第005話 稀代の新人現る?
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
11/16 長さに記述について修正いたしました。
「…武術に置いてはこういう言葉があるんだけど知ってる?
一眼二足三胆四力ってやつなんだけどさ…?」
打ち合っている間にも頭を使う作業は常に継続していて、無我夢中で私はデュケイン様に刃を向け続けていました。
刃引きも何もしていない、本物の武器を使った訓練は、一度刃が掠めただけでも冷や汗ものです。
「…洞察力やフットワーク、度胸や身体能力の事についてだったと、記憶しています…っが!!」
ここにきて、いつもは一方的に聞くだけだった訓練に対して言葉を返せただけでも、十分に修行の成果が出ていると言えましょう。
「まあそうだよね、膂力っていうのは最も鍛えやすくて、努力すれば誰でも得られる能力だ。
だけど…胆力、つまり精神力で簡単に力なんて左右されてしまう。
足、つまり間合いの利・地の利・戦術の利という奴を相手に抑えられたら為す術はない。
そしてそれら全てを備え、全てを見通す洞察力があれば、その者は武術に置いて比類なき存在だ、常に勝利者に近い存在だ」
一瞬の隙を突かれ、そのままデュケイン様がいた場所に武器を振り抜いてしまったと同時に、鳩尾に衝撃が走りました。
同時に胸骨周りに異音が……これは折れましたね。
壁が存在しないせいか、勢いよく飛ばされた私は勢いが落ちるまで跳ねて跳んで転がり続け、ようやく止まったと思ったら容赦なく頭上に小さい足が乗ってきました。
軽いですが痛いです、血も何度か吐いちゃいました。
「つまりだ、洞察力があって空間把握能力が長けていてフットワークが軽くて身体能力がばっちりになれば、基本的に単独で戦争が出来ちゃうっていう寸法だよ…解るウル?」
…いえいえデュケイン様、この理論は武術面においての理論であって、戦争に使えるかはまた別問題なのでは?
「なに、口答え?
早くも三日目で反抗期になるなんて…もう少し調きょ…じゃなかった、しつけが必要だね」
…ランクが落ちてもやることは変わらないのですねデュケイン様。
あと、心読まないでください。
デュケイン様が手の平をかざすと、私の身体から痛みと傷が、あと鎧が一部破損していた部分が綺麗さっぱり無くなっていました。
「まあいいや、続きするよウル。
武術なんてまるでさっぱりなお前でも、無様にこの世界の人間にやられない位には強くしてあげるから」
“僕が関わっている以上、無様な敗北は許さない”
耳に残る、酷く冷たい声音を聞きながら、私はまだ震える体に鞭を打ちながら、目の前の魔神と再び打ち合いを始めたのでした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ウルが再び守衛に十字架を見せて首都に入った時、すでに太陽と月が入れ替わり、夜も更け初めて人通りが少し閑散としてきていた。
「…そういえば、ギルドはどこにあるのでしょうか?」
というのも、首都ヘルツィカイトに戻って来てすぐに思い出したことだったのである。
大量の歪を討伐して悠々と帰ってきたのは良いものの、途中道が分からなくなって時間がかかったのには予想外のアクシデントだった。
仕方なしに情報を聞いた商人に聞きに行ったが、既に店仕舞いの様で、老夫婦のいたスペースは冷たい地面しか残っていなかった。
「…お腹空きました」
適度な運動のお陰で腹の虫が鳴いているが、いかんせん金子というものが無かった。
この世界の通貨等の名称については、デュケインから教えられていた。
通貨は統一されていて『ヒトゥン』。
長さは偶然なのか『メートル』、『キロ』、となっていた。
重さも『グラム』、『キログラム』、『トン』のようである。
そしてすべてが十進法で繰り上がっていた。
ほかにも一年が十三ヶ月で、今は櫨染月である。
長さと重さが何故元いた世界と一致していたのかは不明だが、覚えることが一つ減って安堵していたのをウルは記憶していた。
何故デュケインが知っていたのかというと、休憩時間を挟んで異世界の様子を見ることのできる鏡でその様子を見ていたためである。
その時見た世界は、ウルがどうして必要なのかという事を再認識させる風景ばかりだった。
歪に滅ぼされた村、親を亡くして路上で生活する子供たち、私欲に走る一部の賊。
やることが一杯だな、とデュケインが肩をすくめていたが、ウルからすれば仕事がないよりまし、というシビアな感想しか持たなかった。
「…あら、あなたさっきの坊やじゃない、どうしたの?」
誰かと思い振り返ってみると、少し前に落とし物といって歪から抜け出した魔獣の換金部位を渡してくれた女性だった。
アドルフ枢機卿直属部隊、オデットであった。
初めて会った時と変わらず、魔法使い系の装備にショートとソードという、なんとも何処にでもいそうな出で立ち。
容姿についてはエルフ族特有の美形顔で、ウルとは正反対に生気に満ちた表情をしていた。
「あの時のお姉さんですか…」
…よく会いますねえ。
さすがに二度も会えば怪しいと思ったのか、腰のバッグからモノクルを取り出しかけた。
『心眼鏡』という、読心術専門のマジックアイテムだ。
異世界に辿り着いた時に付けていたものだが、はじめて会ったのがあからさまだった所為か、内側を見るまでもないと判断してバッグに仕舞い込んでいた物である。
効果はいたってシンプル、会話の間にモノクルから副音声が聞こえてくるという事だ。
「すぐに離れちゃってごめんなさいね、急ぎの用があったから (よかった、ちょっと遅かったけど帰ってこれたみたい)」
「ええ、少し迷っちゃって、ようやく帰ってきたものの今も絶賛迷子中なのですが…」
「あら~、そうだったの、だったら丁度こっちの用も済んだことだし、案内しましょうか(枢機卿猊下に報告することも終わったし、サービス残業と思えばいいかしらね)」
はい決定、この人監視役でした。
…とはいえ、道案内は必要ですし背に腹は代えられません。
…うまい事言えた気がします!!
一人脳内で漫才を繰り広げていたが再び腹の虫が悲鳴を上げた。
「ギルドへ行って換金したいのです、ギルド支部へ案内していただけませんか?」
「え、このヘルツィカイトにあるギルドは本部よ? (…あーそっか、この世界の事まだ知らないのよねこの子、その辺どうにかしないといけないんだ)」
とはいえそれほど悪い方でもありませんし、かまいませんか。
通りが一つ隣だった様で、すぐにギルド本部は見つかった。
教会がスポンサーとしてバックに控えているようで、ギルドの規律は教会ほどではないが厳しいそうだ。
しかも歪が出現したとされる数百年前からギルドの入会方法が変わってしまっていた。
冒険者になるには、教国首都にあるギルド本部で試験を受けて合格しなくてはならないのである。
魔獣よりさらに凶暴になった歪という存在に考慮してか、当時どこでも入会可能だった起立を変えて、慎重に審査することになったのである。
一部の団体は、教会にお金を落とすためにわざと規律を捻じ曲げた、などと中傷したが、実際慎重に審査しなければ、無謀な冒険者が歪と戦って無残に散るよりまし、という事を教会は伝えた。
減少傾向のあった冒険者の数は徐々に上昇傾向にあるという。
案内されてようやく着いたギルド本部は五階建ての大きな木造建築だった。
再び別れたオデットを頭から追い出し、モノクルをかけた本部へ入っていくと、中は一仕事終えてきた冒険者たちで賑わっていた。
ウルを見る者はほとんどおらず、かろうじて受付をしていた獣人と目が合ったくらいだ。
クエスト掲示板を素通りして受付の前にやってくると、狼の獣人が気さくに挨拶してきた。
「よお坊主、見ねえ顔だが入会希望かい? (妙に装備も整ってるようじゃが…傭兵、にしちゃあ若すぎるな、貴族のボンボンか、はぁ)」
隻眼隻腕の元戦士、といった所でしょうか…凄腕ですね。
しかもかなり残念な第一印象です。
一目で見るだけで、目の前の獣人がどれだけ高レベルの戦士だったのか分かるほどの歴史がそこにあった。
隻眼隻腕だけでなく、体中に傷という傷が覆い尽くされていたのである。
「それもあるんですが…その前に換金したいのです」
ウルの言葉遣いに驚いたのか、耳をパタパタと動かしながら話を続けてくる。
「あー、換金っていうとあれかの?
悪いがギルドに入会してねえと換金の額が下がっちまうから、あんまし期待しねえほうがいいぞい? (こんなひょろい体で歪何ぞ狩れるのかのお)」
「いえ、今日の宿代と夕食代が稼げればいくらでもいいのです」
そういうと、バッグから薬草と換金部位を山のように積みだしたウルに驚いたのか、慌てて換金用の盤をとってきた。
バッグから許容量以上の物がどんどん出てきたせいか、近くにいた冒険者たちが目を見張っているのに、ウルは気づいていなかった。
「あーおいおいおい、受付に置くんでねえ坊主、カウンターが汚れちまうぞい (…まったく、どこの貴族の坊っちゃんじゃオイ)」
片腕の為か器用に乗せていく様子は、すでにその片腕を失くして随分経っているのだと思わせるほどに自然なものである。
ぼやきながらも仕事は丁寧で、一つ一つ鑑定しながら換金部位の状態を確認していた。
鑑定する者は他にいたようなのだが、どうやら受付の仕事はやることが無いようである。
「これは使えんのう…これは中位のか?
これとこれは換金できるな…まあこんなもんかのお (なんで換金できねえものまであるんじゃめんどいのお…)」
換金できなかったものは別で処分してくれるようで、換金部位と別の場所へ持っていかれた。
換金された金子の入った袋は拳ほどあってか意外と大金となったようである。
「ほらよ坊主、しめて11万と7650ヒトゥンじゃ…入会してりゃああと5万は増えたのに…まったく損な事しおって」
先ほどと同様、近くにいた冒険者たちは今度は口を開けて呆けていたが、ウルは全く気付いていなかった。
「これで今日の宿代と食事代が稼げました、ありがとうございます」
「どれだけ食う気じゃ…まあいい、ワシはブリッツじゃ、入会するなら明日にしろい坊主、もう店仕舞いじゃ」
「この近くでおいしい食事つきの宿知りませんかブリッツおじいさん」
「爺さんいわんでくれ、ワシはまだ現役じゃ…『月下亭』が隣にある、そこそこ高いが飯はうまい、今日はそこで宿をとるんじゃな (後ろの連中が追剥に変わらんうちに近くで休ませた方がいいかの)」
「情報感謝です、これチップで」
情報料を渡そうとしたのだが、サービスの様で受け取ってもらえなかった。
内心思っていることについての感謝もあったのですが…残念。
「さっさと行かんか坊主、そろそろ満室になっちまうぞい (頼むからはよおいっとくれい、頭痛がしてきたぞい)」
「ではではおじいさん、また明日」
苦々しく表情を曇らせながら手を振ってくれたブリッツを後ろに、ウルはギルド本部を出て行った。
その後ろをついていこうと席を立とうとした時、ブリッツが声をかけた。
「そこのバカモン共、やめとけ、お前さんらじゃあの坊主には勝てんわい」
「な、なんだよブリッツさん、俺らはただよ…なあ?」
「ああ、ちょっとあの新入りに挨拶してこようかと…」
慌てて言い訳をしたようであるが、あまりに稚拙だった所為かブリッツが呆れてため息をついた。
「さっきあの坊主が換金してきたのはのお、薬草がまあいくらかあったんじゃが、他は全部歪じゃ。
しかもその数は大体40位かのお、あの坊主が単独でこれだけやっとるんじゃ、お前さんらみたいな青になりたてのパッとでのガキじゃあ勝てんわい」
「よ、よんじゅうだって!?」
「おいおい勘弁してくれよ、上位ランカーレベルじゃねえか!!」
これに気付いたのか、他の冒険者たちも何事かと集まってきた。
ブリッツは集まってきた連中に明日の試験管を募るというと、乱雑に書いた依頼書をクエスト掲示板に張って、二階へ上がった。
張り出された内容はこうだった。
依頼:試験管募集。
櫨染月8日に入会する者の実技試験管。
実力は緑以上。
要求するランクの高さから、明日の試験が壮絶なのは誰が見ても明らかだった。
疾風の如く現れた期待の新人は、ギルド史上呆然とする記録を打ち立てるまで、あと一日。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その頃、何も問題なくウルは『月下亭』で呑気に夕食を食べていた。
夕食と次の日の朝食で1万5000は少し高いような気もしたが、風呂もあるしベットもある、何より清潔というのが決め手だった。
綺麗好きという訳ではないが、寝泊まりするなら埃を被ったベットよりはいいという程度の差ではあったが。
おかわりが自由だったという理由もあってか、周りの宿泊客がドン引きするほどの量を食べ続けているウルに、思わず看板娘のシャニが胃袋は平気かと尋ねた。
「はい、平気ですからもっと持ってきてください、朝から何も食べてなくてもう腹ペコだったんです」
予想以上の食いっぷりに、明日の朝食にまで食材が減ってしまう可能性もあるので、ウルの食事にストップがかかるのはすぐだった。
読んでいただきありがとうございます。
さてさて、ついにやってきますよ次回から戦闘的パートが。
対人戦なのであまり派手とはいきませんが、コツコツと書いていきます。
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