第046話 ネズミと猫の関係
久しぶりの投稿…皆様覚えていらっしゃるでしょうか?
誤字脱字がございましたらコメントよろしくお願いします。
本日、デュケイン様御休み回でございます。
ステルヴィア某所、そこではモルドラットを率いている存在が神木への進行の準備をしている最中であった。
最後に女神へ報告をすれば全ての準備が整う、そのくらいに事態は進行していたのである。
「…それじゃあ、行ってきますねメサイアさま。
そちらでボクのカッコイイ所を見ていてくださいねっ!!」
あまりにも場違いな明るさと子供の姿をした黒い影が鏡越しに女神と話していた。
適当な木に自分と目線のあった場所に埋め込み、交信していたのである。
『…期待しておるぞ【軍】。
主ならば散っていった彼奴らの弔いの花を添えられるだろう』
「うん、ボク【剣】と【鎖】の仇をきっと討ってみせるからっ!!」
意気込む少年の声はまるで自らが正しいと本気で思っているかのような声色で、女神は自らの駒の依存ぶりに内心で嗤っていた。
交信を終えたのか、鏡から女神らしき影が消えた。
鏡を木から取り外すと、一際大きなモルドラットに命令を下す。
「さて、行くよボクの可愛い子供たち。
あのおいしそうな神木を喰い尽くしてやるんだ」
モルドラットが了解と言わんばかりに声を上げ、配下のモルドラット達に命令を下しているようである。
次第に黒い少年から離れていくモルドラット達をよそに、ぼそりと小さくだが少年が口ずさんだ。
「…バカ2人の仇なんて討つ訳ないじゃん。
あいつらがくたばった分、ボクにメサイア様に声をかけてもらえるんだから」
少年の目が更に赤みを増していく。
深みを増していくその色は、まるでどす黒いマグマのようであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…という訳で、リオンたちの案は聞きますが、私の案で計画を決行します。
異存はありませんね?」
と有無を言わせず言ってのけたウルに反対する者はいなかったが、その強引さに情報を集めてきていた3人は肩を落としていた。
「ぼく(あたし)(あたくし)達の苦労が…」
呻いている3人に、ウルが一言。
「御苦労様でした」
「「「それだけっ!?」」」
騒がしい3人ではあるが、ウルの様子がおかしい事に気付き、渋々ではあるが席に着いた。
ウルがデュケインから聞いた案を言うと、リオンとジュリーがなるほどと頷き、操っている者が一体どのような力を持っているのか検証しているようである。
対してエーヴァはウルが話した荒唐無稽な話を聞いて固まっていた。
埋めるというその一言だが、それだけの魔法を行使するのに、一体どれだけの魔力を用いればいいのか、想像もつかなかった所為でもある。
魔法が万能ではないというのはこの世界に生きるすべての魔法使いたちも納得している。
今ウルから聞いた話は、天変地異をも引き起こせるとも言い換えてもいい位に、荒唐無稽な話なのである。
「…あ、あなたは一体?」
「あ、そういえば先生って自分の事話してなかったのよね?」
「まあ、あっちにはそれっぽい影武者置いてるし、こっちが本物とは思わないだろうけどね」
リオンとジュリーがそれぞれエーヴァの質問に言葉を返していたが、エーヴァにはまだ分かっていないようである。
「…『代行者』という言葉に聞き覚えはありますか?
いえ、聞き覚えがないと正直参るんですが」
王族であるならば、情報というものがどれだけ大事か成長するたびに思い知る事だろう。
エーヴァは冒険者という職にも就いている辺り、尚更情報というものがどれだけ必要なモノか理解していた。
そして、『代行者』という存在がどんな意味合いを持ち、この世界にとっての何なのかを。
「…え、でも、今代行者は教国にいるはずじゃあ…っ!!
なるほど、影武者とはそういう意味なのね…色々と合点がいった」
エーヴァが襟を正してウルに対して礼をとった。
「この度は、このステルヴィアによくぞ御出でくださいました代行者様。
このような事態に御身に御出でくださったこと、感謝に感謝を重ね申し上げます」
リオンとジュリーが苦笑していた、周りの冒険者たちも、ウルに何故か礼をとったエーヴァに目を開いていたが、礼をとられているウルはエーヴァに止めてくださいと言っただけである。
「…目立つと後が面倒なんです、やめなさいエーヴァ。
ここにいるのはただの冒険者です、ランクも高いあなたがその様では、何かあると勘繰られるではありませんか?」
「そ、そうよね…申し訳ありません。
あ、あたくしはこの件に関して一切の口外は致しませんので、御心配無き様お願いいたしますわね?」
既に言葉遣いがおかしくなってしまっているのだが、この位ならばまだ許容範囲内である。
お姫様だから言葉遣いが違うという事はままある話だから。
「…まあいいでしょう。
それでは、エーヴァにはこれから姉君であるミネルヴァ王女に再度連絡を。
この神木を…引いてはステルヴィアを守る為です、私の名前を出しても構わないので、急ぎこの事を伝えてください。
リオンとジュリーは避難誘導の手伝いでもしていなさい。
今回は見物ですが、最終的にはあなた方にも出張ってもらう事もあるかもしれませんので、注意を怠らないように。
私はこれからギルドへ行って事の次第を指示しなければいけません」
手をぱんと叩くと、急いで3人はウルから離れていった。
エーヴァはミネルヴァのいる上層へ向かうと、ウルが代行者だという事を伝え、神木周辺のエルフたちを神木内の地下にある非常用避難施設へ入れる様に要請をした。
緊急時におけるステルヴィアの避難用施設は地下に設置されており、万が一神木に異変が起きたとしても生き残れる場所である。
ミネルヴァは急ぎ女王の元へ行くと、中層以下の神木内にいるエルフたちに非常用避難施設への避難を要請し、女王もそれに即応する形で受諾した。
リオンとジュリーは地下にある非常用避難施設に続く通路の避難誘導を手伝っていき、慌てて降りようとしているエルフたちを落ち着かせ、丁寧に指示をしていった。
4時間もしないうちに避難はほぼ完了しており、残るは王族層に残っている少数であった。
しかし、王族達や神木の運営に携わる者たちは一向に避難用施設へ向かおうとする気配を見せず、ただ一人を待っているようであった。
そう、今件の対策案を講じた、ある魔人である。
小奇麗な顔立ちをしている少年は、無表情で玉座に座っている一人の女性を見つめていた。
アイナリンド・リーサ・ステルヴィア第27代女王は目の前にいる魔人の少年をじっと見つめている。
エーヴァとミネルヴァは左右に分かれてウルを見つめていた。
リオンとジュリーも同様にウルの左右に分かれていて、居心地悪そうにそわそわしている。
臣下の身でない上に本来ならば立場上アイナリンド側が膝をついて出迎えるところである。
エルフ側の臣下たちはそれを自覚していてか、複雑そうな表情でウルを見つめていた。
「代行者のウル・シイハと申します女王陛下。
此度の要請に応じてくださり感謝に堪えません、今日中に現在この神木へと進行しようとしている勢力を駆逐いたしますので、それまで辛抱戴きたく存じますが、如何でしょうか?」
丁寧に言葉を投げかけるウルではあるが、感情のこもっていない平坦な声で、どうにもやる気が感じられないというのが正直な所なのだろう、アイナリンドはウルが何者であるか知った上で聞いておかなければならないことがあった。
「…本当に…あの様な手でこの異変を止められるのか?」
不安になるのも無理はない、現在進行形であのモルドラットの被害者数は推定ではあるが数を増している。
それを閉じ籠っているだけで、しかも神の代行者とはいえたった1人でこの事態を解決してみせると言われたのである。
代行者であるウルがどのような力の持ち主であるかある程度の情報を有しているアイナリンドではあるが、実際に見たわけではない。
「無論です、女王陛下。
薄汚いネズミが神木に傷一つ付ける事は無い、ということを『誓約』させていただきます」
どよめきで一時場が騒がしくなったが、アイナリンドがわざとらしく咳き込むと、エルフたちも大人しくなった。
遠回しに出来ない訳がないだろうと言っているのだが、この場合公の場で『誓約』を使うほど余裕があるとは思っていなかったのである。
誓約というのは、文字通り『誓い約束する』という意味で、力ある者の言葉は言霊となり己を縛るほどに強力なものなのである。
一度言葉にしてしまった以上その誓いを守れなかった場合、その力に見合った×が帰って来るという、一歩間違えれば命の危険もあり得る『理』なのである。
アイナリンドとしては願ってもない話ではあった。
強大な力を持つウルならば、言葉通りの結果を持って来てくれる事だろうことは間違いない。
しかし、『誓約』を違えれば間違いなくウルに待っているのは『死』だ、
「…それでは急ぎますのでこの辺りでお開きという事で。
この場所からならば見晴らしも良いので、私の雄姿が見えるかもしれませんよ?」
最後に笑って見せたウルに隣にいるエーヴァが小さく呻いていたが、アイナリンドは聞こえていなかった。
「…さてリオン、ジュリー。
私はこれからここから降りますので、この場所から見守るか、間近で事の次第を見届けるか、どちらにしますか?」
ウルが弟子2人に尋ねると、リオンとジュリーは一も二もなく返事をした。
「そりゃあ決まっているじゃない」
「滅多に見られない先生の本気ですから、間近で見てみたいです」
そしてふと思ったのか、ウルの尋ねてきた言葉に何かおかしなことに気付いたリオンがおそるおそる尋ねる。
「…あ、あの先生?」
「なんですかリオン?」
いつもと変わらずの落ち着いた表情をしているが、リオンはもちろんだがジュリーも知っている。
あの落ち着いた表情で、ウルはいつもとんでもない事を平然とやってのける事を。
「ここからって…まさか?」
ウルはその問いには答えずに、リオンとジュリーの手を取った。
そしてリオンとジュリーはすぐに察したのである、これが正解だと。
表情を見て取ったのか、ウルが滅多に見せない良い笑顔で、本当に優しいのだと錯覚してしまうような声音で語りかける。
「大丈夫です、すぐに終わりますから」
瞬間、リオンとジュリーが顔を引き攣らせて声を上げた。
「「いやぁあぁあぁぁあああああああああああっ!!」」
ここが玉座の間だと知った上で叫んだのである、何事かとアイナリンド達が見ているが、何故か黙ってみているだけである。
ウルは壁側にある大きめの窓に狙いを付けると、リオンとジュリーを引っ張り出したまま駆けだした。
アイナリンド達が気付いた時には遅く、ウルたちの目の前には窓が迫っていた。
『我が身は常に風と共にあり 常在風護っ!!』
詠唱と同時にウルたち3人の周りに風が集まり、そして窓から飛び降りた。
「「「ええっ!?」」」
アイナリンド達ステルヴィア側から見ても目を見開くかのような声も上がったが、時すでに遅く、もうウルたちはこの場どころか神木内から出て行っていった。
過去どころか未来にもあり得ないような退場の仕方で。
「…女王陛下、あたくしも此度の行末、見届けてきても構わないでしょうか?」
エーヴァがそうアイナリンドに尋ねる。
母の立場としては可愛い我が子をあのような危険な場所へ向かわせたくはない。
しかし、アイナリンドは為政者であり、娘ではあるがエーヴァは臣下の身である。
加えてエーヴァはステルヴィア有数の実力者であり、冒険者ギルドも黒のランクである事がエーヴァの実力の何よりの証であろう。
見届け役としても十分な資格を有していると言えよう。
「…いいでしょう、汝エーヴァに此度の異変の見届け役を命じます。
ただしっ!!」
何か制限でもあるのかとエーヴァが首を傾げた。
「…貴女はちゃんとした正規のルートで神木を出なさい。
間違っても窓から飛び降りるなんて言う事はしないように」
「…仰せの通りに」
確かにエーヴァに出来ない事はないが、まさか実の親であるアイナリンドにそのような事を言われるとは思っていなかったのか、少しだが顔を赤らめているエーヴァなのであった。
アイナリンドの隣にいるミネルヴァは、必死の思いで笑い声をあげまいと必死の様子であったのは誰一人として気付く者はいなかった。
読んで戴き誠にありがとうございました。
セリフだけだけど元凶登場しましたっ!!
腹黒そうな子供も出てきましたし、次回の展開は戦闘です。
デュケイン様の策の通り、地系統の魔法で片が付く予定ですね。
さて次回予告。
次回、『窮鼠なんてなかった、ただそれだけ』です。
ではでは皆様、また次回まで。
コメント、ご感想をお待ちしています。
評価もちょっと期待してみたり…では、失礼いたします。




