第047話 窮鼠なんてなかった、ただそれだけ
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「…なるほど、おともだちの力を参考にしたか…ははっやるねっ!!
初めて僕に一撃加えられたじゃないかっ!!」
自分の腕がボロボロになっているのに、魔神はまるで意に返さずむしろ攻撃した私を褒めていた。
私はというと、全身を血だるまに等しいほどの重傷を負いながらの半ば自棄の一撃だったので、正直あの程度の怪我を負わせても嬉しいとは思えなかった。
腕を振ると、魔神の腕は何事もなかったかのような状態に戻ってしまっていた。
無間地獄をどれくらい繰り返したのか、正直目まぐるしいほどに辛い日々。
「…さて、頃合いだ。
これでお前の方の修行は終了だ。
僕の方もそろそろきつくてね、色々な術式を展開しながら100年やりっぱなしは少々疲れる。
お前にもう一度封印式して、今度こそあちらに届けるとするかな」
「…そうですか、お世話になりました」
100年も付き合わせて、それくらいの一言は一応だが言う事にした。
元非戦闘員の私でも、100年と数日の修行は力に見合った技術も会得する事も出来たのだから。
「いいかい、考えるんだ」
私に言い聞かすように、魔神は言う。
「お前に出来ない事なんてない、出来ないのは考えが足りないからだ。
常に思考を働かせ続けろ、考えを休めるな、常に最高手を打ち続けろ、ありとあらゆる可能性を模索しろ、弱音を吐くな…まあ、お前に言う事はこれくらいかな?」
最後に少しだけ苦笑しながら言う魔神に、私は小さく頷いた。
この魔神が真面目な事を言うのが珍しい、と感じながら。
「それじゃあね『 』。
お前の願いが叶う事を、思い出したら願っておいてあげるよ」
どこまでも自由な魔神はいう。
名前でもない、ただの役目として賜っていた不自由な記号を。
「…さようなら最果ての魔神様。
不実な貴君に終着が訪れますよう、深淵の底でお祈りしています」
少しばかり魔神が驚いた仕草をとった、きっとあの眼帯越しの目は少しばかり大きくなっている事だろう。
苦しそうな表情を見せた魔神が少しだけ俯くと同時に、私の意識が遠のいていく。
さて…封印が解ける間で強制的休暇でも取りますか。
二度目の封印は、どこが心許ない薄壁のようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
地上数百メートルの高さから飛び降りたウルたちは、風に護られながら安全に、かつ高速に落ちていく。
ヒモ無しバンジー、もとい、ただの投身自殺にしか見えないが、お供が2人ほど頭を地面に向けて落ちている辺り、既に悲鳴を上げながら叫んでいる。
表情を変えずに落ちている2人の師匠は、喧しいと理不尽な声を上げながらも魔法の制御をしていた。
そう、何事もなく3人は降り立った。
その頃には弟子2人―――リオンとジュリーはたった数十秒ほどのダイブでげっそりと痩せこけているようであったが。
ウルたちの周りには、エルフの戦士たちが何だコイツといったような目を向けている。
とそこへ、以前会ったことのあるエルフがいたことにウルが気付いた。
エーヴァとミネルヴァの護衛をしていた双子、ディルとライナであった。
「…あんたか」
「冒険者が何のようだ?」
ウルの耳に息ピッタリなテノールとバスの声音が響く、同時に話しているせいで聞き取り辛いと感じた。
「…モルドラットの処理を、女王陛下直々に求められましたので、急ぎ降りてきたのですよ。
戦士の方々は、結界内部で大人しく待っていてくださるよう願います」
そういうと、2人の弟子をディルとライナに渡した、まるでポイ捨てするかのように。
双子たちは慌ててリオンとジュリーを受け取ると、少しばかりウルを睨んだ。
「…説明を」
「要求する」
「説明と言われましても…さっき言った通りですよ?
この件は下手をすれば犠牲者が多数出そうなので、私1人が全て請け負う事にしたんです」
これから一体どうするのかを具体的に説明をすると、ディルとライナのみならず、聞き耳を立てていたエルフたちの表情がこわばった。
それほどに問題のある方法なのかと言われれば、そうではない。
むしろ、安全性で言えば群を抜くほどの良策と言えるであろうことは間違いない程である。
犠牲者を一切出さないという理想の策、というのだろうか。
「…お前」
「本当に魔人か?」
「失礼ですね、これでも魔人ですよ、特別製ですが」
さらっと怪しい言葉を混ぜたウルであったが、2人を含めたエルフ族の戦士たちはもう何も言おうとしなかった。
ウルの周りから流れ始めた魔力に気付いたからである。
ウルからすれば微々たるものであるが、魔法に聡いエルフ族からすれば一目瞭然であろうことは間違いない。
あり得ないのだという事が。
例え魔人族であったとしても、肉体があれ程の濃密で酩酊するほどの魔力を内包出来る筈がないのである。
ウルがいっていた『特別製』の意味は解らないディルとライナ達ではあるが、言葉通りの意味には納得したようである。
「…分かった」
「お前に託す」
「それは重畳、では早速取り掛かりますので、もう少し神木の方に寄っておいてください」
渋々といった感じではあるが、エルフ族の戦士たちが次第に神木ディーヴァに歩いて行った。
リオンとジュリーは気が付いたのか、途中から目を覚ましてウルの元へと戻っていく。
「因業で不実なのは私の方なのに…何を子供じみた嫌がらせをしていたのやら」
小さく口ずさんだ声は、誰にも聞こえていないようであった。
「え?」
「何か言った先生?」
「いえ何も」
エルフ族の戦士たちが後方にいる事を確認して、まずウルが始めたこと。
それは、神木周辺への結界である。
「さて…『天樹を護りし六の御柱 黄金鈴の六晶』」
ウルの詠唱と同時に神木ディーヴァの周りを囲むよう6つの六角水晶の柱が飛び出してきた。
高さにして約20メートル、周りには小さくではあるが黄金の鈴が柱と同期していて、風に吹かれては幻想的な音を紡ぎ出している。
『黄金鈴の六水晶』には攻撃性や防御特性などではなく、増幅器としての機能に特化した術式である。
6つの増幅器を同期させて強大な結界を造りだしてから悠々と迎撃に当たる事が当初からの目的である為、6つほど用意したのである。
1柱1柱かなりの純度で構成されており、エルフ族の戦士たちが束になっても破壊する事は難しいだろう。
ウルの記憶では、最高117柱の大規模展開が可能ではあったが、神木の規模と地脈との関係で、7柱が限界だったのである。
残りの1柱は別途で使用する予定らしい。
「次は―――」
「―――様っ!!」
ウルが声の方向へると神木の入り口から冒険者姿のエーヴァがこちらに向かってきている。
ウルはお目付け役を買って出たのだと推測し、辿り着いたエーヴァに労いの言葉をかけた。
「走ってきたのですか、大変でしたね。
…ふむ、ドレス姿よりそちらの方がエーヴァ王女の見栄えが一層極まっていて素敵ですね。
準備は整いましたのであとは結界を張って迎撃をするのですが…付いて来られますか?」
「い、い、い、一度にそんなに喋らないでくださいましっ!!
…んんっ…今素敵ですねって仰いましたのっ!?」
ウルが滅多に口にしないような言葉を聞いてリオンとジュリー、そして声をかけられたエーヴァが驚いていたのだが、時間は刻一刻と迫ってきている。
既に森の奥からは、モルドラットの鳴き声が聞こえ始めていた。
「エーヴァ、今そういう場合じゃないから」
「先生、エーヴァもあたしたちの仲間なんだから、もう一緒に来てもらっちゃえば?
今はテンパってるけど、後々先生の為にもなると思うんだけど」
「そうしましょう、それでは迎撃を開始します」
開戦の言葉を3人に伝えると、リオン、ジュリー、エーヴァの3人の表情が引き締まる。
「まずは物理的な壁を…『王国』から『美』に移行。
続けて『知識』と同期…3人とも、離れていなさい。
魔力にあてられて気分が悪くなりますよ」
リミッターを4つ外したウルの周りからは、白いもやが立ちこめはじめていた。
エルフであるエーヴァの表情が一層硬くなり、リオンとジュリーの手を引いて後ろへ下がっていく。
「ではまず結界を…『黄金の棺は何人にも犯されない 不壊の黄金柱っ!!』」
詠唱と同時に水晶が輝き始め、黄金の鈴が同期して鳴り始める。
そして、水晶の根元から黄金が生え始めた。
黄金は左右に分かれている別の水晶が生やしている黄金と繋がると一体化し、今度は高さを求めてぐんぐんと高くなっていく。
エルフ族の戦士たちがいる方向からどよめきの声が上がってきてはいたが、ウルはそのまま無視した。
モルドラットの大群が迫ってきている今、一度失敗すると少しばかり面倒だという事が分かっていたからである。
5分後、神木ディーヴァを取り囲むようにして黄金の柱が完成し、上辺部分がぽっかりと抜けてしまってはいるが、光合成が出来る状態で外界との隔絶は成った。
もはや声だけ上げていたエルフ族の声は聞こえない。
「次はネズミの把握をしなければ…忙しい忙しい。
『遍く地に至り我が元へ 黄金照らす風鏡』」
地系統と風系統による複合魔法で、現代で言う所の超音波探信儀である。
甲高い音が一瞬だけ響き、魔法を使ったウルや後方へ下がっている3にも含めて顔を顰めていた。
黄金の向こう側は今頃平和だろうが。
そして帰って来る結果がウルの脳に帰還し、その数に思わず眉間に皺が寄ってしまった。
「…約26万ですか…いつの間にか神木を中心とした包囲が完成していますね、最悪です。
となると…少々地形が変わるかもしれませんが、まあいいとしましょうか」
ウルのモルドラットを操っている者の居場所が何故か把握できないが、それ位の事は予想していたようである。
「さあ、ネズミ狩りの始まりですよ…『黄金照らす風鏡』を同期。
『遍くそは我が血我が身の糧となり』」
朗々と詠唱がはじまる。
未曽有となるはずであったステルヴィアの危機だというのに、ウルは異常なほどの落ち着きをもって魔法を詠っていた。
「『その糧を以て遍く血を滅ぼさん 血滅へ続く惨鎮っ!!』」
詠唱はそれで終わったが、発動した様子がない。
モルドラットの大群の先頭が見えてきた。
血走った眼は飢えているのか狂気に満ち、獲物を見つけたのか狂喜の雄叫びを上げながら向かってくる。
しかし、ウルの鎧の下にある肉を喰らう筈の牙は、永遠に届く事は無かった。
詠唱は終わっているのだから。
そして、惨劇がはじまっていた。
くもぐった悲鳴がモルドラット達の中から聞こえ始めたのである。
しかし、モルドラット達が悲鳴を上げていても、なお進んでくる。
モルドラットの悲鳴はあちこちから聞こえ始め、一瞬でその悲鳴は消え失せる。
いつの間にか最も先頭にいたはずのモルドラットもどこかへ消えてしまっている。
最後にモルドラットを見かけた場所をリオンが目を凝らしてみると、おかしなものがあった。
少しばかり、地面が盛り上がっていたのである。
悲鳴は次第に小さくなっていき、10分もすると風で木々が歯をこすらせる音しか聞こえてこない。
「…『黄金照らす風鏡』」
ウルが再度探知を開始する。
既に包囲のほとんどは沈んでしまい、残りは1000匹もいないようである。
残りはすべて、大地ではなく術者の詠唱通り糧となったのだから。
モルドラット約26万が内包していた魔力は微々たるものではあるが、某経典曰く、『塵も積もればナントやら』という足し算の結果である。
これを使ったおかげで、『血滅へ続く惨鎮』・『黄金照らす風鏡』で使った魔力は差し引き0となった。
とはいえ元がネズミの魔力であり、ウルの心情は少々暗くはあったが。
そうこう考えているうちに、1000を切ったモルドラット達は包囲網を敷いたにもかかわらず、その意味をついに無くしてしまった。
「…ふむ、『窮鼠猫を噛む』とは言いますが…噛む者はいなくなりましたか。
あとはゆっくりと操っていた者を焙り出しますかね」
そう呟くウルの言葉は、いつもと変わらぬ平坦なものである。
どこかで、「きぃ」という可愛らしい声が聞こえたが、すぐに消え失せる。
そして、モルドラットは周辺地域からは完全に絶え切った。
読んで戴き誠にありがとうございました。
戦闘回でしたー色々魔法を連発しましたー等等等。
冒頭の『お友達』とかが気になる方は前作の短編閑話3話を読んで戴ければ誰かはわかります…読まなくても正直問題はありませんが。
にしてもウル君、えげつなさが増々と…うん、しかも魔力も使ったのに差し引き0とか何それずるい。
あ、ちなみに某経典というのは意外と調べれば分かっちゃいます、あれことわざですけど出典経典なんですよねえ、調べてビックリでした。
さて次回予告。
次回、『老若男女容赦なく』です…ちょっとむごいかもです。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。




