第051話 追憶の果てに
はい、短くはありましたが3章終了にございます。
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まことにありがとうございます。
「ステルヴィアにも、来るべき日が来たという事なのでしょうか…」
書状を読み終えたアイナリンドがふうと溜息をつく。
第一王女であるミネルヴァも同様に自らの机を埋め尽くす書類に頭を悩ませていた。
次期女王であるミネルヴァはすでにアイナリンドの補佐を任されており、その職を全うしている。
第二王女であるエーヴァは今頃ステルヴィアを出る頃かと思案していたが、目の前の事案が済まない以上考えを横に反らすことが出来ずにいた。
「シュトルンガルドとの軍事同盟ですか…正直なところ、まだあの国がそれほど軍を早期に構築出来たとは思えないのだけど」
とはいえ、書状に書かれている情報と、調べ上げた情報は誤差が少々あれど、事実を示していた。
「精強な獣人の軍が約3万…エルフ族の全ての戦士の数は2万5000ほど。
あわせて5万5000…かなりの数だけど、シュトルンガルドの軍は統制がとれているのか怪しいと情報にあったけど…」
「たった数ヶ月で軍を機能させるなんて、普通不可能ですわお母様。
おそらくは教国の者が形だけでもと思い組織させたのでしょうが…この案、一時保留とした方が良いとわたくしは思います」
いくら世界の危機で連帯感を持つために同盟を進めてきたのだろうが、出来上がって間もない泥船に乗り込む愚かさなど持ち合わせていないミネルヴァはこの書状を棚上げにした。
軍事同盟を組めば、自然と軍同士との連携も深まるのだろうが、ミネルヴァの予測ではシュトルンガルドの軍は未だ機能していない。
そんな軍と組んだところで、共倒れするのがオチである。
ここは誰かが勅使として誰かを差し向けて、直に目にするべきだと伝えた。
そして、その役目を自分が担うと、そう宣言したのである。
その宣言に、女王アイナリンドは考えを巡らせ、最後に母としての顔をちらりと垣間見せたが、最終的に承諾するのであった。
「…貴方たち姉妹は思い切りがいいというか、ミネルヴァ。
その目で確かめて来なさい、未だ政情が不安定だけれど、彼の代行者様も肩入れをしたくなるほどの王がいる国です。
こちらの予想を遥かに超える結果で終わるかもしれません」
「…これで本当に軍が機能していたら、一度指揮官と話をしてみたいものですわ。
護衛は…いつも通り、ディルとライナの2人を連れて行きますわね?」
一度決めると後は迅速に勅使の為の準備に取り掛かり、1週間で魔法による返信が帰ってきた。
ミネルヴァは護衛を連れ、祖国を離れる事になる。
将来の肩を並べる戦友候補と出会いに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ステルヴィアは料理が正直残念でしたが、貴重な経験も出来ました。
これを糧にして、私たちは次の国『ムシュフシュ』で頑張っていきましょう」
ウルが向いている方向には誰もおらず、リオンは一瞬だがウルが木とでも話しているのかと疑ってしまった。
とはいえ、ステルヴィアの国境を抜けてからは森など影も無くしてしまい荒野しか残っていない。
「…どこに向かって話しかけてるんですか先生?」
「しっだめよリオンっ!!
先生疲れてるんだからちょっとおかしいんだってっ!!
そっとしておいてあげないと」
「…ジュリー、貴方ウル様に対していつもそんな感じなの?」
ステルヴィアの国境を抜けて数分後、突然あらぬ方向へ声を上げたウルに、生暖かい視線のみならずぼやくリオンに心配するような顔に反して茶化しているジュリー。
そしてその弟子2人に呆れの態度を見せているエーヴァ達4人はかしましくも歩いていた。
弟子2人はステルヴィアに来てからのウルの様子に異変があったことに気付いているが、最近知り合ったエーヴァとしては、既にウルが好意は持たれているが変わった人、という認識がすでに出来上がっていた。
本人が聞けば即座に否定するのだろうが、ウルの知り合いや友人たちはその否定に対して逆に否定する事は確実である。
「…リオン、陰口というのはですね、本人のいない場所で叩くものなんですよ?
いえ、叩いても構いませんがそれを耳にすれば出所見つけ出して精神魔法で頭確実にヤッちゃいます」
「「「うわえげつない…」」」
3人がウルの発言に大人げなさと理不尽さを憶えていたが、ウルとしては当然の行為のようである。
「本人のいないところであらぬ中傷など陰険な真似は恥です。
文句があるのなら正面から堂々と言えばいいのですよ…あなた達も、私に何か文句があるのなら直接言いなさい。
100歩譲って、直訴状にするくらいなら納得しましょう」
その場合は精神をヤッちゃうなどは無いと明言するのだが、まず対処法の極論っぷりをどうにかしてほしい、と言葉にする者は3人の中にはいなかった。
「…それにしても、あんなとんでもないのがあと4人もいるだなんて…僕たちで対処できるんでしょうか?」
リオンが言う4人というのは、レギオンが言っていた『女神の御使い』達の事だろう。
既に3人、【剣】・【鎖】・【軍】をウルとデュケインが倒しており、残る4人もそれに勝るとも劣らない実力者揃いな事は間違いないだろう。
リオンやジュリー、それにエーヴァの3人がかりでも足止めできるのか怪しいと思うしかない者たちばかりが相手で、ウルは本当にこの旅に連れて行ってしまっても良いのかと、ふとした時に思うことが度々よぎっていた。
「残る4人は私が斬り伏せれば済む話…という事ですかね。
あの程度ならば…同時に2人くらいならどうにかなるでしょうか?」
「先生の本気の本気が出れば4人どころか元凶もイチコロな気がするんだけどなあ」
ウルの発言に対して思わずぼやいたジュリーに他の2人が同意していた。
「リミッターについては正直デュケイン様の御厚意もありますから、あまり無茶な使い方はしたくはありませんが…あの魔神、遊び半分で私の身体弄ってますからね、思わぬ仕掛けが飛び出してきそうで怖いです」
「…それって、厚意あるのかしら?」
「先生の先生ってとんでもない神様みたいだけど、遊び半分であんなとんでもない力与えるって後のこと考えなかったのかなあ?」
エーヴァやリオンの疑問はもっともな所である為、さすがにデュケインをかばおうとはしないウルではあったが、その答えについてウルはすでに気づいていた。
後々の―――ウルの願いを叶えるための代価としてある程度の力の徴収を行うという推測であり、おそらくあの契約主義者な一面を持つ魔神ならやりかねない事である。
本来ならば力の本来の持ち主であるデュケインの物である為、代価にならないはずではあるが、この力を得る前に既にウルはそれ相応の代価を払っていた。
自らが長い時を経て生きてきた『負の観察者』としての肉体をデュケインに無理やりではあるが代価として差し出していたのだから。
そう、女神の首を獲り力を返したその時、ウルの本当の願いは叶うだろう。
ウルが過去出来なかったこれまで一度も経験をしてこなかったその事を。
生き物ならば必ずするだろう現象であり、生き物であるならば避けては通れない道を。
そう、気が遠くなるほどの時間を生きてきたウルが唯一願ったその想い。
「『観察者』に手を出す、ですか。
この世界の『観察者』―――エインディア嬢は幻獣界でも屈指の実力者。
正直手を出してただで済むとは思えないんですが…」
「えっと、先生と同じ…役目を持った存在の事よね?
知っている人なの?」
ジュリーが尋ねて、ウルが苦笑しながら答えた。
「知り合い…になるのでしょうか?
デュケイン様からよくお話を聞いていますので、面識はありませんがよく知った人物…いえ、竜族の方です」
『観察者』のエインディアについて情報を少し聞かせてみて、3人が複雑そうな顔をしていた。
それもそうだろう、『観察者』の役目を聞いて、正直気持ちのいいものではないのだから。
力があるのにも拘らず誰一人として助けようともしない存在など、鬱陶しい事極まりないのだ。
ただひたすら観察を続ける存在について知ったところで、地上で生きる者達は必死に生きているだけなのだから。
「現在エインディア嬢は教国にいらっしゃるので、おそらくは会う事は無いでしょうが、あの方の見識は有用ですから一度あってみたいものです」
「…うっわ、有用って…先生ってホント腹黒いわ。
…エーヴァ、貴女先生のどこが良かったのよ?」
「え…その、ウル様の全てかしら?」
「ジュリー、エーヴァはもうダメみたいだよ」
有効利用について云々とウルが話をしている傍ら、リオンとジュリーはエーヴァの目を覚ませようと必死になっていたが結局冷ますことは叶わず、小声での小さな会議はウルの一声で終了を迎える。
「さて、御日柄も良い事ですし、修行に入りましょう。
以前リオンとジュリーもしていましたが、今回はエーヴァも参加しましょう。
『鬼ごっこ』をします」
そういうと、ウルは【破軍】を取り出して3人と距離をとった。
『鬼ごっこ』とは、以前ウルがリオンとジュリーをステルヴィアの国内で行っていた空前絶後のデスゲームならぬデスレースである。
舗道は出来てはいないが、山を一つ二つ越えた向こう側にあるとされる竜人の国『ムシュフシュ』の首都まで距離はまだまだある。
遮蔽物についてはまばらにあるようなので、考えて魔法を放ったり不意打ちが可能な実戦向きな土地で、ウルとしても好都合な点が多く見られた。
リオンたちはウルから逃げ出すように走り出し、そして20分後。
『ムシュフシュ』国内を散発的な天変地異が襲い、その光景を見たものは口々にこう言った。
『竜神様のお通りじゃ』
慌しくも、代行者はどの国へ行っても扱いがお騒がせが過ぎるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「1ばーん、何か飲み物持って来て~」
「ただいまお持ちします」
「3ばーん、小腹空いたから何かお菓子持って来て~」
「急いでお持ちいたします」
「2ばーん、ちょっと足むくんじゃったからマッサージしてよ~」
「喜んでご奉仕いたします」
「「……」」
デュケインの周りには常に使い魔五人衆のうち3人が世話をしており、『管理者の間』ではいつもの光景が見られている。
新しくやってきた客人、レギオンも最初驚いていたが今ではもう何も驚いてはいない。
4番と5番は1番から3番と違いバルとレギオンの世話を担当していた。
デュケインの世話をしている3人の使い魔はデュケインの気まぐれな我が儘に振り回されながらも慌しい時間を過ごしている。
主人であるデュケインのお陰で今の自分たちがあると自覚している5人は、本来ならば現在地上にいる一体でよかった使い魔―――『特号』と違い、本来ならば不要な存在である。
元々地上へと自らの意識を誘導するための存在を創り出すためにデュケインは使い魔を作ろうとしており、その過程で地上世界へ送ることが出来なかった5人は、いわば失敗作なのだ。
失敗作である5人は、『特号』が地上世界へいった時点で即廃棄されるはずであった。
しかし気まぐれなデュケインは失敗作5人を廃棄せず、『管理者の間』での様々な雑事を任すようになっていった。
基本的には女神が送ってくる強力な歪の処理係としてだが、それ以外は主人であるデュケインの世話やバルの手伝いである。
「…ねえ、使い魔4番…さん?」
レギオンがおそるおそる4番に話しかけ、4番はなんでございますか、と堅苦しい言葉を返した。
「鏡の様子がおかしいんだ、魔神様…デュケイン様にちょっと聞いてくれないかな?」
レギオンが見ているのは普段デュケインが『管理者の間』から地上世界を映している巨大な鏡である。
その巨大な鏡に、突然ノイズのようなものが走るようになったのである。
その場所は―――、
「教国…?
これはいった―――っ!?」
「―――やられたっ!!」
4番は1番から3番に自分が見聞きした情報を主人であるデュケインに伝えると、何かを感じたのか、デュケインが今まで口に出したことの無いような、失態に対して恥じ入るような声を上げたのである。
「ナニコレ、教会の結界をすり抜けた挙句、『観察者』を無傷で連れて行くだなんて…あの女神、一体どれだけの力を…」
八つ当たりの様にテーブルを叩き潰すと、置いてあった飲み物がデュケインの腕にかかり、菓子が足元に転がる。
「『特号』はやられてない…?
竜人の子供も無事か…なるほど、1人になった所に不意打ちをかけたのか、なら力はそれほど上がっていない?
…いや、結界に反応しなかったのは何らかの力で中和、もしくは何らかの方法を用いて侵入したはず、ちょっと力が上がったくらいじゃあの結界に隙は出来ない。
僕がいないことに気付いてエインディアを連れて行くか…エインディアを使って何か……まさかっ!?」
デュケインが鏡を操作してどこかへを映し出した。
「…はは、参ったな」
呻く様に呟くデュケインに、バルやレギオン、そして使い魔5人がかたずをのんでデュケインの言葉に耳を傾けてる。
「…『観察者』対『観察者』だなんて……女神め、悪趣味な対戦カード作りやがる」
巨大な鏡からは、ウルたちの次の目的地、竜人の国『ムシュフシュ』が映し出されていた。
そして、巨大な竜が小さくはあるが街を蹂躙し破壊している情景が見て取れたのである。
読んで戴き誠にありがとうございました。
戦闘描写についてはまあ頑張ってこれからも書いていく所存でございます。
次回からは、番外編の情報などを加えた設定上の情報や道具などについての説明…諸々を説明していく予定です。
ではでは皆様、また次回まで。
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