第049話 それでも私は
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
目を覚ますと、眼帯を付けた変な奴がいた。
目を覚ましたボクに対して脈絡もなく楽しそうな声でそいつは喋っている。
「…とまあ、君死んじゃったんだけどさ、面白そうだから魂引っ張ってきちゃった。
で、生き返った感想のほどはどうかな?
えーと、【群】だっけ、中二チックで面白いね」
意味はよく分からないが、バカにされた気がそこはとなく感じるんだけど結局のところ分からない、というより頭がよく回っていないので言葉を聞くので精一杯だった。
「…お前、何?」
「僕かい?
僕は君たちが言う所の魔神だよ、女神のバカに聞いていないかい?
つい最近【鎖】てのをブッコロしたんだけど」
そう言われてみれば、異常なほどの力を感じた。
けど、いつもは感じていた敵愾心というものが沸き上がってこない。
目の前の魔神はニヤニヤ(いや、眼帯付けてるからよくは解らないが)していて、ボクの疑問に答えてくれた。
「それはね、ウルが…ああ、君の首撥ね飛ばした奴の事ね?
君が埋まった時にまあ力を中途半端にだけど随分と吸っちゃってね、その時に女神が与えていた力もほとんど吸い取っちゃったみたいなんだよ。
おかげで君はウルに対してそれほど敵愾心を持たずに、尚且つあんなオモシロ発言したけど仕事に厳しいウルは敬意を表してちょっと蹴っ飛ばされてはいたけどそれ以外は痛みを感じる事なく死ねたっていうわけ。
…でだ、僕としては女神のクズが現在どの位の力を持っているか知りたいんだよね、生き返らした代価に情報寄越せ」
…うん、随分長々喋っていてようやく頭もまわってきた。
ボクはどうやら、あの代行者に殺された後、メサイア様の仇敵ともいわれる魔神に魂を救い上げられたらしく、わざわざ生き返らせた理由はメサイア様の情報を知りたいという事だという事。
本当ならメサイア様の情報なんて死んでも渡せないっていつもは思うはずなのに…、
「…あれ?」
むしろ自分から喋りたい、そんな感覚に襲われている。
困惑しているボクに魔神がからからと笑ってボクの違和感に答えてくれた。
「ああ、どうしてあそこまで依存していた女神にそれほど助けようっていう気になっていない理由を教えてなかったね。
簡単な話だよ、単に君は女神に唆されて精神を弄られていたっていうだけの話なんだよ。
ああ、心配しなくても情報を絞り出した後は殺したりせずに、ちゃんと地上の方に送り返すから心配しなくてもいいよ?」
目の前にいつの間にか食事が置かれている。
いつの間に隣にいたのか、端正な顔立ちをしたもう一人の魔神が5人の従者を連れながら食事を持って来ていた。
「とりあえずお腹空いたでしょ?
ご飯食べながらお話でもしよ?」
「…とりあえず、食べるよ」
どの道逃げられるとは思っていない。
この不思議な白い空間で唯一色を持った僕たちは、よく分からない空気の中よく分からない出会いを果たした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
モルドラットの脅威が去った次の日、ウルは前日の事を振り返っていた。
【軍】の首を撥ね飛ばした際、何か違和感があったことに気付いたウルは、もしかしたらデュケインに呼びだしを喰らうと思っていたのだが、一向に来る気配がない。
リオンたち3人はウルが敵であろうと子供を手にかけたという事に対して何らかの罪悪感を感じているのかと案じていたのだが、それに関してウルの情緒面での不安定さは見受けられなかった。
むしろ落ち込んだりため息もつかず黙ったままという状態に違和感を感じての事だったのだが、本人の思う所は全く違う所にあり、その事に夢中だっただけだ。
とはいえ、ウルは自分の様子が他者にどのような影響をもたらすのか、よく分かっていなかったようである。
神木を守っていた結界が解除されると同時に黄金も消え、念のために置かれている『黄金鈴の六晶』は今後神木の守護の為にウルが設置しておくとディルたちに伝えた。
「…感謝する」
「今後ともよろしく」
むすっとした様子ディルは礼を言い、ライナの方は落ち着いた様子で少しだが笑いながら礼を言われていた。
一度使えば壊れない限りその機能を維持し続けるため、微弱な魔力を持つ者でも使えれることも『黄金鈴の六晶』の特質である。
欠点といえば、持ち運びが出来ない事と同期しているせいで有効範囲内の柱に共鳴をして同一の魔法しか使えない事であるが、防衛のための魔法を使えばその分共鳴を起こして強力な防御魔法が使えるので実質欠点ともいえないのだ。
ウルはこれ以上【軍】の事を考えていても仕方ないと思考を打ち切ると、放っておいたままだったリオンたちの元へ戻った。
「3人共、そろそろアイナリンド女王陛下の元へ行きましょう。
脅威の元は取り除いたことを説明しないと」
「あ、あの…先生?」
「暗いけど大丈夫?」
リオンとジュリーはウルがまだ苦悩していると思って声をかけたのだが、ウルはその事に無視したまま問題ないと簡潔に応えた。
洞察力に長けているウルとしては、リオンとジュリーが何か自分を心配している事に気付いてはいたのだが、まさか自分を心配しているとはついぞ思わず、誤魔化すように笑った。
が、それも逆効果。
まだ無理をしているんだと空回りの勘違いをして、逆に2人は黙ってしまったのである。
「そ…その、あたくしは一足早く王族層の方へ向かわなければならないので…、事の顛末を簡潔に伝えておきますわ。
そ、それでは一度失礼いたします」
「ええ、お願いします。
ゆっくりそちらへ向かうので、準備の方もよろしくお願いしますね」
その場の空気に堪えられなくなったのか、エーヴァはこの場から離れる理由を打ち出し、見事に離脱を果たした。
とはいえ、既に報告はディルとライトの2名に子細の程がされており、エーヴァが逃げたことにウル以外はすぐに気付いた。
弟子2人は『逃げたなあんちくしょう』と内心エーヴァに呆れていたが、醸していた空気に堪えられずに逃げたくなる気持ちも分かっていたのでそれ以上文句は言おうとせず心に留めていた。
姿の見えなくなったエーヴァを見送り、思考を切り替えたウルがリオンたちに食事に行こうと誘った。
滅多に人を誘うような行動をしないウルに再度弟子2人は思わずぼそりと呟いていた。
「…先生って面倒な性格してるよなあ」
「あんなんだから師匠の魔神ってのにこき使われてるのよね、人が良すぎるのって問題だわ」
繰り返すようだが、ウルは別段子供の姿をした敵の首を刎ねたことに対して塞ぎ込んでいるのではない。
【破軍】にて【軍】の首を刎ねた際、その力が霧散したどころかどこかへ消え去ったような感覚に陥ったという現象に違和感を感じただけなのである。
殺伐とした役目を生きてきたウルが、今更子供の命を一つ減らした程度で傷つく事は無い。
「そう言えば、ステルヴィアの名物料理を食べていませんでしたね。
リオン、ステルヴィアの名物料理が何なのか知っていますか?」
「えっと…確か、神木ディーヴァの落ちた葉を使ったカップケーキだったと思います。
味はよくは知らないんですが…エルフの人達は普段から食べているのは見ていますね」
「葉っぱ使ってるから費用はほぼゼロ…多分、味より神木の魔力を取り込めるからエルフの人達積極的に食べてるんじゃないの?」
「まあ食べてみればわかるでしょう、近い内竜人の国『ムシュフシュ』へ行く予定ですし、旅の思い出は色々と持っていた方がいい。
リオン、道案内は頼みますよ?」
さらっと今後の予定も話すと、リオンの手を引っ張って歩き始めた。
ジュリーの手も握られており、種族差を取り除けば末弟に引っ張られている兄と姉といった図になっていただろう。
リオンは案内するのなら僕が先頭なのでは、と言っていたがそんなのお構いなしである。
口頭で方向を指示していたリオンはうろ覚えではあったが元祖カップケーキ屋『ルブラン』に着き、1個ずつ買った。
一口食べ、ウルとリオンはジュリーの言葉が正しかったことを知る。
「エルフ族は味覚がおかしいですね」
「…先生、僕お腹が痛くなってきました」
「残したら川に浮かべますよ?(訳:痛い思いしたくなければ完食しなさい)」
「何でそんなに僕に対して理不尽なんですかっ!?」
「いつもの事じゃない?」
一足先に味を確かめずにカップケーキを一飲みにしたジュリーはウルとリオンのいつものやり取りを眺めているだけであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王族層へ向かい、女王の間へ着いて簡潔ではあるが報告を済ませると、アイナリンドたちはほっとする表情を見せていた。
ディルとライナ達、それにエーヴァからの報告も受けて吐いたが、やはり当の本人からの報告が一番だという事なのだろう。
「…代行者であるとはいえ、御1人でこのような大事を済まされるとは。
代行者というのは言葉で言い尽くせるような存在ではないのですね」
と何処か呆れているような言葉をかけたアイナリンドではあったが、ウルもその事に小さく同意した。
「もとより限定的な力ゆえ、常時ではそれほどお役には立てません。
…それに、此度の件については思う所があります。
今後の予定も定めなければならないため、これで失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
ウルの言葉にアイナリンドやミネルヴァもウルが何か塞ぎ込んでいるように感じられたのか、快く見送っていた。
数十分ほど経ち、エーヴァがいつもの冒険者の服を着て戻ってきて今後の予定の話をすることになった。
「次はムシュフシュ、竜人の国へ行こうと思います。
ところで…エーヴァはどうしますか?」
「どう…とは?」
ウルはエーヴァが一時的にこのチームに入ったことを伝え、ウルたちが出て行った際、ついてくるのか、それとも元のチームの元に変えるのかを聞いているのである。
本来ならば一度チームと話し合いをするのだろうが、エーヴァはその場で答えてしまった。
「あたくしもあなた方と一緒にこの国を出ますが…何か問題でも?」
「…元のチーム、ひいてはこの国に残らなくても構わないのです?
相談もせずに独断で決めるのは…帰って来て不和となると思いますが」
「ああ、その事ならば問題がないのですよ」
報告を済ませた際、エーヴァは母でもあり女王でもあるアイナリンドにウルが出て行くときに自分も同行するという事を伝えていた。
そしてチームに関しては、元々王族を守るための護衛たちだったらしく、護衛より強いウルたちがいるから問題がないという事なのであった。
既に別れの挨拶も戻ってくるまでに伝えている辺り、ウルも予想していなかったようである。
とはいえ、ランク黒の冒険者であるエーヴァが国内から出るというのは国力の低下にも繋がるという事で、女王が各国にいる強者のエルフ族の戦士を呼び戻すようなことがあったという事らしい。
後日談ではあるが、エーヴァが国外に出たのは『極秘での国外視察』という事らしい。
「…そういう事なら、構いません。
今後ともよろしくお願いしますね」
とウルはエーヴァの必死の説得に応じた。
リオンとジュリーも諸手を上げて喜んでいるらしく、正式にチームに加入したエーヴァを迎えた。
3人が騒いでいる様子を遠目から見守るウルは、【軍】が残した言葉を思い出す。
“お前の願いは叶わない”。
忌まわしい過去が脳裏によぎる。
見続け受け続けた辛く暗い過去。
光など燈したことの無い深い深い淵を歩き続けてきた自分を。
想いなど、願いなどに値する価値のない自分でも。
「それでも、私は…かなえたいんです」
いつの間にか呟いていたのか、3人が不思議そうな顔をしてウルを見つめていた。
「先生、眉間に皺が寄ってますよ?」
「先生可愛いんだからそういう顔しても似合わないんだけど」
「お加減が悪いのなら宿屋に連れて行きますわよ?」
「…いえ、何でもありません」
そう言って、ウルは何事もなかったかのように3人の会話の中に入っていく。
神木ディーヴァはその日、モルドラットの脅威が去った記念にどこもかしこもお祭り騒ぎであった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
あれ…生き返ってるじゃんネズミ小僧、みたいな?
勘違いってよくある事です、そしてウル君の悩みもそのうち…たぶんきっとデュケイン様が解消してくださることでしょう。
弟子たちもそのうち気付くでしょう、自分の師は敵には優しくないという事に。
もうすぐ3章は終了…はやっ!!
ウル君も言っていましたが、お次はデュケイン様が先にちょこっと(?)暴れていた竜人の国ムシュフシュ。
番外編の事もあってか、王宮が少しざわついています。
さて次回予告。
次回、『再度異変』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




