第050話 再度異変
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「…そう言えばさ魔神様、『負の観察者』ってなに?」
「うわ…君そんなこと知らずにウルにあんなこと言ったの?
首撥ね飛ばされて当然じゃんそれって」
ネズミ小僧―――女神の駒であるレギオンが僕たちのいる『管理者の間』に来て2日目。
いくつかの質問をして放ったらかしにしていて、というかすっかり存在忘れていたんだ。
だからって、現在進行形であの馬鹿女神が送り込んでる歪倒しているときのする事じゃないと思うんだけどなあ。
「だってメサイア様が代行者にこう言えば隙が出来るって…まあ動けない時に言っちゃったからどの道死んじゃったんだけどねえ」
ヒドラによく似た歪の首を全て撥ね飛ばし、ついでとばかりに炎で芯まで焦がす。
…なんというか、『歪人』って間抜け集団なのかって思いたくなるなあ。
力はそこそこあるけど、中身が残念すぎる。
まあ僕的がバカだと色々と楽でいいんだけどね?
「まあなんというかさ、『負の観察者』っていうのは…ある意味じゃ『予兆』みたいなものなんだよ。
“不幸限定”のね」
不幸の大小を問わず、『負の観察者』はその役目通り観察するため、対象の元に突如として現れる。
まあ大雑把にいうとネガティブ限定の予報がやってくるって言う所かな?
けど、ウルの元いた世界じゃ『負の観察者』が現れたらその対象はほぼ確実に悲惨な末路に辿り着く。
ウルが僕と以前契約をして存在を認知されてからは、ウルが現れたら『不吉』の象徴だとかなんとか言って大騒ぎしていたっけ?
おかげで、『黒髪は不吉の象徴』とかいう風潮も一時期で茶うことになるし…カラスかよっ、とか思わず突っ込んじゃったなあ…懐かしい。
「特に吸血鬼の一族の騒動は酷かったね、ウルが現れてからは絶望ムードで自暴自棄になった一族が都市滅ぼしたとか、そんな話聞いたことあるよ」
そう言えばあの一族、今この地上世界の方に末裔がいたっけ?
ウルと会ったら…アレ、ヤバい気がそこはかとなーくするんだけど?
「…てなわけで、ウルってば自分がやっていた『負の観察者』っていう役目とかそういう風に呼ばれるの好きじゃないんだよね」
と、説明が終わったころにはようやく一息つけるくらいに暇になった。
最近使い魔五人衆でも手に負えない歪とか送りこんできてるし…改造でもしようかな。
「…へー、そりゃ嫌だね。
次会ったら謝ろうかなって思ってるけど…許してくれるかなあ?」
殊勝な気持ちでいたのか、レギオンは耳をぺたりと垂らしている。
「まあ昔の話だからね、素直に謝れば許してくれるんじゃない?」
内心じゃあウルは絶対に許すと思うんだよねえ。
だって、
「“可愛い女の子”にゴメンナサイされて、嫌な男なんているわけないでしょ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「御苦労様でした、次も頑張りなさい」
と、以前個人的に雇った《漆黒の蛇》ことガリレオが約束通りの仕事を持ってきたので、労いの言葉をかけたウル。
リオンたちはまだ別室で寝ており、外もまだ暗く誰も起きていない。
「…これが、御主人たちが近々向かう竜人の国『ムシュフシュ』の国内事情とその詳細です。
説明するの面倒だから簡潔に言うと、あの国近々内戦でも勃発しそうなくらい荒れてる。
少し前に変わった魔人が王女様の騎士を殺しちまって、その責任が発端らしいんだが…どう転がったら内戦になるのかさっぱりだわ。
…なあ御主人、仕事してきたんだから報酬くれよ…ていうかください。
寝る間も惜しんでこんだけ作ってきたのに御苦労様の一言はねえんじゃねっ!?」
「…黒蛇さん、活動資金として500万渡していたと思うんですが、それはどうしたんですか?」
一般市民であれば3年近くは遊んで暮らせるほどの金額であるが、情報の重要性を知っていたウルは、500万で周辺諸国の内情を知れるのだから、安いものであると考えていた。
「…いや、急に大金持っちまうとちょっと豪華な食いもんとか、高級娼婦とかを…あ、あはは~」
「……はぁ」
溜息をついていたウルではあるが、別に怒ったりはしていない。
ウルは別にガリレオに女を抱くなとかそういった要求をするつもりはない。
あの活動資金の内訳はともかく、私生活にまで言及するつもりはないのだ。
しかし、その私生活が仕事に影響を及ぼすのなら、出したくもない口を出さなければならない、というやるせなさがあったのである。
「…別にそこらの娼婦でいいでしょう。
まあ、そういった娼館はある意味安心感があるかもしれませんが…仕事に影響が出るほど散財をするだなんて思っていませんでしたよ。
…ガリレオ、次やったらアヴァロンではなくシュトルンガルドの衛兵に突き出しますよ?」
役に立つと思ったから個人的に雇ったのだ、役に立たないのなら処分先は既に決まっている。
とはいえ、誘拐の罪がどれ程かは知らないが、法的整備もウルの元いた世界と違って拷問などの非人道的な手法を使う可能性もあるので、ロクな目に遭うのは間違いないだろうが。
「…淡白だねえ御主人は、で、実際どうなの?」
「…どう、とは?」
ウルが何の事かと聞き返すと、ガリレオの表情が崩れた。
ガリレオも逆にウルがどうしてそんな顔をしているのかあり得ないといったような顔をしていたのである。
「どうって…えっと、御主人?
御主人のチームに最近エルフの王女さんが入ったじゃんよ?」
何故エーヴァの名が出てきたのか、というウルの疑問は当然の事ではあったが、現在諜報の職についているガリレオにそんな疑問は意味がないとすぐに察した。
「ええ、それがどうかしましたか?
エーヴァはチームの頼もしい後衛ですが…食事の趣味は少々困ってはいますが」
ウルはエーヴァが最近はまり出したという菓子作りの試食係を任されており、強烈な薬味を入れた激苦の菓子を数日に一度食べされられていた。
食した本人はおいしさはともかく、あまりの苦さに評価不能というある意味凶器な一品は、一部のエルフの男たちから何故かすさまじい視線を受けながら食べていたことを思い出した。
種族差別じゃありませんが…エルフ族の方々は一度料理という文化を他国で学んできなさいと言いたくなりましたね、あの時は…。
「あの王女さん、御主人の事好いてますぜ?
ていうかベタ惚れってやつ?」
「…は?」
何がどういう事なのか、ウルの思考がここに来て理解不能な言葉を聞き取った。
好いてる?
ベタ惚れ?
なんだその言葉は。
「…おーい、御主人?」
とはいえ、ガリレオが声をかけるとウルがようやく口を開いた。
「…あり得ません、私のような人格破綻者、好きになるだなんてどうかしてます」
いきなりガリレオが口に出したが、落ち着けばウルもその言葉が一般的にどういう言葉かは分かっていた。
が、自分のこれまでの行動を鑑みて、惚れられる要素など全くなかったはずである。
というより、ウルとエーヴァはまだ会って1ヶ月も経っていない。
一目惚れというものを基本信じていないウルは、短期間で自身に対する好感情が生まれるだなんて、思ってもいなかったのである。
「えー、人格破綻者な所は特に減点対象じゃなくね?
だって御主人、考えてもみなって」
ガリレオはウルが代行者なのだという事を知っている。
そしてガリレオはエーヴァがウルのどのあたりを好きになったのか適当ではあるがいくつか挙げてみた。
「王女さんは強い奴が好きと公言してるんよ、自分も冒険者だなんて仕事をしている辺り、やっぱ自分より強い男とかは惚れる要素な一つなわけ。
加えて言うと、王女さんは可愛い者が好きなわけ、例えばぬいぐるみとかそういうやつね。
…でよ、そんな所に御主人が現れたわけ。
代行者っつーとまあ強さとかは教国に出た大量の歪ぶっ殺したり、俺の時もそうだったけどシュトルンガルドの再建で一気に国中に名が広まったじゃん?
強さと誠実さはこの時点で十分わかるじゃん?」
じゃん、と自信満々に言うガリレオに、ウルが複雑そうな顔をしていた。
あの教国に現れた歪を滅ぼしたりしたのは、単に影武者を作る際に必要だったことやリオンたちの情報があったから成立したのであって、ウル1人の功績ではない。
シュトルンガルドについても、ウルの思惑とエドワードたちの思惑が重なり、獣人たちを虐げているアヴァロンが気に入らなかったからあそこまでしたのであって、誠実さなど欠片もないのだ。
「けどさあ御主人、この国の件だってそうじゃね?
言ってみれば御主人ってこの国から言ってみれば余所者じゃん?
そんな余所者がよ、いくら代行者だからって全部一人でこの国の為に体張って救うっていうのは、女の子からしたら結構クるもんあると思わねえ?」
「…まあ、万歩下がってエーヴァが私を好きになったとしましょう。
しかし、そんな素晴らしいに想いに応えられるほど、私は御立派な存在じゃないんですよ」
守る者がいるからこそ強くなれるとかいう言葉もありますが、あんな戯言信じる方がおかしい。
強い者に理由なく強いんです、足枷増やして強くなるとかどれだけ自殺行為ですかって話ですよ。
「…ご主人は難しく考え過ぎだぜ?
好きになる理由なんて言ってみれば後付けなんだって。
食べる姿が好きだとか、寝ている寝顔が可愛くて好きだとか、相手の仕草に好感が持てたらそれが恋なんだって」
「…お手軽過ぎませんか?」
「育みゃあ愛になるじゃんよ、芽も出ないうちに水も肥料もやらなかったら、そりゃご破算になるに決まってるっての」
ぼやくウルに、いつの間にか押される形でガリレオが迫っているのだが、理屈的なウルとしてはエーヴァの想いにどう決着をつければいいのか、まだ分からないままである。
放ったらかしはよくない、という事は解っていても、どう接すればよいのかというのが問題である。
腫れたものとして扱うのもチームとしての不和が起きて百害あって一利なし。
普段通り接しようにも、それはウルがエーヴァの想いに全く気付かなかったから出来ていた行動であって、今思えば他人の服装を褒めたりするのは相手に対して好意的な反応とみられるのではないか、と思ってしまっていた。
グルグルと考えているウルにしてやったりと思ったのか、ガリレオがニヤニヤしながら手を差し出していた。
「…なんです、その手は?」
「えーと、王女さんに御主人がどう接したらチーム内でもおかしくない行動をとれるか助言するから、その相談料…みたいな?」
憎らしく思えたガリレオの表情に一発蹴りを入れたくなったウルであったが、情報に対しての対価は必要である。
「…言っておきますが、これはエーヴァに関しての助言に対しての相談料ではなく、ガリレオが活動資金が必要なのでどうしてもという事、次いでこの度の仕事の報酬に対してのお金であって…か、勘違いしないでくださいよ?」
ガリレオはウルの様子がおかしい事にとっくに気づいていた。
口数も多ければ少しばかり頬も赤くなっており、何より早口なのだ。
どういった理由化は察するところではあるが、緊張していないのに早口というのはどういう事やら、とガリレオは内心面白がっていた。
「はいはい御主人、俺っちは御主人の今後を支えるために粉骨砕身していくんで、今後とも援助よろしくっつーことっすわ」
こんな軽々しい言葉遣いの男でも、仕事に関しては一流なのはよく分かっているウルは、不満そうな顔をしてはいてもそれ以上何も言わなかった。
とはいえ、代行者の個人的な部下がこんな頭の軽そうな男だなんて誰かに知れたら一体どうなるのか。
「…それはともかく、ガリレオはもう少し言葉遣いを直しなさい。
そんな頭の悪そうな言葉遣い、いざという場でどういう対処をするつもりですか?
だいたい―――」
「―――ええっ!?
ちょ、ちょっと御主人、俺っち別に…」
ウルはガリレオの『正しい言葉遣い講座』を強制的な講義に入り、リオンたちが起きてくる直前まで続いていた。
読んで戴き誠にありがとうございました。
えーと、ネズミ小僧ならぬネズミ少女でした…みたいな?
ウル君に関しての説明はこんな所でしょうか、御質問があればどうぞしてください、違和感や何かございましたら自分なりの答えを探し出して答え射していただきます。
再度異変、とか意味深なタイトルでしたが、実際異変というのはエーヴァとウルの妙な関係なわけでして。
久々に登場なこの黒蛇さん、チャライくせに色々と目ざといんですよ。
さて次回予告。
そろそろこの章も終わりが近づき…あれ、前にもこれ言った気が。
次回、『追憶の果てに』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




