだ無理か、と2人が思った時。
逆転劇が起きた。
ハイドリヒは腰に付けているポーチから何かを取り出すと、2つを大型歪に、もう1つを自分の足元に投げつけたのである。
急に反転してでの不意打ちだったので、大型歪は避ける事も出来ず直撃した。
そしてその瞬間、大型歪の視界を白い煙が覆ったのである。
「へえ、煙玉かあ…もう1つは…消臭玉かな?
ああ、臭いも認識の内だし、念のためって言う所なのか、よわっちくても頭が回ってるといい勝負が出来るいい例だねこりゃ」
「うむ、あとはうまくいけばこれで勝つじゃろうて」
デュケイン達からは丸見えではあるが、大型歪からすれば突然消えた得物が影も形もなく、臭いすらも認識できなくなっていることに戸惑いの唸り声を上げている。
ハイドリヒは音も立てずに歪の背後に回り込むと、少し雑ではあるが歪の脊椎部分を貫き心臓を破壊し、念には念を押してか喉を貫いて距離をとった。
血の泡を拭いた歪は苦悶の声も上げる事も出来ず、ふらふらと2、3歩ほど歩きそして倒れた。
痙攣した身体は次第にピクリとも動かず、ハイドリヒの修行は終了した。
乾いた拍手ではあるがぱちぱちとハイドリヒを称賛する音が風に呼応するように届く。
『匣』はすでに解除され、げっそりとした顔で戻ってきたハイドリヒに、げらげらと笑いながらデュケインが声をかけた。
エインディアが下品な声を上げているデュケインを非難する目で見ているが、全く意に介していない。
「ナイフを歪に刺そうとした時に声とか上げたらすぐに気付かれてカウンター喰らってただろうに、頑張ったじゃん」
「…そうじゃの、煙玉の上消臭玉を使ったのも、背後に回った後の攻撃も良かったのお。
もう少し鍛えれば複数との戦闘も可能になるかもしれん」
「俺当分一対一のままがいいですぅ」
度をするようになって泣き癖が付いたのか、端正な顔をくしゃくしゃにしながらハイドリヒが断るのだが、師であるエインディアは一蹴した。
「バカもん、成長期に生温い修行をして将来困るのは主じゃぞハイドリヒっ!!
ヴァッサーゴ卿も助言を出しとるじゃ、この機会を逃せば主は絶対に後悔するっ!!」
デュケインがハイドリヒを面白半分に鍛えているのはその珍しい特殊血統魔法を使い諜報員に仕立て上げようと画策しているからだが、この計画自体かなり杜撰なもので、どう転がっても問題にならないため、デュケインのやる気の波が肝なのである。
そして、暑苦しい発言をしたエインディアを見て、デュケインのやる気メーターに変化が訪れた。
「熱いねえエインディアは、暑苦しくて少しやる気が減った。
ハイドリヒは僕が教えた移動術と歩法をいろんな場所で実践して、ダメだったら頭使っていろいろ考えて、自分なりに修正、ダメだったら考えるの繰り返し。
本当にダメになったら僕に聞くと言い、それまで僕『管理者の間』で遊んでくるから」
と、助言といわずメニューを渡すあたり、一定以上の責任は負っているようではあるが、大分放任具合が増してきているようではあった。
「それじゃあ小休止も出来たし、街道に戻って首都に向かうよ」
「面倒臭いし飛んでいかんか?
わしもう歩くの面倒でいかんわ」
竜である彼女が飛べば1時間もしないうちに首都まで着くだろう。
デュケインもそれに同意すると、意識を『管理者の間』側に戻し、本来の肉体の所有者である『特号』と呼ばれる使い魔はエインディアとハイドリヒに敬礼した。
「はっ、エインディア様、ハイドリヒ殿、6時間と43分29秒ぶりでありますっ!!
これより某が警戒行動をとらせていただきますので、よろしくお願いするでありますっ!!」
デュケインの姿で丁寧なあいさつする姿を代行者であるウルが見れば固まってしまうくらいにありえない姿である。
「…主も酔狂な主を持ったものじゃて」
ぼそりと呟くエインディアに、特号は首を傾げるだけだった。
ハイドリヒは比較的有効な関係を特号と保っており、一緒に遊ぶくらいに仲が良い。
半分以上護衛も兼ねているが、特号を作ったデュケイン自身使い魔に関してはかなりの自由を与えていたため、遊ぶことも可能な上に特号の感情は見た目と同程度にはあるのだ。
「特号さん、今日俺歪やっつけたんだっ!!
大きかったけど、煙玉とか使って頑張ったんだよっ」
ハイドリヒは握り拳を作って煙玉を投げた時の仕草やナイフを振り下ろしたりする様に特号も喜んでいた。
「はい、ハイドリヒ殿。
某もハイドリヒ殿の雄姿を目の当たりにしておりましたっ!!
戦術的にとても有効な手で勝利されており、某感動致しましたっ!!」
煙玉で攪乱して背後から奇襲すると言うだけなのだが、特号にとっては友人の初勝利を手放しで褒めており、創造主たるデュケインとは性格がまるで真逆のような存在に、エインディアが竜に変化しながら苦笑していた。
「あんな根性悪によくもまあこんな出来た使い魔が出来たもんじゃ…ほれ2人とも、今日中に首都に行くんじゃ、さっさと乗らんか」
慌ててハイドリヒと特号がエインディアの背に乗ると、自信と乗せた2人を透明化させて飛び上がった。
夕方になる前に首都ヘルツィカイトに着くと、入国審査に対して及び腰になっている特号がいた。
アンストル教の最高位である教皇ヨハンが張っている結界に怯えているのである。
特号の肉体は多くの歪で構成されているため、結界に阻まれるのではないかと思っていたのである。
審査が終わって門を潜る3人は、一足先に門を通り抜ける。
特号は門との境で立ち止まっていて、門番たちがどうしたと訪ねていた。
何でもないであります、と白杖を握りしめて特号は最後の1歩を踏み出した。
「…?」
結界は発動せず、問題なく通り抜けられた特号は何故か万歳三唱して周りを驚かせた。
その日はすぐに宿をとり今後の英気を養うため早めに就寝するのだった。
奇しくも3人が泊まった宿は、ウルたちも泊まっていた『月下亭』だったのである。
読んで戴き誠にありがとうございました。
ハイドリヒ君が一生懸命デスマッチ頑張っていました。
そして本編でほんの少し登場していた『特号』君も登場、デュケイン様の姿であの堅物っぷり、色々と残念なところありますが、まあご容赦くださいということで。
ていうか、歪の体で作られた特号君が何で結界内に入れたの?
と思われる方、これはまあ次回のお楽しみということで。
さて次回予告。
次回、『一苦労二苦労三苦労』です。
ではでは皆様、また次回まで。
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